非在の海 -第四水雷戦隊戦記-   作:白亜迩舞

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<3-3 阿美から由良へ>

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拝啓 由良お姉ちゃん

 

 

青い海!

白い砂浜!

輝く太陽!

ってやつよね。

私は暑いのそんなに苦手じゃないから、

たまには遠征でも作戦でもなく、

南に行って海で遊びたいなあって思ってるんだけど。

 

うん――だから――遊びに行くね。

 

聞いてください、お姉ちゃん。

今日、この手紙を書く前に第一水雷戦隊の

依武の率いる艦隊と演習があったんだけど、

私たちがA判定で勝ったんだよ!

 

そうしたら提督が海幕と話を付けてくれて、

第四水雷戦隊が南方海域で一定の戦果を上げたら

「由良」を編成することを認めるって

約束を取り付けてくれたの。

 

戦果を認める条件はまだ教えてもらってないけど、

何があっても、絶対由良お姉ちゃんに戻って来てもらうから。

 

この手紙を出したらすぐに出撃の準備するから、

多分、手紙より私達の方が先に着くかもだけど、

待っててね、由良お姉ちゃん。

 

 

阿美

 

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由良を取り戻しに行きたい、という阿美の言葉に、

玲奈はそうかと頷いた。

 

「演習に勝ったらする話があると言ったね。

それはそのことだったんだよ」

 

「え、そうなんですか?」

 

「そうだ。

私たち第四水雷戦隊は「由良」を取り戻す。

このことは海幕にも承認されているが、

しかし、その条件は四水戦が南方海域で九戦に遭遇した

時に明らかにされる」

 

「どういうこと?」

 

「さて……私にも何とも言いがたい。

だがこうなっては、まずは皆が南方で到達することが必要だ。

――まずは、南方海域と第九戦隊について復習しよう」

 

 

作戦室にて、玲奈は南方海域の地図を広げながら

真剣な顔で自分の麾下の艦娘たちに話す。

 

 

「知っての通り、由良はトラック泊地で第九戦隊に

配属されている。

手紙では気楽に書いてあったが、

実際には南方海域――マーシャル諸島沖などの海域は

日本近海や、少し離れたフィリピン沖などの南西海域

とは段違いの強さの深海棲艦がいる。

南方はこの間のソロモン作戦のような大規模な作戦でしか、

本来は出撃のない場所だ」

「しかし今、海幕は南方における強大な深海棲艦の

調査と討伐、および、一部の艦娘の進化的な力の発生を調査するため、

特殊な艦娘を集めた艦隊を編成し、トラック泊地で運用を始めた」

「わかるかい?

今、あなた達が――いや、私たちが挑もうとする相手とは、

そのような牛頭馬頭の徘徊する地獄のような海域であり、

艦娘の埒外すらも超えてしまった、

もはや人類からすれば「化物」としか言いようのない者達だ」

「皆の行動の結果に生じる責任はすべて私が取る。

けれども、あなた達の身に降りかかる物理的な危険は

取り払うことができない。

――それでも、行くんだね?」

 

 

「――行きます」

 

 

そう答えたのは、阿美ではない。

恋梅だった。

いつもは阿美以上におとなしく、優しい彼女が

提督の告げる冷徹な現実に毅然と答えを返した。

 

「提督や由良さんに迷惑をおかけしてしまうかもしれません。

それでも……私は行きたいです。

これ以上、由良さんと海幕のよくわからない

都合で離れてなんていたくないですし、

由良さんがそんな危険なところで頑張っている

というのも心配でたまりませんから……!」

 

「その結果――」

「――恋梅ちゃんがどんな危険な目にあってもいいのね?」

 

提督の言葉を遮って阿美は言った。

なぜなら、今、玲奈が言おうとした言葉は旗艦が言うべきだと思ったから。

 

阿美は水雷戦隊の旗艦だが、他の軽巡洋艦よりも幼く、経験不足だ。

だから、南方という危険な海域において、

旗艦として第二駆逐隊を守りきれるとは思えない。

それでも由良を迎えに行きたい阿美は、

「死んでもいいのか」と覚悟を迫らなければならないのだ。

 

「……大丈夫です。

私、いっぱい、いっぱい、頑張りますから!」

 

そして、恋梅に続いて白と夕羽も自分の覚悟を口にする。

 

「あたしももちろん行きます。

ていうか、いくら旗艦になったからって、

阿美ちゃんに心配されることじゃないかなって思います」

 

「え、それ、どういう」

 

「「夕立」ももちろん行くよ!

はっきり言って、今の「夕立」は「阿武隈」よりも強いっぽいし!」

 

「そんなあ……」

 

阿美は嘆息した。

――ああ、そうだ。みんなは私よりも強い。

ならば、私がするべきは覚悟を迫ることではなく、

精々恥ずかしい姿を見せないようにおっかなびっくり先頭を進むことで、

それはきっと今までと変わらないことなんだろう。

 

そう考えると、やっぱり自分には旗艦は合わないかもしれないと思った。

由良お姉ちゃんには絶対に戻ってきてもらわないと

もっと不名誉な立場になるかもしれないと、

新たな理由も付け加えて阿美は決意するのであった。

 

 

「まあ、今回は「阿武隈」が旗艦だ。

幸か不幸か最初で最後の大作戦となりそうだが、頼むよ、阿美」

 

「――はい!

長良型軽巡洋艦六番艦「阿武隈」、第四水雷戦隊を預かります。

必ず、作戦の成功と全員の旗艦をお約束します!」

 

 

阿美が提督に敬礼すると、第二駆逐隊の艦娘たちもならって敬礼をした。

それを見て玲奈は頷き、号令した。

 

 

「第四水雷戦隊、出撃せよ!」

 

「「はい!」」

 

 

そして娘たちは歴史にも語られない、

彼女たちだけの艦隊決戦へと出撃した。

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