セカイのカフェへようこそ 作:ラピスラズリ
せめて全部のユニットのお話までは書く予定です。
ニーゴのイベントやってたら遅れたので初投稿です。
さて、連日来客が途絶えない『ombrage』だが、本日は驚きの来客があった。
「ここのケーキ、美味しいわね!
「ええ、それに種類もたくさんあって……ふふっ、しぃちゃんにも教えてあげたいわぁ」
「このペンギンの飾り可愛い……!食べるの、少し勿体無いかも」
「はわわ、遥ちゃんの笑顔が眩しすぎるよぉ……!」
彼女たちのいるスペースのみ光輝いているのかと錯覚するほど明るいオーラ。これが生で見るアイドルでしょうか、すごい。
『MORE MORE JUMP!』という名前で活動している彼女たちは、最近注目を集めているアイドルグループだ。私自身はあまりアイドルなどといった方面に明るくないのだが、身近にアイドル大好きと公言していて推し活の一環として彼女たちの配信を見せてもらったことがあるのだ。
画面の中で人々に笑顔を届けようと頑張っている彼女たちを見て興味が湧き、それ以来時間が合えば情報を追っていたのだが……まさか彼女たちにもセカイがあり、ここと繋がるというのはあまりにも予想外で驚いた。
店から扉までの道をレンガ調に舗装し終わり、一息つこうかと考えていたところに例の扉から彼女たちが現れたとき、すぐに我に帰り対応できたのは上々だと自分を褒めておく。
だがここに来たということは等しくお客様である。ちょうどケーキをいくつか試作していたのもあり、お好きなものを選んでいただき楽しんでもらっている。
「ご歓談中失礼致します、紅茶のお代わりはいかがでしょうか」
「あら、ありがとう。いただこうかしら」
「あ、じゃあわたしも……!」
日野森さんと花里さんの分の紅茶を注ぎ直す。すると、桃井さんがじっとこちらを見つめてきていることに気づく。
「桃井さん、どうされましたか?」
「へ?あぁいや、ごめんなさい!随分と手慣れているなあって思って……」
「確かに、見た感じ私たちとそう年も変わらないように見えるのに……」
「ふふ、お褒めいただき光栄です。実は飲食関係の仕事をしておりまして。まだ高校生の身分ゆえ、手伝いという形式にはなりますが」
「あら、そうなのね!すごいわぁ」
「うん、本当に。……そうだ、もしよければ少しお話しませんか?」
「え?」
「あ!それ良いかも!」
桐谷さんが突然そんなことを言い出した。他の方も乗り気なようで、4人で話す流れになっている。……私としてはあまりにも恐れ多いのだが、このお誘いを無碍にするわけにもいかずに彼女たちのテーブルの横にもう一つ椅子を持ってくるのだった。
「改めて自己紹介するわね。わたしは桃井 愛莉よ!」
「花里 みのりです!」
「桐谷 遥です、よろしく」
「日野森 雫です、よろしくねぇ」
「私も自己紹介がまだでしたね。『ombrage』の店長、篠宮 乃蒼です。『MORE MORE JUMP!』の皆様とこうやってお話できてとても嬉しく思います」
自己紹介を済ませると、早速本題と言わんばかりに彼女たちが質問をしてくる。
「ねぇ、乃蒼くんって高校生なのよね?何年生?」
「はい、神山高校の一年生ですよ」
「あ、じゃあわたしや遥ちゃんと同い年だね!」
日野森さんの質問に答えると、花里さんがパッと笑顔になる。眩しい……これが実際に見るアイドル。サングラス欲しいなぁとしょうもないことを考えていると、桐谷さんからも質問が。
「あの、このペンギンのケーキとかも篠宮さんが作ったんですか?」
桐谷さんが聞いてきたのは試作していたケーキのうちの一つで、先ほど試食してもらったものだった。そういえば彼女はペンギンが好きだという話を聞いたことがある。
「ええ。こういったものを試作してカフェに出しているんですよ。まだ試作なのでしっかり売り出せるかはまだ分かりませんが……」
何より青は食欲減退色ということでなかなかに扱いが難しい。それ故にセカイで試作していたのだが……
