非在の海 -第四水雷戦隊戦記-   作:白亜迩舞

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<1-4-2 第四水雷戦隊>

由良が横須賀港に入港した時、

先に入港していた四水戦の娘たちは解散せずに由良と提督が

上陸するのを待っていた。

 

そして由良が上陸すると、

彼女たちは驚きと喜びをもって由良を迎えた。

 

もし、これが平時で、由良が二本の足だけでみんなの

前に立ったのなら、単なる喜ばしい再会となっただろう。

 

しかし現状は戦闘中であった。

そして由良は失われたはずの船体、力の権化に

乗って現れたのだ。

 

はじめこそ阿美が由良に抱きついたり喜びを分かちあっていたが、

ほどなくして現状を思い出し、

四水戦の娘たちは由良に問いかけた。

 

戦うのか、と。

 

由良は玲奈のためなら戦うことを躊躇う気持ちはなかった。

しかし四水戦の娘たちが由良を見る視線は、

由良を戦友と認めるものとは違っていた。

 

彼女たちは戸惑っていた。

一度、限界を超えて傷つき戦場を去った彼女が、

再び戦い、そして傷つくかもしれないことを受け入れられなかった。

 

由良自身も、そんな彼女たちの気持ちを感じ取り、

気持ちのゆらめきを持った。

 

今度こそ負けないからと、そう言うのは容易い。

だが自分が傷つき、もしも沈めば、

痛い思いをするのは自分だけではないのだ。

 

断絶を感じた。

自分はもうここにはいないのだと思った。だが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――提督さん」

 

今はもう、断絶はなかった。

仲間たちは自分を受け入れくれつつある。

由良もまた、そんな仲間たちと、提督と、

共にいたいという気持ちを強くしつつあった。

 

「私はどうしたらいいですか?」

 

問われた玲奈は、由良の目を見て強く頷いた。

 

「そうだね。――阿美はどう思う?」

 

「そんなの聞かれるまでもないよ。

――あたし達の、第四水雷戦隊の旗艦になってよ、

由良お姉ちゃん」

 

他の娘たちもそれに賛同した。

そんな声を受けて、由良の胸は言葉にできない熱い気持ちで

いっぱいになった。

 

「わかったよ、みんな。

――でもみんな、ひとつだけ覚えておいて。

私は一度沈んだわ。だから、また沈むかもしれない。

けどみんなには、それを意識し過ぎて、

変にかばい合ったりするようにはなってほしくない。

対等な仲間として、時には冷徹な判断も下せるようにしてほしい。

それが約束できるなら、私はもう一度、

みんなの旗艦として戦わせてもらいたいと思う」

 

「それはつまり、侮らないでってことですか?」

 

由良の言葉に、白が勝ち気な様子で答えた。

 

彼女はもとから、四水戦付きの駆逐隊である

第二駆逐隊の中ではもっとも賢く、時には強すぎる言葉も

口にできる少女であった。

由良としても、彼女の言葉のような強い言葉には

なかなかうまく答えられない。

だから張り合わず、由良は由良としての答えを返す。

 

「ううん。単に、みんなの足は引っ張りたくないってこと。

――みんなにいつまでも私が沈んだことを気にしてて欲しくないから」

 

「大丈夫だよ。敵はみんな夕羽がやっつけるから!」

 

夕羽がそう言うと、阿美も続いて言う。

 

「由良お姉ちゃんのこと、信じているから」

 

そして恋梅も、由良から離れ少し赤くなった目元を拭い、

瞳に力を込めて由良を見つめながら言った。

 

「私、一生懸命がんばりますから、

由良さんも一緒に、がんばりましょう!

――そして、由良さん」

 

恋梅はもはや泣いていたことなどなかったかのように、

とびっきりの笑顔で由良に言った。

 

「おかえりなさい、由良さん。

ちょっと遅くなりましたけど――戻ってきてくれて、

本当に嬉しいです」

 

「――うん」

 

「おかえりなさい、由良お姉ちゃん」

「おかえりなさい、由良さん」

「おかえり、由良さん」

 

恋梅に続き、他の娘たちも口にする言葉。

それは由良を、戦友として受け入れるという言葉。

 

横須賀港に入港したときに彼女たちはそれを口にしなかった。

彼女たちにとっても、由良はもはやそこから

いなくなった者だったからだ。

だが、この瞬間に、由良は明確に受け入れられた。

そのことが由良の気持ちをとても励ます。

 

「うん。ただいま、みんな」

 

由良は晴れ晴れとした笑顔でみんなに返し、

そしてそのまま提督にも笑顔を見せる。

 

「――おかえり、由良」

「ただいま。提督さん」

 

玲奈はいかにも嬉しそうに笑っていた。

 

戦況を伝えていたときは空気が重くすらあった作戦室は、

いつしか明るく穏やかな雰囲気に包まれていた。

戦況が変わったわけでもない。

だが、今は全員が思えているのだ。

この顔触れなら大丈夫だと。

失われたものが取り戻された今ならば、

どんな戦いでも恐るるには足りないと。

 

 

「では、作戦を伝える――」

 

 

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