「――! 阿美ちゃん、砲撃来ます!」
「え!? くそ……みんな、回避しながら突撃よ!」
四水戦は何とか爆撃機の群れから逃れることができたが、
理不尽な現実に悩む間に、今度は砲撃をされ始めていた。
「く……!」
阿美は敵の一方的な砲撃に歯噛みする。
水雷戦隊の砲撃射程は戦艦、重巡のそれに比べて大分劣る。
軽巡以下と重巡以上が砲火を交えようとするならば、
必然的に後者が一方的な先制攻撃を行えるようになる。
しかし、夜戦であれば夜闇に紛れて高速で攻撃を仕掛けるため
必ずしも軽巡以下がそれより上位の艦に劣るということもない。
覆す機会は十分にある。
だが今は照明弾で姿を光の下に晒された上に、雷撃と艦載機で
出鼻を挫かれたため、闇に紛れることも高速で接近することも、
そのどちらもが不可能となっていた。
『大丈夫。焦らないで。
その距離まで近づいたなら、レ級もただの戦艦よ。
それに、風機が先に突っ込んで行ったでしょ?
なら、こちらの先手はあの子に任せて大丈夫だから』
「風機っていうっぽい?
あの子。やたら足速いけど、夕羽と同じ?」
夕羽が興味を見せる。
由良が信頼し、夕羽も興味を示す彼女に阿美は若干嫉妬した。
『あの子は「島風」の艦娘。
あの子の船速は艦娘随一。夜戦形態なら最高で45ノット出すわ』
「45ノット!?」
恋梅が吃驚した。
艦娘たちにとっての速さの限界は概ね40ノットと言える。
防御力と弾薬を引き換えに機動力と一撃の威力を高める夜戦形態では、
艦娘は自分の船体の船速よりも速く走ることもできる。
しかしそれでも40ノットが限界であり、
それを超えた45ノットの速さは到達しえないはずだった。
「……なるほどね。さすがは第九戦隊、
駆逐艦ひとりでもただの駆逐艦ではないってわけね」
「む、夕羽も負けていられないっぽい?」
四水戦を追い越した風機は
疾風迅雷の速さでレ級へと肉薄していた。
(AAAAAAA――!)
レ級が笑うように吼える。声なき声で。
船体の上にいるあどけない姿の「本体」が
おぞましい程に愛らしく笑うその姿を、
風機は強い殺意を込めて睨み据えた。
「今夜は私が仕留める――!」
レ級の主砲が火を噴く。
比較的小さな船体でありながら最大級の口径の大砲から放たれる砲弾は、
風機の周りに瀑布のような水柱を幾つも作る。
しかしそれらの全てを風機は回避し、水柱の水が海面に返るよりも
速く駆け抜ける。
それは風の如き――島風の如き速さで。
「私には誰も追いつけないよ!」
有効射程距離にレ級を捉えた風機の主砲が火を噴く。
一発目の弾丸はレ級の主砲の一つを捉え、脆い部分を捉えて破壊した
破壊の衝撃に敵が同様する間に風機は懐に潜り込み、
虚海の水面に手をついた。
「五連装酸素魚雷、いっちゃってー!!」
風機の声と共に虚海の水中の中に光が生まれ、
開いた空間の中から酸素魚雷が5発現れる。
主砲雷撃混合連撃。
主砲の一発で敵の体勢を崩し、
その間に肉薄して魚雷を至近距離から撃ち込む必殺の攻撃。
主砲を当て、なおかつ攻撃されても回避しながら
敵に接近しなければならないこの攻撃は夜戦の戦闘術の中でも
かなりの難易度となる。
さらに、主砲よりも質量の大きい魚雷の空間転移も容易くはない。
だが駆逐艦、艦娘随一の船速を誇り、
さらには五連装酸素魚雷という配備数の少ない強力な兵器を
持つ風機は、この攻撃をいつも使用し練度を上げていた。
(GAAAAA――!)
