非在の海 -第四水雷戦隊戦記-   作:白亜迩舞

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<2-7-1 兆し>

かくして、第二次飛行場型姫種深海棲艦討伐作戦、

作戦名「ソロモン」が発令された。

 

飛行場姫はソロモン諸島の北、

ミクロネシアとの中間あたりの海域にいた。

 

普段なら日本近海か、

重要な航路と重なる位置にいる深海棲艦を叩くのが、

海上自衛隊の艦娘運用の方針であり、

それより遠いソロモン海などは、

深海棲艦がいても無視していい場所だった。

 

しかし基地クラスの深海棲艦となると、

その影響は計り知れないものもあった。

南方海域の深海棲艦を放置することでその一部が徐々に北上し、

フィリピン沖に進出していることも無視できることではなく、

海幕は作戦に踏み切った。

南方海域における大規模な深海棲艦の根絶ないしは

漸減の作戦はもはや必然となっていた。

 

 

――艦娘たちによる連合艦隊はトラック泊地に集合し、出撃した。

 

 

由良たち第四水雷戦隊は、

主力である第一一戦隊と、

その直衛となる第一〇戦隊と行動し、

それらの先頭を行き早期警戒を行う任務を負った。

 

言わずもがな、それはかなりの危険を伴う任務で、

四水戦はいつも以上に緊張していた。

特に恋梅と阿美の緊張は見ていて哀れになるほどだった。

しかしそれを見た由良は、努めて平静な様子を見せて

仲間たちとのコミュニケーションを取り続けたので、

やがて四水戦の緊迫したムードは和らぎ、

ほどよい緊張と高揚のなかで艦隊は進み続けた。

 

しかしその雰囲気も、

海域に近づくに連れて降りだしたスコールによって吹き流された。

 

 

「もう……! あたしの前髪が!」

 

 

阿美はスコールの中でそう叫んだが、

誰にも届かなかった。

 

艦娘は基本的に甲板のどこかにいる必要がある。

船体内部にいても外の様子が見えないからだ。

 

しかしそうすると、雨風が激しい時は

兵装の下に隠れるなどでしかそれらを防ぐ方法がない。

 

とは言っても、

ホーキングシステムにより展開されている虚海では

時間すら思うように操れるのだから天候もまた自由であり、

ほとんどの場合、快晴で固定されているはずだった。

 

しかしこの時はスコールが艦隊を襲った。

悪天候下での航行の経験が訓練以外にほとんどないことと、

少女らしいデリケートさによるメンタルの低下から、

艦隊は少なからぬ混乱に陥った。

 

スコールは一時間以上振り続けた。

羅針盤は生きていたので作戦海域の近くまで来ることはできたが、

思い思いに進んだため陣形は乱れきっていた。

 

スコールが収まると、それを見計らって全艦娘の統括指揮を担う「比叡」から

陣形を急いで正すように指示が出た。

 

だがここで、またしてもイレギュラーが発生していた。

 

天候は収まっていたが、

空に太陽がなく周囲は闇に閉ざされていたのだ。

 

すでに敵陣近く、

うかつに探照灯をつけたり、旋回して離脱することが難しい状況。

 

そして、

 

 

「――あれ? 敵がいるっぽい?」

 

 

由良はどこにいるかもわからない夕羽の発言を

通信役の妖精を通して聞いた。

 

「いるっぽいって……!

夕羽ちゃん、どこにいるの!?」

 

「わかんないよぉ。

だって真っ暗で……みんなの機関音は聞こえるよ?

でも、それに混ざって深海棲艦の音も聞こえる」

 

「……了解。

夕羽ちゃんはまだ交戦は控えて、

味方の誰かを見つけることを優先して。

――「比叡」さん、どうしますか?」

 

「ど、どうするって……、

私からも皆さんのこと見えないんですよ!

うう、お姉様だったらこんなとき……」

 

 

立て続けのイレギュラーの果ての接敵。

旗艦の「比叡」が同様を露わにしたせいか、

艦隊の動揺がいや増して強くなった。

 

それを同行していた同じ金剛型の戦艦である

「霧島」の艦娘が一喝する。

 

「落ち着いてください、叡代!

そんな様子ではなおのこと、

カナリアに追いつくことなどできませんよ!?」

 

「は、はい! ――わかりました。

では全艦、まずは戦闘準備です!

状況が混乱していますので、

防御力を維持するために夜戦形態はなし。

味方が近くにいる人はそれに基づいて転舵し、

いつでも全力で砲雷撃を行えるよう準備してください!」

 

その号令が下った時、

由良は五月雨を見つけていた。

 

「恋梅ちゃん! ――こちら「由良」。私が見える!?」

 

「あ、由良さん! 由良さんなんですか!?

良かったぁ。もう暗くて暗くて……怖かったです!」

 

「うん。大丈夫よ。他の人は見た?」

 

「いえ、私からは全然。

でも、白は阿美ちゃんと一緒にいるみたいです」

 

「じゃあ……夕羽ちゃんだけが誰とも組んでないのね?」

 

「そうっぽい?

うん、でも、大丈夫ですよ!」

 

通信の向こうでは、彼女は元気そうだった。

だが由良の胸は得体のしれない予感でざわついて仕方なかった。

 

 

「――第四水雷戦隊の全艦に告ぎます」

 

 

動揺を必死で抑えながら、由良は旗艦としての務めを果たす。

 

 

「交戦が始まったら、戦闘は僚艦と連携を取りつつ各自で行ってください。

私、「夕立」との合流を優先しますが

各艦は戦闘以外の目的では動かず、

自分と、近くの艦を守ることを優先してください」

 

「「五月雨」了解しました。

私は由良さんと一緒に夕羽ちゃんを探せるんですね!」

 

「「村雨」了解。

あたしも夕羽のこと探したいですけど……仕方ないですね」

 

「「阿武隈」了解です。

敵のことは私たちに任せて、由良お姉ちゃんと夕羽ちゃんは

早く合流してね」

 

「「夕立」はどうすればいいっぽい?」

 

「夕羽ちゃんはなるべく敵から離れて、

近くに味方がいたら誰でもいいからその艦と合流して。

絶対に無理して戦ったらだめ!」

 

「わかったよ」

 

 

「――では皆さん! 気合、入れて、行きますよ!」

 

 

第四水雷戦隊の各艦が連絡を取り終えたとほぼ同時に、

「比叡」が合図を出し、探照灯を点灯させた。

 

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