非在の海 -第四水雷戦隊戦記-   作:白亜迩舞

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<3-5-1 南方海域>

『こちら第四水雷戦隊旗艦阿武隈、

四水戦は南方第三海域、第二深度まで進出』

 

『損傷の報告を』

 

『全体に軽微です。

艦隊は戦闘を可能な限り避けながら、

高速で航行を続けてきました。

そのため弾薬は多く残っていますが、

燃料を多めに消費しています』

 

『わかった。

現在、私が得た第九戦隊の活動報告から推測するに、

第九戦隊は第三深度にいるだろうと思われる。

引き続き敵艦隊に注意しつつ、第九戦隊の発見に努めなさい』

 

『了解しました』

 

 

四水戦はまたしても夜の海を航行していた。

通常、カルダノシステムでは時間帯を昼に合わせてある。

そのほうが艦娘が戦闘しやすいからである。

しかしこの海域では、

深海棲艦により昼から夜に改変されているようだった。

 

しかしこういった状況は、

戦闘を避けるには有効とも言えた。

 

昼間であればかなり遠くにいても敵艦に気付かれることがある。

しかし夜間であれば敵味方互いに気づきにくいし、

もし敵艦に気付かれても水雷戦隊ならば振り切ることは容易だった。

 

 

「もうちょっとっぽい?」

 

通信を聞いていた夕羽が言った。

 

「そうだね。……」

 

阿美は短く答えて、闇の中に感覚を研ぎ澄ませる。

 

 

――海のように満ちる、黒い闇の気配がざわめいている。

 

 

「――いる」

 

「敵ですか!?」

 

「わからないけど……何かいる。

数は5。

ちょうどここに来てる第九戦隊の数と同じ。

でも気配がちょっと違う?」

 

そこで「言われてみれば」と夕羽が反応する。

 

「うーん。

第九戦隊の人……、

由良さんがするような……しないような。

あ、そういえば私たちって青葉さんにも

会ったことがあるよね」

 

「そうねえ。でも、夕羽ちゃんはわかる?」

 

「……やっぱり、ちょっとむずかしいっぽい」

 

 

迷って、阿美は羅針盤を見る。

針は正体不明の影の方を向いている。

 

普通に考えれば、

その影が深海棲艦であることを針が示していることになる。

しかし今回探している相手は特殊な能力を持つ艦娘だ。

彼女たちは能力を得る副作用で、

深海棲艦に近い特性を持っていると四水戦には明らかにされている。

 

「――行こう」

 

阿美は決断した。

 

「い、行くんですか?」

 

「どのみち大型の相手じゃないから、

もし敵だったとしても油断しなければ大丈夫。

慎重に、でも、思い切っていこう」

 

「「はい!」」

 

 

第四水雷戦隊は転針して闇の中の影へと向かう。

 

影は始め四水戦と同じ方向に動いていたが、

四水戦が近づき始めると速度を遅くしたようだった。

 

距離6000。

砲撃戦を始められる距離だが、

双方ともに動かない。

緊張感のある静寂が闇に横たわっている。

 

 

「恋梅ちゃん、発光信号をお願い。

距離は現状を維持。

他の艦は私に続いて。接近を続けるよ」

 

「――わかりました」

 

 

妖精による通信は通信する艦どうしの妖精が互いに互いのことを

認識していないと不可能である。

それ以外の艦との通信には、

艦娘でも昔ながらの灯火による信号を行う。

 

とは言っても、実際に信号を行うのは妖精である。

艦娘はモールス信号を習うが、

それで自分から発信することは滅多にない。

砲撃や雷撃の操作を艦娘自らが行わないことと同じである。

 

 

――ワレヨンスイセン。

――ワレサミダレ。

 

 

モールス信号による信号が始まる。

数秒後、影の方で光が閃いた。

 

 

「――砲撃!

「五月雨」回避運動!」

 

「は、はい!」

 

 

「五月雨」の機関音が大きくなり、

船体が波飛沫をあげると動き出すと同時に、

「五月雨」の近くに水柱が立ち始める。

 

 

「ひゃあ~!」

「各艦、砲撃戦始め!」

「撃破しますか!?」

「そうね、少し派手にやろう!

でも、夜戦形態は使わないで」

 

静けさを吹き飛ばして艦砲が火を吹き始める。

遠く近い、着弾の水柱。

 

「わわ、至近弾!?」

「リ級はいるっぽい。一気に近づいて仕留める?」

「……」

 

本気で夜戦をするなら夜戦形態に移行するに限る。

しかし夜戦形態は被弾した時のダメージが大きいし、

敵を沈めることが今回の目的ではない。

 

しかし、射程に勝る重巡級相手に、

漫然と砲撃戦を行うのは危険だ。

 

「やっぱり、夜戦形態に移行。

全力で相手をやっちゃおう!」

「「了解!」」

 

――なんか簡単に決めちゃっているような。

 

でも、迷っちゃいけないとも思う。わかってる。

由良お姉ちゃんがそうしてたから。

彼女はいつだって凛々しく、賢く、

最適な決断を素早く下し続けていた。

 

――でも、勝手に決めちゃってるところもあったよね。

 

阿美は船体を縮退させ、

海面に足を滑らせながら思う。

 

第四水雷戦隊から転属になること、

それは海幕の命令だったとは言え、

由良は阿美たちに何も言わず決めてしまっていた。

 

そもそも彼女は自分が特殊な力を得たことも

最低限にしか話してくれなかった。

彼女自身、力を得たことを適切に捉えあぐねていたようだが、

それでももっと素直に、自分たちに接して欲しかった。

 

そうならなかったのは、由良が悪いのか、

阿美たちが不甲斐なかったからか。

 

――もやもやする。

 

――いらいらする。

 

その葛藤は阿美の照準を狂わせた。

 

 

「しまった!?」

 

 

連砲撃の一発はおろか、二発とも外してしまった。

距離はかなり縮まっている。

ここで仕留めなければ、と、

考えている間にも砲撃される距離。

 

しかし阿美が狙った敵が砲撃する前に、

喫水線下からの衝撃が敵の背後を襲った。

 

魚雷、と思われるが、

阿美たちの知る魚雷よりも大きな波動。

その爆炎は一撃で敵を両断し虚数の海中へと沈めた。

 

しかもその攻撃はもうひとつあった。

残敵もそれに襲われ、阿美たちが見守る前で

敵艦隊はあっけなく撃滅させられた。

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