シンオウの昔日-翡翠英雄奇譚-   作:ヒュペルボレイオス

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 メイン任務4


せめて、チャンピオンらしく。

 

 

 試験に合格したおれは手始めに少し時間を貰い、コトブキムラのみんなに挨拶回りをするところから始めさせてもらっていた。

 新顔が奇抜な第一印象を植え付けてしまったのだ。今からでも遅くないから払拭したいし、これからギンガ団としてムラの一員として助け合っていかなければならないのだから、挨拶は早い内が良い。

 

 一時間も掛からず顔を見せ終わって分かったことは、やっぱり最初は怪しがられていたってことと、ギンガ団の調査隊員として期待も応援もされてるってことだ。

 新米トレーナーとしてコトブキシティの街行く人から応援された日を思い出して面映ゆくなった。

 

 ……ムラの名前を聞いたときにもしかしてと思ったが、今のコトブキムラが将来のコトブキシティ──という単純な話ではない、のだと思う。

 コトブキシティは「クロガネの人たちとポケモンの力を借りて、山を切り出して作られた街」だ。移り住んで二年、ポケモンと協力する人が少ないこの状態で、それが出来るとは思えない。

 ムラに一本通る水の流れといい、浜といい……ここはどちらかと言うとミオに近い地形をしている。

 多分、ムラの奥に切り立つ山をこれから開拓するに連れて『コトブキシティ』が出来上がって、今あるコトブキムラ……言うなれば『第一期コトブキムラ』は始まりの浜に向かって広がっていき、やがてミオシティとなるのだろう。

 あの浜の向こうに鋼鉄島や三日月島、あと新月島があるのだと考えたらなんだかわくわくしてきた。クレセリアとかダークライとか、絶対調査し甲斐がある。

 とはいえ今の手持ちはヒノアラシと試験で捕まえた三体だけ。彼らに太刀打ちするには少し、いやかなり力量に差がある。海を渡るすべも無い。強くなって迎えに行くからな、待っててくれ。

 

 挨拶回りも終わり、おれは黒曜の原野でショウさん──ショウ先輩と共に、早速調査を開始する。まずはビッパ、次にムックル、ケムッソを捕まえて、あとポニータも捕獲した。シンオウ地方に生息する炎タイプはヒコザルとポニータの系統しかいないというのは有名な話だ。

 攻撃的なブイゼルにはヒノアラシを繰り出しつつ、“えんまく”と“でんこうせっか”で翻弄しながらモンスターボールを投げる。やっぱりポケモン勝負で弱らせてから捕まえるのが性に合うと言うか、慣れてると言うか。

 そんなことを口にしたらショウ先輩から「テルはもしかして戦闘狂ですか?」とあらぬ誤解を受けた。

 

 

「あっ……この辺りは蹄鉄ヶ原です。ポニータの生息地であることに加えて、点在する池の形が彼らの蹄のようなので、そう呼ばれています」

 

「へえー、小洒落た名前ですね」

 

「いい機会です。テル、息を潜めて岩陰に」

 

「えっ」

 

 

 言われるがまま、マフラーを口元まで引き上げる。蹄鉄ヶ原の大岩に身を隠し、近くの草むらの隙間から様子を覗う。

 

 

「……いました」

 

 

 瞬間、変な息が漏れた。

 そこにいたのはおれの知る“それ”とは比較にならない程に巨大なギャロップ。

 高さは優に三メートルを超え、周囲の酸素を燃やしてたなびく炎のたてがみの雄大さと言ったら言葉にできない。青い空に燐光が如き火の粉が舞い、真昼の星の様だった。

 

 

「………………何すか、あれ」

 

「アルファポケモン、頭目ポケモン……呼び方は様々ですが、主に『オヤブン』と呼ばれる個体です。通常よりもかなりの巨体で、荒々しく攻撃的になります」

 

「こわ……」

 

「流石にテルも怖いですよね。ポケモンは怖い生き物……それを何より雄弁に語る証明者。それが『オヤブン』です」

 

