◇ ───竜王国 北西の門
(思えば、本格的な冒険をするのは、これが初めてだな……)
クズ男・狂也は、この世界に転移してきた日から今日までの出来事を思い返していた。
高級娼婦を抱いたこと、村娘を犯したこと、女王の太ももを堪能したこと。
そのどれもが、かけがえのない宝物だった。
竜王国の門を眺めながら、しばらく感傷に浸り、最後に忘れ物はなかったかを確認する。
「女王への報告よしっ、娼館の前払いよしっ、『免罪符』もよしっ、と」
これから向かうリ・エスティーゼ王国で、どんな美女と出会い、どのように犯すか、そんな新たな出会いに希望を持ち、いざ旅立たんとするクズ男だった。
■
◇
「なんだァ、テメェは?」
「………」
王国に向かう道半ばで、複数の武器を宙に浮かせている白金の全身鎧に身を包んだ騎士がたたずんでいた。
その騎士が、クズ男に問う。
「……一応聞いておくが、キミは『ぷれいやー』かな?」
「ああ? 『ぷれいやー』? 俺様は冒険者だぜ。そんな職業にはついてねぇなァ」
「……質問を変えよう。『ゆぐどらしる』という言葉に聞き覚えは?」
「なんだ。そういう意味のプレイヤーかよ。そうだぜ! 俺様こそがプレイヤー様だぜ? だったら、何だってんだよぉ?」
「キミは、この世界をどうする気だい?」
「はぁ? なんでテメェなんかにそんなこと教えてやらなきゃいけねぇんだよ?」
「キミは、その強大な力を好き放題に振るっているように思える。この世界に害をなすつもりじゃないのかい?」
「あのなぁ……、俺様は、あの国の女王に懇願されて仕事をしていたんだぜぇ? そんなに文句があるんなら、女王に直接言うのが筋ってもんじゃねぇのかァ?」
クズ男は、仮にも妻にする予定の幼い女の子に全責任を負わせる気満々であった。
「……力を持つものは、その力の使い方に注意を払い、責任を取る必要がある。キミはやりすぎた……。もう一度聞こう。この世界をどうするつもりだい?」
「やれやれ……。本当ならテメェみたいな訳の分からんヤツに構ってやる義理はねぇんだがな。まっ、暇つぶしのついでに教えてやってもいいぜぇ?」
クズ男は、今まで誰かに自慢したくてたまらなかった内心を思いっきりぶちまけた。
「俺様は、この世界の王になるッ!! すべての人間は、絶対強者である俺様にひれ伏して初めて幸福を得られる!! それが世界の、いや、自然の摂理だぁあああッ!!!」
クズ男の頭の中では、竜王国の幼き女王と結婚して国王となるのは、もはや確定事項だった。
そして、その竜王国を足掛かりとして手始めに全ての亜人国家を攻め滅ぼし、大帝国を築き上げる。その後で世界各国に属国化を迫り、大陸を統一するという壮大なプランを考えていた。
だが、よりにもよって、この世界で最も聴かせてはならない相手に、その夢物語を宣言してしまうという愚行を犯してしまった。
「……今までのキミの行いを見た限りだと、キミが世界を支配しても誰も幸せにはなれないと思うのだけれど?」
「分かっちゃいねぇな。一人の絶対的な支配者によって世界が統一されれば、同族間で無益な戦争をしなくて済む。外敵に脅かされる心配もなくなるんだぜ?」
「けど、キミの場合は弱き民を玩具にするんじゃないのかい?」
「くははっ! 当たり前だろうがよ! 俺様だってタダで世界を平和にしてやるんじゃねぇんだ。その見返りとして、弱者は強者の玩具になるくらい当然の義務だろ?」
「………」
「なんだなんだぁ? そんなに民に被害を出したくないのかよぉ? だったら、テメェでビーストマン狩りすれば良かっただろ? それを俺様に任せっきりにした時点で何を言っても説得力がねぇんだよ、ボケェ」
「……そうかい。残念だよ」
白金鎧の騎士は、突然宙に浮かせている武器をクズ男に放ってきた。
「ぐおッ!?」
何の前触れもない攻撃だったために、男は腹に直撃を食らってしまった。
この世界に来て、いや、元の世界でも味わったことのない激痛が襲った。
本来であれば、この痛みだけで苦労知らずのクズ男の戦闘意欲が無くなるのだが、アバターの肉体に精神が引き寄せられていることもあり、痛みは感じつつも我慢することができていた。
「……ッつぅ! テメェ! いきなり何しやがんだ!!」
クズ男が叫ぶが、白金鎧の騎士は泰然とした態度を崩さないまま返答した。
「私が世界を守る。そう、私が世界を守るのだ……」
それは、相手に対して、というより自分に言い聞かせるかのような口調だった。
「はぁぁあ!? おいおい、いきなり出てきて、なに訳の分かんねぇこと言ってんだ!? 頭おかしいんじゃねぇのか!? テメェ!」
クズ男が怒りに任せて騎士に突撃し、力任せに殴り掛かった。
だが、白金の騎士は後ろに後退しながら、クズ男と一定の距離を保った状態を維持しつつ、宙に浮かせた武器を放ってきた。
ドッ! シュッ! ゴッ!
