【誰か助けて】カルデア生存術【人類史】   作:とくめ

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魔術師(ウィザード)影法師(サーヴァント)

 

 

 

 

 所変わってカルデア管制室。

 

 時刻にして十四時二十五分。目下の使命である特異点Fの解消の下準備に賑わう室内の中央部に座する銀髪の少女は、タブレットを操作しながら鬱陶しげに此方を向き、後ろのロマニに確信を深めたのか口火を切った。

 

「――それで、あなたが四十七人目のマスター候補生? まったく、こんな忙しいときに。まぁいいわ。私のカルデアの目標はロマニから聞いているわね? なら支給される魔術礼装の確認とレイシフトに対する必要最低限の知識の確認、あと簡易でいいからエネミーとの戦闘もこなして起きなさい。

 それと、一応言っておくけど、変な真似をしたら即刻たたき出すわ。あなた程度の魔術師、片手で仕留めることぐらい訳ないから気をつけなさい」

 

 目の前の女性は俺の雇い主、現カルデア所長のオルガマリー・アニムスフィアその人だ。

 

 名門『アニムスフィア』、その申し子であるが故魔術の大門魔術回路の質と量ともに一流、更に魔術世界に於いては積み重ねてきた歴史がモノを言う一面もある以上、彼女は凸型も極みである俺とは全くもって正反対の、順当に優秀な魔術師だといえる。

 前所長――つまりは天体科のマリズビリーが何らかの理由で没してから、今日まで所長として頑張ってきたらしいのだが、残念なことに彼女にはマスター適性がなかったのだという。それ故重責に重責が重なるばかり。

 

 ……なんと言うか、報われないな、と思う。だからすっごいシンパシーを感じていた。難題に難題が重なるばかりの俺と同じく、アンタも苦労してるんだな、と。アンタとなら美味い酒が呑めそうだ――現実逃避気味にそんなことを考えていると、後ろのロマニが若干引き気味に体を反らせた。

 

「……えぇ、所長を目の前にしても全く動じてないとか、君のメンタルどこかおかしいんじゃ……」

「ちょっとロマニ、失礼じゃない!? というかあなたはこんなところで油売ってないで仕事しなさいよ! ほら、運送班に連絡とって最後の一人がいつ来るか確認取っとくのも忘れないように!」

「や、やだなぁボクは彼を案内してただけさ! もちろんこの後しっかりと仕事に戻るつもりだったとも! さ、案内するよ、行こうか!」

 

 相変わらずのゆるふわっぷりである。

 

 オルガマリーから逃げるようにして、ロマニは俺の背中を両手で押して管制室から退出する。わあわあと焦っている様子はどうしたって医療機関トップの人間のそれではないが――まあロマニだし。

 それにしても、オルガマリー所長は遠坂と似たような匂いがした。……ツンデレ? 遠坂伝来の伝染『うっかり』でなければいいのだが。

 とにもかくにも所長許可は下りた訳で。

 

「それじゃあ、予定通りマイルームに案内するよ」

「助かる。……いや、助かるんだけど、ロマニは仕事しなくていいのか?」

「平気平気! 偶には息抜きも必要さ! マシュも先に君の部屋で待ってるって連絡があったから急ごう!」

「了解」

 

 俺の恩人であるマシュ・キリエライトは既に俺に支給される部屋にて待機しているらしい。元々ここの職員らと密な所まで付き合うつもりはないとは言え、不和を作るのは得策ではない。下手に動いて根を深くしかねない軽挙は控えた方が賢明だろう。

 ならばすべき事は自明である。俺は一つ頷くと、清涼剤であるはずのマシュ・キリエライトのもとへと颯爽と赴くことにした。

 

 待っていろ我が癒しスポット……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――『英霊』

 

 其れは人としての機能を完成させ、理想を体現し誇るべき偉業を成し遂げた、人類史に名を刻んだ存在。

 言って仕舞えば、其れはヒトが『人』である限りの到達点のその先――今の滅びの蔓延する世界に於いても尚、そう易々と至ることのできない"頂き"である。

 

 翻るに、俺はそのような偉人らの『一側面』――影法師(サーヴァント)に並びうる程の力を持っているだろうか?

