シンオウの昔日-翡翠英雄奇譚-   作:ヒュペルボレイオス

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夢中の魔

 

 

 各地で豪雨とポケモンの群れが目撃されるようになってからかれこれ十日が経った。

 原野と湿地、それから海岸での大大大発生は確認されたものの、未だ『天冠の山麓』と『純白の凍土』での発生は確認されていない。

 現状できることといえば何故発生するのかという議論と解析。そして発生に備えて警備隊と調査隊の戦力を底上げすることだった。

 

 

「それでさあ! わたしは『カミナギ寺院跡』を重点的に調べるべきだって言ってるのに、セキの奴は『とにかくヒスイ中の遺跡を数多く見つけるのが先だ』って言って譲らないの!」

 

「ああ分かる分かる、とにかく数を揃えたがるんだよね。精査するのはいつもその後からさ」

 

 

 小難しい話は博士に頭を捻ってもらうとして、戦力の底上げについて。

 元から何かと組むことが多い警備隊と調査隊の合同訓練は今に始まったことではないが、訓練の内容に大幅に手が入った。

 今までは互いにポケモンを戦わせたりトレーナー自身の体力をつけたりと基本的な訓練の積み重ねが行われていたが、今回は悪天候の中で群れを相手にするという特殊かつ過酷な状況を想定しなければいけない。

 

 

「わたしだって色んな遺跡を調べることが大事なのは分かるよ? でもひとつひとつに集中して丁寧に調べることが『カミナギの民』への敬意じゃない!?」

 

「って言ったらこう反論してくるんだよね。『今この時も忘れられちまってる遺跡を一刻も早く見つけてやるのが先だ。時は金なり、時は急げだぜ』」

 

 

 そこで訓練相手として抜擢されたのはおれが育てた放牧場のポケモンたちだ。

 研究が済んだ子たちから順次入れ替わるものの、居心地が良くてそのまま居着いた子も数多い。放牧場で共同生活を送っているため異種族ながらも大抵横の付き合いがあり、群れとそう変わらない連携が可能だから仮想敵にもってこいなのだ。

 

 

「そう! それ! 一言一句違わずそれ! もう、ヨネ姉全部分かってくれるよね!」

 

「あいつとの付き合いは長いからねえ。言いそうなことは大体分かるよ。こうと決めたら聞いちゃくれないんだ。頭固いよねえ」

 

 

 ──で。

 すぐそこの訓練場で先程から“いわなだれ”が連鎖式に発動する音がしているのに全く気にせずイモヅル亭のテーブル席で女子トークしているのが、大大大発生の情報を持ってきてくれたカイさんと、才能を開花させたゴンベのパートナーことヨネさんである。

 おれは訓練場でポケモンたちに指示を出していたのだが「野生の群れを想定しているならお前が指示を出すのは違わないか?」と指摘され、そのタイミングでこの女性陣が顔を出したため、あれよあれよとイモヅル亭に引き摺られていったのだ。

 ふたりはコンゴウ団の人間とシンジュ団の長という間柄ではあるが、シンワ祭りで意気投合し仲良くなったらしい。意気投合した会話の中身はセキさん。知ってた。

 

 

「おまえら好き放題言いやがって……」

 

「おっと。店員さんがお客に向かっておまえらだなんて言っちゃいけないよね」

 

「そうだぞセキ! あとわたしは先程イモモチのタレはもう少し甘めが良いと言ったはずだ!」

 

 

 イモヅル亭の三角巾と前掛けを身に着けたセキさんが店の中から追加のイモモチを持ってくる。

 本来イモヅル亭はギンガ団の社内食堂みたいなものであり、団員以外は利用できない。コトブキムラの人たちはあっちのナナシマ飯店に行く。

 ただ、弟子入りしたセキさんが拵えたイモモチをギンガ団に食べさせることを、ムベさんは了承していないらしい。店に出せないからと言って廃棄するなんて出来るはずもなく、一人前になるまでの味見役としてこの二人が呼ばれているそうだ。

