シンオウの昔日-翡翠英雄奇譚- 作:ヒュペルボレイオス
ようやくゲーム本編に合流です。
また、今回の後書きには登場ポケモン図鑑ではなく読者の皆様へのお礼メッセージを綴っています。
──テルが本部に足を踏み入れた瞬間、待っていたのはキネ医療隊長の平手打ちでした。
医務室で手当を受けていた畑作隊と村人は、突如甲高く響いた音に目を点にして現場を眼差していた。
その場でふらついてテルの黒髪が揺れる。
口の端が切れたのか滲んだ血を手の甲でぐいと拭うと、深く深く頭を下げた。
「てっきり宿舎で謹慎かと……」
「あたしとしても数日間は大人しくしていてほしいのですけど」
キネさんから滾々とお説教を受けたテルはシマボシ隊長から暫くの減給処分を言い渡された。謹慎にならなかったのは、ひとえに彼の力が無いと調査がままならないからだろう。
病衣から新品の制服に着替え、素足だった足元もきちんと靴に包んだ。あたしとそう変わらないくらいに伸びた髪は、ヒナツさんによって総髪に結い上げられている。
「お金は大丈夫ですか? 急に収入が減っては生活の質が保てなくなるかもしれませんよ」
「大……丈夫だと思いたいです。えーっと減給後の給料が……」
博士の部屋の黒板にカッカッと
その金額に斜線が引かれ、八割ほど下がった概算が書き込まれる。次に派遣中のポケモン達の日当がそれぞれ記された。
「……。ん〜……しばらくボールは買い控えた方が良さそうっスね……。今までより意識的に採集するようにして……なるべく自炊する方向で……」
派遣ポケモン──テル曰くポケジョブ(仮)──たちの収入もあってすぐに困りはしないものの、やはりテル自身のお給料が八割減となると生活のサイクルに支障が出るようだった。
というより、八割なんてトンデモな減給処分はこれを見越しての数字なのだろう。大抵の隊員は減給が下されることはあっても基本は三割、多くて四割だ。
「当面はぼんぐり飯だな〜」
「……食べる気はあるんですね? 安心しました」
「先輩はおれのこと何だと思ってるんですか!?」
「ポケモンたちを食べさせる分だけ確保して自分は後回しにしたり、怪我や不調がすぐ治るのをいいことに食事そのものをやめてしまったりするのではと……」
「先輩は……おれのことを何だと……!!」
だってそうでもなければ運び込まれた医務室で目覚めるなり、いきなりギャラドスに乗って『群青の海岸』まで飛んだりしないだろう。
食事を抜いても空腹感があるだけで死にはしないんです! なんて満面の笑みで報告してくる未来は容易に想像できる。
「テルは向こう見ずと言いますか、自分に興味が無いにも程があります。検査も受けずに調査を再開した今回の件ではっきりしました」
「それは……」
そうですね……とテルは訝しげな顔で同意する。
ポケモンには誰より興味があるのに、この人には「我が身可愛さ」という概念から無い。自分のことは自分が一番よく分かっている──そんな言葉があるが、テルはそれが悪い方向に作用している。
自分のことなんてよく分かっているから、興味の対象にはなり得ない。
惹かれる「未知」を持ち合わせていない生き物なんてどうでもいいと言わんばかりに、彼は自分を粗末にする。あたしは、それが許せなかった。
「いいですか、テル。ラベン博士があなたをギンガ団に引き入れたのは、あなたを生かすためです。野垂れ死にすることなく、生きていってもらうためです」
博士はテルを始まりの浜で拾ったと聞く。行く所も無く頼れる人もいない彼をあの人は放っておけなかった。
ただ庇護するのではなく仕事を与えたのは、真剣にテルの生存と未来を考えたからだ。
「あなたを粗末にしないでください。あなたに生きてほしいと思った人たちを、粗末にしないでください」
あたしは人と接している時の彼が好きだ。
図鑑を読むエイシロウさんの横でそのポケモンに纏わる小話を語る彼が。
クメさんとシマさんの手荷物をさりげなく代わりに持つ彼が。
シシオくんにせがまれたら嫌な顔ひとつせずに野生のポケモンとの勝負を語り聞かせる彼が。
まだポケモンに苦手意識があるヒコスケさんの前では手持ちをボールに収める彼が。
本人もきっと意識していないし、ポケモン調査の功績ばかりが話題になるけれど、あたしは彼が持ち合わせる素朴で輝くばかりの溢れる善性を何度も見た。
