がくん、と、身体が落ちる感覚で目覚める。
目を開ければ、30人ほどの同じ服を着た少年少女たちが、
机に座って黒板を見ている風景。
――学校の風景。
今の由良のいる場所。
(いけない……ちゃんと授業受けなきゃ)
腕で支えていた姿勢を正し前を見る。
しかし鉛のような倦怠感と、
麻痺するような奇妙な浮遊感に、
由良はため息を禁じ得ない。
――撃沈による後遺症だ。
複素時空における活動を可能としていた艦娘が、
船体を失うことによる神経異常。
撃沈の後遺症の強さは元艦娘によって個人差があるが、
由良のそれは平均より強く、沈んだばかりのころは
日常生活に支障をきたすほどの異常があった。
専門の治療を行う海自の施設でリハビリをして、
今は一応回復しているが、時折こうした症状の残滓がある。
重い体を肘で支えながら、
由良は授業を密かに放棄して窓の外を見やった。
遠くに水平線が見えた。
空の蒼と海の碧の境界線は、
太陽の光を受けて、
銀の粉を撒き散らしたかのようにキラキラと輝いている。
その水平線は由良が長く見てきた虚数の水平線とは違うけれど、
しかし実数の水平線の向こう、
広大な複素数の世界で、
今も仲間たちは戦っているのだろうかと
――我知らず、思ってしまった。
みんな、怪我をしたりせず、無事でいるだろうか。
そして提督さん。
玲奈も、元気にしているだろうか。
昼休み、
クラスメイトに顔色が悪いことを心配されつつ
一緒に昼食を取る。
食事をすると血糖値が増えたせいか、やや体調は戻った
それでもまだ顔色が悪いと言われた。
――今日は少し酷いかも。
後遺症があるとはいえ、
いつもこう酷いわけではない。
いつもこれだったら、
まだ海自の施設でリハビリを受けていなければならないぐらいだ。
とはいえ、そういう日もある。
特に月の日など、別の要因で身体の調子が悪くなる時は、
後遺症も重なって強くなる。
――でも、なんだろう。
――あの気配が、する。
いつも冷たくて、
だけどどこか懐かしかった、あの場所。
――今日はやっぱりダメかも。
友達も心配させてはいけない。
蒼の戦場から遠退き、
編入したこの学校でできた友達。
戦っていたのは1年程度だったけれど、
久しぶりにまったく普通の、
虚空間など関係ない世界の学校では、
馴染めるだろうかと少し不安だった。
しかし彼女たちは親しくしてくれた。
大事にしたいと思う。
友達と別れ、保健室に向かう。
その途中で担任の教師と会った。
体調が優れないので少し休みます、と、
挨拶代わりに伝えると、
由良に来客があることを担任は言った。
とても大切な客だから、会ってほしいと。
相手の名前を聞いた時、
どきん、と、彼女の心臓は高鳴った。