 

 

「そりゃおまえの味覚が子供なだけじゃねえか。オレはムベさんの手順書通りにきっちり仕上げてるはずだぜ」

 

「ほう? まるで自分が手順通りに出来ているとでも言いたげだな。出来ていないからギンガ団に振る舞えないのではなかったか?」

 

「てめえ……」

 

「飯の席で言い争うんじゃないよ。イモモチが不味くなるだろ」

 

 

 ヨネさんに仲裁されふたりの舌戦はそこで途絶えた。

 裂け目が閉じてふたつの団が仲良くなったとはいえ、根本的な反りの合わなさまでは修復されそうにないみたい。

 

 

「なあテル、おまえさんもちょいと味見してみちゃくれねえか? オレとムベさんのイモモチの何が違うのか、ギンガ団の口から訊いてみたいのさ」

 

「え……でもギンガ団に出しちゃいけないんですよね」

 

「それは……そうなんだが……」

 

 

 はあ、とセキさんは深い溜め息をついて肩を落とす。

 流石にその姿に思うところがあったのか、ヨネさんは「充分美味しいとは思うけどね」とフォローを入れた。

 そう──ギンガ団に出せないということは、セキさんのイモモチがムベさんのイモモチとどう違うのかを指摘できる相手がいないということだ。

 セキさんも食べたことが無いのなら、彼はムベさんの可否だけを指標にしなければいけない。行き詰まっているのだろう。額に手を当てるそのかんばせはどこか暗いものがある。

 

 

「しょうがないなあ、ひと口だけですよ」

 

「! 恩に着るぜ、テル!」

 

 

 しーっと口元に指を当て、声を潜めながら箸を構えてこっそり口に含もうとした瞬間手元スレスレにクナイが飛んできましたテーブルに突き刺さって黒黒と屹立しています本当にスミマセンでした。

 

 

「まあ……その……応援してます」

 

「お、おう……ありがとな」

 

 

 空のお皿とクナイを回収してセキさんは店の中に戻っていく。

 一瞬だけ見えたムベさんの眼光に射殺されながら、おれは甘辛い匂いを漂わせるイモモチの山をじっと見つめていた。

 

 

 

 *

 

 

 

 異変が起きていようともそれが長期化するなら当然休みの日が回ってくる。

 ポケジョブ(仮)の調整を終えたおれがアルセウスフォンで転移した先はコギトさんの庵がある隠れ里。

 ウォロさんはいないもののコギトさんとクレィアちゃんはいるだろう。そう信じて庵の戸を叩き、上がらせてもらったおれが見たのは──ひとりで薬草を煎じている、コギトさんの姿だった。

 

 

「あれ。コギトさんひとりですか?」

 

「そうじゃな。ウォロの奴がクレィアを連れて城都に行きおったからのう」

 

「あいつ商会の金で家族旅行してやがる……!!」

 

 

 どうりでトレーナーズスクール(仮)にも顔を出さないはずだ。

 コギトさんはすり鉢を膝に乗せて小さく息をつくと、その銀の眼を訝しげに細めてムウマに視線を注ぐ。話が早そうで助かる。

 

 

「そのポケモンのことであたしを訊ねたのじゃろう?」

 

「はい。今日は休みなんであんまり調査らしいことは出来ないんですけど……パルデアで確認されてるらしいムウマは、過去のヒスイでも目撃されていたのかなって。お話だけ訊きに来ました」

 

「………………」

 

 

 コギトさんは手を止めてしげしげとムウマを見つめた。ムウマもまたその赤と黄の視線を絡ませて離さない。

 奇妙な沈黙が場を支配する。

 それは「知っている」「知らない」の段階なんてもう問題ではないとでも言わんばかりの、複雑な心境を言外に物語っていた。

 

 

「……()()()な」

 

「言えぬっスか」

 