 

 制服越しに肌をびりびりと震撼させる咆哮が轟き、近隣を通り掛かったビッパが一目散に逃げていった。ギャロップの目線は蹄鉄ヶ原から川を挟んで向こう岸『険し林』に注がれている。なるほど、親分。

 

 

「強いんですよね、あれ」

 

「はい。過去には四名の調査隊員が重傷を負い、ヒスイを去りました」

 

「やば……」

 

 

 そんな話を聞いては思わず身も竦む。多分だけどその調査隊員四名はおれが今いる宿舎を利用していたんだろう。他の宿舎にはそれぞれ四足ずつ履き物があったのにおれの宿舎だけ空き家だった理由は、まあ、そういうことだ。

 

 

「この近くを調査するならあのギャロップには細心の注意を払うよう心掛けてください。ゼロボシやヒトツボシが勝てるものではありません」

 

「了解です。ポッタイシ危うきに近寄らずってことで」

 

 

 そろりそろりと草むらを通ってオヤブンの縄張りを後にする。倒すとしたらビッパをビーダルにまで育ててから“あまごい”でギャロップの火力を落として、混乱狙いの“みずのはどう”辺りがメインの技になるだろうか。相手の強さが未知数な以上“ドわすれ”くらいは重ねておきたいがその場合は物理技で来られると辛いものがある。素直に一発“どくどく”を打っておくべきか。

 

 などという思考に夢中になっていたおれは、草むらを出た先に立つポニータに気付かなかった。突然草むらから敵が出てきたポニータは驚きのあまりパニックを起こし、おれの腹を思い切り後ろ脚で蹴り飛ばした。

 

 

「ごぶぇっ!?」

 

「テルーッ!」

 

 

 一目散に逃げていくポニータの体が遠ざかる。分かってる、あのポニータは反射的に蹴飛ばしただけでおれへの敵意も殺意も無い。三百メートル以上のジャンプを可能とする脚力で本気で蹴り飛ばされたらこんなものでは済まないのだ。今のは単に、“ねこだまし”で目を瞬かせた程度の反応に過ぎない。

 

 が。

 

 蹴り飛ばされた先がオヤブンギャロップの縄張りなのは、端的に言えば「死」ではなかろうか。

 

 

「っ…………!!」

 

 

 妖しく赤光りする眼がおれを見下ろす。

 臓腑を丸ごと握り潰されたような圧迫感。

 吐息すら許さない強者の眼光と威圧感。

 息をする権利さえこの領域では弱者に与えられない。

 

 

「っテル、避けて!!」

 

 

 ショウ先輩の叫び声に全身の金縛りが解けた。同時に放たれる火炎の軌跡。駆け巡る走馬灯をも焼き尽くさんとする灼熱に、おれは全力で身を捻った。

 ──が、オヤブンの方が何枚も上手。火炎は何故かおれを執拗に追尾した。

 

 

「待てよ!! どういう原理だオイ!!」

 

 

 到底許せない理不尽にキレながら即座に走り出す。確かにギャロップは“ほのおのうず”を覚えるから炎の軌道をある程度操ることはできるだろう。でもこの火力と規模はどう考えても“かえんほうしゃ”であって“ほのおのうず”ではないとおれは思うワケ。

 

 

「とにかく逃げてください!」

 

「いや……ヒノアラシ!」

 

 

 ボールから出た瞬間にヒノアラシが大量の黒煙で周囲を覆う。おれは見失う前にショウ先輩の手を掴むと、煙が晴れる前に大岩の影に再度身を潜めた。ギャロップが標的を見失ったのを表すように炎はたちどころに立ち消えた。

 

 

「先輩、ギャロップ相手に逃げんのは無理です。向こうは十歩で最高速度に到達する上に視界は三百三十度を見渡せます」

 

「さ、最高速度が分かるのですか?」

 

「一秒で人間の百歩分くらい進みますよ」

 

「ひゃっ……!?」

 

 

