◇ ───リ・エスティーゼ王国 王都 冒険者ギルド
「申し訳ありません。こちらはオリハルコン級以上の冒険者の依頼となっておりまして……」
「は?」
さっさと『違法娼館』に行きたかったクズ冒険者・狂也は、圧倒的な脚力で城塞都市エ・ランテルを素通りし、リ・エスティーゼ王国の王都まで一気に到着した。
すぐさま娼館代を稼ぐため、ここの冒険者ギルドでの仕事を探しに来ていた。
だが、一番難易度の高い依頼を受けたいと受付で頼んだら最低でもオリハルコン級でないと受けられないと言われ、いきなり出鼻をくじかれた気分になった。
「おいおい、この俺様は竜王国の大英雄様だぜ? たとえドラゴンが来ようがイチコロだって!」
「そうおっしゃられましても、規則ですので……」
クズ男の冒険者ランクは、ミスリル級から上がっていなかった。
当然だ。このような素行の悪い冒険者を最高ランクのアダマンタイト級にすれば、冒険者ギルドの沽券に関わってしまう。
それに高位の冒険者は、緊急事態の際には下位の冒険者を指揮しなければならない。このような男を指揮官に据えれば、事態がさらに悪化するだろうという事は目に見えていた。
竜王国の冒険者ギルドでは、面倒ごとを避けるために本人に真実は説明しなかった。冒険者となって日が浅いからと、ランクに関係なく誰もが尊敬していると、おだて上げながら説得していた。
「なあ、ちょっと調べりゃ分かることだって。俺様は竜王国では大英雄として称えられてるんだぜ。ちょっと、その辺で食事でもしながら、俺様の偉業をじっくりと語り聞かせてやるぜェ?」
「そうおっしゃられましても、困ります……」
受付嬢が美人だったため脅すのではなくナンパついでに自慢しながら訴えたが、規則だからの一点張りだった。
仮に、その討伐対象が人里に出現して人々を襲っているというのであれば、ミスリル級どころか
だが、そうでない以上はギルドとしても無闇に冒険者を危険な任務に行かせて死なせるわけにはいかなかった。
(竜王国とは違うんだな。こんな最低な規則を設けるギルドなんて潰れちまえよ)
これが竜王国であればギルド長室まで乗り込んでいるところだが、ここには到着したばかりなので、しばらくの間は大人しくしておこうと思っていた。
そして、そんな理性的な自分は、やはり王の器なのだと改めて酔いしれていた。
列の後ろに並んでいた他の冒険者の迷惑も考えずに自慢話に興じていたクズ男だったが、近くから罵倒する声が聞こえた。
「けっ、若造が! なに調子にのってやがる!」
「……あァ?」
テーブルの席に座っていた同じミスリル級の冒険者4人からの罵倒だった。
「どうせ割のいい依頼を受けまくって偶然にも成功させちまってミスリル級になれたんだろ? いるんだよなぁ。そういう″こすい”真似するやつがよ」
「まったくだぜ。ミスリルのプレートも安くなっちまったもんよ。こっちまで同じ目で見られちまうじゃねぇかよ」
クズ男の方を睨みつけるわけではなかったが、明らかに彼に聞こえるように悪口を言い合っていた。
そして、周囲にいた他の冒険者までもが彼らに同調し、はやしたてていた。
「なんだ、そういうことかよ!」
「ズルしてんじゃねーぞ! ガキィ!」
もちろん、そのような幸運に恵まれた冒険者がいるのは事実だ。
さらには、金にものを言わせて依頼の素材を用意するという不届き者もいた。それは、貴族や金持ちが箔付けのために行う場合に見られる行為だ。
「ッチ……。なら、決闘でもしてみるかい? 先輩よォ」
クズ男は静かにキレていたが、どこか嬉しそうでもあった。
「はぁ? そんな面倒臭いこと、するわけねぇだろうが」
「あァん? あれだけ言っといて逃げんのかァ? おい、先輩さんよォ?」
だいぶ年下の若造(外見だけ)に、ここまで言われれば冒険者の面子が傷ついてしまう。
荒事をこなすような者にとって周りから舐められたらおしまいだ。評判が大幅に下がり、氏名依頼も入ってこなくなってしまう。
周囲の目も多い中で自分たちが挑発した相手から決闘を申し込まれれば、それを拒否する事は許されなかった。
「……ッチ、仕方ねぇ。おいテメェ、吐いた言葉は戻せねぇぞ?」
■
◇
クズ男と挑戦を受けたミスリル級冒険者たちはギルド近くの訓練場へと入っていった。
その戦いを一目見ようと他の大勢の冒険者までもが集まってきていた。
「どっちに賭ける?」
「さすがに、あんなガキじゃ無理だろ!」
集まった冒険者の中には賭け事を行う者もいた。やはりというか、クズ男は不利なようだ。
「へっ、それじゃあ、始めるか。この俺が相手してやる。手加減はできねぇぞ?」
相手チームのリーダーである剣士が前に出た。
「……一人でいいのか?」
「あ?」
「数が足りねぇって言ってんだよ。たった一人だけとか俺様を舐めてんのかァ?