「うむ……夢中の魔(ムウマ)であるとも夢中の魔(ムウマ)でないとも言えぬ。過去のヒスイにいたとも、いなかったとも言えぬ。おぬしが連れておるそのポケモンは『背反(パラドックス)』の衣を纏うことで今ここに存在を確立しているからの」

 

「……あー」

 

「理解が早いのう。そこなポケモンは()()()()()()()自体が不自然かつ矛盾しておる。しかしそれ故に、『矛盾』という曖昧のベールを剥ぎ取りさえしなければ単なる『不自然』で済ますことができよう」

 

「紐解くな、ってことですね」

 

「ああ。解いてはならぬ、明かしてはならぬ。曖昧という霧を晴らしてしまえば、蜃は姿を隠してしまう……」

 

 

 唄うような言葉が里に染み入る。

 パルデアのムウマはパルデアのムウマではなく、ヒスイにいて「自然」な存在とも言えない。

 だけど──その謎を解き明かしてはいけないのだと賢者(コギトさん)は重々しく告げた。

 おそらくはその言葉の意味をこうして深く考え込もうとするのも避けた方が良いのだろう。

 大大大発生に時空の裂け目、ふたつの「異変」が起こる今だからこそ紛れ込めた不自然な存在。

 曖昧模糊な霧の中、蜃気楼が見せる白昼夢のような出来事、一抹の夢──夢中の魔。

 目を細めてその()で呼び続けている内は大丈夫。

 ポケモン図鑑に示し後世に残すのは避けるべきか、と。脳内に浮かぶエイジュさんの笑顔につきりと痛む胸を押さえながら判断した。

 

 

「──でも、ポケモンなんですね?」

 

 

 コギトさんは全てを秘する中でその一点だけは明言した。

 そのポケモン、そこなポケモンと、このムウマが「ポケモン」という大きな大きな枠組みの中に生きる者であることだけはハッキリと。

 それは古代シンオウ人にとって「同胞」とほぼ同義の言葉であり、おれたちにとっての「仲間」と大差無い。

 今ここにいるのが不自然で、他のどんな種族と比べても不可思議な点が多々目に付くとしても、この世界で共に生きる不思議な生き物──ポケモンの一種であるという、ただその事実さえあれば充分な要項だけは満たしているのだと。

 

 賢者は静かに頷いた。

 ポケモンであるという事実。即ち創造神の揺籃から生まれた命であるという一点だけあれば、あとの矛盾も背反も何ひとつそこまで気にするものではないのだと微笑んで。

 

 

「ん……テル、しばらく茶でも飲んでいけ」

 

「へ?」

 

「ほれ」

 

 

 視線で指し示された先、『群青の海岸』の方角に突如立ち昇る黒い雲があった。

 どっぷりと水を蓄えて濁る雲はこれだけ離れた場所から眺めてなお物々しく、『オバケワラ』にひっくり返る難破船もこれに似た大嵐に見舞われたのだろうかと過去に思いを馳せてしまう。

 

 

「あーいえ! 今すぐ海岸に行きます!」

 

「おぬし今日は休みではなかったか」

 

「これは趣味なんで大丈夫です!! 行くぞムウマ!」

 

 

 そう、これはたまたまおれが今から海岸を散歩していたところに大大大発生が生じただけなのでセーフ。

 建前を即席で用意しながら、呆れたように肩を竦めてみせるコギトさんに手を振って『古の隠れ里』を後にする。

 調査隊制服は無いけどポーチは普段から持ち歩いているのだ。当然ボール各種も完備しているので捕獲に支障は無い。

 一度ムウマをボールに収め、取り出したアルセウスフォンの白光に身を委ねる。

 全身を包む浮遊感に高鳴る胸を更に期待で膨らませながら、紅い湿地の景色が光によって塗り替えられるのを眺めること六秒間。

 

 

