【誰か助けて】カルデア生存術【人類史】   作:とくめ

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昔のネタの供養。


アバンタイトル/カルデア拉致事件

 

「──なんだっけ」

 

 ある『男』がいる。

 干からびたような白髪と、幽鬼のように青白い肌を隠す砂色のローブが目立つ『男』だった。

 

「……まあ、どうでもいいか」

 

 憶えていないのなら大したことではないのだろうと、『男』は静か荒廃した大地を踏みつけ、力無く拳銃をぶら下げる。

 『男』は旅人だ。

 行く宛も、況してや目的ですら存在しない只管に永い旅路の渡り人だった。

 

「くも」

 

 意味もなく空を見上げる。何もかも朽ち果てて更地と化した世界においてもなお、空は未だ青いままだ。

 空を見ることが好きだった、という。

 いつも新しいものを発見できるから、らしいが。

 

「──」

 

 この世界は破滅に満ちている、と。いつかの誰かから聞いた言葉の通り、少なくともここではありとあらゆる生命が破滅が訪れていた。"個"としての死滅などありふれたものでしかなかった。

 飢餓で死ぬ者がいた。身体がもう動かないからという理由で、魔獣に身を投げ食い殺されたものがいた。生きる意味を見出さず、新霊長類に無抵抗に惨殺された者もいた。

 それはこの世界にとっては当たり前のことで、『男』もそういうものかと、それに慣れてしまった。

 

「……?」

 

 コイントス。

 もうこの動きにすら、意味なんてないけれど。

 何がしたいのかなんて、わからなかったけれど。

 

「もういっかい」

 

 これは望むエンドじゃない、という。

 あるのはたったそれだけの決意だけ。

 

 だからやるのは簡単だ。

 娘のために死んだ爺さんみたいに。

 家族のための正義を張った兄貴みたいに。

 

「今度こそ」

 

 もう何もわからないけれど。

 どうしてここにいるのかわからないけれど。

 

「――お前を助けるぞ、   」

 

 世界が、朽ち果てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………いやな夢だなぁ」

 

 なんでこうまた悪夢を見るかな、と俺はベッドの上で一人ごちる。胸中を渦巻く妙な悪寒を押し殺して、俺は布団を退かした。

 カーテンを開ければ、爽やかな日の光が注ぎ込んでくる――ことはなく、目に飛び込んでくるのはこの一ヶ月で見慣れた晴れている方が珍しいこの街の光景だった。

 弾き出された曇天の空。相も変わらず晴れることのない鬱屈とした感情に嫌気を感じながらも、俺はロンドンの街並みから視線を外した。

 

「…………なんか嫌な予感するなぁ」

 

 なんというか、感覚的な話だが、何か不吉なことが起きる前、総じて悪夢を見ることがある。……魔術的な関係が何かあったらするのか? 場合によっては未来視に近い研究領域になるのだろうか。

 はぁ、と息が溢れる。……朝飯作る気分じゃないな。陰鬱とした心待ちにうんざりした俺は、軽く身嗜みを整えるべく洗面所に向かった。

 寝間着のジャージを脱いで洗濯機のホール部分に叩き込み、黒いパーカーを頭から被って、洗面所に水をぶちまけバシャバシャと顔を洗って寝癖を直した。

 

 黒革の財布を持って玄関口に。玄関でランニングシューズを履き、たんたんとつま先を地面に突き立てる。目標は朝飯の調達である。

 行くか、とドアノブを握って前へ押し込み――

 

「…………」

「――どうも」

 

 ガコ。

 俺は無言で扉を閉めた。

 

 知らない。あんなムキムキマッチョのハゲの外人さんwithBなんて俺は知らないし知りたくもない。うちにあんな、物語でしか見かけたことない幻想種が来る予定はない。ないったらないのだ。

 

 嫌な予感がする。主に俺の胃が死ぬタイプの。

 具体的にはあかいあくま(アベレージ・ワン)とか金髪ドリル(フォークリフト)に無理難題を押し付けられた時のような、そんな感覚。

 

 ――なんかヘマしたっけなぁ。ため息と共に魔術回路を励起する。

 指先を木製の地面に添えて解析魔術を起動。身体の中の異物感に辟易としつつも、神経を周り一帯に張り巡らせるようにして周辺状態を把握する。

 熱反応三、術式は――

 

「……なんで結界まではってるのさ」

 

 思わず悪態を吐く。どうやら向こうは、俺を逃がすつもりなど更々ないらしい。それに、この状況では俺の魔術も上手いこと使えない。……くそ、しくったな。

 数ヶ月ぶりの休暇――というか新天地にようやく腰を据えたところだというのに。

 恨むぜ神様。

 舌打ち一つ。俺はそのまま使い込んだ商売道具を取り出し、調子を確認して腰に回す。……来るなら来い。何がなんでも生き残ってやる。

 

 魔術回路を起動。蠕動し熱を帯び始めた身体を抑えつけ。

 俺は、敵の前へと身を躍らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった」

 

 ストレスで頭が痛い。ニギニギと眉間に指を当てて揉みしだく。

 危機を回避できたことを喜ぶべきか、それともまた入り込んできた厄介事にキレるべきか。なんにせよ、俺は酷く面倒な状況に叩き込まれたのだが。

 

 卓の上にある簡易な装飾をあしらわれた一通の封筒。特段何の異常も見当たらないそれは、一見ただの紙面のようであるが、その中身は多種多様な魔術の組み込まれた検査器具兼用の代物である。

 この場に、俺に限って言えば。

 それを抜きにして、目下の問題は施された装飾の一つにあった。

 

 三日月のような紋様が波に揺られて空を向き、災厄の終わりを示すオリーヴの葉がそれを囲んでいる。

 そんなシンボルを掲げた組織への――地獄への片道切符。『人理継続保証機関フィニス・カルデア』への招待状である。

 加えて言えば。現在進行形で俺の頭と胃を痛めている原因、その発端だった。

 

「……カルデア。――確か、天体科の盟主が創設した組織だったか」

 

 カタカタと、データ化した書類のステータスバーにカルデアに関するキーワードを打ち込んで行く。

 ……現所長はマリズビリーの実娘であるオルガマリー。『招待状』の内容をも考え見るに、どうやら近々大きなプロジェクトがあるのだろう。そして俺は、その人員の一人として呼ばれた、と。

 実に魔術師らしいマリズビリーが作り上げた機関だろう? ロクな組織じゃなさそうだ。

 

 まぁ、今はそれはいい。

 それよりも気になるのは、どうして俺が選ばれたのか、ということだ。これでも時計塔に属していた魔術師(厳密には魔術使いだが)である以上、そうそう選ばれることはない、と思うが。

 ……クソ、わからん。絶対領域マジシャン先生(ロード・エルメロイⅡ世)との師弟関係にある以上、遠坂やルヴィアの推薦という線も薄い。

 ならば何故? 俺が時計塔に渡した"功績"を見たから? それも俺と同等の功績ならば、幾らでも候補がいるはず。俺のような出所不明のじゃじゃ馬をスカウトするくらいなら、他の適正者なんて幾らでもいるはず――

 

「…………」

 

 ……胃が痛くなってきた。

 はぁ。と溜息。卓上の招待状を再び手にとって内容を確認する。

 

 ――仕方ないわよ、諦めなさい。

 どこからか、あかいあくまの失笑が聞こえた気がして。

 

 俺は思わず、手の中のそれを握り潰したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……あっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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