そこまで一息に話した玲奈は、
静かに、深く、息を吐いた。
「……これが、私の知っているすべて」
由良は顔をあげない。
けれど、ぽつりと、彼女は言う。
「……実は、
第四水雷戦隊にみんなに黙っていてもらったことがありました」
「……何?」
「私、あの夜戦の時に直撃弾を受けたんです。
けど……私の損傷は「小破」でしたね」
「直撃弾で――!?」
戦艦クラスであれば、
直撃弾でも一発なら小破で済む時がある。
だが、軽巡クラスならそういうわけにはいかない。
「……何が、あったの?」
玲奈の声には、はっきりとした動揺が滲んでいた。
それに対し、由良は静かに答える。
「端的に言えば「避けた」のです。
けれどそれは……3次元的な回避ではなく、
戦場である複素時空から「いなく」なることで避けたんです」
「いなく……なった?」
なかば縋るように、
玲奈は由良の手を取った。
――由良は震えていた。
「提督さん……私、まだここにいれるかな」
「由良――当然だよ。
由良は、私たちの旗艦なんだから」
玲奈は殊更に強く答えた。
切なく問いかける彼女を、絶対、これ以上不安にさせないために。
そんな玲奈の想いを受け、
由良は玲奈の手を強く握ってから立ち上がった。
消えない不安はあるが、それでも今は立つことができた。
「そうね……私、ここにいるね。
私だって、いなくなりたくはないし」
「――由良」
手を握ったまま戻る途中で、
玲奈はためらいながら問うた。
「その、いなくなる、というやつは、
……自由にできるの?」
「――うん」
一呼吸の間。
しかしそれほど迷う様子もなく、由良は答えた。
「複素時空にいればできると思う。
私にとってそれはすでに、
ジャンプしたり、前転したりするみたいな自然な感覚になりつつあるから。
でも普段はやろうと思わないけど」
なぜなら、「存在」という確率の上を飛び跳ねていれば、
いつか誤ってその確率から落ちてしまうだろうから。
「きっと、「いなく」なることに慣れたら、
私は「いなく」なっていることが自然になると思う」
すなわち「いない」ことが常になる。
由良という存在はこの世界から――消える。
「馬鹿な……っ」
「うん。だからこの力は使わないようにして、
同時に、常に自分がいる場所に、
居続けたいと思わないといけないんだわ」
「ああ……そうだね」
「――でもね、玲奈」
そこで由良は立ち止まる。
外灯の遠い薄暗い場所。
星の瞬きがよく見える、潮騒の満ちる場所で、
由良は決然とした口調で言った。
「私は必要ならば、迷わずこの力を使うと思う」
「そんな――どうして!?」
「だって、この力ならどんな攻撃だって無効化して、
そして攻撃の直後っていう一番の隙に攻撃できる。
私は、みんなを守って、勝って、
みんなと、提督さんと一緒にいるために、
「いなく」なる力を使うの」
「いるために――「いなく」なる……」
「矛盾しているね。ね?」
静かに微笑を浮かべる由良。
玲奈は彼女の手を強く握り、こう言うしかなかった。
「私が……由良を、みんなを危険な目には合わさないから。
だから、お願いだから、ここにいてほしい」
「うん……ありがとう。提督さん」
答える由良の姿は、どこまでも儚く、朧に見えてしまった。