「はー!スッキリスッキリ…!」
服を着替え、雨が上がった球場の外を茂野先輩と仁科の2人と歩いている。
「零翔くんは、疲れの方は大丈夫?」
「全然大丈夫です!」
そう返事をする。
あの後は特に何事もなく打者を討ち取っていき、6割ほどの投球で体力を温存してある。
「しっかし驚いたぜ…転んで泣くとかガキかよ」
「あのままグラウンドの土になりたかったよ…」
「あはは…お、ここでいいや!」
すると茂野先輩は土のあるところに行き、少しならす。
「こっから零翔くん変化球投げてみて!確認もしときたいし!」
「え?こっから??」
一応、土だけど…。
「よし、いいよー!」
「はい……カーブいきまーす」
ビュッ!ククク……パシッ
「ま、曲がった!結構いいカーブ投げれんじゃねーか!」
「俺の変化球は二つとも見せ球だけどねー、、つぎチェンジアップ!」
ビュッ!ガクンっ……パシッ
「ナイスボール!いや〜どっちもめっちゃいい球だよ!これでリードに幅を出せる!」
そう言いながら駆け寄ってくる茂野先輩。
「よし、じゃあ次は仁科!」
「えっ!?俺もかよ!」
仁科は驚いた表情を浮かべる。
「良かったじゃん仁科!」
「よーし!いくぜ…!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うーん……」
スポーンっ
「全然うまくいかねえ…!」
「ストレートに近い投げ方のやつにすれば?チェンジアップとか…」
「それじゃあオメーと被るじゃねーか!」
被るのは嫌なのか、、なんとなく気持ちは分かるけど…。
「意外とチェンジアップって個性出るよ?他の変化球もそうだけど、この世に全く同じ変化球を投げる人なんていないし」
「そうだけどよ…」
「チェンジアップの握りだって人によって違うしね…例えば、鷲掴んでみたり、親指と人差し指で丸を作ってそれに合わせて掴んだり、ストレートみたいに親指と中指と薬指の3本で掴んだり」
「そんなにあるのか!?」
「人に合った握りがあるからいろいろ試してみるといいよ」
「他にもツーシームとかスプリットも……」
“大吾ー!!”
すると遠くから茂野先輩の名前を呼ぶ人がいた。
「ん?どうしたの睦子?」
「英邦が、、ノーマークの大尾中に負けそうなの!!」
『なにーっ…!?』
それを聞いた俺たち3人は佐倉先輩と共にスタンドへと向かった。
「まさか、英邦が負けるなんて…」
「元横浜リトルのシニアにいた選手が3人に、眉村ジュニアか…そりゃつえーよな」
茂野先輩はいまだに信じられないと言う感じだ。
「仁科と俺の球がどこまで通用するか…だな」
「俄然やる気が出てきたぜ…!」
これは8割とか言ってられないかもな…。
すると、試合が終わった大尾中の金髪の女子“眉村道塁”がこちらを見つめていた。
眉村選手の面影を感じさせるその瞳からは、誰であろうと負けないという強い意志を放っていた。
俺たちだって、絶対に負けない…!
1(中)藤井千里
2(遊)相楽太鳳
3(二)沢弥生
4(捕)茂野大吾
5(右)佐倉睦子
6(投)仁科明
7(左)轟零翔
8(三)関鳥星蘭
9(一)丹波広夢
先発は仁科で、ライトに佐倉先輩。
俺は打者が一巡する4回に入る前に肩は少しずつ準備しておいてほしいとのこと。
まずは守備と打撃で仁科のアシス卜をしてやらなきゃな。
のちのち俺が楽に投げれるようにもなるし。
1回表
相手ピッチャーの世古の球を捉えきれず三者凡退となり、チェンジとなった。
「仁科!初回から全快で抑えてけよ!」
俺はそう言って、仁科の背中をグローブで叩く。
「あたりめーだ。手ぇ抜いて抑えれる奴らじゃねーし…」
仁科もやる気満々といった感じで、口角が少し上がっている。
1回裏
思いの外走っている仁科の速球に、相手は当てることができずこちらも三者凡退となり、仁科はマウンドで喜びの声を上げる。
2回表
4番の茂野先輩が先頭バッターだったが、茂野先輩も相手ピッチャーの速球を打ち崩せず、ショートゴロとなりアウト。
続く、佐倉先輩と仁科も凡退し2回の表が終了…。
「投手戦だねこれは…ほら」
バッターボックスから帰ってくる仁科に声をかけ、グローブと帽子を手渡す。
こういうこと言えば燃えるやつだからね、コイツは。
