非在の海 -第四水雷戦隊戦記-   作:白亜迩舞

28 / 49
 


<2-9-1 撤退の代償>

鎮守府に戻り、朱美を医務室まで送ったあと、

第四水雷戦隊の艦娘たちは自分たちの提督が待つ作戦室まで走った。

 

 

「――遅い帰還、いや、早いというべきか」

 

 

しかし司令室で彼女たちを迎えた声は、

彼女たちが慕う凛々しくも優しい声ではなく、

不機嫌さと嘲笑が入り混じったざらざらとした男性の声だった。

 

「玲奈――佐藤提督はどちらですか?」

 

男性は執務机を背にして、窓際に立っていた。

その机には、本来いるべき人の姿はない。

司令室には巌のような大柄の男性と

娘たちしかいなかった。

 

「佐藤提督は、謹慎中だよ」

 

彼は娘たちに振り返ることなく言った。

 

「え、どうして……!?」

 

「彼女は君ら第四水雷戦隊を帰投させた。

作戦中であるにも関わらず、独断で。

しかも艦隊と共に退却するならともかく、

彼女は君らに艦隊とは関係のない行動を許可した。

これは規律に反することであり、処分を受けるのは当然だ」

 

「そんな!

私たちは消耗が激しく、さらには重篤者を保護していました。

それに私たちも艦隊の主力への敵勢力の集中を避けるべく、

敵勢力の一部を引きつけ、戦艦1の撃沈の成果も上げました。

なんの問題があるというのですか!?」

 

 

「――君らは戦況を理解しているのか?」

 

 

怒鳴るわけではない。

しかし低く威圧する声。

 

由良の背後からは、

少女たちが怯えたように息を飲む気配が感じられた。

由良もまた怯まなかったわけではないが、

ぐっと奥歯をかんでそれに抗った。

 

 

「……どうなっているんですか、戦況は?」

 

「どうなっているだと?」

 

今まで背中を見せ続けていた男性が、

半身を向け視線で少女たちを射抜く。

 

「まず、君らも参加した始めの攻撃で、

戦艦「比叡」は操舵不能になり、

満足に航行できなくなったところを、

敵の航空部隊に集中攻撃されて沈んだ」

 

「……!」

 

「さらには、時間差で別方面から出撃した部隊のうち、

重巡「衣笠」が帰投の最中に爆撃を受けて沈んだ。

この部隊は他の艦も大きな損傷を受けている。

しかし彼女らは本丸である飛行場型深海棲艦の攻撃に成功し、一矢報いている。

それに対して君らは――敵を引きつけ、戦艦を沈めた?

その程度の戦果で、艦隊の損害に対して、

自らの独断専行を認めさせようというのか?」

 

「……」

 

由良は何も言わなかった。

 

 

「どうした、黙っているだけか?」

 

「ちょっと! 黙って聞いてれば勝手なこと――」

 

「阿美ちゃん、黙って」

 

「――!?」

 

 

――反論しても無駄だ。

 

目の前の男性は、第四水雷戦隊に非があると

決めつけてかかってきている。

充分な証拠がなければ彼とは議論することすらできないだろう。

 

しかし、と由良は内心で考えながら男性を見る。

彼はなぜここに来たのか?

第四水雷戦隊に文句を言うだけなら、わざわざここに来ないだろう。

それはつまり、何か言いたいこと――要求があるのだ。

 

 

「――それで、私たちの失点を補うためには、

どのようにすればいいのでしょうか?」

 

 

その言葉に、我が意を得たりと言わんばかりに、

彼は口角をわずかに持ち上げるようにして笑った。

 

「話が早いな。

――簡単なことだ。

もう一度出撃し、戦果をあげろ。

そうすればこの件は不問とし、

佐藤提督の謹慎も直ちに解除する」

 

「わかりました――ですが、

出撃するのは第四水雷戦隊の全員でしょうか?」

 

「……ふん」

 

男は少女たちを――艦娘たちを、

値踏みするように凝視した。

彼の視線は人を見る目付きではなかった。

武器を見る目付きだった。

 

「旗艦の君は必ず出撃せよ。

あと、無傷な艦――、

時雨と夕立か。

他の艦は船渠で能力検査を速やかに受け、

能力が向上しているものだけ出撃せよ。

とりあえず少数の編成になるが、

あとは作戦時の状況を見て編成を指示する」

 

「――能力が向上している、とは?」

 

「「由良」――聡明な貴艦であればわかるだろう?」

 

 

そう言って彼は立っていた窓際を離れ、

由良の肩を叩いてから部屋を出て行った。

 

 

「なにあいつ。感じ悪いっぽい」

 

 

彼の足音が聞こえなくなってから、

夕羽が不満を露わにそう言った。

 

なんだったのかしら、と白。

恋梅は恐怖と失望で声を失っているようだった。

 

「由良お姉ちゃん……行くの?」

 

阿美は男性のことよりも由良のことを考え、発言した。

 

「――行くよ」

 

「でも、由良さんも怪我をしているのに」

 

恋梅も心配を露わにしている。

他の少女たちも恋梅と阿美の言葉で、

心配そうに由良を見るようになる。

それらに対して、由良は柔らかく頬笑んで応える。

 

「大丈夫。私は旗艦なんだから、

艦隊の誰かが出る限りは、

私も出撃する――したいの。

それに怪我なら、高速修復材を使うから大丈夫よ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。