シンオウの昔日-翡翠英雄奇譚-   作:ヒュペルボレイオス

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カミナギさんにお手紙書いた

 

 HAIKEI(はいけい) VOLO(ウォロ) SAN(さん) HE()

 

 JOUTO(ジョウト) NI() IRU(いる) TO() KIITA(きいた) NODE(ので) TEGAMI(てがみ) WO() KAKI(かき) MASHITA(ました)

 TABUN(たぶん) KAIRYU(カイリュー) GA() TODOKETE(とどけて) KURETA(くれた) TO() OMOI(おもい) MASU(ます) GA() DOU(どう) DESHITA(でした)

 

 HISUI(ヒスイ) HA() IMA(いま) TOTHUZEN(とつぜん) NO() ARASHI(あらし) TO() SORE(それ) NI() TOMONAU(ともなう) POKEMON(ポケモン) NO() TAIRYOUHASSEI(たいりょうはっせい) TOIU(という) HUSHIGI(ふしぎ) NA() GENSYOU(げんしょう) GA() OKOTTE(おこって) IMASU(います)

 RIYUU(りゆう) HA() ZIKUUNOSAKEME(じくうのさけめ) KARA(から) MOREDETA(もれでた) RYUUSHI(りゅうし) NI() HANNOU(はんのう) SHITEIRU(している) TOKA(とか) NANTOKA(なんとか)

 THUMARI(つまり) ANTA(あんた) GA() GENKYOU(げんきょう) NANDE(なんで) SAKKYUU(さっきゅう) NI() KAETTE(かえって) KITE(きて) MORAITAI(もらいたい) DESU(です)

 

 ATO(あと) AKAIKUSARI(あかいくさり) NO() KEN(けん) DE() OSEWA(おせわ) NI() NATTA(なった) NODE(ので) MIZUUMI(みずうみ) NO() SEIREI(せいれい) TACHI(たち) NI() AISATHU(あいさつ) NI() IKI(いき) MASHITA(ました)

 SOSHITARA(そしたら) NANTO(なんと) RYUUNOPURETO(りゅうのプレート) WO() SAZUKARI(さずかり) MASHITA(ました)

 TENA(てな) WAKE(わけ) DE() YAPPARI(やっぱり) SAKKYUU(さっきゅう) NI() KAETTE(かえって) KITE(きて) MORAITAI(もらいたい) DESU(です)

 

 SONNA(そんな) KANZI(かんじ) DE() KINKYOU(きんきょう) HOUKOKU(ほうこく) DESHITA(でした)

 TERU(テル) YORI(より)

 

 THUISHIN(ついしん)

 AMEAGARI(あめあがり) NI() MUSHIKUIBONGURI(むしくいぼんぐり) WO() TORU(とる) TO() SHIMETTE(しめって) IRU(いる)

 

 

 

 

「だから何ですか!?」

 

 

 昼の陽光が差し込む畳の部屋。飾り気のない白い紙を叩き付けそうになったのを堪えて叫んだ。

 別にこの紙がどうなろうとどうでもいいが、そこに綴られた神奥語(アンノーン文字)を屑籠に捨てることができなかった。

 いえプレートを授かったことは行幸であり喜ぶべき事柄なのですがこの追伸は何なんだ。

 そもそも手紙なんていつどこで誰が見るかも分からないものに神奥語を綴るなんて何を考えているんだアレは。

 ……ああいえ、そうでした。彼は使う文字の差異で迫害されたことなど無いから、そういう危機感をいだかない。頭の中に花運び用のタネでも植わっているのか。あとちょくちょく綴りが間違っているのも癇に障る。

 

 

「はー……」

 

 

 深い溜め息と共に自身の金の髪が流れ落ちた。

 その動きを眺めてしばらく経ったのちに緩慢な動きで文机に備え付けられた筆を握る。

 この妙に間違っていて癇に障る文章の添削と、ついでに返信のために。

 

