【誰か助けて】カルデア生存術【人類史】   作:とくめ

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浪漫を追うのが男の子(ロマニ・アーキマン)

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなった。

 

 2度目か。2度目だな。

 原因を幾ら思い返しても心当たりしかない。カルデアのスカウトマンマジ筋肉、辛すぎだぜべいべ。

 ハッ、ワロス。

 

 そんなわけで、招待状を不可抗力とはいえ握り潰してしまった俺は、どうにも逃走を図ることも出来ずにカルデアへとご招待されていた。

 

 件の招待状について筋肉スカウトマン――ハリーさんに話をつけにいくと、いつの間にやら書類に朱印を押して飛行機へと叩き込まれていた。

 飛行機を飛ばすこと半日と少し、ヘリコプターへと乗り継ぎ、空の上でカルデアの職員から簡易な説明を受けた俺は、ハリーさんから渡されていた黒のダウンジャケットを着込んでいる内に。

 カルデア職員からの、「あとは頑張って下さい」と満面の笑みでのラヴコール。そのままカルデアのある山の麓へと放り出された訳だ。

 

 ……まぁ、それはいい。俺何してんのとか色々思うところが沢山あるけど、今はそれはいい。

 置いておいてやろうじゃないか。後で泣く。絶対泣く。

 ――というか。

 

「……雪山とか聞いてないよ」

 

 吹き付ける吹雪が顔を打った。支給された黒色のダウンジャケットが風に靡いて巻き上がり、席巻した雪が視界を白く埋め尽くした。

 ……こんな状況に陥るのはこれで何度目だろう。記憶の中で()()()()()()()を自然とカウントし、折り曲げた指が一往復を超えたあたりで目をそらした。これでもまだ生温いとか俺の人生が波乱万丈過ぎる。

 

 荒れ狂う雪が肌を打ち付ける。

 ……寒い。というか痛い。いやむしろ帰りたい。そんな言葉を飲み込んで、俺は必要最低限の生活用品を押し込んだリュックサックを背負い直した。

 

「……それじゃ、登りますか」

 

 人生何事も諦めが大事。

 そんな、現実のままならなさをこの半日の間に死ぬほど教え込まれた俺は、胡乱な目で山頂を目指し始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャウ!」

「ま、待ってくださいフォウさん! 勝手に施設の外に出てしまうなんて、バレたら所長に怒られてしまいます! あぁもう、雪を掘り返して。……遊びたいなら施設の中(ガーデン)でもいいと思うのですが……」

 

 やはり、外と中では雪の質も違うのでしょうか。

 取り留めのないことを考えてその少女は僅かに首を傾げた。しゃがみ込んで雪を手に取ってみると、抵抗なくサラサラと手から零れ落ちていく。

 ……やはりわかりません。さすがフォウさん。身体が真っ白なだけに雪マニアなんですね!(違います)

 

「キュウキュウ! フォーウ!」

 

 おっと、いけません。真っ白な獣の鳴き声に纏まりがなくなり始めた意識が引き戻される。眼下の彼に視線を向ければ、てしてしと地面を叩いた後、腕をぐるぐると渦を巻くように回転させた。

 

「……ここを掘れと、そういうことでしょうか?

 フォウさんの頼みとあらば仕方ありません。こんなこともあろうかと持ち運んでいた小型スコップが光ります」

 

 きらーん、とスコップが輝いた。どこか不敵な笑みを浮かべ、ついでに眼鏡も煌めいた。きらーん。

 サクッと。地面に鈍色のスコップを突き刺した。掌に帰って来た感触に、少女は思わず眉尻を寄せる。

 

「……? 何でしょうか、今突き刺した部分が柔らかかったような……」

 

 もう一度ヘリを雪に埋める。サクサクと延々と掘り下げを続けること数分。

 何か、黒いものが見え――

 

「――キューウ!」

「人が、人が埋まってます!? ドクター、ドクター!? ああ、いや、それどころではありません!? い、いいい急いでカルデアに運び込まなくては! 大丈夫ですか? 生きてますかっ!?」

 

 更に雪を書き出して、直ぐに全身が露わになる。黒い布を纏ったそれ――恐らく男であろうそれは、右手を投げ出すような体勢で横たわっていた。冷え切っているに違いない、そうでなければ可笑しい筈のその体は。

 少しだけ、身動いで。微かに唇が震えた。

 

 

「――幸せになりたい……」

 

 

「――よかった生きてます!」

「フォウフォウキューウ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、本当に無事でよかったよ。雪の中に埋もれてたって聞いて、流石に手遅れかと思ったけど……それでも生きていられるとか、君の生命力半端じゃないね」

