貞操逆転世界で、ASMRを売りまくる   作:天声ξ紳士

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3 天性の天才の声質を

深夜の静寂を突き破るかのように、再びマイクの前に座る。

前作での成功とファンからの熱いコメントが、今夜の挑戦への弾みとなっていた。昨夜も、コメント欄には「女上司シチュエーションが見たい!」という声が多く寄せられており、その期待に応えるべく、俺は新たな台本に手を加えていた。

 

今日のテーマは、これまでの甘く焦らすスタイルに加え、威厳と柔らかさが交錯する“女上司”とその“男部下”のシチュエーション。俺が男部下として、女上司から叱られながらも、逆に仕返しで甘やかすといったかんじのものだ。

 

「よーし、がんばるぞー!」

 

そう呟くと、アイスティーの注がれたグラスから冷たい液体を一口。あのすっきりとした味わいが、いつも通り心を落ち着かせる。

 

部屋は薄暗い照明に包まれ、室内にはパソコンの画面と、波形が映し出されたモニターだけが頼りだ。俺は、まずは機材のチェックに取り掛かる。マイクとの距離、風防の位置、さらには録音ソフトの感度調整に至るまで、細部にわたる準備を怠らない。

 

「よし、レベルは安定。これで万全だ」

 

俺は深く息を吸い込み、マイクの前にしっかりと背筋を伸ばす。今日の台本は、俺が男部下として演じるシーンの全てを詰め込んでいる。

 

まず、俺は画面に映る台本をじっくりと見つめる。

そこには、女上司の厳しい視線や、机に叩きつけられるような無言の圧力、そして俺に対する小さな期待と、どこか温かみのある甘い言葉の余韻が描かれている。

だが、俺が発するのは、女上司のセリフではなく、あくまで男部下としての返答。想像の中で彼女の叱咤激励を受け、その厳しさに応えるため、そして逆に彼女を甘やかしてしまうものだ。

 

室内の薄暗い照明が、俺の顔を優しく照らす。グラスに残る氷の輝きを一瞥し、俺は再びマイクに向かって意を決する。録音ソフトの「REC」ボタンに指をかざし、静かなクリック音とともに、俺の世界が始まった。

 

オフィスの重厚な空気、無言の視線、そして、遠くから聞こえる時計の秒針の音……。

 

そして、俺はゆっくりと台本の一行を口に出す。

低く、しかしどこかほのぼのとした、優しい口調で。

 

「部長……、すみません、今日の報告、少し遅れてしまいました……」

 

その声は、意識的に柔らかく、しかしどこか不安げな響きを伴っていた。

画面上の波形は、俺の吐息のリズムとともに、小刻みに上下を繰り返す。

 

次のシーンへと移る前に、俺は一度、台本に描かれた女上司の存在を、心の中で鮮明に呼び起こす。彼女は決して実在するわけではない。ただ、ファンの期待と俺自身の想像が織りなす理想像。俺はそんな偶像を思い浮かべながら、次のセリフに挑む。

 

「……でも、部長、こんなにお叱りを受けるのは、俺も初めてで……」

 

その一言とともに、ここはあえて声に弱さと戸惑いを乗せる。普段なら決して見せない、男部下としての素直な感情が、じんわりと溶け出す。

 

録音が進むにつれ、俺は台本の中の一節一節に込められた意味を、ひとつひとつ丁寧に味わっていく。女上司の無言の圧力、そして男部下への期待が、どれほど重いものか。俺はそのプレッシャーを、ただ単に乗り越えるだけではなく、逆手に取って、彼女に対する甘い反撃の台詞を紡ぐ準備を始めた。

 

「……ですが、今日も部長の言葉に、俺は救われています。あの、優しい言葉が……」

 

ここで、俺の声は一瞬、躊躇いを含んだ温かさを帯びる。

女上司としての彼女からの厳しさに応えるため、そして自分の内に秘めた甘い願望を口に出すために、俺は全身全霊を込める。室内に流れる空気は、まるで俺の心の内側を映し出すかのように、しっとりと濡れていく。

 

「部長……俺と、この後時間はありますか?」

 

