貞操逆転世界で、ASMRを売りまくる   作:天声ξ紳士

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1 一攫千金!活動開始

夜の静寂を突き破るかのように、ヘッドホンから漏れる甘い声。

それは挑発的で、どこか小悪魔じみた響きを含んでいる。

 

「お姉さんって、本当にちょろいよねぇ……こんな声だけでドキドキしちゃうんだ?」

 

軽薄とも思える台詞回しが耳に残る。

声を発しているのは、もちろん“俺”だ——。

 

 

 

もともと俺は前世でごく平凡な男子大学生だった。将来への熱意も希薄で、なんとなく日々をこなし、なんとなくバイトや講義を行き来していた。そんな退屈な日常は、ある日突然の事故によって呆気なく幕を下ろす――そして気づけば、別の世界……と思いきや、“現代日本に酷似した世界”に生まれ変わっていた。

 

ただし、社会通念がひとつ大きく異なる。

男が愛嬌を振りまき、女が堂々と口説く。男女の貞操観念やアプローチの“常識”が前世と逆転しているのだ。

 

そして俺は、新たに授かったある“才能”に気づく。見た目は可もなく不可もない少年なのに、その“声”だけは神がかったものを持っていた。

透き通るようで、聞いた瞬間に人の心を揺さぶり、魅了してしまう危うい魅力……まさに“天声”と呼べるほどのチート声質。

 

「あー、あ“ー……テスト、マイクテスト」

 

パソコンの前で軽く発声してみる。録音ソフトの波形が大きく振れ、高い周波数帯を明滅させるのが見えた。まるで可視化された自分の“戦闘力”を眺めているようで、自然と笑みがこぼれる。

 

この世界では、「男が甘い声で誘惑する」音声作品は限りなく少ないらしい。何しろ、男女の役割が逆転しているせいで、女性向け(=男が囁くシチュエーション)のコンテンツが非常に希少なのだ。

それなら――自分が前世の知識を使って“同人音声”を制作したらどうなる?

 

そう思いついてからの行動は早かった。

前世でも同人音声やASMRには一定の市場があったし、大手サークルは笑いが止まらないほど稼いでいた。そして今、この世界で改めて調べてみると、同様のコンテンツは存在するものの“男から女を焦らす”タイプの作品は驚くほど少ない。狙い目は明らかだ。

 

「……なら、やるしかないよなあ」

 

すでに前世で培った“どんなシチュエーションが売れるか”“どの層が熱狂するか”というノウハウは、それなりに頭に入っている。そこにプラスして、今の俺が持つチートじみた“声”。

うまく噛み合えば、一攫千金どころの話じゃないかもしれない。

 

まずは台本づくりからだ。

例えば、職場の先輩がクタクタになっているところを軽くからかい、甘い囁きで翻弄する。あるいは幼なじみの年上女性に対して“小生意気な年下男子”として攻めてみる――とにかく“お姉さん”が弱いポイントを前世的な感覚で徹底分析し、洗いざらい詰め込んでいく。

 

「先輩、最近疲れてるみたいですね……俺が癒してあげましょうか?」

「へえ……お姉さん、こんな声だけでドキドキしてるんですか? 意外と隙だらけですね」

 

こんな感じのセリフを、ずらりと箇条書きで並べては推敲し、シチュエーションが自然になるよう文章を整えていく。

正直、書いてるだけで自分のニヤけそうな顔が恥ずかしくなる。しかし、やはり“売れる匂い”がする。それくらい自信はあった。

 

そうして制作した第一作。

軽く収録してから編集し、音声をまとめ、ひとまず無難な販売プラットフォームにアップロードしてみた。サークル名は『アイスティー』と名乗ることにする。

名前の由来? 深い意味はない。なんとなく、前世の俺が夏場にアイスティーばかり飲んでいた記憶があるからだ。心機一転、この世界での活動名としては悪くないだろう。

 

 

——そして数日後。

 

俺がサイトを確認すると、そこには衝撃のメッセージが届いていた。

 

「ランキング一位……!?」

 

画面に映るその文字を何度も見直し、俺は思わず目をこすった。夢じゃない。紛れもない現実だ。アップロードしてからまだ数日しか経っていないのに、『アイスティー』の初作品が女性向け音声コンテンツのランキングでトップに躍り出していた。

