貞操逆転世界で、ASMRを売りまくる 作:天声ξ紳士
2027年。
この同人音声界に生まれてから数年が経った。
俺は今、部屋でマイクを手に持ってる。
壁にはファンからの手紙やイラストが貼られ、机には新作の台本と、いつもの冷えたアイスティー。『ツンデレ男幼馴染』の続編が大ヒットして、俺の名前は同人音声界隈では知らない人はいないくらい有名になった。
しかしその朝、スマホがピロンと鳴った。
見ると、販売サイトからのメール。
件名:『アカウント停止のお知らせ』
「は……?」
目を疑って開くと、そこには衝撃の一文が。
【貴殿の音声コンテンツが『過度に性的』との苦情を受け、アカウントを停止しました】
頭の中が真っ白になった。
――――俺の声が……、えっちすぎて垢BANだって!?
スマホを握り潰す勢いで見つめたまま、俺は動けなかった。
過度に性的? 俺、そんなつもりで録った覚えはない。『ツンデレ男幼馴染』は確かにちょっと色っぽいシーンもあったけど、それはキャラの魅力を引き出すためだ。それなのに。
「どうして……(現場ネコ)」
声に出して呟くと、部屋の静けさが余計に重く感じられた。
深呼吸して、冷静になろうとした。
まずは状況を把握しないと。販売サイトのサポートに連絡しようとメールを打ち始めたが、手が震えて画面の中のキーボードをうまくタップできなかった。が、
「いやいやいや、おかしいだろ!」
めちゃくちゃ爆速で抗議文を送った――。(手のひら返し)
ξ
その朝、俺が受け取った「アカウント停止のお知らせ」から数日後、事態は予想もしなかった方向へと膨れ上がっていた。最初は同人音声界隈でのちょっとした騒ぎで済むと思っていたが、俺の声が「えっちすぎる」という理由で垢BANされたことが、SNSを通じて急速に拡散。ネットニュースから、ついには世間の間で大きな話題となっていた。
テレビをつけると、どのチャンネルでも俺のことが取り上げられている。
ニュースキャスターが深刻な表情でこう報じていた。
「同人音声作家『アイスティー』氏の作品が『過度に性的』とされ、販売サイトからアカウント停止処分を受けた問題が波紋を呼んでいます。氏の代表作『ツンデレ男幼馴染』は、ファンから『癒し』や『感情の救い』として支持されてきましたが、一部では『青少年に悪影響を与える』との批判も寄せられています」
画面が切り替わり、街頭インタビューの映像が流れる。
20代の女性がマイクを向けられて、少し照れながら答えた。
「アイスティーさんの声、大好きなんですけど……確かにドキドキするくらい魅力的です。でも、それだけで禁止ってのはやりすぎじゃないですか?」
一方、40代の男性は眉をひそめてこう語る。
「子供がこんなものを聴いたらどうなるか分からない。規制が必要だと思うね。社会のモラルが崩れるよ」
俺はリビングのソファに座り、テレビを見ながら頭を抱えた。
母さんが台所から心配そうに声をかけてくる。
「あんた、大丈夫? テレビで名前が出てるよ。」
「うん、分かってる……でも、俺、悪いことしてないよ。声がえっちすぎるって、どうしろっていうんだよ……(困惑)」
「お前、すごいな! 声だけでニュースになるなんて、俺の誇りだよ!」
「父さん、今は冗談言ってる場合じゃないって!」
ネックス(旧トゥニッター)では、ハッシュタグ『#アイスティーBAN』がトレンド1位に躍り出て、賛否両論が飛び交っていた。
・「アイスティーさんの声は癒しそのもの! 性的だなんて言いがかりだよ!」
・「確かにあの声、聴いてると頭空っぽになるくらいヤバいけど(笑)」
・「青少年に悪影響って、聴くのは自己責任でいいよね?」
・「いや、これは規制すべき。こんな声が野放しだと社会が危ない!」
ファンからの擁護も熱を帯びていた。
・「アイスティーくんの声に救われた人がどれだけいるか! 垢BANなんて不当すぎる!」
・「運営はファンの声をもっと聞いて! 再審査してほしい!」
批判的な意見も根強く、収まる気配はなかった。ニュースサイトでは、「同人音声作家の『声の魅力』が社会問題に」という見出しで、専門家のコメントまで載っていた。
「この事例は、表現の自由と社会倫理の境界線を問うものです。声そのものが『過度に魅力的』と問題視されるのは、デジタル時代ならではの新たな課題でしょう」