「おう、悪りぃな!次もその次の回も完璧に抑えりゃなんの問題もねーだろ!あるとすれば……」
何か言いたげにしながらマウンドに向かう仁科。
「仁科!」
「あー?んだよ!」
「5番からは力抜いていけよ?5番以降はそこまでって沢先輩たち言ってたし、仁科なら少しくらい力抜いても抑えれるでしょ?」
そう声をかけ、俺はレフトの守備に戻る。
「はっ!ヨユーだわ!」
そして始まる……
2回裏
なんとこの回も無失点に抑えきり、大尾中の主力選手4人を完璧に抑え込んだ仁科。
大尾中打線は仁科の手元で急激に伸びる速球に苦戦しているようだ。
「仁科結構やるじゃーん!」
「これはウチらも頑張って打たなきゃだね〜?」
「こっちの下位打線は零翔以外に期待はできねーけどな…」
「アタシたち先輩なんだけど…!!」
相楽先輩と沢先輩の声かけに、まだスタミナには余裕がありそうな仁科。
そして突然、仁科からの言葉の棘が刺さり不満そうな関鳥先輩。
「とりあえず……あのピッチャーに変化球はないっぽいし、力負けしないように振り抜いてヒットにして来ます!」
俺は手袋をはめて、バットとヘルメットを持ってバッターボックスに向かう。
「おー?大きく出たねー!w」
「零きゅん!頑張れー♪」
沢先輩と千里の激励を受け、仲間の期待を背に俺はバッターボックスに入る。
風林中ベンチside
「これで打ったら、零翔くんの未だ底知れない実力と伸び代が恐ろしいよ…」
素振りをしている零翔の姿を見て、さっきの発言も含めてそう呟く睦子。
「ほんと…頼もしい1年生がたくさん入って来てくれたよ…!」
大吾はこれからの風林中野球部の期待に目を輝かせている。
そして大吾だけは気づいていた。
さっきの零翔の発言…
「(零翔くんがただの自信過剰なわけじゃない…。場を和ませるためでもあるんだろうけど、、きっと……)」
風林中ベンチside out
零翔side
「(確かにボールは速い…でも俺はストレートに強いし、変化球は全くと言っていいほど……打てない!)」
1球目でストレートの軌道の確認、2球目でタイミングの把握、3球目で思い切り振り抜く!
これで行こう!
仁科も良いピッチングを見せてるんだ…!
俺が、、このチームに流れを持って来てやる…!!
バッターボックスに入り、足元をならしてバットを構える。
ストライクゾーンの判別は得意。
見せ球を投げてくれたらラッキー。
そして投じられた1球目…。
「(ストライク…!)」ブンッ!
スパァン!
ストラーイク!!
インコース高めのボールを空振り。
「(少しタイミング早かったか…それに少し下を振った気がする。次はとりあえずカットして、、)」
掠りもしなかったし、2球目であまりカウントも悪くしたくないはず。
でも、アウトコースギリギリで一旦様子を見てくるか…?
続く2球目…
「(アウトローいっぱい…!)」ズザッ
カコンッ…!
ファール!!
右足を一歩踏み出して、アウトコースのボールを三塁側に飛ばしファールとなった。
少しバットの振りが高めだったためかゴロとなっていた。
「(カットしようって思いが強すぎてバットが押し負けた…!でも…次はあと思い切り振り抜くだけ!)」
3球目…
スパァン!
ボール!
インコース真ん中高めのボール球…。
ストライクだったら長打もあり得たのに…!!
そう思いながら集中力を高める。
続く4球目
「(アウトロー…!?)」ズザッ!
キーンッ!!
ギリギリ捉えることができ、バットを振り抜く意識があったため外野へと低めの弾道で飛んでいった打球は……
フェア!!
レフト横の白線の上へと落ち、レフト線上を抜けていき長打となった。
ズサァー!
2塁で止まり、スライディングでついた土を払い落とす。
そして顔をあげて、ベンチに向けて……
なにしよう…。
こーゆー時は笑顔でピースでもしとくか…。
「(でも、さっき言った言葉のおかげかベンチも盛り上がってる…!流れがこっちに傾きかけてる、、ここで点を取れたら……確実に流れがこっちに傾く!)」
とりあえず、千里の打席までに三塁には行っておきたい…。
関鳥先輩と丹波先輩はバントもバッティングも怪しいからな…。
とりあえず傾きかけてる流れにかけるしかないか…。
「当てれますよー!関鳥せんぱーい…!」
風林中ベンチside
キーンッ!!
