世界を滅ぼした人間の供述   作:廃棄された提言

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 あらすじを前書きの同族と思っていたのは内緒


世界を滅ぼした人間の供述

 何かをすることが特別好きという訳ではない。ただ何もしないでいる時間が嫌だった。学業、職務、製作、そういった何かに打ち込んでいる時はずっと私が目を逸らしているその問題が思考に入り込むことを防ぐことが出来た。

 

 だが全てには終わりがある。目の前の課題を終えた時、私にはこの“現実”が目に入る。

 空白が嫌いだ。一方で満杯であることは空っぽと同じに思えて仕方が無かった。その空虚が私自身を取り込んで無意味で無価値な物にしていくように思えて何の役割もない自由を恐れた。自由を求めて尊ぶ者が多いこと、彼らの語る理想が魅力的に聞こえることは理解している。所詮は理想だ。現実における自由は死ぬまで続く際限のない虚無でしかない。人はそのキャンバスを彩らせることで人生に意味を与える。

 

 私にとってその色彩とは役割だった。役割に縛られて初めて私は自らの意味と価値を噛み締めることが出来、そこから解放されることによってその全てを忘れる。私はただ過程に於いてのみ生を実感する。やり遂げ積み上げた過去の産物にはそれにどれほどの意味と価値を他者から評価されたところで何も感じることが出来なかった。

 

 肝要なのは私が虱潰しに喰っているこれらの“役割”ですら無限には存在し得ないことだ。

 あぁいや、分かっている。偏光や角度によって可能性は無限に発散していくことを言いたいのだろう? シラミとダニを食うことは厳密には違うと言いたいのだな。当然そんなことは分かっている。

 一つの単語の違いどころか一字や句読点の位置が違うだけで他が全く同じ物を喰ってみたところで私の恐怖は終わらない。そうして得られた1の意味と価値の獲得は再度思い知らされた99の虚無を癒すには足らない。大赤字だ。

 

 私は勤勉ではない。仲間は私が真面目な仕事好きだと言うがそれは間違っている。私はオーバーワークなどしない。程々に働き,急がずに成果を出すことを至上としている。

 ただ、そういった仕事ぶりであっても休むことを嫌い延々と続けていれば周囲の見方は変わるらしい。私は休んで無為な時間を過ごすのが恐ろしいだけの人格破綻者だと言うのに。

 いつか全てが決着することを恐れている。私に可能な、私に許された全てを満了した時、私は何をすればいい? 何をしてしまうんだ?

 

 

 

 結局のところ世界とは己を取り巻く全てである。その観測者の状態によって世界の捉え方は変わる。私が無意味である時、私にとっての世界もまた無意味なのだ。すまない。

 

 

 

 満たされた器とは私にとって伽藍と同義である。だから私は鎚と杭を手に器の外縁へ誘われる。器の内側には最早私を引き留めることの出来る物が存在しないから。

 

 

 

 全ての役割から解放された私はそれでも病的に役割を求める。誰に頼まれたわけでもなく何かを見つけてそれに従事する。成果が出るのが遅いタスクは私の本性を抑制するに有用であった。私が最後“これ”に行き着いてしまうことを防いでいた。

 

 

 

 

 楽し気な声が聞こえる。明日からの楽園を誰もが期待し今日に乾杯している。通話口から聞こえる帰って来ない私を心配する家族の声すら私を呼び止めるには足りない。

 

 

 

 誘いを拒否し、器の縁へ。

 物事が全て完結したと言うのであれば最後に残る役目は物語を終わらせることだけだ。

 

 

 

 器に杭を突き立て、鎚で叩く。

 私たちとそれに纏わる全てで満たされたこの宇宙という名の器に穴を開ければどうなるかは予測がつく。悲惨な結果が訪れるだろう。だが仲間への後ろめたさや自分の身にも降りかかることになる絶望的な未来などは全てちっぽけな物として私の中で恐怖に拘束されている。

 仮にこの段階で何かが阻みに現れたならそれを排除することこそが、役割に従事し続ける私がその瞬間だけこの手を止めるに足る“役割”となってくれる。

 

 だが、最終的に“これ”に行き着くことだけは変わらない。どれだけ先延ばしにしようが、向かい続けるモノを封じ込めるには限度がある。

 

 かつての仲間や家族、敵と偶然の残骸に囲まれて私は杭を打ち続ける。

 

 

 どれだけ完璧で幸福な世界だとしても意味は無かった。私は完璧という満杯を嫌悪するし完璧でないならそれを満たす役割に従事し結果として同じ場所に行き着いてしまう。

 

 

 鎚を振るい、遂にそれを貫く。罅割れが生じて穴が広がり、真っ先に杭がその向こうに吸い込まれて蒸発するように消える。私は鎚を持ったままその次に吸い込まれて消えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは生前における遺言だ。私はまだ穴に吸われた後の未来に到達していない。その後どうなるかは分からない。だからその未知に期待する。満たされた器の外に、決して満たしきれない無限の空白が存在していることを望む。

 

 だから君たちや世界を憎悪していたなんて事実は無いんだ。そうやって完遂や解消できる理由があればどれだけ良かっただろう。私が私として存在する限り、私のこの恐怖は終わらない。他の事は関係ない。仮に空の器にただ一人置かれたなら、私は創造主としてその全てを満たす。そうして遥かな未来で飽和に飽和を重ねた極彩の宇宙がもう何も付加出来なくなったら、ピニャータのように悪意なく内側からその全てを弾けさせるだろう。

 

 記憶を消すにも疲れた。どれだけ不完全を演出したところでその全ては夢でしかない。いつか覚める。許してくれ。私にも善意や良心は存在する。この宇宙を存続させる為に私自らが一度満たされた器の中身を惨たらしく破滅させ、全てをやり直しにしたことも一度や二度ではない。今はそれすらループと化して、私にとっての無意味と無価値な物の一つに組み込まれてしまった。

 

 君たちはもう覚えていないか最初から知らないだろうが、私はあらゆる手段を尽くして自らを苛む恐怖に順応することを試みた。その全ての努力はこうして見ると無駄だった。

 

 私は今、深く突き刺さった杭の前に立って鎚を振り上げている。だからどうか、誰か止めてくれ。私を障害の排除に動かしてくれ。家族、友人、英雄、上司、神、その他の全てが残骸となって世界が終わるのを成す術無く待っている。私はこの世界に満ちていた主要な全てとの戦争を終えてしまっていた。それすら初めての経験ではない。

 

 世界は静寂に包まれていた。次に鳴り響くモノがあれば、それが全ての終わる時だろう。実を言うと、楽しみではある。

 

 恐怖が遠のいて復帰した理性が「止めろ」と叫ぶ。

 

 だが本能が淡々と事実を告げた。

 

 「止めたところで、鎚を下ろしたところで、私はいずれ再びそれを手に取り必ずこの場に舞い戻る」

 

 鎚を握る手に力が籠った。

 すまない。許してくれ。怖いんだ。愛していた。楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

さようなら




 ここまで読んでくれてありがとうございます。短いなぁとは自分でも思いますが、こうして何かを世に出すのは初めての事でして。折角何かを読むなら10000字くらいのボリュームは欲しいですよね。私も一読者なのでそれは理解しています。


 ですから、まあ、ここまで読んでくださった読者様に何か感謝を示すことが出来ればと思ったので一言だけ核心的なネタバレを



———————穴の向こうでソイツはまだ存在している
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