貞操逆転世界で、ASMRを売りまくる 作:天声ξ紳士
深夜の部屋に、パソコンのモニターが放つ青白い光が揺れている。
俺はヘッドホンを外し、椅子の背もたれに体を預けた。目の前には、音声販売プラットフォームの管理画面が映し出されている。そこに表示された数字を見て、思わず息を呑んだ。
「マジか……1万ダウンロード!?」
シスターズエコーとのコラボ作品「おねおねおねショタ」の製品版がリリースされてから、まだ1週間も経っていない。
体験版の公開時からファンの熱狂的な反応は感じていたが、蓋を開けてみれば初動だけで3000本が売れ、その勢いのまま1万ダウンロードを突破していた。
ランキングは当然のように1位を独走。コメント欄は「アイスティーくん可愛すぎ!」「お姉ちゃんたちの攻めが最高!」と溢れかえり、俺のサークル名『アイスティー』は一気にこの世界の女性たちの間で知れ渡ったようだ。
さらに驚くべきことに、プラットフォームからの通知メールが届いていた。
件名はシンプルに「売上振込のお知らせ」。
開いてみると、これまでの三作品——初作の『生意気な年下男子』、第二作の『女騎士と盗賊』、第三作の『女上司と男部下』、そして今回の『おねおねおねショタ』——の合計売上が俺の口座に振り込まれたことを告げていた。金額を見て、目が点になる。
「これ……7桁超えてるじゃん……!」
前世ではバイト代で細々と暮らしていた俺が、こんな大金を手にすることになるとは。画面に映る数字を何度も見直し、目をこすっても変わらない現実を前に、思わず笑いがこみ上げてきた。
「これだよ! 一攫千金の夢が現実になった! やったー!」
立ち上がり、部屋の中をぐるぐる歩き回る。興奮が抑えきれず、冷蔵庫からアイスティーを取り出して一気に飲み干した。ひんやりとした感覚が少し冷静さを取り戻させ――。
「やったー! やっとだよ、これが俺の成功だ!」
ることはなく、俺は思わず叫びながら、部屋の中で拳を振り上げた。心臓がドクドクと高鳴り、全身にアドレナリンが駆け巡る感覚。モニターに映る数字が、俺の努力の結晶。
「こんな大金、どう使おうかな……!」
頭の中でアイデアが次々と湧き上がってくる。
まずは、ずっと我慢していたものを新調しようと決めた。
「そうだ、新しい機材を買おう!」
俺はパソコンに飛びつき、ネットで検索を始めた。
・高性能マイク:今使ってるマイクも悪くないけど、もっとクリアな音質で録音できるプロ仕様のやつにしよう。ノイズキャンセリング付きで、期待を超える音質を届けたい。
・最新の録音機材:ミキサーも新調して、音のバランスを完璧に調整できる環境を整えよう。音の心臓とも言える部分だからだ。
・編集ソフト:今使ってる無料ソフトじゃ限界がある。プロが使う有料ソフトにアップグレードして、編集の幅を広げたい。天声を最大限に引き出す効果音だって追加できる!
・ヘッドホン:耳に優しくて長時間作業でも疲れない、ノイズキャンセリング付きの高級モデル。あの有名ブランドのやつ、ずっと憧れてたんだよな……!