どうせなら全員でかかって来いよ。それがいいハンデだろ?」
………。
「「「ギャハハハハッ!!」」」
「おいおい、笑わしてくれるじゃねーかよ!」
「何かっこつけてんだぁ!?」
クズ男の身の程を弁えない挑発に、群衆から笑いが巻き起こった。
「はぁ……。ったく。とことん世の中舐め腐ってんな、このガキ」
「身の程ってもんを教えてやらなきゃなぁ」
そんなわけで、剣士、戦士、
ここまで図に乗ったクソガキを見るのは彼らも初めてだった。これはもう、目にもの言わせるどころじゃ済みそうにない。
「ほらほらぁ、いつでもいいぜぇ?」
「野郎っ!」
若造の挑発に怒りをあらわにし、いの一番にリーダーの剣士が突貫し剣を振るった。
だが、いとも簡単にクズ男に素手で受け止められてしまった。
「なあッ……!?」
剣士はそのまま横に大きく放り投げられた。
すかさず
「嘘だろ!?」
驚愕する
そこで、隙をつくかのように
ズダァンッ!!
圧倒的な力でたたきつけられた
「くそッ!!」
その進行を阻止しようと、盾を持った戦士が前に進み出るが──。
ダァアンッ!!
盾こと殴られ、決闘場の壁まで飛ばされてしまった。
「ぐおあぁぁあ……ッ!?」
戦士の盾は腕もろともひしゃげていた。その激痛に耐えかねた戦士は、たまらず地面にうずくまった。
「ち、ちくしょおぉぉッ!!」
戦士の助力を無駄にしないために、再び
そして、歩きながら彼に近付き、その頭を平手打ちすると観衆の方へポンッと頭が吹き飛ばされた。
「「う、うわぁぁあッ!?」」
観衆の騒ぎを無視して、先程の腕が折れ曲がった戦士に近付いた。よろよろと、彼はかろうじて身を起こそうとしていたが、クズ男は構わず、彼の足を持ち上げた。
「ひっ、や、やめろっ……!?」
鎧の重さを気にすることなく、彼の体ごと大きく振り回して反対側の地面へと少し強めにたたきつけた。
ズダァァアンッ!!
クズ男にとっては、そこそこ程度の力を込めただけのつもりだったが、あたりには脳や内臓、血しぶきが飛び散ってしまった。
その悲惨な光景に観衆は愕然とするが、それを気にするクズ男ではない。最後に残ったリーダーの剣士に目を向けると、ニヤニヤしながら近づいていった。
「確か……、身の程を教えてくれるんだったよな? 先輩よォ」
リーダーの剣士は、なすすべもなく仲間が次々とやられていく様を、ただ茫然と眺める事しかできなかった。
「な、なんなんだ、お前は……。い、いや、スマン! 俺が悪かった! こうさn……ッ!」
バンッ!!
『降参』の言葉を言わせないように目にも止まらぬ速さで近づき、頭を殴りつけ爆散させた。
(決闘の際中に死んだんだから『免罪符』の勘定には入れなくてもいいよな?)
……。
……。
有り得ない事態に、訓練場は静まり返った。
この場にいる全員が、この蛮行をなしたクズ男に恐怖を感じているのが手に取るように見て取れた。
(これで、ここのヤツらに『礼儀作法』ってものを″教育”できたな! 生徒が成長してくれて、先生うれしいぜ。だが、せっかくの機会だからな。もう一押ししておくかぁ!)