 

 答えは否である。断じて否である。

 

 そも英霊とは、人であってヒトでない存在だ。不可能を可能にする生体といってもいい。

 難行を成し遂げ、偉業を打ち立て絶望すら覆す。――故にこその英雄、だからこその英霊。剰え人の精神にすら刻み込めるほどの存在である彼らにしてみれば、俺など取るに足らない存在にすぎるだろう。

 

 無論、俺とてそこらの戦争屋とは比にならないほどの場数を踏んで来た自負がある。駄目駄目執行者ならば下せるが――やはり、数多の英霊よろしく、戦闘に戦闘を重ねて来た彼らには到底敵わないだろう。所詮人の延長戦でしかない俺に、英霊と互角に渡り合える道理はないのである。

 

 そう。俺は戦いにばかり明け暮れていたわけでもない。遠坂やルヴィアよりも四方へのパイプは多い。加えて言えば世界でも高名なシェフ達とメル友だし、時計塔の上層部とも『手土産』持参で行けば此方の要求を呑ませる程度には友好な関係を築いている。

 総括すると、俺は一対一の戦闘においては余り強くない、ということなのだ。

 

「これで終いだ」

 

 ――そんなことを考えつつ。俺は眼前の『英霊擬き』に右に構えた拳銃でトドメの弾丸をプレゼントし、戦闘シミュレーションをクリアした。

 

『これは……すごいですね』

 

 管制室にいるであろう清涼剤、マシュ・キリエライトが感嘆のふうでそういったのが、アリーナに取り付けられたスピーカーを通して聞こえて来た。

 どことも知れぬ森林を戦場(フィールド)とし、アサシンのサーヴァントを模した仮想敵との戦闘訓練を行っていたのだ。目的は俺の戦闘能力の確認である。

 

 肩をグルリと回し、俺は周囲を見渡した。ここは人理継続保障機関カルデアの内部、その戦闘訓練場の一つだ。

 標高六㎞の雪山に入り口があり、そこから地下へと広大な施設が広がっている――その僅か一部分である。改めて考えると雪山に放り出されたのは殺しにかかって来ているとしか思えないのだが、何か気にしたら負けな気がするのでそんなことはなかったことにした。

 

 グリップを弄びながらくるりと一度回転させ、俺は仕事道具の調子を確認して腰に回したホルダーに仕舞い込む。

 荒くなった呼気を押さえつけて残心――滲んだ汗を軽く拭った。調子は上々である。下手な手を打たない限り変な目に遭わないだろう。

 

 ――といっても、先のアサシン擬きは貧弱に過ぎた。

 

 先述の通り、俺なんて一介の魔術使いなんぞ通常の彼らなら歯牙にもかけられないだろう。

 擬きに足りない点など数え上げたらきりが無い。気配遮断は甘く、戦術ドクトリンなど欠片もない。暗殺者が奇襲することもなく正面から戦闘に入るなど言語道断。駆け引きもなければ敏捷性も低い――精々行っても代行者未満である。

 そんな訳で俺がすごい訳ではないのだが――

 

『流石だね。まさか病み上がりでもこれほどとは……正直驚いたよ。これが所謂主人公補正ってやつなのかな?』

「変なこと言うんじゃない。それに、本当のサーヴァントならこうはいかないさ。あれじゃ本物の十分の一ってとこだろ」

『やっぱりそんな感じなの?』

「……。……まぁ、うん、そだね」

 

 ロマニの声に、少し張り詰めていた心持ちが抜ける。落ち着いて考えてみると、下手な行動を取らない、という当初の行動指針から既に乖離していた。やってしまったぜこの野郎。

 ため息とともに俺はシミュレーションルームを後にする。後でここの技術者たちに提言にいくか、流石のこれは英霊への侮辱になり得るか――が。

 

「――ん?」

 

 大地色のハット――それが不意に蠢いたのを見て、俺は思わず眉を顰めた。妙な、さも此方を見定めんばかりの視線に、魔術師特有のニオイ……ああ、いや。ここは魔術師の巣窟だったか。

 気を払うのはいいが、気にし過ぎるのは駄目だ。早急にパンクしてしまう。焦眉の急でもないし、そう問題が突沸するわけでもあるまい。

 まぁ、気楽にいこう。プロジェクトが始まったらそう休む時間もないだろう。こういう時は、適度力を抜いておくに限る。

 

 

 

「――」

 

 隣接されたシャワールームで軽く汗を流し、取り外した魔術礼装――カルデアから支給されたミスティックコード、つまりは制服の調子を確認する。先ほど解析を施して調べた結果、この礼装の効果は簡易な回復術式と強化の二つだった。

 なのだが、コレは要するにカルデアからのバックアップに必要なデバイスのような代物らしい。ビーコン、といったところだろうか。

 ほーん、と感嘆一つ。中々の出来具合である。

 そんなことに思いを馳せながら通路を歩いていると、白い毛玉のようなものが道角から飛び出してきた。そのまま肩に飛び乗って頭にすがり付いてきた。

 

 白、雪、獣……?