 ここ数日のジョウトは奇妙なくらい静かな夜が続いていた。

 それが平和による心地の良い静寂ではないことを泰平の祝福(トゲキッス)の様子が物語っている。

 この子が物珍しい砂糖菓子にも組木細工にも反応しないなんて、よほど今のジョウトが居心地悪いのだろう。

 嵐の前の静けさとでも言うべきか。

 戦前の膠着状態に近い薄氷の平和が市井の空気を僅かに淀ませている。面倒なことになる前にこの町を発つべきか。しかしこの屋敷の豪商が取り寄せたという珍しい石板が明後日に届くというし、もしそれがプレートと関係あるのならもう少しだけ留まって正体を確かめたいが……。

 

 開け放った障子の向こう、庭先で奏でられる淀みのない神聖な鈴の音色が耳を打つ。

 筆を動かす手を止めて顔を上げた。

 柔らかな日差しの中で波打つ光沢が眼の奥で幾度も煌めく。それは彼女が纏う着物ではなく、陽光に輝く白い髪に宿るもの。

 巫女たちに教わったことを乾いた綿よりも深く吸収したクレドクィアは、どこか既視感のある、けれどワタクシの知らない舞を見慣れた杖と共に踊っていた。

 

 幼さの残る高く澄んだ声が紡ぐ旋律は対の塔に降り立つ神に捧げられる祝詞なのだが、こうして異邦人が耳を傾けてみても荘厳さは伝わってくる。

 それはやはりどこか懐かしくて、遠い遠い昔に交わった北風の音色を想起させ、郷愁に駆らせるのだった。

 

 ──その舞も唄も唐突に途切れる。

 驚きの感情を乗せた素っ頓狂な悲鳴と共にクレィアの体が四つ脚の見慣れないポケモンたちによって押し倒されたからだ。

 幸い悪意も無ければ害意も敵意も無い。魅惑する猫(ニャルマー)に飛びかかられた程度の衝撃と戯れに、はじめは混乱していた巫も見る見る内に鈴を転がした様な笑い声を響かせた。

 

 

「ヒスイでは見ないポケモンですね」

 

 

 草履をつっかけて庭に下り、三体のポケモンをまじまじと観察する。

 まず最も人懐っこくはしゃいでいる橙色の個体。盛る炎を思わせる黒毛混じりの尻尾は焔の白狼(ガーディ)の体色を思わせた。

 頭部を流れるたてがみをぐいぐいと擦り付けている黒色の個体は、ぴんと上を向く稲光の様な細い尾が雷鳴盗み(ライチュウ)に似ている。

 接触が控えめな白藍色の個体は頭部の毛量が多く、角のような対の耳が埋もれるように小さく顔を覗かせている。

 

 楽しげに戯れ合うのは構わないがいつまでも祭具を地につけないでほしい。

 疾風の黒獅子(ウインディ)を救出に向かわせれば、体躯の差に驚いたのか三体はすんなりと引き下がった。

 

 

「大丈夫ですか、クレィア」

 

「うん、平気」

 

 

 背中に流れる髪に付着した土汚れを指先で取り除く。ここしばらく晴天続きだったのが幸いして土は乾いており、絡みつくこと無く素直に落ちる。

 新雪の色に混じる不純物が排されていくのを、三体のポケモンは申し訳無さそうに眺めていた。怪我は無いのだから気に病まずともいいのだが。

 そうしていると縁側を通る慌ただしい足音が近づいてきて、ワタクシは温和なかんばせを形作りながら振り向いた。

 

 

「ああ、やっぱりここにいた!」

 

 

 薄い朽葉色の髪をした男が三体のポケモンを目に収めて溜め息をつく。

 揺れる深紫の襟巻きを見るなり目の色を変えたポケモンたちは、新しい遊び相手を見つけたとでも言わんばかりに男に向かって飛びついた。

 彼──この屋敷の手代を務める奉公人のひとりは慣れた様子でじゃれつきを捌きながら、紫の眼を柔らかく細めてこちらに笑む。

 

 

「驚かせてしまい申し訳ありません、お客人」

 

「いえいえ、エノキさんが気にすることでは! それよりそちらのポケモンは何というのですか?」

 

