セカイのカフェへようこそ 作:ラピスラズリ
このセカイの空模様はよく変わる。晴れから夜、夜から夕暮れと規則性はないようで、現実ともリンクしていないようだ。もちろん雨も降ったりするのだが、幸い不思議なことにセカイでする雨で濡れることはない。もうそういうものだと納得している。さて、話を本題に移したいと思う。なぜ天気の話をしたのか。それは、
「テラス席ねぇ」
「せっかくならと作ってみましたがこれは中々……」
外のスペースも活用したいと考え急ピッチで設置した割には上出来である。レンガ調の石畳の道が良い味を出しているし、『ombrage』の雰囲気を壊さぬように用意したシックな柄のパラソルも申し分なし。それこそ、次の来客時にはこの席についても感想を求めたい。ひと段落つき、作業の合間に用意しておいたサンドイッチをミクと一緒に摘む。
「ん〜作業した後のご飯って格別だよね〜……」
「空腹が1番のスパイス、と呼ばれるのも頷けます。正に至高です」
「むふふ……」
夢中でサンドイッチを頬張っているミクの口元を見ると、何かが付いているのが見えた。
「……ミク、口にマヨネーズ付いてますよ」
「えっ?どこ?」
「こちらです。……ふむ、少しじっとしてて」
ハンカチを取り出しミクの口元を拭う。
「ん、苦しゅうない」
「はいはい」
ハンカチは後で洗おうと考え、満足気なミクを見て苦笑を浮かべながらポケットにしまい込むと、ふと例の扉の方が騒がしいことに気がつく。
「……おや?」
「?……あ〜お客さんかな?」
ミクの予想は正解のようで、今日は青いカラーになっている扉から4人の少女たちが出てくる。片付けをミクに任せて彼女たちの方に向かう。
あちらもこちらに気づいたようで、少し困惑した表情を浮かべている。
「こんにちは。『ombrage』へようこそ」
「え、あ、こんにちは。えっと……」
「ふふ、ここで立ち話というのもなんですし、良ければお茶でも如何でしょう?」
にこやかに挨拶すると、金髪をツインテールにしている子が興味を持ったようで、黒髪の方の後ろからひょこっと顔を出した。
「わぁ……!セカイにカフェがあるなんて知らなかったよ。みんなも行ってみようよ!」
「うーん、どうしよっか?」
「……まぁでもせっかくだし。良いんじゃないかな」
「そうだね、お邪魔させてもらおうかな」
彼女たちの中で案はきまったようだし、案内しましょ……?気のせいだろうか。1人見知った顔が混じっているように見える。同時に彼女も気づいたようで、両手で口を覆っている。前回も東雲くんと遭遇したばかりだが、意外と世間は狭いのかもしれないなと現実逃避を始めそうな思考を逃げ出さないように努めつつ、彼女にも声をかける。
「こんなところで奇遇でございますね、望月さん」
「ええっとぉ……そうですね、篠宮くん」
「えっ!?ほなちゃんの知り合い!?」
「うーん、知り合いというか……」
「私の働いているお店の常連でございます」
「あれ?穂波、ここに来たことあるの?」
「えっと、そうじゃなくて……!篠宮くん!」
「すいません今のは私の言葉足らずが原因です、厳密にはシブヤにあるお店の常連なのです」
突然わちゃわちゃし始めた空気をどうにか収めつつ、皆さんをテラス席へとご案内する。
「ふふ、いらっしゃい。ゆっくりして行ってね〜」
どうやら片付けついでに準備もしてくれていたようで、ミクがフルーツティーを持ってきてくれた。
「あ、ありがとうミク……さん」
「ふふ、さん付けしないで良いよ〜。そんなに緊張してたらゆっくり出来ないでしょ?」
「それじゃあミクちゃんって呼んでも良い?」
「うんうん、それで良いよ〜」
ミクは呼び名を貰えてご機嫌のようだ。そんなやり取りをしていると望月さん以外の方が自己紹介を始める。
「ほなちゃんの幼馴染の天馬咲希です!よろしくお願いします!」
「同じく星乃 一歌です」
「……日野森 志歩」
「申し遅れました、篠宮 乃蒼です」
それぞれ初対面の方と自己紹介を済ませると、話題はすぐにこのセカイについて移り変わった。