 ――うっ、頭が。

 

「フォーウ!」

 

 ちょっとぉ! とでいいたげな鳴き声に苦笑しながら腕を伸ばすと、意図を察した毛玉の小動物……猫? ウサギ? みたいな何かは頭から伸ばされた腕に移り、くりくりとした瞳で俺を見上げてきた。

 善哉善哉と頭や顎下を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細めた。……うーん、癒される。

 

 その白い小動物は尻尾を少し振りながらキュウと鳴いた。トテトテと俺の体をぐるりと回って肩へと乗っかると、腰を据えそのまま後ろの右足で頭を少し掻いた――これは懐かれた、ということなのか? 初対面の奴にこうも踏み込まれてしまうとは、ケモナー冥利に尽きるというものだ。

 

 押し付けられていた戦闘シミュレーションを終えて、特にすることもなかった俺は、とりあえずこの小動物の相手でもして時間を潰そう、と思った。モフモフしたい。すっごいモフモフしたい。

 

「ふはは、代わりにジュースでもおごってやろう」

「キャウキャウ!」

 

 此方の言葉を理解しているような鳴き声に驚きつつも、俺はそんなことを言いながら肩上の小動物の頭を撫でくり回しながらマイルームへの道筋の半ばにある自販機を発見し、小銭入れを取り出した。

 

「――フォウさん? どこにいったんですか、フォウさーん?」

 

 ふと、透き通るようなソプラノの声が聞こえてくる。そちらを見てみれば、清涼後輩系眼鏡っ娘、マシュ・キリエライトが歩いてきていた。

 

「よう、マシュ」

「あ、先ほどぶりです、紫藤(シドー)さん」

「うん、さっきぶり。……で、どうしかしたのか?」

 

 美女美少女を目の前にすると物腰が柔らかくなってしまうのは男の性だと思うのだ。自分でも自覚はしているし、遠坂らにも散々言われているにも関わらず、相も変わらずこの体なのだから"そういうもの"なのだろう。

 

「この辺りで毛むくじゃらなフォウさんを見ませんでしたか?」

「あー、フォウさんてのは彼のことか?」

 

 ぎゅむっといつの間にやら頭の上で丸まっていた小動物――フォウの首根っこを引っ掴んで手渡すと、マシュは目を丸くする。

 

「驚きました。まさかフォウさんがここまで心を開いているとは――流石です、シドーさん」

「……あ、うん。ありがとう?」

 

 ……一体何が流石なのだろうか。よくわからず、俺は苦笑にしながらそういうに留める。思わず疑問符がついてしまったが、ご愛嬌だろう。

 フォウ! ――マシュの腕の中でフォウがそう鳴いた。わかってるって、そういいながら自販機に小銭を突っ込み、在庫を確認する。

 フォウくんにオレンジジュース、缶コーヒーをマシュに、自分用には初見の『胡麻麦ジュース』とやらを購入する。地雷臭しかしないが、まあたまにはいいだろう。……あれでもフォウくんって柑橘類は大丈夫なのだろうか?

 

 はて、と。マシュの遠慮の声を押し切って缶コーヒーを手渡し、まあ問題なかろうと俺はプルタブを押し上げた。甘ったるい匂いが鼻腔を突く。煽るとなんとも言えない、甘くて苦い味が口の中に広がった――うん、不味い。

 

「――ということで、明日にはプロジェクトが始まるみたいです。本日中には、最後のマスター候補さんも到着するのでないでしょうか」

「へえ。そういや特異点への第一陣は確かAチームだったけか。マシュはどこのチームなんだ?」

「Aチームです。えっと、シドーさんはたしか……あれ?」

「……教えて貰ってないな」

「ドクター……」

「いいって、後でロマニに聞きに行くさ。……にしても、マシュがAチームか。俺も負けてらんないなー」

 

 マシュと並んで歩きながら、少しばかり会話に花を咲かす。マシュの胸元に抱えられたフォウがチビチビとオレンジジュースを啜る。適度に話題を振りながら、時折顔を輝かせるマシュに思わず口元が緩んだ。……うん、後輩系っていいな。

 

 ――そんな、思わずほっこりしてしまうような日常が続くなんてこと、俺の人生においてある筈もなく。

 

 旅の始まりは、すぐそこまで迫っていることに、俺は気付いていなかった。




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