「彼らはなんというか、昔からこの町に住み着いているポケモンで……みんな好き好きに呼んでおります。まあ大抵はそれぞれ『エン』『ライ』『スイ』です」

 

 

 ポケモンたちもそれが自分の名前だと認識しているらしく、嬉々とした顔で返事をした。

 羽織をひっぱられても「こらこら」で済ませている辺り、この青年──エノキも彼らとは長い付き合いなのだろう。

 

 

「舞子たちの踊りがお気に入りなんで、いつもは歌舞練場の近くで見かけるんですがね。鈴の音が聴こえたからこっちに飛び込んでしまったんでしょう」

 

 

 ほう、と心の中でほくそ笑む。

 それは昔からこの町に住むポケモンたちの感性から見て、巫の舞は巫女たちのそれと遜色ないということだ。

 思わぬところで貰えたお墨付き。巫は照れくさそうに杖を握って抱き寄せた。

 

 

「あ、あの……」

 

 

 その巫が珍しく自ら声を掛ける。

 膝を折って目線を合わせた男に、彼女はおずおずと訊ねた。──歌舞練場に、妹がいるのではないか? と。

 

 その問いに男は目を見開いた。

 日差しに溶けて消えてしまいそうなくらい、本当に僅かな感情の機微。一瞬の内にそのかんばせを走り抜けて、そして仮面の下に消えた激情があった。

 

 歌舞練場で修行する舞手は、神事を継承する一族の中でも女子に限られる。

 継ぎ続ける中で何があったのかは知らないが、ジョウトの神楽は舞子と呼ばれる少女たちが修め、彼女らによってジョウトの神々へ捧げられるものとなっていた。

 そしてここ──商家というのは、多くの奉公人を抱える場所だ。幼い頃から親元を離れた丁稚は十年以上を奉公に費やす代わりに、衣食住を与えてもらえる。子供を他所の家の奉公に出すということは、その家には子供を養うだけの余裕か、子供に継がせるものが無いということだ。

 

 歌舞練場で神楽の修行を積む妹と、商家で奉公している兄。

 同じ一族から輩出されたであろう兄妹の立場の差に乾いた笑いが零れそうになった。

 

 

「……い、ますね。はい」

 

「あ、やっぱり……! いつもお世話になっています。おはなしは妹さんからたびたび伺っていました」

 

「妹から?」

 

「はい、じまんのお兄ちゃんだと」

 

 

 屈託なく笑ってみせた巫に青年は今度こそ虚を突かれる。

 どこか疎ましく思っていた妹が純真に自分を慕い、自慢の存在だと誇っている──その事実を目の当たりにして、紫の垂れた眼が複雑な感情に揺れた。

 驚愕と、羞恥と……慈愛か。

 

 

「はは。それは……嬉しい、なあ」

 

 

 皺の入った和紙の様にくしゃりと微笑んだ男が右手で目元を覆う。

 三体のポケモンたちは突然嬉しそうに泣き出したエノキの足元で、うろうろと心配しながら寄り添っていた。

 

 

 

 *

 

 

 

 ゾロアに化かされてまんまとエサを献上させていただくことになったという役得を挟みながら大大大発生の調査は進展を見せる。

 これまで沈黙していた『天冠の山麓』でいよいよ初の大大大発生が生じたのだ。

 立ち入れる団員ランクの関係で調査にあたれる調査隊員はかなり絞られ、この調子だと『純白の凍土』は単身での調査になるかもしれない。まあそれは別にいつものことだからいいか。

 

 

「どうだムウマ。顔見知りとかいる?」

 

 

 草むらで息を潜めながら傍らのパルデアムウマに問いかける。視線の先には大発生したムウマの群れが嵐の中を歌いながら悠々と宙を泳いでいた。

 しかしパルデアムウマは怪訝そうな顔で首を傾げながら、ふるふると否を表明する。うーん不思議。君が現れたのは大大大発生の影響じゃないのかしら。

 

 いつものようにオレンのみで注意を引き、背後を狙ってウイングボールを投げつける。空気を噴出しながら速くまっすぐ飛ぶこの系統は本当に使いやすくて大助かりだ。近づく必要が無いのがイイね。

