セカイのカフェへようこそ 作:ラピスラズリ
昼下がり、教室の隅で弁当をつつく。ちなみに中身は昨日作った試作メニューの残り物である。味は悪くないがお店で出せるかと問われると首を傾げてしまうレベルなので特に何もなくささっと食べ終える。弁当箱をしまい、ずり落ちた眼鏡を直してから時計を見るとまだ次の授業の開始まで時間がある。窓際の席の特権である暖かな日差しに当てられ、午睡にでも勤しもうかと考えたその時。
ドカーーーン!!!
「!?」
日常となってしまった爆発音はそのまま眠気も一緒に吹き飛ばしたようで。パッと外を見ると、立ち上る白煙と共に空を舞う天馬先輩と目が合う。先輩は笑顔を浮かべ、こちらに手を振ると、
「おお!篠宮ではないかぁぁぁぁぁぁ……」
「…………」
そのまま落下していった。……細かいことは考えない方が良いかなと思考放棄しつつ、遠くから聞こえる教師の怒声に耳を傾けると、どうやら神代先輩も一枚噛んでいたようで、絶賛追いかけっこが始まっているのだろう。クラスメイトが「また変人ワンツーかぁ」と諦め混じりに話しているのを見ると、慣れとは怖いものであると感じる。自分のことを棚に上げつつ、結局やってきた睡魔に抗えずに次の授業が始まるギリギリまでお昼寝を敢行したのだった。
放課後、青柳くんに呼ばれて出て行く東雲くんを横目に自分も帰りの準備を終える。今日は仕事があるため恐らくセカイには行けないだろう。仕事までの時間に余裕はあるが、早めに行って仕込みを手伝おうと考えてそのままカフェ&レストラン、『bonheur de manger』へと向かう。
お店に入る前に中の様子を伺うと狭くはないお店の殆どの席が埋まっており、これから学生の帰宅ラッシュがあることを考えると今日は忙しくなるという未来が見える。裏口からバックヤードに入り、荷物を置いて更衣室でささっと制服に着替える。とは言っても白シャツに黒のスラックス、黒のエプロンというシンプルな物であるが。ついでにおろしていた髪を後ろで一括りにして伊達眼鏡も外す。最後は邪魔にならないよう前髪を上げてセットして完了である。
キッチンに入り、ちょうどホールから戻ってきた目的の人物に声をかける。
「おはようございます、店長」
「や、乃蒼くん。いつも言ってるけど店長じゃなくて舞お姉さんって呼んでも良いんだよ?」
「仕事中ですよ、店長?」
「ひぃん甥が冷たい……」
しくしくとわざとらしくハンカチを目に当てて嘘泣きしている店長ーーー氷川 舞さん。母の妹で、とても良くしてもらっている。性格は先ほどの通りだが、若くして1人で店を立ち上げたその辣腕は見習うべきところが多い。先ほどの絡みさえなければだが。
注文票にサッと目を通し、調理に入る。店長もいつの間にか作業に入っており、お互い最低限のやり取りで次々と料理を作り上げていく。一段落して、客足も落ち着いた頃。カランカランと音を鳴らして入ってきたお客さんを見ると見知った顔だった。
「おや、望月さんと天馬さん。いらっしゃいませ」
「やっほー篠宮くん!」
「ふふ、こんにちは」
常連さんとなっている望月さんと、その幼馴染みである天馬さんだった。お二人を席へ案内すると、注文されている分は全て作り終えたのであろう店長が後ろからパタパタとやってきた。
「いらっしゃい穂波ちゃん!今日も可愛いねぇ!!」
「あはは……こんにちは、舞さん」
満面の笑みと共に乱入してきた店長は先ほどまでの静かさを調理場に置いてきたようで、嬉々として話しかけにきている。
望月さんは慣れた様子で流しているのを見ると、少し前までこの勢いに飲まれていたのが嘘のように感じられる。実際には来店していただける数が増えてそれに伴って耐性がついたのだろうが。
「そして……もしかして、貴女が穂波ちゃんが話してた幼馴染の子かな?」
