作戦の必勝祈願も兼ねてしまった由良帰還記念立食会には、
駆逐艦クラスの艦娘10人、
軽巡クラス4人、
重巡クラス3人、
戦艦クラス2人、
軽空母クラス2人、
提督3人が参加する大規模な集まりとなった。なってしまった。
提督たちに続いて自分もスピーチをさせられたときは、
壇上で汗が止めどなく流れていた。
――というのは本人の談で、
周囲、特に第四水雷戦隊の娘たちから見た由良は、
普段からの期待を裏切らない、
品性のある堂に入ったスピーチだったのだが。
なにはともあれ、
はじめにやらされたスピーチのあとは、
みな思い思いに歓談していたので、
由良もそのように、友人たちと会話を楽しんでいた。
しかし少しの息抜きに食堂のバルコニーの近くに移動した時、
ねえ、と、強気な声で呼びかけられた。
振り返ると四人の娘たちがいた。
見た目のあどけなさから、
駆逐艦クラスと一目見てわかるが、
同じ駆逐艦クラスの娘たちとくらべても更に幼いだろうその見た目。
しかし特III型駆逐艦の名に恥じない優秀な潜在能力と、
それに満足しない努力とチームワークで活躍する、
第六駆逐隊の艦娘たちだった。
「あら? 永恵さんと一緒じゃないの?」
「子供扱いしないで。
今は武美さんが休んでて、
永恵さんと第一〇戦隊を編成しているけど、
別にいつも旗艦がいなきゃだめじゃないのよ?」
「あ、そうね。ごめんなさい」
つい、本来は小学5年生の彼女たちを見ると、
保護者がいなくていいのかと思ってしまった。
しかしそれも失礼だったかと悪びれていると、
彼女たちの間でも、
真っ先に口を開いてきつい言い方をした朱美を、
真響が諌めていた。
「Извините――ごめんなさい。
私たち、由良に謝らなきゃって思って来たんだ」
「え、なんのこと?」
なんだろうか?
一応彼女たちとは作戦で一緒になったこともあるが、
特段、何かあったということは思い出せない。
しかし首をひねる由良の前で、
真響は脱帽し、頭を下げた。
「あのとき私たちはちゃんと状況を確認せず、
適当なことを言ってしまった。
申し訳なかった、由良さん」
「ごめんね? あ、いや、ごめんなさい」
「申し訳ないのです……」
「え、え? なんのこと……」
真響に続き、鶫、燕にも頭を下げられる。
しかし由良は彼女たちがいつのことを言っているのか見当がつかない。
救いを求めるように、
まだ頭を下げていない朱美を見るが、
「その……司令官は謝る必要はないって言ったし、
朱美もそうは思っうんだけど、
まあ、でも、
私たち――ううん、私のミスだったことは謝るわ」
そうして朱美にも、
頭を下げられはしないこそ、謝られてしまう。
自分よりも大分幼い少女たちに謝られる状況。
むしろ罪悪感ばかり感じて、いたたまれない気持ちになった。
「ね、ねえ!
みんなさっきからいつのことを言ってるの?」
強く問いかけると、
彼女たちにきょとんとした目で見られた。
「хорошо――覚えてないの?」
「もしかして負傷の影響?」
「はわわわ。大変なのです」
「はあ……その、由良さんが沈んだ……じゃなくて、
大怪我した時のことを言ってるんだけど」
自分が沈んだ時。
あの時は敵艦載機の爆撃を受けて……
そういえばわりと突出していた気がする。
何故かといえば――
「――あのとき、こちらが優勢なので前進する、
みたいな通信を受けたんだっけ……って、
そういえばあれはみんなから――」
思い出しながらそう口にしていると、
少女たちの表情が陰っていた。
そこでようやく由良にも合点がいった。
しかしそれは、
「でも、あのときは仕方なかったんじゃないの?
私だって油断していたのだし……」
「そ、そうよね!
朱美たちは悪くないわ。
――って何よみんな」
「朱美……」
高飛車に言う朱美に、
また真響たちの冷たい視線が向けられる。
しかし本当に、あの混乱した戦況では仕方のなかったことだ。
朱美の態度は由良でも生意気に思えるが、
本来なら謝りに来ることでもないし。
「ま、まあまあ。
みんなの気持ちはわかったから、
今度からはお互い気をつけましょう?
今回は、私は戻ってこれたってことでね、ね?」
「……まあ、そうよね」
鶫がほっと息を吐きながら言う。
「あんまり謝ってばかりもだめよね?
今日は、本当はおめでたい集まりなんだし、
本当はこんな話自体したらダメな気もしたし。
――そうそう、由良、
全快おめでとう。また一緒に頑張ろ」
「え、お姉ちゃん……」
「ほらほらつばも。
燕だってもし誕生日に、
誰かに謝られたら気まずいでしょ?」
「う、うん……じゃあ、
由良さん。元気になって良かったなのです。
あの、これからも、どうかよろしくお願いいたします」
「Извините。全快おめでとう、由良」
「おめでとう、と言っておくわ」
「――うん。
これからも頑張ろう。ね、みんな」
反省ムードは去って、
周囲の賑やかな談笑の声もまた聞こえてくる。
じゃあ戻ろうか、と言おうとしたところで、
真響が先ほどと違い、
なにか興味津々な視線を向けてきていることに気付いた。
「……どうかしたの?」
「由良がどうやって復活したのか気になるんだ」
「そ、そうなの?」
「うん、不死鳥としては是非聞いておきたい」
「不死鳥?」
驚き、どういうことだろうかと、
他の娘の顔を見ると、
彼女たちはそれぞれ苦笑を由良と真響を見ていた。
「真響の通り名なんですって、不死鳥って」
「響、時々大破するんだけど、でも轟沈はしないから」
「響お姉ちゃんみたいにつばも怪我してたら、
きっともうここにはいない気がするから、
響お姉ちゃんはすごいのです……多分」
朱美と鶫は呆れ顔。
特に朱美の表情を見るに、
「不死鳥」と二つ名を名乗ることが、イタい、のだろう
燕は真響の活躍は褒めているが、
姉役ふたりが言うように、
二つ名は少し恥ずかしいと思っているようだ。
「ま、まあ、いいんじゃない?
でも、そんな劇的な復活でも……」
――ないのだろうか?
――そもそも、「復活」したことを話してはいけないのだし。
ごめんね、と罪悪感を覚えながら言おうとした。
しかしそれに続く言葉を口にする前に、
彼女たち以外の人間がそこに現れた。