 遅れてムウマージが出現する気配も無く、『山頂ベース』のすぐ近くに湧いたムウマの群れは無事にボールに収められた。

 

 

「ここは調査完了、と。テル、ボールの余裕はまだありますか?」

 

「はい、大丈夫っス」

 

 

 草むらから立ち上がって見回せば、目につくのはやはり少し道なりに進んだ先の、壊れ朽ち果てたこの石像。

 土台部分と少しの脚と思わしき箇所しか残されていない像はとても傷ましく、それが「像」だと初めて認識した時は卒倒しそうになったものだ。

 ディアルガ像と同じく太くて逞しい脚の残骸から、アルセウスの像ではないというのは確かだと思う、多分、きっと。アルセウスはすらりとした細身タイプの美脚だからジャンルが違う。

 

 

「次は~この向こうの『カミナギ寺院跡』が一番近いですね。行きましょう」

 

「本当に便利ですね、その不思議な地図……」

 

 

 おれもそう思う。

 アルセウスフォンに表示されるマップはつくづく便利なのだ。拡大と縮小が出来る上にワープ機能もあって、二十枚という制限こそあれどスタンプで印もつけられる。ポケッチのアプリにもそういう機能はあったけれど格段に使いやすくなっている。

 きのみチェッカーとかすごいお世話になった。あなたってどこにきのみを植えたか忘れちゃう駄目な人? って無垢な瞳で訊ねられた時には返す言葉もございませんでした。

 

 オオニューラ様に背負ってもらい崖を降りる。横着して飛び降りようとしたらオオニューラ様に首筋を撫でられたので大人しく彼の往復を待つ。ムウマは楽しそうに笑っていた。

 柱と草むらの陰に潜んで様子見すると、雨粒に濡れそぼった深藍色の体躯が風を裂いて咆哮する。

 ウソッキーやグライガーが姿を消している理由がディアルガ像の前に集結していた。

 

 

「ガバイトの群れだあ~……!」

 

 

 大雨の中を我が物顔で闊歩するドラゴンポケモンたち。ばしゃばしゃと雨水を跳ねさせながら地を踏みしめて走り回るかんばせは当然厳ついが、表情は心底楽しげだった。

 大大大発生とはポケモンたちのお祭りなのではというヒナツさんの考えも、このガバイトたちのはしゃぎっぷりを見ると頷けてしまう。

 何故か山麓や凍土を闊歩する個体がいるから勘違うが、フカマル一族は寒さに弱い。本来なら南の暖かい土地で暮らすポケモンだ。地熱に暖められた洞窟の奥を住処にしてようやく寒いシンオウやヒスイで生きていける。

 はずなんだけど。

 北方から吹き下ろす冷えた風と体温を奪いまくる豪雨に晒されながら遊ぶガバイトたちは……何なんだろう……。

 

 

「どうします? いつものようにフェザーボール系ですか?」

 

「それが理想ですけどね」

 

 

 オレンのみを投げて様子を見る。

 どうやらかなり秩序が出来上がっているらしく、きのみの一番近くにいたガバイトがわざわざ別のガバイトにそれを報せた。報せを受けたガバイトが一番の年長者なのか、オレンのみは彼の胃袋へと収められる。こういう群れは厄介だ。エサで釣って群れと引き離したところを狙うのが難しいし、誰か一体に手を出すと団結される。

 多分無理かなあ、と半ば諦めつつフェザーボールを飛ばして背後を叩いてみる──と、うん、やっぱ無理!