……そして、最後の台詞が終わると、静寂の中にマウスのクリック音が響き、録音ソフトが自動的に停止音を発した。

 

俺はしばらくモニター越しにその波形を見つめ、深い満足感とともに、今日のセッションが単なる作業以上のものだったことを実感する。つまり、俺が想像するあの厳しくもどこか温かい女上司の姿に、男部下の声がどれだけしっかりと届いたか。

 

ファンが期待する「シチュエーション」の世界で、俺自身の内面の弱さと強さ、そして隠された甘い願望が見事に形になった瞬間だった――。

 

「よし……これで終わりか」

 

と、俺は低く呟きながら、しばらく息を整えた。

そして軽く笑みを浮かべながら、最後のチェックに取り掛かる。編集ソフト上で、各シーンのタイムラインを丹念に見直し、微妙な間合いや息遣いの調整を行う。手元の作業は、今日の感情の余韻をさらに美しく仕上げるための、俺なりの最後の儀式だ。

 

「ふわぁあ疲れたよぉおん」

 

録音を終えた俺は、椅子の背もたれに体を沈め、軽く目を閉じた。スピーカーから流れる自分の声が、部屋の空気を満たしていく。

 

低く柔らかなトーンで「部長…すみません」と謝りつつ、どこか甘えるような響きが混じるその声は、自分で言うのも何だか、えっちだ。

 

「これなら…またランキング狙えるな」

 

前作の「女騎士と盗賊」が公開されてから、コメント欄はさらに熱を帯びていた。

今回の「女上司と男部下」は、前作の癒しとドキドキのバランスを保ちつつ、新たなスパイスとして“威厳と甘さのせめぎ合い”を加えた挑戦作だ。

 

録音データを保存し、編集ソフトを閉じる。時計を見ると、もうすぐ午前3時。窓の外はまだ暗く、遠くで鳴く虫の声だけが聞こえる。

 

「さて…アップロードするか」

 

そう呟きながら、パソコンに向き直る。

プラットフォームにログインし、音声ファイルをアップロードする準備を進める。タイトルは『女上司と部下の秘密の時間』に決定。サムネイルには、シンプルにスーツ姿のシルエットとコーヒーカップのイラストを配置した。

派手すぎず、想像をかきたてるデザインがこの世界の「お姉さん」たちには刺さるはずだ。

 

アップロードボタンを押すと、進捗バーがゆっくりと動き始める。その間、俺はコメント欄を覗いてみることにした。前作の投稿にはまだ新しい反応が寄せられていて、ファンの熱量に改めて驚かされる。

 

「膝枕シチュで死にました…次も期待してます!」

「アイスティーの声、毎回進化してるよね。癒しと焦らしの天才すぎる」

「女上司とか出たら絶対買う!仕事で疲れた私を癒してほしい…」

 

どれも熱烈で、俺のモチベーションをさらに高めてくれるものばかりだ。アップロードが完了するのを待つ間、俺は次のアイデアを軽くメモに書き留める。

ツンデレ幼馴染とか、クールな男教師とか…この世界のお姉さんたちが喜びそうなシチュエーションはまだまだありそうだ――。

 

 

 

【アイスティー新作『女上司と男部下』について】

 

1:木枯らしの名無し

アイスティー新作来たあああ! 朝起きて即聴いたけど、「部長……すみません」の声で心臓止まった。仕事行く前にこれ聴くの危険すぎる!

 

2:木枯らしの名無し

女上司シチュ最高すぎる…!「少し遅れてしまいました…」の弱々しい感じから、「優しい言葉が…」の甘さに変わるところで悶絶した。お姉さん属性全開で死にました。

 

3:木枯らしの名無し

「部長、俺とこの後時間はありますか?」で叫んだ。こんな部下いたら仕事放棄してでも時間作るわ!

 

4:木枯らしの名無し

あの声で謝られつつ甘えられたら、どんな厳しい上司でも落ちるよ……。私なら「遅れてもいいよ」って言っちゃうレベル。

 

5:木枯らしの名無し

「こんなお叱りを受けるのは初めてで…」の戸惑い声が可愛すぎて何度もリピートしてる。小悪魔感と素直さのバランスが神!

