セカイのカフェへようこそ   作:ラピスラズリ

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 4.5周年が近いので初投稿です。


『Vivid BAD SQUAD』の場合

「〜〜〜♪」

 

 鼻唄を歌いながら調理の後片付けを進める。今回の試作はかなり自信がある。ここ最近の中でもとびきりである。これもセカイに遊びに来てくれる方たちから直接感想を聞けているからであり、頭が上がらない。

 セカイに来た時に例の扉を確認したのだが、前回とは扉が変わっていたので本日も別のセカイからの来訪者があるのだろう。

 一通りの片付けが終わったのでエプロンを外して店内を見回す。セカイにお客様が来るようになってから、少し内装も変えてみた。カフェの雰囲気に合わせてテーブルや椅子を変えたり、メニュー表を新しくしたりと色々した。とは言ってもほとんど自己満足で設置していたものをお客様が利用しやすいように調整したのが主なのだが。

 

「うん、いい感じですね」

 

 満足気に頷いているとカランコロンと扉についているベルが鳴る。どうやら本日のお客様が来たようだ。

 

「ようこそ、『ombrage』……へ……?」

「んなっ……!?」

 

 来店の挨拶のために向けた視線の先には口を開けて愕然としているオレンジ髪の友人がいた。……どうやら世間は思った以上に狭いようで。気を取り直して彼一一一東雲 彰人くんと一緒にいるお客様を案内することにした。

 

「……改めて、いらっしゃいませ」

「おま、なんで……!?」

「ふふ、ここは『ombrage』……私のセカイですよ」

「は?いや、でもお前……」

 

 混乱している東雲くんをまぁまぁと流してお客様に声をかける。

 

「本日はご来店いただきありがとうございます。お好きな席へどうぞ」

「あ、はい!」

「……おい、説明しろよ」

「それは勿論。ただ話をするにしても先に腰を落ち着けませんか?」

「わかったよ……」

 

 不承不承と言った感じでとりあえず席に着いたのを確認してメニューを人数分用意する。ちなみにメニューについてだが、現在『ombrage』で提供できるものが表示されるという摩訶不思議なものである。ミクに聞いた時は「そういうものだよ」と言われた。そういうものらしい。

 

「……彰人、知り合いか?」

「同じクラスのやつだよ。……まさかここで会うとは思わなかったが」

「私も大変驚きました。……申し遅れました、『ombrage』の店長を努めております、篠宮 乃蒼です」

「えっと、小豆沢 こはねです」

「白石 杏です。よろしくね、店長さん」

「青柳 冬弥だ」

「よろしくお願いします。……さて、注文はお決まりですか?」

 メニューを手渡しながら聞くと、小豆沢さんがおずおずといった様子で口を開いた。

「……あの、注文の前にお聞きしたいことがあるんですけど……」

「何なりとお聞きください」

「あの扉は篠宮くんが作ったんですか?」

「いえ、あれはいつの間にかあったものですね」

 

 気づいたのは天馬先輩たちが来たことが切っ掛けではあるのだが。それは言わないでも構わないだろう。

 

「そっか……突然ごめんなさい。注文いいですか?」

「構いませんよ。注文お伺いしますね」

「えっと、こはねと私はフレンチトーストで!」

「俺はこのクッキーを」

「俺は……パンケーキで」

 

 かしこまりましたと一礼してキッチンに引っ込む。手早く準備してそれぞれの品とコーヒーをワゴンに載せる。ふむ、ミクから提案があって新しくワゴンを作ったがこれは中々……。

 

「お待たせ致しました。フレンチトーストとクッキー、コーヒーです」

「「ありがとうございます!」」

「ありがとう」

「サンキューな」

「では、ごゆっくりどうぞ」

 

 東雲くん以外の3人がそれぞれ食事を始める。さて、コーヒーのおかわりの準備を……と動いたところで東雲くんに声をかけられる。

 

「……おい、篠宮」

「はい?なんでしょう?」

「何でこっちでも店やってんだ?」

 

 ……あぁ、なるほど。東雲くんは私が働いている現実のカフェに来たことがありますし、疑問に思うのも無理はないでしょう。

 

「簡単に説明しますと、ここであちらでお出しする試作品を作って提供しているのですよ。試作品の感想を直接いただく機会など中々ありませんから」

「なるほどな……」

 

 東雲くんが納得しているところで、フレンチトーストを食べ終わった小豆沢さんと白石さんが話しかけてきた。

 

「篠宮くん、フレンチトーストすごく美味しかったよ!」

「コーヒーも、それぞれのメニューに合うように淹れてるんだね……」

「ありがとうございます。気に入っていただけたなら何よりです」

 

 どうやらお口に合ったようでホッとする。青柳くんの方を見ると、こちらも皿の上のクッキーが殆どなくなっているところを見ると満足していただけたのだろう。

 