 光に形が与えられた様な白い浜辺で笛を構えた。奏でて少し待てば大空を飛翔するウォーグル様が駆けつけるだろうから、調査もとい趣味のポケモン捕獲をするのはその後で。

 海岸での大大大発生はこれが初めてではない。

 前回は実は捕まえられていなかった白いスジのバスラオと毒々しいハリーセンを無事に『静かな内海』で捕獲できたし、イダイトウ様ではないイダイトウを雄雌両方捕まえられた。『火吹き島』でマグマブースターも無いだろうにブーバーンが出現していて二度見したのも記憶に新しい。

 今日はどんなポケモンが来てくれるのだろうか。おれとしては畑作隊へのお土産になるから脱皮前のゴローニャ辺りが嬉しいんだけど。

 

 

「ん、どうしたムウマ」

 

 

 いざ、と笛に息を吹き込まんとしたその瞬間、ボールから飛び出したムウマがおれの手元を凝視しながら訝しげに鳴いた。

 これ何? と首を傾げる彼女に「何かあったら離脱できるようにウォーグル様を呼んでおくんだよ」と身振り手振りを交えて説明する。

 

 

「ウォーグル様は一瞬で空高くまで飛べるからな。危なくなったらそれで緊急避難するんっだだだだだだ」

 

 

 ──瞬間、脳天に噛みつかれた。

 何が気に入らなかったのか不満のお気持ちを全力で表明されている。靡く髪の先がまるで握り拳みたいに少し巻き毛になって、ぽこすかとおれの顔を叩くのだ。何? 威力五くらいの“じゃれつく”? 可愛いね。どうすればいいのバクフーン。

 

 同じゴーストの(よしみ)で取り持ってくれないかと思った瞬間、鼻先に力強く雨粒が跳ねる。これはまずいと手近な草むらに身を潜めた。ウォーグル様を呼ぶ機会を逃してしまったが多分なんとかなるだろう。

 堰を切って溢れ出した雨の音が耳を揺さぶる。

 一瞬でずぶ濡れになった背中に長着が張り付いたのも気にせず、ムウマ共々息を殺す。

 握り込んだフェザーボールが雨で僅かに滑るのを掴み直しつつ草むらの隙間を凝視していると、相変わらずどこからともなく鳴り出す足音がひとつ、みっつ、むっつ。

 

 

「……ガーディか……!」

 

 

 わらわらと集った赤い体躯はこの雨をものともせずはしゃいでいる。

 炎タイプを筆頭に水タイプが得意ではないポケモンは基本的に雨を避ける傾向にあるのだが、大大大発生の豪雨は例外なのか炎と岩の複合であるガーディたちは全く意に介していないように見えた。

 とりあえずオレンのみを投げて注意を引き付ける。上手く場所を調節してこちらに背を向けるよう誘導し、フェザーボールを投擲する。

 ガーディの図鑑は既に完成しているけれどそれでも完璧ではない。『風晒しの森』に少数の個体が生息するだけなのもあって捕獲数は割と少なく、まだ七体ほどしか捕まえられていないのだ。完璧な図鑑の作成に必要な母数は二十五体ほどだから、ちょっとここで数を稼いでいこう。お礼はガーディの好きないきいきイナホかころころマメだよ。

 

 何体かはボールから脱してしまったが、何が起きたかは理解できていないらしく、きょろきょろと周囲を見渡すも新しいオレンのみを発見するなり意識がそちらに持っていかれる。

 決して焦らず息を殺して物音を立てず虎視眈々と機を伺ってフェザーボールで狙撃。それを繰り返せば、やがてガーディの群れは全員ボールの中へと収まった。

 

 

「……ふぃ~」

 

 

 達成感に満ちた息が零れる。

 ガーディの気配がなくなったのを確認して草むらから立ち上がると、食べ残しのオレンのみがいくつか地面に転がっているのが見えた。

 

 

「へえー、ガーディってきのみ焼いてから食べるんだ。でもこっちの子はそうでもないな。個体差?」

 

 

