非在の海 -第四水雷戦隊戦記-   作:白亜迩舞

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<2-5-2 由良の告白>

そこまで一息に話した玲奈は、

静かに、深く、息を吐いた。

 

「……これが、私の知っているすべて」

 

由良は顔をあげない。

けれど、ぽつりと、彼女は言う。

 

「……実は、

第四水雷戦隊にみんなに黙っていてもらったことがありました」

 

「……何?」

 

「私、あの夜戦の時に直撃弾を受けたんです。

けど……私の損傷は「小破」でしたね」

 

「直撃弾で――!?」

 

戦艦クラスであれば、

直撃弾でも一発なら小破で済む時がある。

だが、軽巡クラスならそういうわけにはいかない。

 

「……何が、あったの?」

 

玲奈の声には、はっきりとした動揺が滲んでいた。

それに対し、由良は静かに答える。

 

「端的に言えば「避けた」のです。

けれどそれは……3次元的な回避ではなく、

戦場である複素時空から「いなく」なることで避けたんです」

 

「いなく……なった?」

 

なかば縋るように、

玲奈は由良の手を取った。

 

――由良は震えていた。

 

 

「提督さん……私、まだここにいれるかな」

 

 

「由良――当然だよ。

由良は、私たちの旗艦なんだから」

 

 

玲奈は殊更に強く答えた。

切なく問いかける彼女を、絶対、これ以上不安にさせないために。

 

そんな玲奈の想いを受け、

由良は玲奈の手を強く握ってから立ち上がった。

消えない不安はあるが、それでも今は立つことができた。

 

 

「そうね……私、ここにいるね。

私だって、いなくなりたくはないし」

 

 

 

 

「――由良」

 

手を握ったまま戻る途中で、

玲奈はためらいながら問うた。

 

「その、いなくなる、というやつは、

……自由にできるの?」

 

「――うん」

 

一呼吸の間。

しかしそれほど迷う様子もなく、由良は答えた。

 

「複素時空にいればできると思う。

私にとってそれはすでに、

ジャンプしたり、前転したりするみたいな自然な感覚になりつつあるから。

でも普段はやろうと思わないけど」

 

なぜなら、「存在」という確率の上を飛び跳ねていれば、

いつか誤ってその確率から落ちてしまうだろうから。

 

「きっと、「いなく」なることに慣れたら、

私は「いなく」なっていることが自然になると思う」

 

すなわち「いない」ことが常になる。

由良という存在はこの世界から――消える。

 

「馬鹿な……っ」

 

「うん。だからこの力は使わないようにして、

同時に、常に自分がいる場所に、

居続けたいと思わないといけないんだわ」

 

「ああ……そうだね」

 

「――でもね、玲奈」

 

そこで由良は立ち止まる。

 

外灯の遠い薄暗い場所。

星の瞬きがよく見える、潮騒の満ちる場所で、

由良は決然とした口調で言った。

 

「私は必要ならば、迷わずこの力を使うと思う」

 

「そんな――どうして!?」

 

「だって、この力ならどんな攻撃だって無効化して、

そして攻撃の直後っていう一番の隙に攻撃できる。

私は、みんなを守って、勝って、

みんなと、提督さんと一緒にいるために、

「いなく」なる力を使うの」

 

「いるために――「いなく」なる……」

 

「矛盾しているね。ね?」

 

静かに微笑を浮かべる由良。

玲奈は彼女の手を強く握り、こう言うしかなかった。

 

「私が……由良を、みんなを危険な目には合わさないから。

だから、お願いだから、ここにいてほしい」

 

「うん……ありがとう。提督さん」

 

答える由良の姿は、どこまでも儚く、朧に見えてしまった。

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