更に果ては、丁度国会中継がテレビに映されており、現職の総理大臣がこの今話題の問題について野党の議員から質問を受けていた。それに対して総理が答える異例の事態だ。
「まず、おねショタとは何か……そこから始める必要があります(ネットリ)」
俺はスマホを手に持ったまま、深いため息をついた。
自分の声がこんな大事になるとは、夢にも思わなかった。
その夜、俺はベッドに横になりながら頭の中で考えがぐるぐる回っていた。垢BANされたことで、新作のリリースもファンとの交流もできなくなり、収入も途絶えた。これからどうやって生活していけばいいのか、不安が押し寄せてくる。
「俺の声って、そんなにえっちか……? 助けてくれー」
確かに『ツンデレ男幼馴染』には色っぽいシーンがあったけど、それはキャラの感情を表現するためだ。それが「過度に性的」だなんて言われるなんて。
一部のファンが「えっちすぎる」と喜んでいたのは知っていた。でも、それが原因で社会問題になるなんて、想像もしていなかった。
ただ物事というものは、急速に、目まぐるしく情勢が変わってくるもので。SNSではファンの署名活動が激化し、その日本の謎ともいえる動きに世界各国が関心を示し。
特に、米国の企業、ネックスの社長がこんな投稿をしたことにより、自体は動き出した。
・「#Free Ice Tea」
その呟きには、たった一言だけが添えられていた。
・「表現の自由を守れ」
ネックス――言論の自由の聖地として知られるプラットフォームで、実業家として有名な彼女が俺の件に言及した瞬間、事態は一気に世界規模へと膨れ上がった。俺の声が引き起こした騒動が、日本の同人音声界隈を超え、国際的な議論の渦へと飲み込まれていく。
翌朝、目を覚ますと、スマホの通知が数万件を超えていた。ネックスを開くと、俺の名前がトレンドに浮上。ハッシュタグ「#FreeIceTea」が世界中で拡散され、英語、フランス語、スペイン語、中国語――あらゆる言語で応援メッセージが飛び交っていた。
・「Ice Teaの声は芸術だ! 規制なんて馬鹿げてる!」
・「日本の文化を守れ! 表現は人類の財産だ!」
・「あの声に癒された夜を返せ!」
一方で、反対意見も容赦なくぶつけられた。
・「性的すぎる声が公共の場で流れるなんて許されない。」
・「子供が聴いたらどうするんだ。規制は当然だ。」
ネックスのタイムラインは賛否両論で埋め尽くされ、まるでデジタル時代の戦場と化していた。BCCは「日本の音声作家が引き起こす表現の自由論争」と題した特集を組み、CCNは「声の魅力が国際問題に」と報じた。俺の名前、「アイスティー」が、世界を駆け巡る事態へと進展していた。
日本国内でも、騒ぎは収まるどころかさらに過熱していた。
国会中継では、野党議員が再び総理に噛みついた。
「総理! アイスティー氏の声が国際問題に発展している今、政府としてどう対応するおつもりですか?」
総理は少し困った顔でマイクを握り、こう答えた。
「ええ、まずですね、この問題につきましては、私としても非常に深く心を寄せております。アイスティー氏の声がですね、どのような形で皆様に影響を与えているのか、その本質をしっかりと見極める必要があるわけであります。過度に性的であるとのご指摘が一部にある一方で、多くの方々が癒しや喜びを感じておられるという事実もまた、看過できないものでございます。ですから、この問題をですね、単に規制するか否かという二元論で捉えるのではなく、表現の自由と社会の調和という大きな視点から、時間をかけて丁寧に議論を重ねていくべきではないかと、私はそのように考えております。でありますからして、まずは関係省庁と連携しつつ、国民の皆様のご意見を幅広くお伺いする場を設けまして、その上で適切な対応を模索していきたい、そういう思いでございます(ネットリ)」
総理のねっとりした答弁がネックスで拡散されると、国内外の反応がさらに加速した。日本のユーザーは「#総理試聴チャレンジ」を立ち上げ、「総理がアイスティーの声を聴いたらどうなるか見てみたい」と冗談半分で盛り上がり始めた。
一方で、海外のユーザーは「#Free Ice Tea」を掲げて本気で支援を表明。さらに、
