セカイのカフェへようこそ   作:ラピスラズリ

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 マフユサンとカフェの相性が悪いのでは……?と気づいたので初投稿です。


『25時、ナイトコードで』の場合

「……我ながら、とんでもないことをしてしまった」

 

 目の前のテーブルには到底1人で食べられら無いであろう量のご飯。こめかみをおさえながらどうしてこうなったのか一度冷静に思い出していた。

 まず今日は学校から帰り、店の手伝いをしていた。手伝いを終えてご飯を作ろうとしていた。そこまではいつも通り。ここから先が問題だった。

 たまには少し物珍しいものを作りたいと考えてしまい、SNSを開いてしまったのが運の尽き。空腹の人間には文字通り目に毒なご飯の投稿をいくつも見つけてしまい。新作メニューのテストも兼ねながらセカイにて目につくもの、思いついたものを作ってしまった結果、目の前には豪勢な食卓が出来上がっていた。そして最大の問題点は現在の時刻が午前2時。間違わないように言うなら26時であるということ。

 興が乗ったとはいえ阿呆なのかと自問自答していたが、考えても料理は無くならない。痛むのが早いものをこちらで食べ、保存がきくものは保存するかミクが来るならそちらに投げようと考えていた時。

 カランカラン、と入り口から来客を告げる鈴の音がなった。噂をすれば影がさすかなと、入り口にいるミクに声をかけようとキッチンからカウンター側に戻ると。

 

「いらっしゃ……い?」

「その……こんばんは」

「こんばんはー!なんだか良い匂いがするね〜」

「………お邪魔します」

「えぇと、こんばんは……」

「お客さん連れてきたよ〜」

 

 先頭のドヤ顔をしている給仕服を着ているのはともかく、この時間に来客があるとは思えず、脳が一度停止してしまう。なるほど、そのパターンだったかと。軽く咳払いをして心を落ち着け、このセカイの役割を果たす。

 

「ようこそ、『ombrage』へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、お待たせ〜」

「ありがとう、えっとこっちのセカイのミク?」

「普通にミクで良いよ〜」

 

 茶髪の女性にメニューを提供しているミクを横目に先ほどまでのことを思い出す。

 あの後お客さんたちをテーブルに案内した後、ミクを捕まえて事情聴取した。そこで分かったのは、ミクが散歩してたら例の扉から彼女たちがやってきたこと。ばったり遭遇したミクは彼女たちを伴ってこちらへ来た、ということらしい。そしてちょうど来店時に茶髪の女性から可愛らしい空腹の虫の音が聞こえたので、折良く先ほど作ったメニューを提供させていただいている。

 しかし、この時間まで集まっている、というのは何らかのグループだったりするのだろうか。まぁ散策することでも無いかと思考を打ち切り、トレーに載せた物を運ぶ。

 

「お待たせしました、鮭茶漬けです」

「わ、美味しそ〜!……でもボクちょっと猫舌で」

「大丈夫ですよ。熱いのが苦手な方向けに冷茶漬けにできるようにしてありますので」

「ほんと!?なら、そっちでお願いしまーす!」

「承りました」

 

 今対応している方はピンク髪の方なのだが、恐らく神高で噂になっている方では無いだろうか。遠巻きに一度見たことがあるだけなので、確証はないが。

 残りの銀髪の方からは麺系を希望されていたので、お出汁と細麺を使ったラーメンもどきを提案させていただいた。あまりにも細いのでこの人の食生活は少し気になるが、気にしないようにしつつ提供した。

 最後に紫髪の方なのだが。

 

「……なんでも良い、かな」

「そっか〜、好きな味とかはあるの?」

「分からない」

「オッケー。店長〜」

「お呼びですか?」

 

 ミクから呼び出されたので向かうと、どうやら紫髪の方は味が分からないため、メニューを決めかねているとのこと。

 であらば。少々お待ちいただくようお伝えし、用意したのは使用する野菜は飾り切りを多めにした、見ても楽しめるをコンセプトにしたカレー。

 

「お待たせいたしました。勝手ながら提供させていただく形となるのですが、宜しいでしょうか」

「……これ」

「ええ、うさぎをイメージしたになります。少々可愛らし過ぎるかもしれませんが……」

 

 カレーはご飯をうさぎ型にしており、入っている野菜もうさぎの形のものにしている。ふと思いついて作ったは良いものの、野菜の飾り切りなどが普通のメニューとして出すには少々難儀であるため日の目を浴びることはないかと思っていたのがここで輝くとは。

 しばらくじっとカレーを見つめていた女性は、問題なかったのかそのままカレーを口にする。

 

「……やっぱり味はしない。でも、悪い気も、しない」

「そうでしたか。見た目だけでも楽しんでいただけたのなら幸いです」

「うん」

「お代わりも用意できますので、もしよろしければ」

「……ありがとう」

 

 紫髪の女性から感謝の言葉をいただき、一礼してカウンターに戻る。どうやら手応えは悪く無かったようだ。……流石に差し出がましい真似だっただろうかと考えたが、たらればの話をしても意味がないなとネガティブな感情をおいやる。チラリとテーブル席を見ると、茶髪の方が写真を撮らせてくれと頼んでいるのを無視してカレーを食べ進めている姿が見えて、なんとも言えない気持ちになった。