その一方で、クズ男の拳による攻撃が体に当たったとしても、その力の流れに逆らわずに、宙に浮かせた全身ごと後退して衝撃を和らげた。
さらに、空中の武器を自身の元へ引き戻すついでと言わんばかりに、ジャブを放つようにスピード重視で連続で攻撃をしかけた。
「い、いでっ! いでっ! ……ッ! くそがァアアッ!!」
あとは一方的だった。
同じ攻撃を何度か繰り返されるが、対するクズ男は白金の騎士に決定打を与えられず、ダメージばかりが蓄積していった。
「チクチク攻撃してきて……、煩わしいッ!!」
このままじゃ埒が明かないと悟ったクズ男は、多少のダメージを覚悟で武器破壊を試みようと、その一つである斧をつかみ取ろうとした。
だが、戦いの心得は相手の方が上手だったようで、巧みな武器さばきによりクズ男につかませようとしない。
それどころか、無防備となった男の背中に強めの攻撃が加えられた。
どうやら、クズ男は白金の騎士とは相性が悪いようだ。
「ち、ちくしょうが……ッ!」
それは、この世界に来て初めての挫折であった。
自分の攻撃が通用せず、相手からは一方的に攻撃を加えられるというのは、この男にとって屈辱的な事だった。
せめて、現地産の装備(クリスタル・ティアからの戦利品)なんかじゃなく、もともと愛用していた装備であれば……。
「おいテメェッ! 俺様をナメてんのかッ!? やるんなら一気に攻撃してきやがれぇッ!!」
「………」
白金の騎士は、クズ男の叫び声に何も答えなかった。
空高く上昇すると彼に背を向け、もはや語ることはないと言わんばかりに突然姿を消した。
………。
しばらくの間、クズ男は周囲の様子を伺っていたが、白金の騎士が戻ってくる気配は一向になかった。
どうやら、本当に立ち去ったようだ。
「はぁッ、はぁッ……! 一体、なんだってんだ、あの野郎は……ッ?」
優勢だった騎士が、これ以上の戦いを避けて撤退するというのは違和感があった。
「……ははッ。なーんだ、そういう事かよ。あの野郎、本当はあれで限界だったってことかい。つまり、この戦いは俺様の粘り勝ちってことだな!」
敵が立ち去った理由を十分に分析することもなく、ただ自分に都合よく推理したクズ男であった。
■
◇ ───???
「……あの男は粗暴で愚かなだけで、世界を壊すような技やアイテムを持ってはいないようだ」
この世界最強の竜王は、先程の戦いを考察していた。
「あの男の底は見れた。始末しようと思えば、いつでもできる。それより、他にも転移してきている『ぷれいやー』がいるとすれば、それらに先程の男をぶつける方が得策か……」
以前遭遇した強大な吸血鬼の事を思い出しながら、クズ男の処遇を決定した。
「仮に、その勢力に取り込まれたとしても、あの男の事だ。協調など到底できまい。せいぜい、内部から足を引っ張ってくれると良いのだがねぇ……」