コメント欄には、興奮したユーザーからの感想が溢れている。

 

「こんな声初めて聴いた……心臓が持たない!」

「生意気な年下男子最高すぎるう!」

「お姉さんって呼ばれたい人生だった……!」

 

中には「もっと攻めてください、お願いします!」とか「続編はいつですか!?」なんて熱烈なリクエストまで飛び交っていて、俺の予想を遥かに超える反響に呆然とするばかりだ。

 

「まじか……こんなにバズるなんて」

 

正直、自信はあったけど、ここまでの爆発力は想定外だった。

この世界の女性たちがどれだけ“男の甘い声”に飢えていたのかを、まざまざと見せつけられた気分だ。しかも、ランキング一位になったことで、プラットフォームのトップページに俺の作品がデカデカと表示され、さらに注目度が上がっているらしい。再生数もダウンロード数も、右肩上がりで増えていく。

 

「……これは、儲かるぞ」

 

その日、俺は人生で最もぐっすりと睡眠を取ることができた。

 

 

 

 

【緊急、今ランキング一位の作品について】

 

1:木枯らしの名無し

これやばくね?

 

2:木枯らしの名無し

マジで何だよこの声……初っ端の「お姉さんって本当にちょろいよねぇ」で心臓止まるかと思ったわ。アイスティーって誰だよ、新人か?

 

3:木枯らしの名無し

ランキング一位納得すぎる。こんな声で囁かれたら即落ちる。生意気な年下男子がこんなに刺さるとかやばすぎる。

 

4:木枯らしの名無し

「先輩、最近疲れてるみたいですね…俺が癒してあげましょうか?」のとこで叫びそうになった。癒しどころかドキドキして眠れないんですけど!

 

5:木枯らしの名無し

>>4 分かる! あの軽くからかう感じがたまんない。お姉さん属性持ちの私、完全に死にました。

 

6:木枯らしの名無し

コメント欄見たら「もっと攻めてください!」とか「続編はいつ!?」ばっかで笑った。私も同じこと書きそうになってたわ。この世界じゃ男の甘い声貴重すぎるもん。

 

7:木枯らしの名無し

>>6 ほんとそれ! 女が攻める音声ばっかりでさ、こういう「男が焦らす」系が新鮮すぎる。作者天才だよ。

 

8:木枯らしの名無し

初作品でこれなら次どうなるの…? 今のうちに推しときたいレベル。声だけでこんなにやられるとか反則でしょ。

 

9:木枯らしの名無し

サークル名「アイスティー」って適当っぽいのに中身が本気すぎてギャップ萌えするわ。こんな声どこから出てくるの?

 

10:木枯らしの名無し

「お姉さん、こんな声だけでドキドキしてるんですか?」で理性吹っ飛んだ。小悪魔っぽい言い回し最高すぎる…アイスティー結婚して。

 

11:木枯らしの名無し

>>10 分かる、あのニュアンスやばいよね。私も「お姉さん」って呼ばれたい人生だったってコメント欄見て泣いた。

 

12:木枯らしの名無し

十五分しかないのに何回聴いても飽きない。声質が良すぎて頭バグるわ。次はもっと長いの欲しい!

 

13:木枯らしの名無し

>>12 禿同! 次は女上司とかツンデレ感出してほしいよね。作者なら絶対神作にしてくれる。

 

14:木枯らしの名無し

女上司シチュ想像しただけで悶える。「仕事遅いよ」とか言ってる女上司がこの声で翻弄されてアワアワする展開とか……欲しいなぁ。

 

15:木枯らしの名無し

アイスティーの声、低音と高音のバランスが完璧すぎ。囁きの吐息混じりの感じとか心臓に悪いよ……犯罪だよこれ。

 

16:木枯らしの名無し

ほんとそれ。マイクとの距離感も絶妙で臨場感すごい。あれ絶対素人じゃないよね、プロ並みだよ。

 

19:木枯らしの名無し

正直値段もうちょい高くても買う。このクオリティなら安すぎるくらいだよ。次値上げしても全然買います。

 

20:木枯らしの名無し

「意外と隙だらけですね」の言い方が頭から離れない……あの小悪魔感たまんない。

 

21:木枯らしの名無し

てかアイスティーって男なんか? 女なんだろどうせ。

 

22:木枯らしの名無し

>>21 (女の子説は申し訳ないが)NG

 

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