 オレンのみはこんがりと炙られているものもあればそのまま齧られているものもあった。同じ種族で食べ方に差があるのは中々珍しい。

 試しにちょっと拾い上げて果肉を喰んでみると、炙られた方の実は酸味が抜けて僅かながら甘みがあった。

 

 

「あー」

 

 

 そういうこと、と納得する。

 オレンのみは様々な味がぎゅっとひとつの実に詰まった果実であり、辛くも渋くも酸っぱくも苦くもある。もちろん甘くもあるのだが、他の味に紛れ込むとほとんど感じられない。

 ところが火を通して果実の酸を抜くと、その分香ばしくなった果肉は甘みが強くなる。

 甘い味を好むガーディはそうしてきのみの味を調整するのだ。賢さコンテスト優勝かも。

 これは図鑑に書き込むべきだと心を踊らせて踵を返したまさにその瞬間、強烈な悪寒に意識が引っ張られる。反射的に体を横に倒して炎の()()を回避し、転がった先で何事かと頭を上げる。

 

 ──キング・ウインディではないウインディの群れが、全員こちらを敵視していた。

 

 その現実に湧き上がったのは歓喜だった。

 炎の石が中々手に入らないから進化を後回しにせざるを得ず調査が遅々として進まなかったウインディがこんなにも来てくれたのだ。ここで喜ばない方がどうかしている。

 心臓が高鳴って口角が上がる。放たれる“かえんほうしゃ”も豪雨の影響を受けて威力が低い。こんな絶好の機会がかつてもこの先もあるだろうか!

 

 

「行こう──ダイケンキ、ムウマ!」

 

 

 待っていたと言わんばかりに飛び出すムウマが誰よりも速く“マジカルシャイン”を振り撒いた。目も眩むような強烈な光が雨粒を介して乱反射する。炎タイプへのダメージはそれほど高くないが、ムウマのやたら高い特攻とタイプ一致補正が生きたのかウインディたちは不快そうに吠え立てた。

 その一瞬の隙があればダイケンキは切り込める。

 重力から解かれた踏み込みは刹那に距離を詰め最も体の大きいウインディに“ひけん・ちえなみ”を叩き込むと、連撃に砕けたアシガタナの破片が辺りに散らばった。

 岩タイプを複合していても炎タイプの弱点がひとつ消える訳じゃないから、なるべく踏みたくはないだろう。

 

 勿論向こうもただではやられてくれない。初手は潰せたとはいえ数の利は相変わらず向こうにある。

 いち早く攻めっけを取り戻したウインディが“いわなだれ”でこちらの速度を奪いにきた。

 崩れた山肌を想起させる無数の岩塊が上空から降り注ぐ。彼が足止めする間に他の個体が喉笛を狙う、そういう連携なのだろう。何故分かるかと言われたらそれはおれの手持ちが訓練場で警備隊員相手にやってた定石だから。

 

 

「迎え討て、“たきのぼり”!」

 

 

 定石ということは当然、おれはそのコンボの破り方を知っている。

 岩の流れを見切ったダイケンキがカタナを納刀する。足元に集めた水のうねりに飛び乗った刹那、爆発的な加速を以て岩々との距離を自ら詰めた。

 地より放たれる青い稲妻に似た流水の軌跡。“いわなだれ”と衝突する寸前、加速を極めた抜刀術が唸りを上げた。

 水の気を帯びる貝殻の刀、その一閃を浴びた岩が我先にと形を崩す。二閃三閃と次々に“いわなだれ”は斬り捨てられ、ムウマに届くことは無い。

 

 せせら笑うと共にムウマは点滅を繰り返す光の球を差し向けた。

 不安定な軌道と不規則な点滅を目で追うウインディらが二体ほど目を回す。シングルなら“あやしいひかり”で混乱しようと単に自滅するだけだが、相手はダブルよりも多い群れ。

 正常な判断が出来なくなったウインディは技を自らではなく仲間に向ける。

 突如同胞から“すてみタックル”で襲いかかられたウインディは抗議の声と共に押し潰された。

 