 ヒノアラシに黒煙を絶やさず追加してもらいながら、ビッパの入ったボールを握りしめる。

 ギャロップと共にシンオウリーグを制覇したからこそ分かるのだ。動きの特徴、技の出力速度やインターバル、そも走るのが純粋に好きで草原を駆けている温厚な種族が猛り荒び狂う異常性が。

 

 マフラーを外してショウ先輩に預ける。

 頭の中で大まかに立て終わった作戦を何度もシミュレーションする。

 この黒煙に乗じて逃げるのが賢い手だ。ギャロップは視界の広さに反して視力自体はそこまで高くない。

 ──だから、それは最後の手段。

 逃げる手段がある状況下で、強敵相手にすることと言えばひとつしかない。

 

 ──勝負しようぜ、オヤブンギャロップ!

 

 

 

 *

 

 

 

 マフラーを預けられた時、「死」が真っ先に頭をよぎった。

 ギンガ団の調査が一向に進まない理由はポケモンが怖いから。その中でもこのギャロップは、穏やかな草原に突如として現れる絶望的な脅威として君臨している。

 三人の同期がいた。

 ひとりの先輩がいた。

 ひとりは両足が潰れ、ひとりは半身が焼け焦げて、ひとりはお腹に大穴を空けて、ひとりは返り血まみれで狂を発し、ヒスイの地から去っていった。

 

 

「それ、一旦預かっててください。支給されて早々ダメにするとか、みったくない(みっともない)ですから」

 

「テル……?」

 

「ちょっと戦ってくるんでショウ先輩はそこから離れないで。戦闘中のオヤブンの近くに寄る野生ポケモンはいないでしょう」

 

「たっ……戦う!? オヤブンギャロップと……!?」

 

「もちろん駄目だと思ったら煙幕撒いて逃げるんで勝ちは期待しないでくださいね」

 

 

 だったら最初から逃げてほしい。今ギャロップはあたしたちを見ていない。安全に逃げられるなら今なのに、どうしてわざわざ戦いに行くのか理解できない。

 

 

「じゃ、行ってきます」

 

 

 でもテルはとても楽しそうに、ボールを構えて草むらに身を沈めた。

 昨日はずっと不安げな顔をしていたのに、ヒノアラシを連れてからは怖いものなんて何も無いみたいに笑っている。ポケモンと一緒ならどこにでも行けてなんだって出来る──そう信じてやまないかのように。

 

 晴れていく煙幕が恨めしい。このままずっと晴れないでほしいと願わずにはいられない。あたしは彼の背に手を伸ばす意気地すら無いのに、黒煙は彼の背を押し手を引くかの如く、一陣の風と共に晴れ渡った。

 

 

「“でんきショック”!!」

 

 

 コリンクの青い体躯が稲光を纏う。

 僅かな死角から叩き込まれた雷光一閃。

 不意を突かれたギャロップは対応が遅れ、一瞬で動きが鈍り出した。──麻痺だ。

 

 

「次! “ころがる”! 正面から行くな、轢き逃げろ!」

 

 

 手早く交代し出てきたビッパは土煙を上げ石の破片を飛び散らしながらギャロップの脚に突っ込んでいく。どんな荷車の車輪よりも速く回る焦げ茶の体はそれだけで大きな岩にも見えた。

 脚に衝突しそのまま跳ねて戻るのではなく、当て逃げして旋回する。苛立ったギャロップがひときわ大きな声で嘶き、両の赤い目をより妖しく光らせる。

 

 

「構うな続けろ! ギャロップの視力じゃ“さいみんじゅつ”は碌に当たんねえ!」

 

 

 遮られることなく、“ころがる”に熱中したビッパが再度ギャロップを轢き逃げる。全身の痺れが未だ取れていないのだろう。オヤブンにあるまじき失態、二度三度の攻撃を許し、ギャロップは初めて脚をふらつかせた。

