非在の海 -第四水雷戦隊戦記-   作:白亜迩舞

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<1-6 決断の時>

『こちら追撃本隊、旗艦の「鳥海」です。

陽動部隊、第四水雷戦隊、応答してください』

 

「こちら陽動部隊、第四水雷戦隊、どうぞ」

 

『我々の側面から敵艦隊が近づいてきています。

どうやら新島の向こう側に隠れていた様子です。

敵勢力は重巡級が3、軽巡級が2。

航空戦力も伴っていますが母艦はいません。

よってこちらの敵は主力ではないと判断できますが、

我々はこれを無視できないので戦闘を開始します。

陽動部隊は海幕からの司令に従って行動してください。以上』

 

 

 

「――提督さん」

 

 

 

由良の呼びかけに提督はすぐに応じた。

 

『ああ、こちらにも届いた。海幕からの命令だ。

第四水雷戦隊は敵主力を見つけたら、

交戦し、可能な限り打撃を与えること。――できる?』

 

「……できなければ、どうするの?」

 

由良の口調は重い。

臆病だからではない。仲間を守らなければならないからであり、

また、提督の口調にも迷うような様子があればこそだった。

 

玲奈は少しの間、黙ってから答える。

 

「ならば、戻ってきていい。

海幕の方はなんとかする」

 

由良は喫驚した。

 

「どうして? 命令なんでしょ!?」

 

「――命令よりもあなたたちの方が大事だから」

 

酷くあっさりと、玲奈はそう言った。

大事だから、と。その言葉は由良の胸を打つ。

けれどそうやって感動しているだけでは駄目なのだ。

 

「本当に、どうにかできるの?」

 

『今はね。ただ、代償を支払う必要はあるかもしれない』

 

「代償って……」

 

『私が第四水雷戦隊の提督を辞めることとか』

 

「――うそ、どうして!」

 

『端的に言えば、私が提督としてあまり功績を上げていないからかな』

 

「そんな……」

 

由良には理解できなかった。

玲奈は資材の管理、運用、作戦立案など提督として申し分の

ない仕事ができていると思うし、何よりも自分たちが

信用する相手は玲奈以外にないことは明らかにしているはずだ。

 

「提督は、由良さんがいなくなってから危ない作戦は

極力避けるようになったんですよ。

でもそんな仕事ばっかりじゃ評価なんて低くて」

 

由良の疑問に答えるように白が言う。

白の答えを聞きながら由良は出発前に自分が言ったことを思い出した。

 

 

 

「玲奈、私、言ったよね」

 

 

 

『ん?』

 

「私は一度沈んで、また沈むかもしれないけど、

それを意識し過ぎないで欲しいって。

対等な仲間として、時には冷徹な判断も下せるようにして欲しいって」

 

『由良……しかし、私は由良だけではない、

皆のことを考えているんだ』

 

「違うわ、玲奈――提督さん。

提督さんは確かに、私以外のみんなが、

誰一人いなくならないように考えてくれている。

けれど、提督さんは自分のことは考えていない。

提督さんは、自分はいなくなってもいいって考えている。

そんなの……そんなの……最低よ」

 

この瞬間、由良は怒ってさえいた。

そして、決断した。

 

「みんな聞いて」

 

 

 

「私は、戦うために戻ってきた。

私は提督さんを守るために力を取り戻した。

提督さんのためにみんなを犠牲にするつもりはないけど、

けれど我が身可愛さに、戦わないで帰って、

提督さんの身分を危うくすることはしたくない!」

 

 

 

 

由良の言葉に、娘たちは頷いた。

 

 

「ま、ていうか確率の高い方を選ぶのが当然よね。

それにあたしはあたしに期待していますから――勝ちますよ」

「ていうか、まだまだパーティーをやりたりないし!」

「わ、私も、戦わずして負けるのは嫌です!」

 

駆逐艦の娘たちの力強い言葉。

そして、阿美もまた由良に頷きかける。

 

「きっと大丈夫だよ、由良お姉ちゃん。提督も。

あたしが旗艦だったら無理かもしれないけど、

今の旗艦は由良お姉ちゃんで、ここにはみんないる。

みんなが揃っている限り、負けたりしないんだから」

 

「そうね。――でも阿美、たとえあなたが旗艦だったとしても

無理だなんてことはないわ。

阿美だって十分に強い。そうよね、ね?」

 

「えへへ、そうかな。……ね、提督? どう思う?」

 

『どう思うって……』

 

自分がいなくなるかもしれないと言った時よりも

大きな玲奈の迷いが通信の向こうから伝わってくるようだった。

しばしの間の後、玲奈は、そうだね、と少し明るい声で言った。

 

『阿美でも十分に戦えたはずさ。

そして、今は由良もいる。

なら――そうだ。あなたたちが負けることはありえない』

 

「提督さんもね。ね?」

 

「そうそう。こんなあたしでも強くなれるんだから、

提督さんも、みんなも、きっと大丈夫!」

 

阿美の言葉に、通信の向こうの玲奈の声が少し笑った。

 

『うん……すまない、少し弱気になっていた。

私も未熟が過ぎるね。私はあなたたちが立派に活躍して

無事に戻ってくることを誰よりも信じ、

待って、指示を出さなければならないのに』

 

「提督さん……玲奈も、不安だったの?」

 

出発前、四水戦の娘たちは不安に揺れながらも、

それぞれの想いを口にして結束した。

けれどその時、玲奈はただ見ているだけだった。

すべてを、娘たちの葛藤を、彼女は受け入れているのだと思った。

だが、それは単なる由良の思い込みだったのかもしれない。

 

『大丈夫だよ、由良。

私はあなたの……あなたたちの勇気を認める』

 

 

『だから、提督として命令するよ。

敵主力部隊を見つけ――必ず――殲滅させなさい。

そして、全員揃って帰投すること。いいね?』

 

 

「「はい!」」

 

 

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