善性や良心というのは誰もが持っているけれど、誰しもがそれを遺憾無く発揮出来る訳じゃない。優しさを利用されたり、踏み躙られたり、つけ込まれたりした人はどうしても良心を閉ざしてしまう。
“ヒスイに来るのはあぶれ者なんだよな”──ワカタケくんがいつだか呟いたボヤきの言葉はその通りだ。
ヒスイには故郷に馴染めなかったり、故郷を失ったりした人が沢山来る。
そういう人たちに警戒されても不快にならず、笑顔で寄り添って打ち解けられる彼を、あたしはとても好ましく思うのだ。
だから、死んでほしくない。
そう伝えればテルは少しずつ顔を赤らめて、か細い声で「ハイ……」と返事をした。
「あの……とりあえず安心してほしいんスけど。おれ、ご飯は抜かないです。絶対」
「絶対?」
「はい。そりゃ、一時は思いましたよ。食わなくても死なないんじゃないかって。でも……死ななくても腹は減るんです。食べなければ腹は減るし、食べたら美味しいし、楽しいんです」
──だから、飯は食います。
はにかみながら、頬を掻きながら、彼はそう断言した。あたしはそれが嬉しくて、小指を立ててテルに向ける。
「約束ですよ」
「うす。約束です」
同じくテルが立てた小指を互いに絡める。冷たい指先。小指といえど男女で肉付きも骨格も違う。その差異に気づき意識してしまう前に、あたしは指切りの唄を口遊んだ。
「
「ん?」
「
「待って今の何ですか!?」
「指切りです。知らないんですか?」
「いや前半何!? 前半の呪詛何ぃ!?」
怖い!! とテルは恐怖を絶叫で訴える。
何と言われても指切りの唄はこういうものです。テルもそれを知ってて小指を出したのではないのでしょうか?
「なんにせよ指切りはしました! 約束を破ったらハリーセンの“どくばりセンボン”ですからね」
「何その技おれ知らない!!」
「では調査開始です。ご安全に!」
出発準備が整った合図が鳴って、あたし達は玄関ホールに向かう。
今日からまた『群青の海岸』で数日間の調査なので、ハリーセンの“どくばりセンボン”を沢山見てもらいましょう。
*
──八割減なら八割増しで成果を出せばいいんじゃないか? と思うなどをした矢先にカイさんの依頼を思い出したので、ここは大人しく『帳岬』に向かう。
カイさんが教えてくれた「キャプテンがいる時間帯」と合致するのもあって決断は速く、道中のポケモンを捕獲しながら『風さらしの森』を抜けた。
……そういえば、おれが倒れていたのはその『風さらしの森』だったらしい。
母さんにおんぶされているようなあの感覚はきっとポケモンが運んでくれたんだと思うけど、アヤシシ様にお礼を言ったら妙な反応をされたので彼ではない。
ならバクフーンに、と話を振ったら感情の読めない顔でにんまり微笑まれた。どういう気持ち? 何?
そんな回想も程々に、『帳岬』の鋒に辿り着けば──墓標の如く建てられた石を前にして、すらりと背が高い痩身の、海女のような女の人が佇んでいた。
足元に連れた四つ足のポケモンは以前クレィアちゃんと一緒に行動していた子と同じ種族──ヒスイ地方のガーディだ。
バクフーンやドレディアとは違う、進化前のポケモンからして姿が変化しているケース。
「ポケモンの、お墓ですか」
その背中に声を掛けた。
二体のガーディは片や女の人の影に隠れ、片や突然姿を見せたおれに威嚇する。女の人ともう一体のガーディを守らんとする姿に感動で心が揺さぶられた。強い子だ。
微笑ましく見守っていると、ガーディは女の人から「およしなさいな」と制止された。いいんですよ全然もっと続けてもらっても。
「これは、高波に攫われた子供を救うべく海に身を投げた先代キングの墓ですのよ」
「……立派なキングですね」
「ええ。偉大で勇猛なキングでした」
大きなガーディの右隣にしゃがみ、その墓標に手を合わせる。シンオウの海は他の地方と比較すると特に水が冷たいと聞く。この辺りにならよりによって冬に流れが早くなる海流もある。
一瞬で体温を簒奪するシンオウの海原に、身一つで飛び込んで子供を救けた──そのエピソードが示す功績の重さを、遺業を、どうして悟らずにいられるだろう。
「バサギリとドレディアを鎮めた御方。カイの願いを汲んだとのことでしたが……なるほど、優しい顔つきをしていらっしゃるのね」