クズ男は、静まり返った訓練場を見渡し──、
「おい! お前らも俺様の事バカにしてたよなぁ! 俺様に不満なんだろ! いいぜ! やろうぜ!」
思い上がった若造(外見だけ)に挑発されたが、何も言えずに黙りこくるしかない冒険者たち。
顔をそらした彼らを鼻で笑うと、隣にいた者にも尋ねた。
「なぁ、お前はどうなんだよォ?」
「くっ……」
彼もまた、目をそらすしかなかった。
他にも目を逸らしたり黙っている者たちを見て、クズ男は愉悦で満たされていた。
「おいッ! さんざん人のこと罵っておいて誰も挑戦しねぇのかッ!?
ここの冒険者どもは、腰抜けばかりかぁッ!!?」
「「「………ッ!」」」
冒険者たちは悔しそうな顔をするが、この場を支配している暴君に目を付けられないように努めるのに精一杯だった。
「さあさあ! こっちきて、一緒に死合おうぜ! なあッ!」
適当に選んだ冒険者の胸倉を引っ張りながら、血と臓物がぶちまけられた決闘場に引きずり出そうとした。
「ひぇっ! わ、悪かった……ッ! 許してくれ!」
「へっ、いやあぁだよバアァカ!」
懇願しながら拒絶する冒険者を嗜虐的な笑みを浮かべて引きずっていると、横から声が掛けられた。
「おい。もう、そのくらいでいいだろ……?」
「あぁッ!?」
お楽しみを邪魔されて一気に不機嫌になったクズ男が、その声の主へと振り返った。
そこには金髪の大柄で筋肉質な戦士が立っていた。一見すると男性にも見えるが、クズ男は大勢の女性を抱いた経験から彼女は女性だと看破した。
「なんだァ? テメェは」
「俺はガガーラン。一応、この王都でトップを張ってる冒険者だ」
「が、ガガーランさん……」
「へぇ……。トップねぇ」
彼女の首元に目をやると、確かにアダマンタイトのプレートが掛けられていた。
(この女をトップの座から引きずり下ろせば、この俺様が『アダマンタイト』にとって代われるんじゃね?)
もちろん、そんなことはないのだが……。
「こいつらも悪乗りがすぎたんだ。良く言い聞かせておくから、俺の顔に免じて許してやってくれねぇか?」
ガガーランは、最高位のアダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』の戦士であり、勇敢で正義感が強い女傑として有名だ。
同じ冒険者のピンチにいてもたってもいられずに、クズ男のこれ以上の凶行を止めに入ったのだった。
(いずれは名を上げて目の前のコイツも蹴落としてやるつもりだが、王都に来たばかりだからなァ。すでに遅い気もするが、一応コイツと少しは仲良くしとくか)
「まっ、いいぜぇ。ここは先輩の顔を立てといてやらァ。ここのヤツらの教育、しっかりやっとけよ! それと、今ここにいないヤツらの分も任せたぜぇ?」
「ああ、分かってるさ。すまねぇな……」
■
◇
「ガガーラン……。先ほどは、はっきり言って自殺行為だったぞ。二度とあんな真似はするな」
「なんだよ、イビルアイ! さすがに、あの状況はほっとけねーだろ?」
「お前もヤツの力量を感じ取ったはずだ。私はヤツから、絶望的な力の差を感じた。私たちが束になっても敵わんだろうな……」
「俺じゃあ敵わないのは感じ取れたがよ。お前でもダメってことかよ……」
「……アレの名はキョーヤ。竜王国の『暴虐の英雄』。最近現れたって噂」
「そういや聞いたことあるな。ビーストマンの群れを何度も蹴散らしているんだったか? アイツについて他にも詳しいこと知ってんのか、ティナ?」
「アレはミスリル級だから、あまり名が知られてない。けど、その強さはアダマンタイト級。素行が悪すぎてランクが上がっていないだけ。……もっと若かったとしても、アレは愛でれない」
「やっぱ、そういう曰くつきのヤツだったか……。つい最近も『漆黒』が誕生したってのに、こうも立て続けに英雄級が出てくるなんてな。いったい世の中どうなってんだ?」
「……もしかすると、ヤツは『ぷれいやー』か? いや、まさかな……」