非在の海 -第四水雷戦隊戦記-   作:白亜迩舞

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<4-2 第四水雷戦隊、抜錨セヨ>

「今回の作戦は、ここ数日深海棲艦が増加し、

物資供給が滞っている島へ物資を届けることだ。

もし敵がいるようなら偵察、もしくは漸減要撃のみ行い、

帰還後に再度美佐と出撃してもらう」

 

引っ越しの終わった数日後、

四水戦の司令部である玲奈の部屋に艦娘たちは集結し

指令を受けていた。

 

「まあ、とはいっても今回の作戦はあくまでも鼠輸送だ。

くれぐれも無茶をしないように。何か質問は?」

 

ありません、と四水戦の娘たちが言う中で、彼女たちから離れ

壁に身体を預けていた長身の娘が手を上げた。

 

「私の出番はないのか? この「武蔵」の」

 

美佐の問いかけに玲奈は緊張するように、そして困惑するように、

咳払いをしてから答える。

 

「ない、な。美佐、あなたに出撃してもらうような場合は、

緊急時を除いて海幕から直々に指令が出るのだから。

……四水戦は「武蔵」の随伴隊だけど、非戦闘時なら

随伴任務以外に輸送などの任務もする。

今はそういう指令をする時だから、わざわざ美佐まで

聞きに来なくてもいいんだよ?」

 

これまでも何度か言ったことであった。

実際、四水戦が「武蔵」の随伴隊になってからまだ一度も

「武蔵」は出撃していない。

出撃するかもしれない、という話は今日みたいにしたことはあるが、

それは半ば形式だけのことだ。

 

「そうか。残念だ」

 

淡々とした返事。

美佐も理解しているからこその、形式的な返事だった。

しかし、それにも関わらず、

彼女は何故か毎回作戦を聞きに来ては、同じような問いかけをする。

 

そもそも何故、四水戦を「武蔵」に付けようと思ったのか。

それは……

 

「もう、美佐さん、あまり提督を困らせてはダメです」

 

む、と眉を立てて美佐を窘める駆逐艦の娘。

愛用の帽子を人形のように抱く彼女は「春雨」の艦娘、春目だ。

リンガ泊地に来てから四水戦に増えた彼女こそ、

今ここに四水戦がいる理由の一つだった。

 

「はは。すまない、困らせるつもりはないんだぜ。

ただ……そうだな。今まではこういった作戦会議を見る機会も

なかったから、つい来てしまって余計なことを言ってしまうんだ」

 

駆逐艦の娘であれば話しかけることを躊躇うような

大戦艦の娘に遠慮無く注意する春目。

それを謝りながらも嬉しそうに聞く美佐。

まるで年の離れた姉妹のようなやりとり。

 

二人が仲良くなった理由は、春目が諸事情で艦娘就任間も無くして

水雷戦隊に属さずにリンガに飛ばされ、そこで同じく

どこの艦隊にも属さない美佐と知り合ったからだ。

 

そして春目が本来属するべき第四水雷戦隊が海幕の思惑によって

翻弄された果てに解散されそうになっていることを知り、

お節介のような姉心を発揮して四水戦を自らの元に呼び寄せた。

 

春目がリンガにいたことと美佐と仲が良かったこと、

この二つが今の四水戦がここにいる理由だった。

 

「私はあまり来ないほうが良いのかな?」

 

美佐は若干悪びれた様子を見せて壁から身体を離した。

しかし彼女が立ち去ろうとする前に、由良が彼女を呼び止めた。

 

「ううん。来たければいつでも来てください。

だって、美佐さんは私たちを守り、そして私たちが守る

大事な艦娘だから。そうよね、提督さん?」

 

「あ、うん。そう、だな。

別にいてくれるのは構わない。

ただ、美佐の期待には応えられないだけでな……」

 

その言葉に、美佐は素直に嬉しそうに破顔しながら

部屋の出口まで歩いて行った。

 

「はは。そうか。なら次からもお邪魔するよ。

今は聞きたいことは聞いたから、皆が帰ってきた時のために

良い茶菓子でも探しに行ってくるよ。

今日は何が良い? カステラか? ケーキか?」

 

「あたしはケーキかしら」

「夕羽はカステラっぽい」

「私はクッキーかなあ。……恋梅ちゃんは?」

「わ、私は……って三人ともバラバラなんですか?」

「別にバラバラでも、気にしなくても良いよ」

「で、でも……私は、じゃあお団子に一票」

「結局バラバラなんですね。私はカステラで」

「私はお団子でお願いします」

「よしよし。じゃあ、私は羊羹の気分だったから

羊羹を用意しておくぜ。では頑張っておいで」

 

「……聞いた意味なかったね」

「あの人は時々そうなんです」

 

玲奈の苦笑に春目も苦笑いしながらも、親しみを込めて言った。

 

「では、気を取り直して……出撃は30分後だ。

今から準備をしてほしい」

 

「わかったわ!」

「村雨、いっきまーす!」

「お任せください!」

「駆逐艦夕立、出撃よ!」

「はい、白露型五番艦春雨、出撃です!」

 

そして旗艦の由良が力強く、高らかに、誇らしげに胸を張って敬礼する。

 

「第四水雷戦隊を預かります。長良型軽巡、由良、出撃します!」

 

 

 

 

*********************************

 

 

 

 

自分のいるべき場所とはなんだろうと由良は最近考える。

それは為すべきことを為す場所か。

それとも、ただ自分が存在したい場所か。

 

由良は今、戦場にいる。

黒煙が渦巻き、

波濤が身体を濡らし、

砲弾が飛び交い、

銃弾が雨となり降り、

鉄の翼が爆弾を落とし、

魚雷が水面下からすべてを飲み込もうと襲い来る戦場だ。

 

そこで沈めば、帰ることはかなわず、

もしかしたら死んだ後も亡霊となってさまよい、

かつての仲間を襲うかもしれない、過酷な戦場だ。

 

それでも、由良はそこにいる。

仲間たちがいるから。

 

自衛官として国と周辺国の安全のため、

自らを向上させるため、

自らの力を行使するため、

海と陸の両方の家族と友達を守るため、

様々な理由を胸に艦娘たちは、仲間たちは、戦っている。

 

そんな仲間たちと闘いぬく。

何年戦い続けなければわからない戦いだが、負けたりしない。

勝利と平和が刻まれた水平線に暁を迎えるために。

 

そのためにここにいる。

ここにいて、生き続けるのだ。

 

 

 

<完>

 













<次回、あとがき>
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