 けれどそれもここまで。四度目の“ころがる”で向かってくるビッパに正面から放たれた“だいもんじ”が直撃し、ビッパは堪らずボールに逃げ込んだ。

 入れ替わって出てきた二体目のビッパが闘志を燃やして“ころがる”を継ぐ。穏やかな気性の格下が徒党を組んで襲ってきてる──その現実を目の当たりにし、ギャロップは威嚇の咆哮をあげた。周囲に浮かび景色さえ歪ませる“マジカルフレイム”。二体目のビッパも倒され、三体目のビッパが戦場を駆ける。

 草原は既に幾本もの軌跡と炎で荒れていた。灼熱の大気、立ち込める砂煙、肌を刺し貫く殺気が嵐のように吹き荒ぶ中──彼は、笑っている。

 

 

「コリンク、もう一丁!」

 

 

 麻痺が治り瞬く間に倒されたビッパに代わってコリンクが再度“でんきショック”を浴びせるも、不意を突けなかった差異からか痺れさせた様子は無い。

 返礼の“だいもんじ”が燃え盛る。“でんこうせっか”で紙一重の回避を試みて、もう一度“でんきショック”を見舞うも──やはり、麻痺の爪痕は残せない。“マジカルフレイム”を受けてコリンクが倒れ伏す。

 

 

「“つばめがえし”だムックル! でかいの一発入れてやれ!」

 

 

 囀りと嘶きが同時にあがる。終わらない徒党に嫌気が差したのか、臆病なムックルにまで刃向かわれたことが気に入らないのか、ギャロップは炎ではなくその身一つで迎え討った。

 空にて弧を描き風刃を携え降下する椋の木の鳥が、地を疾走し風圧の槍と化した丙午と激突する。

 当然のようにムックルは敗けた。

 刃を届かせたところでギャロップを倒すには至らず、当たり前のように地に転がった。

 

 

「……よく繋いでくれた、みんな」

 

 

 そこであたしはようやく気付いた。

 あんなにごうごうと燃え盛っていたギャロップのたてがみが、今では息切れのようにボッ、ボッと途切れ途切れに燃えていること。

 大地を踏み締め均していた四本の脚が、今の“すてみタックル”の反動を殺しきれず震えていること。

 それは初めて見る、オヤブンギャロップの()()()姿()

 圧倒的で絶対的な絶望と死の象徴。触らぬ神だった丙午が零落した光景。

 

 

「見取り稽古は充分か、ヒノアラシ」

 

 

 六体目が戦場に投下される。

 テルの相棒、同じ炎タイプのヒノアラシ。

 彼は背中の炎を盛らせ、テルの問いに応えて鳴いた。

 倒しても倒しても次々に繰り出されるポケモンにギャロップが吠える。地団駄を踏む様に蹄で地面を叩く。そんなことをせずともよかったオヤブンが、ありったけの威嚇を手当り次第にやっている。

 あたしはテルのマフラーを千切れんばかりに握りしめて、両の眼をかっと見開きながら、もう食い入ってその光景を眺めていた。

 

 ──いけ。

 三人の同期がいた。ひとりの先輩がいた。

 

 ──いけ。

 みんな、ヒスイの地から去っていった。

 

 ──いけ。

 ポケモンは怖い生き物で、このギャロップには絶対勝てない。

 

 ──いけ。

 その現実を、ぶっ壊せ。

 

 

「勝って!! テル──!!」

 

 

 草むらから立ち上がり、震えた声で絶唱する。

 その刹那、ギャロップはあたしを射殺さんばかりにこちらを向いた。

 絶対に目を離してはいけないヒノアラシから、目を離した。

 

 

「今だ!」

 

 

 先手を取って疾走する。

 一歩遅れてギャロップが、頭の一角で迎え討とうと首をもたげる。

 

 

「乗れ!」

 

 

 角を穿ち抜く寸前でヒノアラシが跳ねて鼻先に飛び乗った。ギャロップが頭を振り抜き、大空に放り出される小さな体躯。太陽を背負ったヒノアラシを誰もが見失う。

 テルだけはヒノアラシの行方を見上げもしなかった。

 空に向けた人差し指を、真っ直ぐに眼前のギャロップに振り下ろして──春の朝日みたいに、屈託なく破顔する。

 