「そうなんですね。すっごく美味しかったので、また食べたいなと思ってるんですけど……」
この様子ならチョコミントを使用したケーキ方面で作っていくのは良さそうだ。一言断りを入れてメモ帳に書き記していく。……うん、やっぱり感想をもらえるのはかなりありがたい。自分にはなかった視点や考えを知ることができる。メモ帳もそろそろ余白が無くなってきて書い替え時かもしれないなどと考えていると、桃井さんがメモ帳を見ていた。
「乃蒼くん、それは?」
「あぁ、試作のレシピ帳のようなものです。改良点などがあればすぐ記せるようにしているのです」
「へぇ〜、良ければちょっと見ててもいい?」
「ええ。どうぞ」
桃井さんがレシピ帳をパラパラとめくる。真剣な表情で見ており、そんなに気になるものがあっただろうかと脳内で首を傾げていると桃井さんから声がかかる。
「ねぇ、これってもしかして全部自分で考えたの?」
「えぇ。とは言っても、一部は試作品止まりで実際にお店に出せたものは少ないのですが」
「それでもすごいわね!これとかすっごく美味しそう!」
そう言って桃井さんが指差したのはお弁当メニューとして考案していたレシピだった。テイクアウトが流行っていた際に冷めても美味しいご飯について考案していたのだ。
「実は、わたしも料理するからこういうレシピは気になるのよね」
「おや、そうだったのですね。……よろしければ、こちらのレシピの写しを差し上げましょう。幸い、一度作って味に関しても申し分ないですし」
「え、いいの!?ありがとう!」
キッチンに置いてある予備のレシピを記載した紙をファイルに入れて渡すと、桃井さんは嬉しそうに受け取ってくれた。
「そういえば、私たちばっかり質問しちゃってるけど、乃蒼くんは聞きたいことはないのかしら?」
「聞きたいこと、ですか……」
日野森さんに話をふられて、少し考える。だが、それもあまりかからずに答えを出す。
「私からは何も。というのも、皆様はアイドルでいらっしゃいますから。余計なことは聞かない方がいいかと」
一視聴者の考えですが、と付け加える。聞きたいことは勿論あるが、わざわざ聞くことでもないし、それに何よりも私はここの店長であるが、彼女たちのセカイの人間ではない。であれば余り首を突っ込むのもいただけないだろう。
日野森さんは、「そう……それなら仕方ないわね」と少し眉が下がった顔をしているが、こちらの言いたいことも分かっているのだろう。
空気を悪くしてしまったかな、とこの場をどうしようかと逡巡していると
。
「あ、じゃあ次はお友達として遊びに来てもいいですか!?」
花里さんから声があがった。すぐに「あ、もちろん篠宮くんが良ければなんだけど!」と慌てて付け加えているのを見て、少し笑いが漏れてしまった。花里さんは強い人なのでしょう。他の『MORE MORE JUMP!』の皆様が花里さんを見て微笑んでいるのを横目に答える。
「勿論ですとも。是非いつでも息抜きにいらしてください」
小難しいことを考えなくても、友達としてなら。その考えは私には無かったもので。見識が広がると同時に、暖かい気持ちになる。先ほどのお詫びではないが、追加でケーキと紅茶を用意し、彼女らにささやかながらの休憩を楽しんだもらえるように尽くした。
その後も他愛のない雑談をしているとあっという間に時間は過ぎてしまい、既に日が隠れる間際の時間になっていた。
彼女たちを例の扉まで送り、店に戻る。彼女たちはまた来てくれると言っていたし、少しでも憩いの場になれるのなら良いと思う。レシピ帳をパラパラとめくりながら今回頂いた感想をもとに改善点を追加していく。桐谷さんなんかはペンギンモチーフをかなり気に入っていたようだし、いくつか考えてみてもいいかもしれない。それにアイドルである彼女たちにカロリーの高すぎるものも良くないかも知れない。……少し長くなりそうだと考え、恐らくこの後来るであろうミクの分もまとめてコーヒーを入れる。
結局ミクが来たのはだいぶ後だったが、それまでの『ombrage』はペンの音が止まることなく続いた。