多少落ち着いて望月さんの対面に座る天馬さんに話しかける。
「あっ、はい!天馬咲希です。ほなちゃんの幼馴染です!」
「う〜ん可愛い!!乃蒼くんこんな可愛い子と知り合ったなら早く紹介してよ〜」
「いや紹介するとしたらそれは穂波さんの方でしょう」
「んーそれもそっか。じゃあ穂波ちゃんに免じて許す!」
「良いんですね……」
「あはは、勢いがすごいねー!」
「ケーキ持ってくるねー」と言いながら踵を返して去っていった店長に呆れ混じりの視線を送るが、それに気付いた望月さんも苦笑いしていた。
天馬さんは驚きつつも楽しそうに眺めており、まぁ特に不快感は感じなかったようで安堵する。いや恐らく店長が大丈夫と感じてあの絡み方をしたのだろう。伊達にもカフェの店長をやっていないのか、その辺りの機微を読み取ることが上手い人ですし。
「そういえば今日は他のお二人は?」
待ち時間の間にふと気になったことを尋ねてみると、どうやら星乃さんと日野森さんはバイトとのこと。本当なら一緒に来たかったらしいのだが……
「あぁ、アップルパイは店長の気まぐれですからね……」
「うん、だから次回は皆で行こうねって約束したんだ」
「それはそれとして今回は先にアタシがほなちゃんと一緒にお邪魔したんだけどね!」
ちなみに店長の気まぐれではあるが望月さんが来店した際にはふわっとではあるが次の予定を伝えているらしい。それで良いのか。「可愛い子には甘いのがデフォルトです!」と元気に宣言している脳内店長の口はしっかりガムテープでミッフィーにして差し上げた。
しばらく話していると店長がワゴンにアップルケーキをホールごと乗せて運んでくるのが見えた。
「はいお待たせ。『bonheur de manger』特製のアップルパイだよ」
「わー!美味しそう!」
「本当にありがとうございます。わざわざ焼いてくれて……」
「いえいえお安い御用。このくらいの時間に穂波ちゃん達が来てくれると良いなって思ってたからねー」
焼きたて特有の香ばしさがふわっと広がり、望月さんと天馬さんが目を輝かせる。店長がナイフを入れるとサクッと音を立てて切り分けられていくパイ。
「はいどうぞ。ごゆっくり召し上がれ」
「「いただきます」」
店長が手早くお皿に取り分けて出してくれたアップルパイを二人が手を合わせてから口に運ぶ。一口食べた瞬間、幸せそうに頬を綻ばせて目を閉じる二人。
「美味しい!」
「やっぱり舞さんのアップルパイは最高です」
「うふふ、お口にあって良かったわ。は〜可愛い子の笑顔癒される〜」
お二人の感想を聞いて口角がゆるゆるになった店長は、割と普通のお客様にはお見せできない顔をしていた。
これでもお客様相手にはしっかりと切り替えができているのがすごいと思うが、やはり知り合いとなると普段の表情が勝ってしまうようである。
その後は仕事終わりのお客様が増えてきたこともありあまりお話することはできなかったが、気を遣ってくれた望月さんがわざわざ食器類をまとめて持ってきてくれたため片付けには手間取らなかった。お礼を言うと、「また遊びに来るね」と言って帰っていった。
その後仕事が終わり、家に帰るとスマホに通知が来ていることに気づいた。どうやらニーゴの新曲が投稿されているのと、仕事中で時間が被っていたようだがモモジャンの配信があったようで、未視聴を示す表示が画面の中で踊っている。
このまま寝るには少し時間があるし、明日の予習でもしながら見ようと、画面の再生ボタンをタップし、静かな夜が少しだけ賑やかに過ぎて行く。
作者「そういえば神高のイベントとか季節イベント周りどんな感じだったっけ」
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作者「じ く う が ゆ が む」