「提督さん、この書類、前と違う場所にあるけどいいの?」
「え? ああ……あまり構わないんだが、良くない。
気付いたら適当に戻しておいてくれるかしら?」
「わかりました」
「ふむ……私より由良のほうが仕事に詳しい。
このままだと私の引退も近いかな」
由良が第四水雷戦隊から抜け、また戻ってから
半年が過ぎた。
玲奈も含めた四水戦の全員は、
元いた鎮守府から出てリンガ泊地へと引っ越しし、
今日、ようやく引っ越し作業が終わりかけていた。
「もう……書類の置き場ぐらいで何を言っているの?
提督さんがいたから、私達は今もこうして、
みんなで揃っていられるんでしょう?」
「……そう言ってもらえると嬉しいよ。
私達がここに来たのは成り行きと超々弩級戦艦殿のおかげだし、
むしろ赤道直下のこんな場所に連れてきて申し訳なく思っていたんだ」
四水戦と九戦が砲火を交えたあの時、北羅が言ったように、
海幕は四水戦がまさか勝利するとは思っていなかった。
そのため一度は由良の四水戦復帰を認めるふりをしたが、
すぐさま四水戦ごと解体しようとしてきた。
そのとき、海幕に要求を突きつけ状況を変え始めた艦娘がいた。
戦艦「武蔵」の艦娘、美佐だった。
海軍史上最大の火力と装甲を持つ戦艦の名を継ぐその艦娘は、
現代の海上自衛隊においても一定の発言力を持っている。
その彼女が言ったのだ。
第四水雷戦隊を「武蔵」の直属の部隊にしたい、と。
作戦ごとに適当な艦隊や戦艦と行動するのは面倒だ。
海幕は対応に苦慮した。
そもそも「武蔵」を直属の部隊をつけてまで積極的に運用したい
とは考えていなかったし、
それが目下話題となっていた第四水雷戦隊であるなら尚更だった。
だがしばらくの後、海幕は美佐の提案がそれほど悪くないとも思った。
「武蔵」に連動する部隊をつけなかったのは
作戦運用上の柔軟性の確保と、そもそもあまり出撃させない
「武蔵」に部隊をつけたらその部隊もまたあまり
使用できなくなるという問題があったからだ。
しかし第四水雷戦隊なら、正直なところ解体しない限り
海幕の手に余るほどの戦闘力を持っていたので、
下手に解体して反発を喰らうなら、
諦めて武蔵と共に南国でバカンスさせたほうが良い。
それに、有事の際に武蔵が出撃するときに、
第四水雷戦隊であれば武蔵の護衛に相応しい戦闘力を持つ。
そのような経緯から、第四水雷戦隊はリンガ泊地に
転属させられたのだった。
「……提督さんだって、ちゃんと頑張ってくれたでしょ?」
当初、海幕には美佐の意見を黙殺するという選択肢もあった。
それは難しいことではあったが、
所詮は美佐といえど命令される立場であり、
まして彼女は元々自衛官でもなく、
階級はそれなりに高いが命令できる範囲はごく限られていた。
しかしそこで玲奈が各所への根回しを行い始めた。
四水戦から由良が引きぬかれてたり、
また戻されたりしていたことは各所にも伝わっていて、
海幕は横暴ではないかという意見が出始めていたのを
玲奈はうまくまとめあげたのだ。
更には美佐が全艦娘の憧れのような立場であることも利用し、
艦娘たちにもそれとなく話を伝えるようにした。
その結果、海幕は下の意見を無視できなくなり、
無事、「武蔵」の艦娘の意見を通す形に収まったのだった。
「だからそんな自分を卑下するようなことは言わないでね、ね?」
「……ふふ。そうね」
玲奈は書類を整理する手を休め、由良を見つめる。
由良も応えて視線を返すが、
提督の視線を受けて顔が赤らむのを抑えられなかった。
「どうしたの、由良?」
「う……ううん。なんでも。
……提督さん、玲奈こそどうして私を見ているの?」
「ああ……いや、ね、あなたがいれくれて、
本当に良かったなって思ったんだ」
「ど、どうしたの、いきなり」
「いや、別に何も無いけど、ただ言っておきたかったんだ。
私にできることは多くないけれど、
それでも私は力の限りあなたたちを守る。
戦いが終わる日まで、あなたたちを守りぬくよ」
「……うん」