瞑目を解いて立ち上がると女の人と目が合った。
亜麻色の髪と藤色の目を持つ、はっきりした顔立ちの綺麗な人。彼女がこの海岸のキングを世話する、シンジュ団のキャプテン。
そして。
世話するキングを持たない、唯一のキャプテンだ。
「……なるほど。カイの差し金ですか」
「はい、カイさんからの
ひと通りの説明をするとガラナさんは小さく息を吐いた。
遺されたキングの子供が育たず、後ろ指をさされるガラナさんの現状を変えたいというカイさんの訴え。そのためにキングの子供を育成してほしいという依頼。
ガラナさんを思っての案件だが、ガラナさん本人の顔は浮かない。
「どちらのガーディが先代キングの子供だと思いますか?」
「んー、小さい子ですかね」
「! 何故……?」
「そりゃあ、こっちの子は見知らぬ人間を威嚇するだけの気力も気迫もありますから。ガラナさんが悪く言われてたら意地でも進化して黙らせそうじゃないですか」
ガーディは忠誠心がとても強い。
太古の昔から人と共にあった彼らの種族としての積み重ねは、たとえヒスイの姿といえどそう綺麗サッパリ消える訳ではない。
「子供を助けるために海に飛び込んだ……この子供って、人間の子供じゃなくて『自分の子供』ですよね?」
「……ええ」
「やっぱり。精神的な傷で進化できない方……気弱な方。小さい方のガーディが、先代キングの子供です」
「…………お見事ですわ。では、あたくしがこの子を鍛えぬ理由もお分かりでしょう?」
体の前で品よく重ねた手をほんの少し震わせて、ガラナさんはおれの眼を真っ直ぐに見つめる。
──父の死を目の当たりにして、心に深い深い傷を負ったガーディ。
──そんな状態の子を無理やり鍛えて次代のキングにするなど到底許容できない。
──シンジュ団の皆に何と言われようと、この子の気持ちに寄り添おうと決めている。
そう語り切った彼女の藤の眼には、じりじりと焦げ付くような敵意が、警戒が灯っていた。
「うーん、じゃあそうだな……」
「! まだあなたはこの子を鍛えるおつもりですか?」
「え? ああ、いえいえ! 寄り添いたい気持ちはおれも分かります。全面的に支持します!」
「だったら!」
「なんで、
「…………」
は? と。呆気にとられた声が零された。そんなに突飛な話でもないだろう。
ガラナさんの背後から「どういうこと?」と言いたげに少しだけ身を乗り出したガーディに、腰を落として目線を近づける。
「メスのガーディとお見合いして、生まれた子供を次のキングかクイーンにすればいいんですよ。キングの血を継ぐその子になら、キングの資格があるんでしょ?」
「え、ええ」
「ガーディが女の子だったら他種族も候補に挙げられるんですけど、男の子みたいなのでオーソドックスにガーディ同士で番を見つけてもらいましょう。子供が生まれ次第おれが育成して進化まで持っていきます。どうですか? 解決では?」
「……かなり、不躾な案ですのね……」
「まあ……それは……そうっスね……」
正直、おれの知るシンオウにはキングもクイーンも存在しないから、この件がキング・クイーン制度衰退の始まりなのかなという気持ちもある。
人間から見た自然の中に確認できなかっただけで、もしかしたらもっと奥深くの森に、より遠くの海に行けば、ひっそりと生態系の頂点に立っているのかもしれないけれど。
「あ、でも今はキングになると荒ぶっちゃうから……落ち着いてからの方がいいか」
「……不思議な話ですよね。シンオウさまから力を分け与えられたポケモンの末裔が、神鳴りに打たれ荒ぶるなど」
神鳴り──雷は古くから、天の怒りと云われている。
面白いことに世界中のあちこちでこの考えは根付いており、カントーのサンダー、ジョウトのライコウ、イッシュのボルトロスなど、強力かつ希少な電気タイプのポケモンたちが「雷/神鳴り」の神話に結び付けられているのだ。
特にイッシュはボルトロスだけでなく建国神話に登場するゼクロムなんかが特に顕著で、雷でイッシュ全土を焼き払った伝説は「雷/神鳴り」が神の怒りだという逸話の強度を増すのに一役買っている。
空から轟音を響かせて地上に落ちる光。
多くの人は、その向こうに「神」を視るのだろう。
──って、イッシュの別荘から帰ってきたシロナさんが言ってた。
「何故雷に打たれて荒ぶるのかは、未だ解明されていないのでしょう?」
