「私も気になりますねー。どうなんですか、由良さん?」
カメラを手に、
人の良さそうな笑みを浮かべながら現れるキュロットの艦娘。
「む、不死身の青葉」
「こんばんはです、不死鳥さん」
「青葉さん……」
青葉は一旦由良から真響に向き直り、
膝を曲げて不敵な笑みを浮かべる彼女と握手を交わした。
不死身の青葉。
真響に関してもそうだが、通り名は知らずとも、
彼女たちがそういう戦歴を持つことは風のうわさに聞いていた。
特に青葉に関しては――そう、
一度沈んだとすら言われていた気がする。
それは、今の由良と同じではないだろうか?
「で、どうでしょう?
恐縮ですが、いくつか御質問にお答えいただけないでしょうか?」
にこにこ、と。
その笑みだけを見れば、単なる親愛。
口調は少し卑屈。
しかし彼女の目に、由良は底知れない何かを感じた。
「え……あの」
「話しづらいことがありますか?
なら場所を変えましょうか?
大丈夫です、この青葉、
お聞きした内容は記事以外では漏らしませんし、
記事は公開前に一度作戦本部などに閲覧してもらいますから、
機密などの心配もありませんよ?」
「あの――」
「青葉は知りたいんです」
言いながら彼女は由良との距離を詰め、
耳元に囁きかけるように問うた。
「――虚数の海中には何が見えましたか?」
――彼女は知っている。
由良は直感した。
青葉は由良がここに立つ本当の理由を知っている。
なぜか?
同じく虚海に触れた者として共鳴するものがあるとでも言うのか?
その考えを由良は否定できなかった。
由良自身もまた、青葉に近しいものを感じることができるからだ。
あの、すべてが自分たちの生きる実時空と直交した、
冷たくも安らぎに満ちた世界の気配――
由良の人間的な部分がそれに拒絶する。
拒絶と魅惑に挟まれ由良の心は悲鳴をあげ、
身体から力が抜ける……
「おっと。――大丈夫、由良?」
倒れかけた由良を、いつの間にか現れた玲奈が支えた。
女性であるにも関わらず、力強さを感じさせる腕力。
防衛大学に籍を持つ幹部候補生ではあるが、
きちんと身体の鍛錬も怠らない彼女だからこその頼もしさだった。
「立てる?」
「――はい」
玲奈の手を握りながら足に力を入れる。
物理的な支えよりも、
彼女という存在による精神的な支えが由良を立ち直らせた。
「あらあら。どうしちゃいましたか?」
白々しいような言い方で心配する青葉。
なんでもありません、と答えようと思ったが、
青葉の目を見てしまうとまた言葉が詰まる。
――そこにあるのは渇望だった。
手の届かない、届いてはいけない場所を求める狂的な欲求。
「どうしかした? 医務室、行こうか?」
青葉の瞳の奥に蠢くものを知ってか知らずか、
なおも怖れ顔を青ざめる由良に、玲奈は静かに問いかける。
「……そうね。少しだけ、席を外します」
「あの」と青葉。
「御一緒してもいいですか」と言おうとしたのだろうか。
しかしそのまえに、
「すまない、皆。
由良は主賓だが、一時、私に預からせてほしい。
皆は引き続き楽しんで」
玲奈が青葉や第六駆逐隊の少女たちに言った。
すると青葉も食い下がることなく、
ただ底知れない笑みを顔に張り付かせて由良を見送った。