 方向性を見失ったままの“いわなだれ”がウインディたち目掛けて落下する。回避しようにも焦りと混乱から互いに体をぶつけ合い、更に散らばった破片を踏んづけた痛みに怯み、ウインディの多くが立ち尽くしたまま岩塊を浴びた。

 仕事を終えて着地したダイケンキは口から放つ“みずのはどう”で岩の隙間を正確に撃ち抜く。雨の恩恵を受けて威力が増している二重弱点に堪らずウインディが倒れ込む寸前、その瞬間を待ち望んでいたおれがフェザーボールを投げ込んだ。

 

 捕獲完了のサインを待つ間も無くそれを繰り返す。ムウマの“あやしいひかり”で群れ全体を混乱に導き、ダイケンキが“みずのはどう”で各個仕留める度にボールに収める。

 悪天候だとか、相手が群れだとか、ツーマンセルだとか──そういう懸念や対策なんて、結局何も関係無くて。

 

 ウインディの好物って何だろう。ガーディと同じでいいのかな。

 なんて、既に調査後のお土産を吟味し始める程度には戦局が決定して暫く。

 戦場に立つ個体は次々に数を減らしていき、やがて表皮を撫でる敵意は全て消失した。

 

 

「よーし、お疲れふたりとも」

 

 

 キャッキャッとはしゃぐムウマがおれに飛び掛かる。すっかり機嫌が良くなって、結局あの癇癪は何だったのかと首を傾げながら、おれの頭を包もうとしてくる髪を撫で回して褒めの姿勢を見せた。

 ダイケンキは満足そうな顔で納刀し、つかつかと歩み寄ると無言で頭を差し出してくる。子供っぽく無遠慮にねだるムウマとは対照的ながらも、この仕草もつまりは「褒めていただこうか」の意なので大変かわいい。

 

 両手を酷使してムウマとダイケンキを撫でてやりつつ、程々に切り上げて次の群れを探しに行く。

 タマザラシの群れが雨に喜びながらあのちまっちまのおててを叩いていた時はあまりの可愛さに気が狂うかと思ったし、トゲピーの群れがトゲキッスを取り囲んで楽しげに小躍りする様は心臓に電撃が走った。もう捕獲とか後回しにしてアルセウスフォンで動画撮ったからね。ウォロさんが帰ってきたら見せびらかそう。

 他には水も滴る良い筋肉を誇示する逞しさコンテストをセルフで開催していたゴーリキーたち、雨音を伴奏に美しい多重合唱で近くのポケモンを魅了していたペラップたち、そのコンサート会場に集まってきたケイコウオの群れとバスラオの群れ──平時では中々見られないポケモンたちの魅力が凝縮されていた。

 

 

 おれ……大大大発生、大好き……!

 

 

 

 *

 

 

  

「──って訳で、趣味を満喫してました」

 

「テルくん……」

 

「何やってんだおまえ……」

 

「キミのような人をボクの故郷ではワーカーホリックと呼ぶのですよ」

 

「趣味なので!」

 

 

 雨が収まってから『海岸ベース』に足を運ぶとやっぱり先輩方とラベン博士が調査に来ていたので、捕まえたポケモンたちとその資料を提供した。報酬? 無くてもいいです趣味なので。

 

 

「そうもいきません。シマボシ隊長にはきちんと報告させていただくのです」

 

「押忍……!」

 

「そりゃあショウもお目付け役になるわな」

 

 

 こいつめ、と額を指でつつかれながら笑い合う。

 紙面には図鑑に書き込みきれるか怪しいような量の情報がみっちりと書き込まれ、雲間から海岸に差し込む陽光にきらきらと反射して輝いていた。

 

 ところで、アルセウスフォン?

 

 どうして御身の液晶画面には群れの位置が大まかに表示されているのか、お訊ねしてもよろしいでしょうか────。

 

 

 

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