「ふふ、コーヒーのおかわりは如何ですか?」

「ああ、いただこう……篠宮の淹れるコーヒーはとても美味しいな。俺たちのセカイでもメイコさんがコーヒーを淹れてくれるんだが、また違った美味しさがある」

「それはそれは……とても光栄ですね。是非そちらのセカイのメイコさんとも一度お話ししてみたいものです」

「機会があったら紹介しよう」

 

 青柳くんの空いたカップにコーヒーを注ぎ入れると、白石さんから声がかかる。

 

「そういえばさっき彰人が「こっちでも」って言ってたけど、もしかして現実でもお店開いてるの?」

「私が、というよりは私の親族が営業しているお店で働かせていただいているんですよ。東雲くんとはそこで何度か会う機会がございまして」

 

 あの時の東雲くんの表情は少し思い出すだけでも笑いが堪え切れない表情をしていましたね……。東雲くん一切言いませんから睨まないでください。

 

「へぇー!そうなんだ!……って、彰人と同じクラスなら神高だよね?そういえば一度も見かけたことがないんだけど……」

「あぁ、それは」

「こいつ学校だとメガネつけてる上に髪も下ろしてるからな」

「えっそうなの!?」

「そちらの方が落ち着くので……」

 

 東雲くんに台詞を取られながらも学校にいる間は大体いつもそんな感じですね、と付け足す。セカイにいる時や仕事の際は前髪を上げて伸ばしている髪を後ろで一括りにしてる。

 我が事ながら印象が大分変わるのを知っているためショックも何もない。強いて言うならこのような反応をしていただけると少々面白いくらいでしょうか。

 

「……篠宮、お前今絶対ロクでもないこと考えてんだろ」

「いえそんなことは」

 

 東雲くんの追求するような視線から逃げながらその後も談笑を続ける。その中でも聞いたところによると白石さんはあの『WEEKEND GARAGE』の看板娘なのだとか。お互い飲食店での身内ということもあり話が弾み、今度お互いのお店にお邪魔しようということになった。

 青柳くんはコーヒーを自分で淹れたりするらしいとのこと。次回来店した際に時間があれば是非コーヒー談義でも、とかなり馬があった。

 

 そうこうしている内にかなり時間が経ってしまい、彼らもセカイに戻るとのことで、例の扉まで彼らを見送ることにした。

 

「本日はご来店いただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしておりますね」

「うん!絶対来るね!」

「ああ。今度はメイコさんやミクたちも連れてこよう」

「学校でもよろしくねー!」

「……また来るわ」

 

 賑やかな彼らが扉をくぐり、それが閉まったのを見て大きく伸びをする。前回はアイドルグループが訪れ、今回は知り合いとの邂逅である。もう何も驚かないなと考えながら店に戻る。そういえば彼らはストリートをやっていると聞いたし、インスピレーションを得るために週末見に行ってみようか。

 

「やあ。今日もずいぶん楽しそうだったね」

「……流石に驚くのでせめて声をかけながら肩を叩くのはやめてください」

 

 相変わらずしたり顔であるミクが後ろに立っていた。

 

「そういえば、この前のケーキ分がまだだったな〜って」

「覚えていますよ。良い出来のものが……さては見計らってましたね?」

「何のことかな〜」

 

 軽い足取りで先に店に入るミクにじめっとした視線を送るも、やるだけ無駄かと割り切って私も店に戻る。

 ミク用に取り置きしておいたケーキとコーヒーを出し、ついでとばかりに感想を求める。ミクから食べたものの感想が語られたのだが、そのどれもがとても良い評価であった。特にパンケーキは今までにない食感だったと感動していたし、フレンチトーストも甘さ控えめで食べやすくて美味しかったとのこと。それとコーヒーについてだが、こちらも大好評であった。それだけの自信はあったが、実際に他人から貰える評価は有難いものである。メモ帳にささっとまとめて自分用にコーヒーを淹れる。

 

「これなら、問題なくお店に出させそうですね。ありがとうございます」

「どういたしまして〜。寧ろ役得だけどね」

 

 カウンター席に腰掛けたミクは、足をぷらぷらさせているのか肩が左右に揺れていた。

 余程上機嫌なのだろうか、少し鼻唄も聞こえる。……そういえば。

 

「この世界には他のバーチャル・シンガーもいるのですか?」

「いるよ。今はまだ散歩してるけど」

「なるほど、時期がくればということですね」

 

 東雲くんたちのセカイではメイコがいると言っていた。だからこのセカイでもいるのではないかと考えていたが、間違っていないようだ。ミクの口ぶりから察するに会うのは先だろうが。

 何にせよ、以前ミクが話していた通りならこのセカイと繋がるセカイはあと一つ。残るセカイに思いを馳せながら、今日もゆっくりと夜は更けていく。




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 ちなみに作者もこういうの増えないかなー!と思ってる民です。
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