 

「“ころがる”だ──()()()()()!」

 

 

 陽光の目眩ましと重力の重みを引っ提げて、隕石が如く天より直下せし大岩が、一角獣の無防備な背を衝撃でひん曲げる。踏ん張りも効かず崩折れ横倒しになる丙午の鳴き声が周囲に轟いた。威嚇でなく咆哮でなく、敗着の苦悶を乗せて。

 振りかぶり放られる赤と白のモンスターボール。まさか、と思った次の瞬間にはもう遅く、ギャロップの巨大な体躯が吸い込まれる。

 もはや抵抗する力も無いのだろう。

 ボールは小さく跳ねただけで──シュボッ、と捕獲完了の合図を打ち鳴らした。

 周囲に満ちる静寂。

 テルの足音だけがさくさくと響き、ひょいとボールを拾い上げる。大きくなったヒノアラシを労うように撫でてから──

 

 

「ショウ先ぱーい! おれたちやりましたよー!」

 

 

 人懐っこい笑顔を浮かべ、小走りであたしの元に帰ってきた。五体満足で、火傷どころか傷一つ無くて、ポニータを捕まえた時みたいに。

 あたしはどっと押し寄せた感動に体が追いつかなくて、笑って迎えるべきなのに、滲み出す視界を制御することができなかった。

 

 

 

 *

 

 

 

 ──オヤブンギャロップを捕まえたら、ショウ先輩に大泣きされた。

 

 おれはもうぎょっとするしかなくて、心当たりをありったけ探す。

 戦闘中に何か怖い思いをしたのだろうか。実は触発されたポニータに追いかけ回されてたとか。熱された空気が熱くて肺が痛かったとか。ていうか酸素足りなくて酸欠だったとか。あっ逃げたかったのにそこで待っててとおれが言ったせいで動けなかったとか。土下座モンだぞそれは。

 

 

「せ、先輩? ショウ先輩? えっと先輩落ち着いて、あの、先ぱ〜い……」

 

 

 女の子に泣かれると男子としてはやっぱり居心地悪くて困ってしまう。足元のマグマラシからの視線が痛い。進化してぱっちりした赤い目が早速ジト目になってる。ふくらはぎを前足で叩かないで。おれが泣かせた訳じゃない。いやおれが泣かせたんだと思う。

 

 

「と……とりあえずベースキャンプ戻りません……か……?」

 

 

 こくりと頷いたショウ先輩の手を取り、原野ベースまで歩き出す。なるべくコリンク地帯は避けつつ、どうしてもエンカウントした場合はマグマラシに蹴散らしてもらった。

 

 

「ごめんなさい、取り乱しました……」

 

「いえ……おれこそ……」

 

「あ、マフラーお返ししますね……」

 

「あ、ども……ありがとうございます持っててもらって……」

 

 

 ベースキャンプに着く頃には先輩も泣き止み、握り締めてたマフラーを返してもらって、マグマラシをボールに入れる。お互い微妙な空気になりつつ、深呼吸。

 何事も無かったように、原野ベースに足を踏み入れて──

 

 

「おいコラ新入り! てめえなにショウさん泣かせてんだよ!」

 

「スミマセンほんとスミマセン…………!! 返す言葉もありません……!!」

 

 

 目が赤らんでいたからだろう。原野ベースで作業していた調査隊員の先輩たちに秒でバレてどやされた。当たり前だ。新入りの野郎が女子を泣かせて帰ってきたらおれだってキレる。

 

 

「な、何があったのですかテルくん」

 

「おれが怖い思いをさせてしまったんだと思います……」

 

 

 ラベン博士に訊ねられるも、正直心当たりがありすぎてどれが引き金でどれが原因なのかは全く分からない。申し開きのしようも無い。針の筵。そんなおれを助けてくれたのは、ショウ先輩本人だった。

