『霧島より作戦中の全艦に告ぎます』
『これより、我々は本攻撃の最後の攻撃を行います』
『まず、飛行場姫攻撃隊として第四水雷戦隊「由良」「夕立」が
現段階における主力とします。
詳細は省略しますが、「由良」が飛行場姫と接触することが
本作戦勝利の最低条件です』
『残りの各艦は可能な限り「由良」の支援をしなければなりません。
しかし、飛行場姫を含め他の敵艦を撃沈する必要性は少ないです。
各艦は「由良」を支援しつつも、危険ならば速やかに撤退することもできます』
『よって、第三水雷戦隊および「時雨」は現在孤立している「綾波」の支援を
最優先として、可能ならば敵を引きつけてください』
『そして「愛宕」を旗艦に、「高雄」「長良」「電」を
邀撃ないし足止めを行う挺身艦隊として編成します』
『挺身隊は可能な限り敵の中枢の間近で「由良」を支援し、
特にいま現れている超戦艦級の深海棲艦――仮称を戦艦棲姫としますが、
これを飛行場姫と引き離すことに注力してください。
しかし、決して無理して撃破を狙わないでください』
『以上――では、作戦を開始します!』
『砲雷撃戦、用意!』
『主砲、撃てぇーぃ!』
霧乃に号令させたあと、
飛行場姫に接近するため一度逃げた航路を戻り始めると、
そこには戦艦棲姫が戻ってきていたが、
挺身隊の2隻の重巡洋艦が戦艦棲姫に砲撃を行っていた。
『燕、雷撃戦、用意!』
『雷撃戦、なのです!』
重火力の砲撃戦の足元を縫うように走り、「長良」と「電」が魚雷を発射する。
放たれた雷撃は、まず戦艦棲姫にも護衛を沈めた。
軽巡や駆逐艦級であるそれらは本来は足が速く魚雷を当てるのは難しいが、
先に霧乃が殴っていたせいか消耗が激しく次々と雷撃の餌食となった。
そしてとりあえずの護衛がいなくなると、
残った魚雷は戦艦棲姫へと突き進む。
戦艦棲姫は重装甲と火力の分、動きは鈍く、
魚雷の直撃を受け、少なからずの動揺を見せた。
「お、いけるっぽい!?」
由良を待つ間、挺身隊に混じって砲戦を行っていた夕羽は、
由良に合流しつつ興奮した様子で戦艦棲姫との砲雷撃戦を評価した。
「いえ――まだよ」
(シズメ……!)
度重なる砲雷撃をくらって業火を纏いながらも、
戦艦棲姫はなおも悠然と砲を動かし、砲撃を行う。
豪雷の一撃。
16inchの砲撃はまさしく空を引き裂き、轟音を立て――「高雄」に突き刺さる!
『きゃぁぁぁぁ!』
『高嶺!』
『――まだ、沈みません!
ですが愛乃、勝手なようですが、そろそろ引き際でしょうかね』
『そうね……敵さんも集まってきたし、
由良さんはこっちに来たみたいだし、
――挺身隊、第三船速! 私に続いてくださぁい!』
「愛宕」と「高雄」が戦艦棲姫や他の敵艦に砲撃しながら距離を取り始めると、
「長良」と「電」もそれに追随し始めた。
「由良さん、そろそろ私も行きますね」
ちょうど「長良」と「由良」の航路が交差しそうなことを見計らって
霧乃が暇を告げる意味で言った。
「あ……霧乃さん、もしかして「長良」に飛び乗るつもり?」
「ええ。――大丈夫です。これ一回ぐらいなら、この身体でも」
船体が大破している以上、
霧乃の運動能力も大幅に低下している。
駆逐艦や軽巡の艦娘が大破した時には海面を走るなど無理だが、
戦艦であるせいか、大破していても体力はまだ残っているらしい。
「御武運を――」
「はい。必ず」
霧乃が「由良」から降りる。
「長良」と共に離れ行く姿を見送ったが
その由良の前途は決して開けたものではなかった。
「そろそろ夕羽の出番っぽい?」
今にも唸り声が聞こえそうな獰猛な声音で夕羽は言う。
しかし由良の判断では、夕羽を突撃させるにはまだ早かった。
だがこの瞬間、戦闘を避けつつ、
夕羽を連れたまま目の前の敵を突破することは難しかった。
どうする――?
「いいや――ここはあたしたちの番だ!」
由良の焦りが振りきれる前に、それは現れた。
闇に砲弾の姿が消え、不可視の死線が張り巡らされた水面を、
一片の恐れも見せず突撃してくる娘たち。
「さあ――あたしと夜戦しよ!?」
夜戦においては艦娘の中で右に出るもののいない彼女の砲弾は、
例え格上の重巡洋艦の装甲であっても容易く貫く。
そして彼女に追随する艦娘の砲撃もまた、
過たず敵艦を次々と沈めていった。
「閃華!? ――綾ちゃんは?」
「白雪に任せてきた。
――ありがと、由良。
あんたが時雨を先に綾のところに向かわせたおかげで、
綾はなんとか大破で食い止めて、撃沈はしないで生き延びたよ」
「そう――良かった」
霧乃は号令で、第三水雷戦隊には「綾波」の応援を優先させたが、
それよりも前に、由良は戦場に駆けつけた時点で
「綾波」の危機を悟り「時雨」を応援に向かわせていた。
それは先に綾が「因縁」と思わしき不穏な言動を見せていたことを
由良が思い出し、万が一にでもこれ以上沈む艦を出したくないと打った手だった。
閃華も警戒はしていたが、
戦況のおかげで危うく綾を守りきれないところだった。
「この借りは返す! 夜戦でね!」
「あはは……任せるよ」
もはや憂うこと無く暴れまわる夜戦の姫。
彼女を旗艦とし、敵を焼べた炎で三水戦は闇を照らす。
その向こうには「愛宕」を臨時の旗艦とした挺身部隊が戦っている。
「由良」と「夕立」の2隻だけの四水戦は、
多くの艦娘に守られて進んできたのだ。
「――いよいよね」
万感の想いで、由良はその言葉を口にした。
「うん――最高に素敵なパーティーにしましょう?」
闇に浮かび上がる巨大な影。
飛行場姫の姿をついに由良たちは捉えた。