 

6:木枯らしの名無し

アイスティー、毎回期待超えてくるのやばい。前作の膝枕も最高だったけど、今回は女上司の威厳を崩す感じがたまらん。

 

7:木枯らしの名無し

仕事で疲れて帰ってきた私に「優しい言葉に救われています」って囁かれたら泣く。癒しすぎて現実に戻れなくなる……。

 

8:木枯らしの名無し

最後の「時間はありますか?」の吐息混じりの声で昇天。30分じっくり焦らされて最後にとどめ刺された感じ。次も早く聴きたい!

 

9:木枯らしの名無し

アイスティーの声、低音で落ち着くのに高音でドキッとさせるの反則すぎる。マイクの距離感も完璧で臨場感やばい。

 

10:木枯らしの名無し

女上司シチュ頼んだの覚えててくれたのかな……? 私の妄想が現実になったみたいで嬉しい! 次はツンデレ系とかどうですかアイスティー様!

 

11:木枯らしの名無し

「部長……」って呼びかける時のちょっと頼りなげな声が刺さりすぎる。私が部長なら即デスク叩いて「残業付き合え!」って言うわ。

 

12:木枯らしの名無し

>>11 分かる! あの弱々しさが逆に母性本能くすぐってくるよね……アイスティー絶対計算してるでしょ。

 

13:木枯らしの名無し

30分もあるのに一瞬で終わった感覚。もっと聴いていたい……アイスティー、次は1時間超えとか挑戦してくれないかなぁ。

 

14:木枯らしの名無し

「優しい言葉に救われています」のとこで涙腺崩壊した。仕事でボロボロの私にこんな部下いたら毎日癒されるのに…現実とのギャップ辛い。

 

15:木枯らしの名無し

あの声で「時間はありますか?」って聞かれたら「あります!」って即答しちゃう。部長じゃなくても予定空けるレベルだよ!

 

16:木枯らしの名無し

アイスティーの進化が止まらない。前作の盗賊も良かったけど、今回は部下の“甘え上手”な感じが新鮮で最高すぎる。

 

17:木枯らしの名無し

吐息の使い方が天才的すぎる…特に最後の「時間はありますか?」の微妙な間と息遣いで頭真っ白になった。イヤホン必須だよこれ

 

18:木枯らしの名無し

アイスティーの声ってさ、聴いてるだけでストレス溶けるよね。仕事中こっそり聴いて癒されてる私、完全に依存してるわ。

 

19:木枯らしの名無し

「少し遅れてしまいました……」の言い訳っぽいトーンが可愛すぎて何回も巻き戻した。あの声なら何でも許しちゃうよ……。

 

20:木枯らしの名無し

アイスティーって絶対にお姉さんたちの弱点分かってるよね。毎回ドンピシャで刺さってくるの怖いくらい。

 

21:木枯らしの名無し

「部長、俺とこの後……」の続きが気になりすぎて仕事手につかない。続きは本編で聴けるの? それとも次回作で補完されるの? 妄想が止まらん!

 

22:木枯らしの名無し

アイスティーの声は天のもの。天性の天才の声……つまり“天声”なのだよ諸君!

 

 

 

翌朝、目が覚めると同時にスマホを手に取る。

プラットフォームからの通知が山ほど来ていて、寝ぼけた頭が一気に覚醒した。急いでアプリを開くと、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

「新作、公開から8時間でランキング1位……!?」

 

目を擦っても結果は変わらない。

ゴシゴシ。

目を擦っても結果は変わらなかった――。

 

「ん? メール?」

 

スマホの通知音が鳴り響き、俺はランキングの画面から目を離してメールアプリを開いた。送信元は見慣れないアドレスだったが、件名に目を奪われる。

 

件名:『アイスティー様 –コラボのお誘い』

本文:アイスティー様、女性同人声優グループ「シスターズエコー」です。貴殿の“声”に惚れて、私たち3人でコラボを提案します! 「おねおねおねショタ」をテーマに、売上は私たち3人+アイスティー様で山分け。初動3000本は確実です。返信待ってます!

– SEリーダー

 

「おねおねおねショタって何だよ……(困惑)」

 

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