 

 

「ち、違います皆さん。あたし感動しちゃって……勿論怖かったんですが、それ以上に感極まってしまったんです」

 

「先輩……!」

 

「ふふ、聴いてください。なんとテルは──あのオヤブンギャロップを捕まえたのです!」

 

 

 一拍。

 沈黙を挟んで、ざわめきが広がった。

「オヤブンギャロップって、あのオヤブンギャロップ!?」「それって例の……」「おい嘘だろ、本気か?」「嘘ついてなんになるんだよ」──等々。

 

 

「マジですよ。ほら」

 

 

 戦う元気は無いだろうし、とボールからギャロップを出した。

 相変わらず異常個体並みにでかい体をしているが、オヤブンとしての責任感や使命感に狂った妖気は眼光から消えている。

 軽く手を上げて挨拶すると、ギャロップはしばらくおれをじっと見下ろして、ゆっくり足を折り座り込む。顔に手を伸ばしても嫌がる素振りは見せないのを確認し、よーしよしよしと撫でてみる。うん、完全に敵意は無い。

 

 

「群れが心配か?」

 

 

 ギャロップは首を横に振った。人間の言葉と仕草を解しているかなり賢い個体のようだ。知性ある眼差しは、群れには既に己の後継がいるのだと、そいつを信頼しているのだと物語っていた。

 

 

「そっか。ありがとな、認めてくれて」

 

 

 低く嘶き首を下げる。ぶつかり合い、互いに認め合った証左なのだろう。ボールから飛び出たマグマラシとも何やら親しげに話している。

 

 

「こんな感じっ……す……」

 

 

 ふいと後ろを振り返ると先輩方が物陰に隠れていた。ショウ先輩は誇らしげに胸を張っている。ラベン博士は興奮した眼差しをギャロップとマグマラシに注いでいる。

 

 

「──アメイジングですテルくん! ヒノアラシをこの短時間で進化させたのですか!?」

 

「そこですか!?」

 

「どれもです! 捕獲の才能、勝負の才能、育成の才能、きみは何でも持っていますね!」

 

「ありがとうございます! 照れます!」

 

 

 うんうん、と腕を組んでショウ先輩が頷く。

 正直デカさには驚いたけど、強さの洗練具合いはオーバさんのギャロップの方が格段に上だ。多分ポニータから進化して、威圧感だけで他のポケモンを圧倒していたのだろう。怯えず怯まず向かってくるポケモンを相手に戦った経験はそれほど無いように思えた。

 

 

「ぐえ。なんだよもう、図星か? ちょ重い、重いって」

 

 

 考えがバレたのか、ギャロップはおれの頭におとがいをずしっと乗せる。お詫びに下顎を撫でてやると気持ちよさそうに目を細めた。

 暴れる様子が無いと分かると、先輩方が恐る恐る物陰から出てくる。一瞥すると怖がられるのが分かっているのか、ギャロップは見向きもせず目を瞑り続けた。

 

 

「……とんでもない新人が入ってきたなあ……」

 

「本当にね……」

 

 

 ちょうど日も高くなったお昼時。

 ベースキャンプの鍋で作った煮詰め料理をみんなで食べながら、おれは根掘り葉掘り訊ねられる詳細を事細かに語らった。

 




ビッパ(♂・♂・♀)
 やんちゃな性格で力が自慢。わんぱくな性格で少しお調子者。むじゃきな性格で食べるのが大好き。このあと丁重に手当てされた。

コリンク(♂)
 れいせいな性格で気が強い。二度目のでんきショックで麻痺させられなかったのが心残り。

ムックル(♀)
 ゆうかんな性格で打たれ強い。“すてみタックル”は生涯忘れず子々孫々に伝えていくと決意した。後のタマゴ技である。

ギャロップ(♂)
 がんばりやな性格でかけっこが好き。……だったのがオヤブンとなったことで責任感と使命感に狂い凶暴化した。
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