アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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旅の仕度をするクズ男

◇ ───竜王国 光の神殿 懺悔(ざんげ)

 

 

 その神殿の長が、厳かな声で一人の罪人(つみびと)に問う。

 

 

 「迷える子羊よ、汝の罪を告白しなさい……」

 

 

 スレイン法国と国交のある竜王国では、法国で信仰されている六大神教の神殿が置かれていた。

 その中でも光の神を信仰する神殿に、クズ男は足を運んでいた。

 

 そこの懺悔(ざんげ)室にて、神殿長に対し懺悔……ではなく『免罪符』の購入の手続きを行っていた。

 

 竜王国の国力が回復するにつれ冒険者ギルドの報酬も上がっており、娼館の貸し切り代や寄付の他に『免罪符』の購入もできるほどクズ男の懐にも余裕ができていた。

 

 

 男は、この世界の事を少しずつ知るにつれ、どうやら神様が実在するらしいと分かった。 

 その神様とやらに天罰を下す能力があるかもしれないと警戒し、念のため神様へのご機嫌伺いに来ていたのだ。

 

 

「よっ、神父さん! またいつもの『免罪符』頼むぜぇ?」

 

「本日は、どのような罪のご清算に?」

 

「ああ、この竜王国の大英雄たる俺様にムカつく態度をとったやつがいてなァ。放置するのも寝覚めが悪いんで殺しちまったのさ。ついでに好みの女がいたもんだから、ついつい犯しちまってよ。へへへ……」

 

 

 スレイン法国ではクズ男の強さから推察して『ぷれいやー』もしくは『神人』ではないかと睨んでいるのだが、勧誘は控えていた。

 

 この男の行動を、法国は漆黒聖典『占星千里』の目によって詳細に把握していた。

 

 このような不届きな性格の人間は神様、つまり『ぷれいやー』の一員と見なしたくはなかった。

 また、最強の特殊部隊である漆黒聖典に加えようにも、最近では問題行動を起こして現在逃亡している者がいるという前例があったため、同じ二の轍を踏むわけにはいかなかった。

 

 

 せいぜい竜王国の中で人々に悪さをしながらもビーストマンを駆除し続けてくれていれば良いと、スレイン法国首脳部は判断していた。

 

 

 「かしこまりました。では、今回は13人分ということで」

 

 「それとな、近々リ・エスティーゼ王国に旅立つ予定なんだが、そこでも何人か殺しちまうかもしれねぇんでな。だから、とりあえず20人分だけ追加で頼むわっ!」

 

 

 クズ男は、まるで八百屋で野菜を買うかのようなノリで免罪符を注文した。

 

 

 神殿長は、この男からの()()()を人類救済のためと割り切っていた。

 どうせ、死ぬのは他国の人間だからと。

 

 人間個人ではなく種族全体を大事にする、というのは本来の神の在り方に近いのかもしれない。

 

 

 「あの王国にも、異なる宗派の神殿がございますが?」

 

 「向こうの神殿に行く前に殺しちまうかもしれねぇし。一応ここで買っておいた方が面倒がなくていいかと思ったんだが、ダメだったか?」

 

 

 それに対し、神殿長は穏やかな笑顔をはりつけたまま答えた。

 

 

 「いいえ、そのようなことはございません。ただ、そうですね……。あの王国の一般市民であれば、この値段でサービスいたしましょう」

 

 「お、随分と安いんだな! 助かるぜ。じゃあ、50人分は買っとくか!」

 

 

 仮にあの王国が、問題を起こした英雄を引き渡すように竜王国に対して宣戦布告をしてきたとしても、それならそれで良し。

 その時は、法国と竜王国との間で軍事同盟が結ばれるはずだ。それによって人類の足を大いに引っ張っている、あの腐った王国を正々堂々と返り討ちにし、存分に疲弊させられることだろう、と狂信者である神殿長は考えていた。

 

 

 「じゃ、神父さん。またなっ! 神様にも、よろしく言っといてくれや!」

 

 「ええ、もちろんですとも。あなた様に、神のご加護があらんことを……」 

 

 

                ■

 

 

◇ ───竜王国 最高級娼館

 

 

 クズ男は、いつも世話になっている娼館の楼主(ろうしゅ)である初老の男性を呼び出し、リ・エスティーゼ王国に出立すると伝えた。

 

 

 「さようですか。一体何をなさりに?」

 

 「女たちにも話すから、詳しくは彼女たちに聞いてくれ。今話しても二度手間だろ?」

 

 

 毎日が休日気分のくせに、そういう手間は惜しんでいた。

 

 

 「とりあえず、これだけの金を置いてくからな。一か月分の貸し切りだ!」ドンッ

 

 

 これは彼の財産の、ほぼ全てであった。

 

 

 「これほどの大金を!? 三か月分はありますが……?」

 

 

 本来なら二か月分の貸し切り代だったが、国からの支援金も足し合わせれば三か月分に届く金額だった。

 

 

 「俺様が不在の間、不埒な輩がやってこないとも限らねぇからな。用心棒代だ! なにかあったら雇っといてくれや!」

 

 「旅の路銀の方は、大丈夫なのですか?」

 

 「俺様くらい強けりゃ問題ねぇのよ。あの王国の近場にいるっていうギガントバジリスクでも狩り殺せば、金は余裕で工面できるからな!」

 

 

 用心棒をと言われたが、実はこの娼館には必要ないのだ。

 

 市井の者は誰もがこの男を恐れており、この娼館に近寄ろうともしない。

 国としても、この男が住み着いている娼館には厳重な注意を払っており、余計なトラブルを招かないように常に警備をしている。

 

 だが、この強かな楼主は、その事実をわざわざ伝えることはしない。

 

 この男が、金の事をきれいさっぱり忘れていれば良し。

 話題に出されても「不測の事態に備えていた」とでも言って返却すれば良いだけだ、と楼主は素早く皮算用を行った。

 

 

              ■

 

 

 「つーわけで、突然だが、リ・エスティーゼ王国に行くことになった。ギルドの職員が来たら、よろしく伝えといてくれ。」

 

 

 女王にも伝えた理由、いや、言い訳を嬢たちにも語った。

 

 たとえ自分専属の嬢たちであっても、「『違法娼館』に行きたい!」なんて馬鹿正直に話すわけにもいかない。

 

 ろくでもないクズ男の妄言ではあるが、それでも竜王国最強の大英雄ともなれば、その妄言にも一定の信憑性を与えてしまうようだった。

 

 

 「邪悪な波動が伝わってくるぜ……」

 

 

 北西の方角を睨みながらつぶやいた。

 

 女王に見せた茶番劇を、ここでも行った。

 すっかり、お気に召したようだ。

 

 

 (まあ実際問題、あんまりケモノどもを減らしすぎて俺様の有難みが薄れるのも面白くねぇからな。所詮はケモノ風情だ。一か月の間に、だいぶ増えてるだろ!)

 

 

 こういう、ずるがしこい事には、よく頭が回るときがあった。

 

 

 (適度に間引いて適度に増やす。天敵はあえて全滅させずに、ある程度は残して下々の愚民どもに脅威を忘れさせない。これぞ、勝ち組流の帝王学の基本ってやつだな!)

 

 

 「よっし! さっそく旅立ちの景気づけだぁ! 今夜は全員を可愛がってやるぜぇ!!」

 

 

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