「そうですね……大きな音と自然の力に対しての興奮状態ってだけにしては様子もおかしいですし」
「あたくしはその雷こそが、神の、シンオウさまのお怒りではないかと不安になってしまうのです。……前の長の代まで、コンゴウ団とシンジュ団の争いはそれはそれは酷いものでしたから」
憂いを帯びたかんばせはその記憶が忌むべきものだと雄弁に語る。
セキさんが、カイさんが、時折見せる暗い顔と同じ色。今が長ふたりの口論だけで済んでいるのはきっと奇跡なのだろう。
「それぞれが崇めるシンオウさまこそが本物と争い、今なおその禍根と断絶は続いています。つまり本物のシンオウさまからしたら、偽者を崇める不届きな連中が今もいるってことなのです」
その考察におれは苦笑いを浮かべて曖昧に濁すしかなかった。
シンオウさま──アルセウスの名を唱えながら、片やディアルガの偉業を讃え片やパルキアの偉業を仰ぐ。どちらも信仰対象が異なるのに互いを偽者だと罵り合う光景は見ていてあんまり気持ちの良いものではない。
かといってそれを証明する手段も無いし、他人の信仰に無造作に手を突っ込む訳にもいかない。
この歯痒さを共有できる唯一の相手を思い浮かべながら、無難な相槌をそれとなく打った。
*
さて、キングの後継についてはこれで一旦解決。というか解決までの筋道が決定。
残るは最近怪しい影を見るとの火吹き島だ。
遠目に見れば流れ出るマグマがてらてらと、まるで太陽が溶け出したみたいに輝いている。
「行くなら行くでギャラドスに頼むんだけど……ガラナさんの言ってた『イダイトウ』が気になるんだよな」
それは、コンゴウ団のキャプテンがお世話しているという水渡りのライドポケモン。
アヤシシ様とガチグマ様の前例からして、イダイトウがプレートを持っている可能性はかなり高い。
そして何より、そんな名前のポケモンをおれは知らない。見たい。
よし、ススキさんに会いに行こう。
夕飯用のぼんぐりを採集してくれたバクフーンを呼び戻して『エイパム山』を進んでいく。
名前の通りエイパムが多い。木から飛び出たエイパムを程々にあしらいながら坂を登ると、ほんの少し傾いて弱まった夕刻前の陽射しを受けて煌めく金紗の髪があった。
「来ると思っていましたよ、テルさん」
「……おれも丁度会いたいなって思ってたとこです」
尾でズリのみを掴み、上機嫌のエイパムがウォロさんの足元から走り去る。
ポケモンもお客さんなんですか? と訊ねれば「物々交換です。ナイショですよ」なんて釘を刺された。
「重傷で運び込まれたと聞きましてね。ジブンとても心配していたのですよ」
「あはは……ちょっと戻りの洞窟を目指して崖登りに挑戦してました」
「ほう、戻りの洞窟! また珍しい所に赴きましたね。──
その声が。
突き放す様な冷たさを芯に据えた様な声が。
まるで自らそう口にすることで、肯定の返事に備えているみたいで。
「ありまくりでしたよ!?」
だから強く強く強烈に否定した。
何も無かったなんてそんなことは言わせない。あそこには一番美しい遺跡があった。古代シンオウ人の痕跡が、石灰石の亡骸が、穹窿の墓があったんだ。
ウォロさんが虚を突かれた表情を浮かべた一瞬の隙きに、おれはかつてないくらいに早口で語りを滑り込ませる。
「……『戻りの洞窟』にはそれがある、と。知っていたのですか? 初めからそれを見るためにあんな崖を登ったと?」
「……イイエ、実のところポケモン目当てでした……」
「おや珍しい。『戻りの洞窟』に、ポケモンですか?」
「はい。ギラティナっていうでっかいドラゴンポケモンです」
自然に隠され、ギンガ団(シンオウ地方)の計画からも漏れた、シンオウの四番目の小さな湖。
トバリシティを南下したおれが見つけてしまった、隠れ泉への道の向こう。
三本の柱を抜けた先に、六つの脚で佇む異形の龍がいたのだ。
褪せた灰色の体に走る真紅の縞模様。破れた様な対の翼は黒い影の如く不安定かつ不気味な印象を抱かせる。
龍はディアルガにも並び立つ強力なプレッシャーを放っており、カイリューやガブリアスなどの比較的一般的なドラゴンポケモンの類いではないと悟るには充分だった。
「もー全っ然情報無くて。ポケモン博士や考古学者にも一緒に調べてもらったんですけど、結局分かったのは“ギラティナ”の名前と“この世の裏側に住んでいる”、“古代の墓場に現れる”って文献の記述だけでした」