・「You are the KING !!」
ネックスの社長が俺のアイスティーとしてのアイコンに、そんな言葉を付け加えて投稿し、その投稿が火をつけたことで、世界中のクリエイターや表現の自由を支持する人々が声を上げ始めた。アメリカの有名ポットキャスターが「アイスティーの声は文化遺産だ」と擁護し、フランスの芸術家が「彼の声は詩そのもの」と称賛する投稿を連発。
俺の小さかった同人活動が、今や世界の注目を浴びる中心になっていた。
もはや俺は黙っていられなくなった。
関係各所からお問合せや質問が飛んでくる。一々答えていたらキリがないし、偏向報道もされかねない。ゆえに、俺はネックスで直接声を届けることにした。告知を投稿すると、数分でリポストが数千を超えた。
ついに配信が始まると、視聴者は瞬時に10万人を突破。コメント欄が高速で流れ始めた。
「あー、あ“―。どうも、ハロー。いや今日はですね、初めての配信なわけですけども……その、皆さんエブリワンに聞きたい……のは。そんなに俺の声って”えっち“ですか⁉︎ 」
視聴者数がみるみる増え、15万、20万と跳ね上がっていく。
俺はとても緊張しつつ、マイクに近づいて話を続けた。
「んでもって、今の状況! お客様、困ります! 垢BANされただけなんです。いや! もちろん。悔しいし、納得いってないけどねッ‼︎」
コメントが更に加速する。
・「世界中が味方だよ! 頑張れ!」
・「総理がアイスティーの作品聞くらしいぞ!」
・「運営ゆるせめぇ……」
俺は画面を見ながら、ちょっと喉が詰まりそうになったけど、なんとか言葉を繋いだ。
「新作も出せなければ、ファンとも繋がれない、収入もないわ。もうどうしようって、思ったよ……トホホ。でも、みんなから、こんなに応援して貰えて……感謝しかないです」
コメント欄が「泣ける」「アイスティー!」で埋まる。
英語や他の言語の応援も混ざり始めた。
・「You’re not alone, Ice Tea!」
・「Liberté pour ta voix!」(あなたの声に自由を!)
「だからさ、運営には再審査をお願いしてる。結果は分からないけど、俺はこの声でまた作品を作りたいんだ。皆に届けたい声が、まだ頭の中にいっぱいあるから。もし復活できたら、また聴いてくれると嬉しいよ。待っててくれよな!」
コメントが一気に溢れ、画面が追いつかないほどになった。
・「待つよ!絶対待つ!」
・「新作楽しみにしてる!復活信じてる!」
・「アイスティーの声が世界を救うよ!」
・「国↑交↓」
視聴者数は30万を超え、ネックスのトレンドが「#アイスティー配信」で埋め尽くされた。海外のファンからは「King of ASMR!」なんて大げさな称賛も飛んできて、俺は苦笑いしながら手を振って、配信を終えた――。
俺は配信を終えた後、部屋の椅子に座り込んで放心状態だった。マイクを握った手がまだ微かに震えていて、額にはわずかにも汗をかいている。
「こんなに応援してくれる人がいるんだ……」
ベッドに横になり、スマホを手に取ると、すでに配信の切り抜きが拡散されまくっていた。
・「アイスティーの声、やっぱりヤバいw」
・「この声で謝られたら運営も許すしかないだろ」
・「総理、この配信見てくれ!」
日本のファンは「#総理試聴チャレンジ」を掲げて大盛り上がり。
海外からは「King of ASMR!」「Voice of Freedom!」と大げさな称賛が飛び交い、俺は苦笑いしながらスマホを閉じた。
これが、きっと良い方向に進むと信じて――。
ξ
翌朝、目を覚ましスマホを手にとる。
……そこには、
件名:『アカウント復旧のお知らせ』
「よっ、しゃあああああああああ!‼︎」
俺は、天に向かって叫んでいた——。
―完結―
ここまで読了いただき、誠にありがとうございました。
駆け足となりましたが、あらすじにある通り、一攫千金とASMR作成は完了しましたので、最後は世界を巻き込んで、潔くここで終わらせて頂きたいと思います。
好きなことを詰め込んで放出しきりました。
最後まで読んでいただいた全ての読者の皆様に祝福を
感想・評価には励まされました!
では、またいつの日かの作品で出会えたら光栄です。さらばじゃ〜
ノシ