「戦うことが怖い?」
砲火に風が叫び、
目も眩むほどに海が荒れ狂う中、
妖精の伝える彼女の声はそう言った。
「どうしても無理なら離脱して良い。
けれど、もしあなたが自らが無力だと思い恐れるのならば、
一度自分の周りを見てほしい。
そこにはあなたの仲間がいるはず。
そして及ばずながら、私もここにいる。
もしも戦う意思をなくしていないならば、
戦うすべは私が教えよう。
そして、あなたの力が足りないなら、
あなたの仲間が力を貸してくれる。
さあ、どうする?
立ち止まるか、それとも前に進むか、
すべてはあなたの意思で決まる――由良」
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透き通る朝日の中で目を覚ました。
柔らかな白い壁紙に、
可愛らしくも機能的な家具のある真新しい部屋。
うん、とベッドの上で伸びをする。
二段ベッドの梯子を降りると、
明るい髪の少女が子猫のように丸まりながら微睡んでいる。
「……ん…由良お姉ちゃん……?」
「おはよう、阿美」
まだ、少し起きるには早いかもしれない時間。
由良も起こす気はなく、小さな声で返事をする。
――だけど、由良の気持ちは早くもわくわくしている。
レースのカーテンを少し開くと、
そこには青く輝く海原。
窓を開ければ潮風。
海の近くでなければ味わうことのできない濃い空気は、
心の帆を大きく膨らませるもの。
心のときめきを味わいながら鏡台の前に座り髪を整える。
ある程度髪を整えてから、
若葉色のカラーがついた白の制服を身にまとう。
長良型軽巡「由良」としての制服。
クローゼットには由良と阿美の私服の他、
同じデザインの「阿武隈」の制服もある。
別の部屋だが、「鬼怒」の艦娘も同じ制服を着ている。
艦娘の制服は艤装を展開した時に生成される。
戦闘までどんな服を着ていても、
船体と艤装を使うときはその服に着衣が変化する。
普段からそれを身に着けている必要はないが、
着ていれば、艦娘としての誇りや確信のようなものを得られる。
そうして思うのは、目覚める前にみた夢のこと。
はじめての大規模な戦闘で、
由良は足ガすくんで動けなくなった。
――船体で活動するので、足がすくむ、という言い方も変だが、
由良はその時、弾雨の中でまともに動けなくなった。
玲奈は彼女を責めなかった。
帰ってきていいとすら言った。
しかし同時に彼女は、
由良がたった一人で戦場に立ちすくんでいるわけでもないと言った。
――そのとき、由良を守るように第二駆逐隊は陣形を組んでいた。
白、夕羽はともかく、
恋梅は由良と同じように怖がっていた。
だけど逃げなかった。
ドジで弱気な自分から逃げたくないから、と。
みんな戦う理由はそれぞれだ。
由良とってその一つ一つの具体的な内容は重要ではないが、
各々が各々の理由を持って戦いに臨んでいる。
そのなかで由良だけ無意味に逃げるのは、恥ずかしいことだと思った。
みんなのように誇り高くありたい。
提督さんの期待に応えたい。
取り柄のない自分かもしれないけど、
――由良のいいところを見せたい。
そんな思いを馳せているうちに、
服に袖を通し、
髪も束ね終わって由良の身だしなみは完璧だった。
「んぅ――」
さてどうしようかと考えているときに、
阿美が身体を起こして伸びをしていた。
顔をこする様は猫のよう。
知らずうちに由良の顔を綻ばさせる愛らしさだった。
「おはよう、阿美。起きるのね?」
「うん……むにゃ。おはよう……由良お姉ちゃん」
「ふふ、阿美、自慢の前髪がボサボサよ?」
「……んう」
のそのそと布団から這い出てくる少女。
鏡台の前に座らせて、
色の薄い猫のような髪を梳く。
そんなふうに始められる日々の訪れを、
由良は心から幸せと感じた。