カートにどんどん商品を追加していく。
画面に表示される合計金額を見ても、もう何も怖くない。
「これで次回作はもっとすごいクオリティになるぞ! 皆が喜ぶ顔が目に浮かぶ……!」
さらにさらに、機材だけじゃ満足できない。
もっと自分にご褒美をあげよう。
「椅子を新調しようかなっ!」
長時間作業で腰が痛くなるこのボロ椅子ともおさらばだ。人間工学に基づいたゲーミングチェアにすれば、作業効率も上がるはず。足もこれで伸ばせるに違いない。
「デスクも広いやつにしよう……!」
メモや機材が散乱してる今の机じゃ狭すぎる。大きいデスクなら、次回作のアイデアを広げて考えるスペースもできる。机はでかければ、でかいほどいい。
「部屋の照明も変えようかなあ」
この薄暗い蛍光灯じゃ気分が上がらない。暖かい色調のLEDライトにすれば、作業のモチベーションも上がるだろう。調光式のお高いやつだ。
「いや、待てよ……もっと贅沢してもいいよな?」
頭に浮かんだのは、ずっと夢だったあのアイテム。
・防音室:本格的な録音ブースを作っちゃおうか? 近所迷惑を気にせず、心置きなく叫んだり笑ったりできる。自分の声だって大きく録音して、作品に活かせるかもしれない。
妄想が止まらず、俺は笑いながら手を叩いた。
「素晴らしい……見える、視えるぞ! この後さらにアップグレードされた新環境で、もっともっと魅力的な作品が生み出されていく景色が……!」
カートに入れられていく数多の商品……の前に、俺はとある重大な事実に気づいた。
「……俺、未成年だからクレジットカード持ってないやん!」
興奮の絶頂から一気に現実に引き戻された俺は、思わず頭を抱えた。画面に映るカートの中身——高性能マイク、最新ミキサー、憧れのヘッドホン、防音室まで——が一瞬にして遠く感じる。でも、ここで諦めるわけにはいかない。
一攫千金の夢をこの手で掴んだのだから!
――これは、ついにこの時が来てしまったか。
つまり、親を……頼るってことだよお!
俺は腹をくくって、リビングへと向かった。
時計はもう深夜を回ってるけど、こんな大事な話は勢いがある今しかない。ドアを開けると、父さんがソファでスポーツニュースを見てて、母さんが隣で編み物をしていた。
「父さん、母さん、ちょっと大事な話が……」
俺が緊張した声で言うと、父さんがリモコンでテレビをミュートにして、母さんが編み棒を止めた。
「どうしたんだい、こんな時間に?」
父さんが少し驚いた顔で聞いてくる。
「実はさ……俺、音声作品を作ってて、それがめっちゃ売れたんだ!」
一気にまくし立てると、二人とも目を丸くした。
「音声作品? なーに? それ」
母さんが首をかしげる。
「えっと、声で物語を演じるやつで、ネットで売ってるんだ。ほら、これ見て!」
俺はスマホを取り出して、プラットフォームの管理画面を見せた。1万ダウンロードの数字と、振り込まれた7桁の売上がバッチリ表示されてる。
「オイオイオイ……これ、全部お前が稼いだのか?」
「うん! だからさ、新しい機材を買いたいんだけど、俺、未成年でクレジットカード持てなくて……父さんか母さんのカード、貸してくれないかな?」
俺は一気に頼み込んだ。
母さんが興味津々で聞いてくる。
「ちょっと待って、こんな大金をどうやって稼いだの? どんな作品なのよ?」
「えっと、まあ……『おねおねおねショタ』って作品なんだけど……」
俺がちょっとモジモジしてると、父さんがニヤッと笑った。
「おねショタって、あれだろ? お姉さんたちが可愛い男の子をいじるやつ! お前、なかなかやるなあ!」
父さんが楽しそうに言うもんだから、俺は顔が真っ赤になった。
「恥ずかしいって! とにかく、カード貸してくれたらちゃんと返すからさ!」
俺が慌てて言うと、母さんがクスッと笑った。
「いいわよ、私のカード貸してあげる。だから、その作品ちょっと聴かせてくれない?」
母さんが目をキラキラさせて言うもんだから、断るわけにもいかず、俺は渋々スマホで再生ボタンを押した。
『おねえちゃん、僕くんと、もっと遊んであげるね~♪』
シスターズエコーの長女ミキの声が流れ出した瞬間、父さんが「ほう、これは面白い!」と身を乗り出し、母さんが「可愛いじゃない、私もお姉ちゃんって呼ばれたいわ!」と笑い出した。俺は顔を赤くして叫んだ。
「やめてくれえ! 勘弁勘弁! もういいでしょ、カード貸してください!」
母さんが財布からカードを取り出しながら、「次はもっとすごいの作ってね!」と言ったその時、スマホに新たな通知が。ちらっと見ると、運営からのメールだった。
【件名:『音声クリエイターフェア2025』への出展オファー】
「えっ、何これ……?」
部屋が両親の笑い声で騒がしい中、新たな挑戦が待っていた――。