「それにしても、セカイに現れた扉を潜ったらカフェがあるなんて!」
「正確にはここは私のセカイで、天馬さんたちのセカイとはまた別のセカイとなっております」
「つまり、セカイが繋がってるってこと?」
「おっしゃる通りです」
天馬さんの発言に補足を加え、日野森さんの問いに肯定で返す。そういえば天馬さんと日野森さんは最近同じ苗字の人と会いましたが……流石にそうだとしたら世間は狭いどころの話ではないでしょう。少し考えている間に天馬さんが何かに気づいたようで、あ!と声を上げた。
どうやら、テーブルの上に置いてあるメニューが気になるご様子。よく見たら望月さんもメニューの一部に熱視線を送っている。
「やはりアップルパイが気になりますか?」
「!?」
どうやら当たりだったようで、望月さんが勢いよくこちらを振り向く。初めてお会いした時の記憶が鮮明に思い出され、少し口角が上がってしまう。
「ふふ、用意いたしますので少々お待ちください」
「えっと、良いんですか?」
「構いませんよ。先ほども軽くお話ししましたが、私は飲食店で働いており、ここではその試作品を作っているのです、
なので、可能であれば味の感想を頂きたいのですが宜しいですか?」
「私たちでよければ……」
星野さんが了承の意を示すと、他の3人も特に異存はない……どころか若干一名そわそわしているのを横目にキッチンに戻る。作っておいたアップルパイを切り分けて皿に盛り付ける。
出来たものをトレーに乗せてテラス席に向かうと、望月さんが質問責めにあっていた。
「ねぇ穂波。篠宮くんがお店の常連って言ってたけど……」
「それ、私も気になってた。穂波がいつも行ってるアップルパイのお店じゃないよね?」
「ええっと……それは……」
「私も気になるかも〜」
「ほらほら、ミクちゃんもこう言ってるし!」
流石に助け舟を出すべきだろうか。あの中に入るのは少し気が引けますが、アップルパイもお出ししないといけませんし。お待たせしました、と一声かけてから続ける。
「私が働いている所は不定期でアップルパイを提供しております。望月さんはそのタイミングに来店されていて、とても気に入っていただけようで。以来、よく来店されているのですよ」
「へぇ、そうだったんだ」
「うん、篠宮くんのところのアップルパイはすごく美味しいんだよ」
「穂波が絶賛するレベルなんだ……」
全員分のアップルパイを並べて、最後に自分の分も持って席に着く。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
「わぁ!いただきまーす!」
天馬さんが真っ先にアップルパイに手を伸ばし、他の4人もそれに続く。私も一口食べると、我ながら良い出来だと感じる味だった。
「ん〜!!美味しい!!」
「うん、すごく美味しいよ」
「これは……すごいね」
「確かにいつものアップルパイとは少し風味が違っていて、これも美味しいです!」
4人の反応は概ね好評のようで、作った甲斐があったというものだ。ミクはミクでほっぺたを押さえて満面の笑みである。皆様が食べ終えたあたりでメモ帳を取り出し、感想を聞くことにする。
「お気に召したようで何よりです。よろしければご感想を頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい!アップルパイの感想ですよね!」
「うん。普通のでよければなんだけど」
天馬さんが元気に手を挙げ、日野森さんはそれに同意する。
「先ほども言った通り、不定期で提供しているものになりますので、此方としても客観的な意見は非常に助かります。ぜひお願い致します」
「分かりました」
そういうと4人は思い思いにアップルパイについて語り始める。やはり女性の方がこういった話題には敏感なのか、話が盛り上がってきた。
「このアップルパイ、他のお店の物とは違った風味があってすごく美味しいです!」