 その後、どうやらそれぞれ満足いただけたようで、空になった食器を回収するまでにそう時間は掛からなかった。

 

「ふー!ご馳走様でした!」

「とても美味しかったです」

「美味しかったけど、あのカレーはちょっと写真に撮りたかったな……」

「絵名も次に頼めば良い」

「ふふ、ご満足いただけたようで何よりです」

 

 片付け終わり、ティーセットを持ってテーブルに近づく。どうやら茶髪の女性は絵名という名前らしい。ここで自己紹介していないことに気づき、つい最近も同じようなことがあったなと苦笑してしまう。

 

「改めまして、『ombrage』の店長、篠宮 乃蒼と申します。以後お見知り置きを」

「あ、はいはーい!ボクは暁山 瑞希でーす!」

「ちょっと瑞希、うるさい!えっと、東雲 絵名です」

「朝比奈 まふゆ」

「宵崎 奏です。ご飯、ご馳走様でした」

 

 お互いに軽く自己紹介を済ませる。東雲さんの苗字にすごく覚えがある、というよりも知り合いに同じ苗字がいた気がするが、まぁ流石に違うだろうと浮かんできた考えを一蹴する。

 

「そして私がこのセカイのミクで〜す」

「ミク、お願いですから人の席に勝手に座るのはやめていただけますか?」

 

 私が用意した椅子にするんと座り込んだミクは、いつの間にか全員分の紅茶を淹れており、自分は個別で用意したのであろうコーヒーを啜っている。……まぁいいでしょう。追加で椅子を一つ持ってきてそこに座る。

 ここで、彼女たちがミクのことをじーっと見ていることに気づく。なお本人は我関せずという風だが。

 

「こっちのセカイのミクはボクたちのセカイのミクとは随分違うね」

「だね。多分まふゆの想いから生まれたセカイのミクだからだと思うけど……」

「それにしてもって感じよね。……まぁあのセカイのミクがこうだったらそれはそれでびっくりするんだけど」

「……」

「どうやら、こちらのセカイとは大分かけ離れているご様子。宜しければお聞きしても?」

 

 そこから聞いたのは、彼女たちは『25時、ナイトコードで』というグループ名で音楽を作り、動画投稿サイトに楽曲を投稿しているということ。彼女たちのセカイは朝比奈さんの想いから出来ており、今は何もないセカイだということ。そのセカイのミクは、このセカイのミクと違ってとても大人しい子なのだということ。

 

「そういえば、篠宮くんの話も聞いてみたいな!」

 

 話がひと段落したところで、興味の矛先がこちらに向いた。どうやら次はこちらの番らしい。

 聞かれた内容自体は殆ど前回の天馬先輩たちと一緒で、料理の仕事をしているかなどだった。違うところがあるとすれば、東雲さんと暁山さんが現実の方の店について詳しく聞かれたことくらいだろうか。店名を聞いたときは「雑誌に載ってたところじゃない!」と驚かれたりもしたが、こちらとしてはあまり実感がない、というかいつの間に取材など受けていたのだろうか。

 そうこうしているうちにだいぶ時間が経っていたようで、彼女たちも元のセカイに戻るとのこと。

 

「じゃあ、ボクたち帰るね!ご馳走様でした!」

「……ご馳走様」

「次は現実の方のお店に行くからね!」

「こちらこそご来店いただきありがとうございました」

 

 扉の前で別れの挨拶を交わしていると、奏さんから声をかけられる。

 

「今日はありがとう。……その、また来てもいい、かな?」

「勿論ですとも」

「扉は不定期で出現するから、その時なら大丈夫だよ」

 

 横からひょこっと顔を出したミクが説明する。

 

「そっか、ありがとう」

「また来るね〜」

 

 皆さまがセカイから出ていくのを見送る。さて、片付けしなければと振り返るといつの間にかミクはカウンター席でコーヒーを啜っていた。……いつの間に移動したのだろうか。

 あの状態ということは片付けは手伝う気はないのだろうし、手早く片付けてしまおう。

 食器を洗い、テーブルを清掃し使った器具は元の位置へ。全て終わらせると、ミクがこちらを見ていた。

 

「何か言いたいことでも?」

「うーん、そうだね。多分、彼女たちが一番、かな」

「……そうですか」

 

 「多分だけど」と追加で付け加えたミクは、またコーヒーを飲み始める。

 その言葉を聞いて考え込んでしまう。このセカイの意味。私がやるべきこと。果たして本当にこれで良いのだろうか。良くないと気づいていながらも思考を止められない。

 結局、ミクがコーヒーを飲み終わってカップを片付けるまでそれが終わることはなかったが、

 

「でも、そうでありたいんでしょ?」

 

 隣に立つミクにそう声をかけられて、それもそうかと想い直す。結局はそうでありたいから、このセカイがあるのだ。なら、そうするべきなのである。

 

「……ありがとうございます、ミク」

「ん、お礼は今度のケーキでね」

 

 そう言って、ミクは出て行った。流石に私も戻って寝なければまずいと思い出し、慌てて表札を裏返してセカイから現実へと帰るのだった。




 マフユサンが最初から仮面無しの理由はこのセカイのミクと先に遭遇しているため、被る必要が無い(良い子である必要がない)ためです。
 ちなみにこのセカイのミクは普段ふざける方が好きです。
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