「それでしょうか」

 

 ただジイさんがケモナーでフォーウして空中三回転かましつつタバコを吸いつつハーブをキメて、ドヤ顔で「ハイエナのメスにはペニスがある」とか宣ってるのを見ながら三途の川を渡りかけてただけだったんだが。うん、考えるまでもなくマズいな。

 

 ギシィと椅子を回しながら、目の前の男性はすごいやとゆるく笑った。どうやら、凍死寸前だった俺を救ってくれた恩人の一人らしい。上半身をあげると、椅子に座する男性から、飲みなよ、と湯気昇るティーカップを手渡される。

 ありがたく頂戴する。ふうふうと息をふきかけながら、俺は目の前の男性へともう一度視線を向ける。

 

 ――話をまとめると、どうやら俺は雪山を登りきることができずに道半ばで倒れてしまったらしい。雪に埋もれてしまった俺をここの職員が発見してくれて、態々ここまで運び込んでくれたのだという。

 

 ……また死にかけたのか、俺。

 まぁ。なんにせよ、生きていたのだからそれでよしとしよう。過程はともかく、何事も結果。今は生きていることを喜ぶべきだ。ただ俺は何回三途の川の向こう側でダンディーに煙草を決めながら盆踊りをしているジイさんを見ればいいのだろうか。泣きたい。

 

「それで、生体どころか精神バイタルも正常。うーん、まさかとは思うけど、似たような経験があったとか、そういうのなのかな」

 

 まぁ少なくとも両手じゃ足りない。

 ……悲しくなってきた。畜生。頭を降って暗くなってきた思考回路をリセットする。取り敢えずは、現状の確認が第一目標か。

 陶磁器のカップを傾けつつ、悲しいことに最早ルーティンの一つとなりつつある解析魔術を自身に施した。

 

 魔術回路異常なし。身体に異物なし。生体バイタル安定。体力の低下は著しいといえば著しいが――お医者様要らずの俺、大変健康である。よかった。

 ふぅ、と一息ついていると、目の前の男性――ロマニ・アーキマンは、あ、となにか思いついたのか、若干気の抜けた声を出した。ポケットから電子端末を取り出すと指を乗せて操作し始める。

 

「君が目覚めたら、連絡してくれってマシュに頼まれてたんだ」

「マシュ?」

「君を助けてくれた人物だよ。随分と君を心配しててね」

「……それは、お礼をしなくちゃ、ですね」

「うん、そうしてあげて」

 

 主に我が平穏のために。

 俺のゴーストが、清涼剤になりそうだと囁いている気がするのだ。

 一頻り話を終えたのか、ロマニが電子機器の蓋を閉じた。

 ――さて、と。

 

「それじゃあ、少しだけ説明するよ」

 

 それは、西暦2015年のこと。

『人理継続保障機関 フィニス・カルデア』にて、恐るべき事実が確認された。

 

 ――2016年、人類は絶滅する。

 

 一瞬の内に歴史の保証は破壊され、何の脈絡もなく『滅び』が証明されてしまったのだ。

 対しカルデアは、魔術によって作成された近未来観測レンズ・シバによってそれを覆すべく人類の残した足跡を再調査。

 

 そして。西暦2004年次の日本の地方都市・冬木に今まではなかった、「観測できない領域」が観測された。

 故に、カルデアは人類の滅亡の要因と判断。テスト段階とはいえ、実用にまで仕上げられた霊子転移を用い、此れを解消する。

 

 それこそが、ここの目的なのだという。

 

 ――それで、俺がマスター候補に選ばれた訳か。

 選出は時計塔における協力者と数合わせの一般枠で計四八名。それで、俺は謂わゆる一般枠として――『魔術使い』と判断された上で選ばれただけに過ぎないらしい。じゃあ断れたじゃねぇか。俺の馬鹿野郎。

 手渡された書類に目を通していたのだが、思わず声が漏れていたのか。かたりとティーカップを机に置いて、ロマニが厳かに首肯した。……それはそうと。

 

「真面目にするの似合わないっすね、ドクター」

「その目はやめて! なんだよもう、せっかく真面目にしようと思ったのにさ! まぁ、ハリーさんの選出ってくらいなんだから、魔術師としての危険性も少ないとは思うけどさぁ……」

 

 ブツブツと呟くロマニを尻目に、俺は小さく嘆息した。

 俺が死にかけるのは。本当にいつものことなのでなんとかなる。

 なんだかもう。

 

 

「やってらんねぇなぁ」

 

 こういう星の元に生まれたことを恨んだのは、人生何度目かわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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