「確かに、いつも食べなれているアップルパイとは違うけど……これはこれで好きかも」
「うん、私も好きだよ。また食べたいって思うくらいにはね」
「ありがとうございます。参考にさせていただきますね」
皆様の意見を聞いてメモを取る。やはり1人で味見をしていた時とはちない、様々な感想を頂けて新たな発見が得られたことに感謝しつつペンを走らせる。
「それにしても、シブヤのお店も気になるなぁ……」
「よろしければ今度いらしてください。お待ちしておりますよ」
「本当ですか!?是非!」
食い気味の即答だった。そんなに気になっていたのだろうか。まぁでも、お客様が増えることは良いことだ、またメニューを増やさなくては。そうこうしているうちにアップルパイは完食され、4人は満足気に紅茶を飲んでいる。私も少し休憩しよう……と席を立つと、ふと日野森さんが口を開いた。
「そういえば、私たちのセカイでは夜や夕暮れだけど、このセカイは晴れなんだね」
「あぁ、それですが……」
ふと、話そうとした時に空が暗くなったことに気づいた。空を見上げると、いくつもの光が暗い夜空に帯を引いていた。
「わぁ……!」
「これってもしかして……!」
「流星群……」
皆様も空を見上げており、その光に見とれている。日野森さんへ、先ほどの回答を続ける。
「ご覧の通り、このセカイでは天候が変わるのです。……私も、流星群は初めて見ましたが」
「うん、すごく綺麗ね」
「ねぇねぇ!みんなも願い事しようよ!」
天馬さんが突然そんなことを言い出す。確かにこの流星群は見応えがあるし、せっかくだからお願い事をするのも悪くないだろうと思い、4人と一緒に手を合わせる。ミクはいつの間にかいなくなっており、テーブルの上の食器類が片付けられているのをみるにどうやら仕事をしてくれたらしい。後でお礼をしないといけませんね。
「う〜、これからも皆と一緒にいられますように〜!」
「ふふ、私も咲希ちゃんと同じお願いかなぁ」
「私もかな。志歩は?」
「……私も、同じかな。ベースは、自分の力で叶えたいし」
皆様が話している声を聞きながら、また空を見上げる。この4人の願いがどうか叶いますように。そう願いつつ手を合わせる。その後、流星群が落ち着いてきた頃に少し話をした。彼女たちがバンドをしていること、機会があればシブヤのお店の方にも来ていただけるとのこと。
気づけば日が沈んでしばらく後の時間になっていた。
「本日はありがとうございました。お気をつけてお帰りください」
「こちらこそ、アップルパイ美味しかったよ」
「また来るねー!」
皆様が扉を潜って帰るのを見送り、店に戻る。とは言ったものの、メモ帳の内容をまとめたい気持ちが強く、今日は早めにセカイから戻ろうと考えていた時、ミクがカウンターから顔を出した。
「あれ?もう帰るの?」
「ええ、少し今日は早めに帰ろうと思いまして。ああ、そういえば先ほどは後片付け助かりました。今度何か好きなものを作ってあげますよ」
「やったね、期待してるよ」
ツインテールを揺らし、残っていた食器も全て洗い終えてくれたようで綺麗に片付いていた。
「これで全てのセカイと一度繋がりましたね」
「だね〜」
表札を『close』にしながら今日までの出会いを振り返る。どのセカイの方たちもとても良い人たちでした。ですが、このセカイの成り立ちを考えると、皆様方にはこれから先には困難が待ち受けているのでしょう。なればこそ。
「これから、忙しくなりますね」
「だね〜。でも嫌じゃないでしょう?」
ミクがニヤニヤと笑いを浮かべながら聞いてくるが、それはそうでしょう。
「勿論。私は『ombrage』の店長で、このセカイの主人なのですから。ゲストをもてなすのは当然でしょう?」
私の中の想いを言葉にして、ミクと笑い合った。どうか、ここを訪れる人たちに木陰のような、ささやかな安らぎがありますように、。
一旦全ユニットとの出会いを書き終えました。ここから先はどうしよーかなーとプロットを練り練りしています。(もしかして:見切り発車の弊害)