「──…………」
「だから、『戻りの洞窟』に行けばギラティナにまた会えるかなって。まあ……いなかったんですけど……」
ギラティナには会えなかったけど。古代の墓場、と記された場所があの穹窿の墓だとは察した。世界の裏側、というものも感覚的に理解した。
……世界の裏側については理解したと言うか思い出したと言うか。
この話やめようか。
「なるほど。気になるのですね、ギラティナという存在が」
でしたら、とウォロさんは人差し指と親指を立てた。「ジブンもプレートを探す傍ら調べてみます」なんて、彼の好奇心も巻き添えにしようとしたおれの魂胆など、お見通しですと言わんばかりの提案をして。
「いいんですかぁ〜!?」
「白々しいですよー。我々はお互い、仕事をサボって知識欲と好奇心に突き動かされる者同士ですからね!」
「突き動かされた結果おれ今減給八割っスけどね」
八割!? とウォロさんの穏和な笑みが驚愕に差し替わる。
実はそうで、こんなふうにお喋りしている場合ですらない。
今のおれはオヤブンポケモンを捕獲しても報酬はオレンのみ約五つ分。ほぼ無給だね。
「それで生活できますか!?」
「ポケモンたちの稼ぎにどっぷり依存のヒモです。あとクレィアちゃんに──」
「
「違うんスよ最後まで聞いて。クレィアちゃんに教わったぼんぐり飯で食い繋いでですね」
にこにこのウォロさんに弁明を図る。
ギャロップたちのヒモではあるけどお宅のお嬢さんにヒモってる訳ではなくて。でも太陽の石の件に関しては大変お世話になりましてですね。
「まあいいでしょう。テルさんには花紋縁をお買い上げいただけたことですし」
「ああ、もしかしてあれ作ったのクレィアちゃんですか」
「ご明察です。何やら手間仕事に興味が湧いたそうで。最初は刺繍をやりたがっていたのですが、ジブンとしては鋏だの針だのを持たせたくなかったのですよ」
「過保護か? いや確かにあの年頃に針は怖いですね」
だから妥協案として、ぴんと張り巡らせた糸の土台に挿し込んだり散りばめたりするだけの花紋縁になったと。
それでも鋏は使うだろうけれど、針よりはまだ安心できるか。
「その内飽きるでしょうから、新作のお買い求めはお早めに」
なんて言う彼の横顔に、こみ上げる苦笑を必死に堪えた。
所詮は子供が抱いた一過性の興味だと口にするそのかんばせが、あんまりにも優しげな色を灯していたものだから。
──ちょっとつかみどころの無いひとですが、意外とメンドウミが良いんですよ。
分かる分かる、と頷いておいた。
花紋縁を作るための刺繍枠という加工品は一体誰が用意しているのか、少し考えれば察しが付く。
そしてこれはおれの勘だが、クレィアちゃんはきっとウォロさんから何か言われない限り飽きない。
「さて! 長々と話し込んでしまいましたが、テルさんはススキさんのお宅に御用があるのですよね。彼でしたらもうじき戻ってくると思いますので、ジブンはこれで失礼しますよ」
「何もかもお見通しじゃないですか……。それじゃ、またプレート発見時にでも!」
ギラティナの情報楽しみにしてますからねー、と去りゆく背中に声を投げて手を振り返す。
行き違いにならないようススキさんが家に戻るまでの話し相手になってくれたらしい彼は、やっぱり面倒見の良い人だ。
「ん?」
彼が去った後、二体のエイパムがぴょんぴょんと跳ねながらこちらに向かってくる。
あっという間に距離を詰めたかと思えばぐるぐると足元を回り出し、にこーっと満面の笑みで尻尾を広げて見せつけてきた。
ああ。
これは。
可愛いだけで。
「…………カツアゲだ…………」
助けてくれバクフーン。
○読者の皆様へ
この度、投票者が五名になったおかげで評価バーに初めての色が付きました。皆様の応援により赤色です! 嬉しいです。
高い評価をくださった方、感想を書いてくださった方、お気に入り登録してくださっている方、しおりを挟んでくださっている方、そしていつも読んでくださっている方々に、この場を借りて御礼申し上げます。
筆者は四月から大学生になる身ですので、忙しくなると毎日更新から隔日更新になるかもしれません。
それでも完結まで、どうかご愛好のほどをよろしくお願いいたします。