非在の海 -第四水雷戦隊戦記-   作:白亜迩舞

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<2-3-2 過去と現在と>

「私、しばらく海上自衛隊で寮暮らししたせいで、

なんとなく親から離れて暮らすことになれたっていうか、

なんか家に帰りづらくって、海自からの奨学金はたくさん出ていたし、

寮のある学校に入って寮生活していたわ」

「毎日は、起きて、寮の朝ごはん食べて、学校行って、

部活はバスケをやっていて、終わったら帰るって感じ。

友達と遊びに行くときもあったけど」

 

「友達、たくさんいたのかい?」

 

「たくさんってほどかはわからないけど、普通に。

しばらく後遺症が強くて保健室に行ったりもしていたけど、

そんな私を心配してくれる子もいたし、

バスケ部もみんな仲良くやってたし」

 

「体調悪くてもバスケをやっていたのか?

バスケ、好き?」

 

「寮だったから、部活やってないとすぐ帰っちゃって暇かなあって。

特に仲良かった子もバスケ部だったし、

好きかって言われると……でも、なんか他のスポーツよりは

私に向いているかなって思った」

 

「どういうところが?」

 

「走って、ボールを投げるところとか――」

 

コートを駆け抜け、連携しながら敵のゴールを狙い撃つ。

由良にはその光景が、

海原を駆け抜け敵を沈める戦場と重なって見えた。

 

戦いに飢えていたわけではない。

失った日々のよすがを求めるようにして、

彼女はバスケットボールを始めたのだった。

 

「前に艦隊にいた頃は何をやっていたっけ?」

 

艦娘たちも部活を行う。

とは言っても一般に言う「部活」というほど公式ではなく、

単なる同好会のようなものだ。

 

そもそも艦娘の学校自体が標準カリキュラムを無視しているような

超法規的な場所であるため、

部活などの付帯的な機能に関しても一般とは異なっているのだ。

 

「特に何も。その日その日、のんびりできるときは

みんなとのんびりしていたわ」

 

「ああ、そうだったね。

そういうほうがあなたらしい……、

けれど、バスケや、何かをするのも悪く無い。

少し変わったのかしら?」

 

「……どう、なのかな」

 

提督やみんなのことを思うと、もし自分が変わっているとしたら、

なんだかずれてしまったような気がする。

けれど、艦隊を離れていないにも関わらず

変わっていないというのも何か変な気がした。

 

それに……もし由良が変わったとするならばそれは、

離れていた間のことではなく、

戻ってくる時のことで。

 

 

――あのとき、自分が何をしたのか、自分でもわからない。

 

 

――わかりたくない。

 

 

「提督さんは、私に変わって欲しかった?」

 

「いや。そんなことはない。

と言っても、逆に変わって欲しくなかったとも思わない。

……たとえどうあろうとも、由良は由良でしょう?」

 

そこまで言って、玲奈はカップを手に立ち上がった。

流し場にカップを沈めて、彼女は机に戻る。

座る前に彼女は言った。

 

「過去現在、そして未来の自分にいろいろ思うこともあると思う。

だがそれは人として、特にあなたたちのような若い人としては

当然のことだし、思い、悩み、それによって

あなたが「為すべき」とされることに力を入れることができなくても、

私はそれを責めたりは絶対にしない。

むしろあなたたちには存分に悩んでもらいたい、

そうするのが「提督」と呼ばれる私達の仕事だと思っている。

話があればちゃんと聞くし、

特に話すことがなくてもここに来て、ゆっくりしていけば良い。

――今日は疲れたかい、由良?」

 

いつしか黄昏に近づきつつある黄金色の光を背にした彼女は、

自愛と母性に溢れているように見えた。

由良の胸は高鳴っていた。

その高鳴りは激しくはなく、柔らかであたたかだ。

彼女という存在に護られているのだと、

自分が彼女を頼りにしているのだと強く自覚した。

 

「うん……疲れたわ。でも、

今日は、提督さんと――玲奈と、ゆっくり話したかったの」

 

「そうか。――私も、由良と話せてよかったよ。

また、是非来てほしい」

 

「うん。じゃあ、今日はもう行くね。

提督さんはまだここにいるの?」

 

「ああ」

 

 

 

 

「――あ、ちょっと待って」

 

 

由良が部屋を出ようとした時、玲奈は慌てて立ち上がり彼女を呼び止めた。

 

「どうかしたの?」

 

「あー、うん。その、前に由良の復帰祝いをするみたいな

ことを言っただろう?」

 

「あ……そうだったね」

 

言われたのは前回の戦闘の時。

戦闘の時はもちろん、その後も今日に至るまで由良の周りは

慌ただしいものだったので、

由良は半ばそのことを忘れていた。

 

「あの、あんまり気にしなくても――」

 

「いや、そういう話じゃなくてね。

実は、今日やるつもりだったんだ。

けれどそのことを伊良湖とかと話して準備していたら、

いつの間にか次の作戦の前祝いみたいなパーティーと

一緒にされてしまってね……すまない」

 

「そうなの? ううん、大丈夫だけど」

 

確かに違う目的のついでみたいになってしまったら

よくないのかもしれないが、やってもらえるだけありがたいことだ。

 

「あの、何時か聞いてもいいかな?」

 

「それが、今夜なんだ」

 

「今日……」

 

「それと、こっちが本題というか大事なことで、

今夜のパーティーは作戦勝利の前祝いということで

たくさんの参加者がいるんだが、

由良の復帰祝いということもあるから、

由良に初めのほうで挨拶してもらうから――頼む」

 

そんなあ、という言葉を由良は胸の中で叫んだ。

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