逃れようもない距離から撃ち込まれた5発の魚雷は、
一つも不発することなくレ級の船体に突き刺さった。
「……仕留められなかったか。
まあ、良いよ。次こそ沈めてあげる!」
レ級の船体は大きく傾いだが、撃沈までには至らなかった。
傾いた船体から砲撃で風機を追いかけるレ級。
しかしふらついた船からの砲撃が風機を捉えられるはずもなく、
彼女は過ぎ去る風のごとく戦場から一時離脱した。
「よし、これでレ級の脅威はだいぶ減ったね。
行くよみんな!
由良お姉ちゃんと、提督の期待に応えるよ!」
「はい、おまかせください!」
「最高に素敵なパーティにしましょう?」
「「村雨」のちょっといいところ、見せてあげる!」
「青葉もお伴しますよ!」
風機に続いて、ついに四水戦と青葉が交戦を始める。
敵艦隊は風機に引っ掻き回され混乱しきった状態で、
まず恋梅から、余裕を持って攻撃を始めることができた。
「たぁーッ!」
狙うはイ級の1隻。
渾身の一撃が炸裂し、そのイ級は敢えなく海に帰った。
「やるわねえ。じゃあ、私も」
白はへ級に向けて砲撃した。
二連続の砲撃のうち、直撃は1発だった。
そのためか、へ級は大破したものの沈みはしなかった。
「阿美さん、私にリ級は任せて、
へ級をやっつけてもらえますか?」
「……いいけど」
青葉の提案を聞き入れ、
阿美はへ級へと接近して攻撃を仕掛ける。
「やるときにはやるんだから! ……!?」
阿美が主砲を構えた時、へ級――と思われていたそれは、
彼女が知るよりも若干素早い軌道で身を捩り、
高角砲を撃って阿美を牽制してきた。
よく見ればそのへ級は普通のへ級と形状が違った。
「でも……所詮は!」
所詮はへ級。
同じ軽巡なら阿美が負けるべくもなく、
連続で放った砲弾は敵を逃さず粉砕した。
「やりますねぇ。じゃあ、青葉も追撃しちゃうぞ!」
阿美に続いて青葉が前に出る。
重巡対重巡級の戦いだ。
しかし夜戦形態になる艦娘に対し
深海棲艦は夜戦でも船体を使うので、
同じ重巡でも今は蟻と象なみの大きさの差がある。
その大きさ、何よりも使用可能な砲の数を利用して、
リ級は弾幕を張るかのような猛烈な砲撃を青葉に向ける。
「くぅっ!!」
雨のような砲撃に、青葉は避けきれず吹き飛ばされる。
だが爆炎に焼かれ、
砲弾に服と肌を裂かれてもなお、
彼女は、不敵に笑っていた。
「ご存知ありませんか? 青葉――不死身なんです」
青葉の左右の空間が割れ、彼女の主砲が現れる。
二号二〇糎砲。
由良と阿美の持つ十四糎砲よりも口径の大きい重巡の砲は、
威力もまた十四糎砲を大きく凌駕する。
連装砲2基4門から放たれる砲撃は、
リ級に全弾命中しその船体を大きく破壊する。
声にならない叫びを上げる人に近い形をした深海棲艦。
それを危うい光を灯す目で見ながら、
青葉は更に2基の高角砲を出現させた。
主副砲同時砲撃。
通常、夜戦形態で使用可能な主砲の数は2基という限界を超え、
更に主砲や副砲を使用し敵を粉砕する強力な夜戦砲撃術。
主副砲を一度に使用するためにはかなりの練度の
空間操作が必要だが、青葉は持ち前の運でそれを可能としていた。
不死身にして幸運艦。
それこそが重巡洋艦「青葉」の真骨頂だった。
「青葉にお任せ!」
20.3cm口径の主砲に比べれば威力の小さな十二糎高角砲であるが、
すでに大破していたリ級の息の根を止めるには十分だった。