零翔の振り抜いた打球はレフト線ギリギリに飛んでいく。
『切れるなー!!』
大吾と睦子の声が届いたのかレフト線の白線の上に落ちて、そのまま打球はフェンスまで転がっていった。
「あ、あいつ…!マジで打ちやがった!?」
「あら、本当に打っちゃったよあの子」
「ええでー!ナイスや零翔!!」
「零きゅんかっこいい〜♪」
本当に打つと思わなかったのか、驚きを隠せない様子の仁科と沢に、同級生の2人も零翔のヒットを褒める。
みんなが塁上の零翔に注目していると、こちらに視線を向けていた。
ガッツポーズでもするのかと見ていると……
満面の笑みでピースをしていた。
「(か…
…可愛いいいぃぃぃ!!////)」
その笑顔と行動に1人の女の子“相楽太鳳”は脳が焼かれたのだった……。
風林中ベンチside out
大尾中side
「まさかアンタの球が7番バッターのアイツに1打席で打たれるなんてね」
金髪の少女、“眉村道塁”がピッチャーの“世古”に声をかける。
「1球目を空振ったからボールが見えてないのかと思ったが…」
キャッチャーマスクを外した“魚住”が申し訳なさそうに言う。
「2球目も振り遅れてたしと思って見せ球見せてから4球目で2球目と同じコースへ配球したらあんな器用なバッティングされるとは…」
「ま、8、9番討ち取りゃいーだろ!」
魚住の言葉に、あっけらかんという感じで言う“出光”。
「そう、まともに当てれたのだってアイツだけだし、出光の言う通り…こっから3人打ち取れば良いのよ」
「そーだな…落ち着いていくぞ、世古!」
「おう!」
そしてまた各々の守備位置へと散っていったのだった。
大尾中side out
轟零翔side
できればゴロ…それもショートかセカンドのギリギリ取れるところに。
バントでも良いけど……
不安だなぁ(←めっちゃ失礼)。
ちょっとだけでも良いから、するか。
無駄な足掻き。
プレイ!!
「(1…2…3歩と)」
ピッチャーまっすぐしかないし、キャッチャーも肩強そうだから盗塁は無理…。
でも、相手は俺の足の速さを知らないし効果は薄いかもだけど、“清和中作戦”!
確実に帰塁することにしとけば、リードを大きくしても大丈夫…ってやつのはず。
ピッチャーの集中を切ってやる…。
ヒュッ…!タタタッ、、、ポフッ…
セーフ!!
牽制されるもすぐに帰塁しベースを踏む。
ピッチャーにボールが戻り、もう一度…次はもう半歩リードを大きく取る。
次は……!?
ヒュッ…!ズザァー、ポフッ…
セーフ…!!
あっぶねえ…!
…3歩にしとこ。
「…世古!こいつ二塁に帰ることしか考えてない!アンタの調子崩そうとしてるだけだから打者に集中して良いわよ…!!」
ありゃ…?バレちゃったみたい…。
「バレちゃいました…?w」
「……ごめんね?キミの作戦台無しにしちゃって」
まあバレたなら仕方ない……。
リードを3歩分に戻して、腰を落とす。
シュタタタ…!!
「!?…スティール!!」
モーションに入ったのを確認し、すぐさま走り出す。
ボール!!
キャッチャーが構えるも時すでにおそし…。
そして俺は二塁に帰還した。
よしっ!あといいかな…。
これで崩れなかったら、何回繰り返しても崩れないだろうし…。
努力も虚しく、ピッチャーは崩れることなく8、9番を抑え、二巡目がスタートした。
「千里ー、バット思いっきり振り抜けー!」
1球目インローにストライク、2球目に真ん中高めのボールとなり、3球目……。
カキンッ!
「危なーいっ……!」
打球が俺めがけて飛んできた。
避けた勢いもそのままに三塁に走るが、一塁方向から審判のアウトの声が聞こえ、ベンチへと戻る。
「この回で1点くらい取りたかったな……」
ヘルメットを取って、スコアボードを見る。
3回表が終わって、未だお互いに未得点。
「ごめーん…零くん」
後ろかろ千里が申し訳なさそうにヘルメットを持ってたっている。
「はは…!気にしないでよ!まだまだこっからだ!」
「……!うん!」
励ますと表情を明るくし、いつも通りのテンションに戻る千里。
そしてそのまま二人でベンチに入っていく。
「零翔、いいバッティングだったで!」
「ありがと!」
アニータに褒め言葉に、グローブと帽子を渡され礼を言う。
「よし……!ここ抑えて次の回で点取ろう!!」
『おー!!』
そして俺たちは再度グラウンドに出ていき、守備につく。
「仁科!」
「あんだよ!?毎回毎回うるせーな!」
「ははっwこの回で終わりだ!全力で抑えてこい!」
俺はそう声をかける。
「ったりめーだ!」
帽子を被り、気を引き締めた表情で仁科はマウンドに向かっていった。
評価と感想とアンケートとここすきがモチベです。
全て貰えるとやる気あがるのでお願いします。
評価https://syosetu.org/?mode=rating_input&nid=369980&volume=1
感想https://syosetu.org/?mode=review&nid=369980&volume=1#review
《追記》
評価のバーが初めて赤色になっててすごく嬉しかったです!
これからも面白いと思って貰えるよう勤しんでいきます。
零翔くんと仲良くして欲しい人
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茂野大吾
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佐倉睦子
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相良太鳳
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沢弥生
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藤井千里
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椛島アニータ
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仁科明
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眉村渉
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眉村道塁
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茂野いずみ
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佐藤光
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郷田早苗