非在の海 -第四水雷戦隊戦記-   作:白亜迩舞

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<1-4-1 帰還と戸惑い>

その日、深海棲艦は海上自衛隊の警戒網をくぐり抜け、

千葉県沖まで押し寄せてきていた。

さすがに海岸に付かれるまでには海自も気付いたので、

カルダノシステムを展開すると同時に横須賀鎮守府から

出撃可能な艦娘を出撃させ、敵艦隊の迎撃に当たった。

 

間一髪の迎撃により陸上に被害はなかった。

咄嗟の交戦により艦娘の中には大破するものも数隻いたが、

撃沈する艦娘を出すことは避けられた。

 

始めの交戦後、敵艦隊は一部を捨て駒のように残すことで

艦娘の艦隊に威圧をかけつつ、

主戦力と思われる部隊は後方に下がりつつあった。

 

海自の中でも艦娘を運用し対深海棲艦を主導する海幕としては

襲撃してきた深海棲艦には可能な限りの報復攻撃を

与えるつもりだった。

 

ただし、近日中に飛行場姫と呼ばれる姫種深海棲艦を

殲滅する作戦を控えていて、

なおかつ現時点で損害も出ているため、

今回の深海棲艦に対して追撃命令が下る艦娘は最低限の数に

絞られていた。

 

よって追撃作戦は、第四水雷戦隊を先陣として偵察と敵の誘導を行い、

第一〇戦隊ならびに空母隼鷹と、重巡洋艦の鳥海と衣笠が主力となって

被害が大きくならない程度に敵を叩くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

「ここまでが現在の戦況の要点。

ところで、詳細な作戦に入る前に皆に話すことがある。

――由良のことだけれど」

 

 

複素時空内において唯一稼働する海上自衛隊の施設、鎮守府の一室、

佐藤玲奈特別海佐と第四水雷戦隊に与えられた作戦室にて。

 

四水戦の娘たちを前にひと通り現状を説明した玲奈は、

一息吐いて自分の麾下の娘たちに尋ねた。

 

「皆もすでに見たように、由良は自分の船体を取り戻している。

戦闘が行えることも私は見た。

私達には少しでも多くの戦力が必要だ。

だから、私は由良に第四水雷戦隊に復帰してもらいたいと思う。

皆はどう思う?」

 

その言葉で、作戦室の空気に緊張が走る。

それまでも戦況について話す緊張感が漲っていたが、

由良について、ということでその空気はがらりと変わり、

まるで揺れる天秤を見つめるような緊迫へと変わる。

 

話題の中心となった由良は、うつむき気味になり、

手を体の横で握りしめてみんなの答えを待った。

 

 

沈黙は長く感じられた。

 

 

だが実際には現在の四水戦の旗艦である「阿武隈」の艦娘が、

決意するように一呼吸おいただけの間できっぱりと答えた。

 

「あたし的にはOKです。

ううん、あたしだけじゃない。

四水戦のみんな、由良お姉ちゃんを歓迎します」

 

「ほう……それはどうして?」

 

「だって、由良お姉ちゃんだから」

 

「――阿美!?」

 

由良は当然のような驚きを見せた。

 

「あなた、本気なの?」

 

「本気だけど、どうして?」

 

「どうして、じゃないわ。

阿美は四水戦の旗艦なんでしょ?

だったら私が参加しても戦力に影響がないか

どうか考えなきゃいけないでしょ?」

 

少し強めの口調で阿美に問う由良。

しかし阿美はそこで笑顔を見せて答える。

 

「うーん、でも大丈夫だよ。

だって由良お姉ちゃんは私のお姉ちゃんで、憧れの人だし、

この四水戦をずっと引っ張ってきたのも由良お姉ちゃんでしょ?

由良お姉ちゃんが帰ってきたことで

四水戦は完璧になったの。

だから、もう何も怖くないよ。ね、みんな?」

 

「そうですよ」

 

四水戦に所属する第二駆逐隊の娘たちの中、

「村雨」の艦娘が最初に答える。

 

「今日まで一緒に頑張ってきた阿美ちゃんには悪いですけど、

やっぱり水雷戦隊のリーダーには由良さんみたいな、

落ち着いているけど勇気のある人がいいんです」

 

「そうそう。夕羽もそう思うっぽい」

 

白の言葉を継いで「夕立」の艦娘が言う。

 

「阿美ちゃんも元気で悪くないけど、

やっぱりこう、旗艦って、夕羽と一緒に突っ込んで

来られても困るっぽいっていうか」

 

「……なんか確かにそうなんだけど、言われると辛い」

 

夕羽の言葉に阿美が苦笑する。

一方、由良は笑わず、真剣な面持ちでまだ何も言っていない

恋梅を見て問いかける。

 

「あなたはどうなの……恋梅ちゃん」

 

問われた「五月雨」の艦娘は心細そうに

胸の前で手を組んで答えを躊躇った。

 

 

だが、小さく息を吸って、想いを込めた瞳で由良を見て答える。

 

 

「私は……私が弱くてドジなせいで、

また由良さんを守れないかもしれないと思うと……、

……もし、この手で、また沈めることになるかもしれないと思うと、

怖いです」

 

 

だけど、と彼女は続ける。

 

 

「由良さんほど素敵な人を私は知りません。

私は、由良さんと一緒にいたいです。

由良さんに、一緒に戦ってほしいです。

私はまだまだ頑張りが足りないかもしれないけど、

でも……!」

 

 

ぽろり、と恋梅の目から涙があふれる。

 

それを見てしまった由良は、

自分が彼女を抱きしめることを止めることができなかった。

 

 

「……どうして、泣いているの?」

 

 

優しく、真綿で包み込むように、由良は恋梅を抱きしめながら

そっと尋ねる。

彼女は嗚咽を混じえながら答えた。

 

「だって……由良さんに、会えたから。

また、一緒にいれる……いたいって、そう思うから……!」

 

涙をこぼすほどに強い感情で、恋梅は訴えた。

 

「……そう」

 

由良は腕の中の温かさをを、心を揺らす熱を抱きしめる。

自分の心の中にある熱も。

 

その熱は今まで感じていた断絶をほぐし溶かしさる熱だった。

 

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