非在の海 -第四水雷戦隊戦記-   作:白亜迩舞

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<2-4-2 留まりつつも愁う者>

 

「私も気になりますねー。どうなんですか、由良さん?」

 

 

 

カメラを手に、

人の良さそうな笑みを浮かべながら現れるキュロットの艦娘。

 

「む、不死身の青葉」

 

「こんばんはです、不死鳥さん」

 

「青葉さん……」

 

青葉は一旦由良から真響に向き直り、

膝を曲げて不敵な笑みを浮かべる彼女と握手を交わした。

 

不死身の青葉。

 

真響に関してもそうだが、通り名は知らずとも、

彼女たちがそういう戦歴を持つことは風のうわさに聞いていた。

特に青葉に関しては――そう、

一度沈んだとすら言われていた気がする。

 

それは、今の由良と同じではないだろうか?

 

「で、どうでしょう?

恐縮ですが、いくつか御質問にお答えいただけないでしょうか?」

 

にこにこ、と。

その笑みだけを見れば、単なる親愛。

口調は少し卑屈。

しかし彼女の目に、由良は底知れない何かを感じた。

 

「え……あの」

 

「話しづらいことがありますか?

なら場所を変えましょうか?

大丈夫です、この青葉、

お聞きした内容は記事以外では漏らしませんし、

記事は公開前に一度作戦本部などに閲覧してもらいますから、

機密などの心配もありませんよ?」

 

「あの――」

 

「青葉は知りたいんです」

 

言いながら彼女は由良との距離を詰め、

耳元に囁きかけるように問うた。

 

 

「――虚数の海中には何が見えましたか?」

 

 

――彼女は知っている。

 

由良は直感した。

青葉は由良がここに立つ本当の理由を知っている。

 

なぜか?

同じく虚海に触れた者として共鳴するものがあるとでも言うのか?

 

その考えを由良は否定できなかった。

由良自身もまた、青葉に近しいものを感じることができるからだ。

あの、すべてが自分たちの生きる実時空と直交した、

冷たくも安らぎに満ちた世界の気配――

 

由良の人間的な部分がそれに拒絶する。

拒絶と魅惑に挟まれ由良の心は悲鳴をあげ、

身体から力が抜ける……

 

 

「おっと。――大丈夫、由良?」

 

 

倒れかけた由良を、いつの間にか現れた玲奈が支えた。

女性であるにも関わらず、力強さを感じさせる腕力。

防衛大学に籍を持つ幹部候補生ではあるが、

きちんと身体の鍛錬も怠らない彼女だからこその頼もしさだった。

 

「立てる?」

「――はい」

 

玲奈の手を握りながら足に力を入れる。

物理的な支えよりも、

彼女という存在による精神的な支えが由良を立ち直らせた。

 

「あらあら。どうしちゃいましたか?」

 

白々しいような言い方で心配する青葉。

なんでもありません、と答えようと思ったが、

青葉の目を見てしまうとまた言葉が詰まる。

 

 

――そこにあるのは渇望だった。

 

 

手の届かない、届いてはいけない場所を求める狂的な欲求。

 

 

「どうしかした? 医務室、行こうか?」

 

青葉の瞳の奥に蠢くものを知ってか知らずか、

なおも怖れ顔を青ざめる由良に、玲奈は静かに問いかける。

 

「……そうね。少しだけ、席を外します」

 

「あの」と青葉。

「御一緒してもいいですか」と言おうとしたのだろうか。

しかしそのまえに、

 

「すまない、皆。

由良は主賓だが、一時、私に預からせてほしい。

皆は引き続き楽しんで」

 

玲奈が青葉や第六駆逐隊の少女たちに言った。

すると青葉も食い下がることなく、

ただ底知れない笑みを顔に張り付かせて由良を見送った。

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