 

 激しい抵抗を受けてボールが堪らず大口を開けた。飛び出したガバイトの咆哮が轟くと共に、その場にいた群れ全員が臨戦態勢を整える。

 二発目を投擲する暇もなかった切り替えの早さに舌を巻きながら、位置が特定され身を潜める必要も無くなったムウマが獰猛に笑った。

 

 

「援護します、テル!」

 

「ありがとうございます先輩!」

 

 

 こうなった以上不意打ちで捕獲は出来ない。ポケモン勝負で弱らせてから捕まえよう。図鑑タスク的にはあと三体に協力してもらえたらそれでいいはずだ。

 

 

「お願いします、ハヤシガメ。“このは”!」

 

 

 ボールから飛び出した個体に心臓が跳ねる。

 顔つきは随分と逞しくなったが間違いない。彼はいつぞやの大大大発生でショウ先輩と一緒に捕獲したあのナエトルの内の一体だ。

 

 

「先輩その子!」

 

「はい、あたしも育ててみました!」

 

 

 テルがああも力強く推すので、と先輩は笑った。その笑みに、そのかんばせに、好きな人が自分の好きなポケモンを育ててくれたという感動が全身を駆け巡る。

 幅広の木の葉を大量に撒き散らしてガバイトらを撹乱するハヤシガメの働きを、称賛するかのようにムウマが口笛を吹いた。同時に幽微な点滅を繰り返す“あやしいひかり”を群れに放ち、かつてのウインディのように陣形を崩しに掛かる。

 テンガン山から降りる北風をも味方につけて“こごえるかぜ”で速度を奪うと、ショウ先輩の指示を受けてハヤシガメが“リーフブレード”を抜刀した。地面タイプを複合しているガバイトは通常のドラゴンタイプよりも草技が通りやすい。ハヤシガメはスピードで彼らに敵わないが、そこをムウマが補助してやれば群れ相手に一対一または二対一に抑え込める。

 できれば“はっぱカッター”を教えたいところだが余裕あるかな。おれに。

 

 

「ムウマ! 低めの位置から……“マジカルシャイン”!」

 

 

 掻き分けた銀の雨粒に乱反射する眩い光。

 上から放つと全滅させてしまうのでそれはよろしくない。おれはあくまで数を減らしたいだけだ。

 同胞の体が陰になって光を逃れた個体が三体。ばたばたと倒れては体を小さく縮めていった仲間を見渡して、残ったガバイトらが吠え立てる。

 地面複合だから“でんじは”が効かない。ムウマが迂闊に技を出すと勢い余ってボールに収める前に倒してしまう。

 

 

「雨ごと叩き付けて! “力強く”、“このは”!」

 

 

 ──その一瞬の葛藤を読み取ったのか、ショウ先輩がハヤシガメを動かした。

 背中に茂る葉がぶるりと震えたかと思えば、バケツを引っくり返したように篠突く雨をも絡め取り、重さに変えた“このは”が豪快に舞う。緑の燐光を纏って複数体に放たれる葉の数々に馴染み深い技の面影を垣間見た。

 

 

「今です!」

 

「はい!」

 

 

 反撃の“ドラゴンクロー”はムウマが髪で巻き上げて無効化した。その隙にスーパーボールを握り込んで投擲する。

 バシュン! と軽快な音と共にボールへと呑み込まれていく三体のガバイト。残り体力も乏しい中、抵抗は少ない。居心地は──……お気に召して、もらえたらしい。

 

 

「捕まえました! やーりました先輩!」

 

「ナイスです! 流石テル、あたしの後輩!」

 

 

 ボールを回収してショウ先輩とハイタッチ。ムウマと頬キス。ハヤシガメとは前足タッチうわ可愛い最高ありがとう光栄です今度ポフィン作ってあげるからねところで君何味が好き? 顔つき的にはパイルのみが好きそう。

 見守っていてくれていたオオニューラ様にもイエーイと手を翳せば、「何してんだこいつ」という半笑いを浮かべながらも爪が当たらないようにてしっと叩き返してくれた。ありがとうございます。

 

 

「これでガバイトの捕獲と撃破のタスクは全て完了ですね」

 

「はい。丁度今回捕獲した三体を全員進化させれば進化タスクも終わります」

 

「あ、最後に出していた“ドラゴンクロー”の情報がもっと欲しいと博士が仰っていました」

 

「そうなんですか? んじゃあ“ドラゴンクロー”をメインウェポンにして訓練する感じで……」

 

「その際に観察していけば完璧ですね!」

 

 

 今後のタスク進行の計画をあれこれ話し合いながら、次の群れはどこかとアルセウスフォンを取り出そうとした瞬間──全身の細胞が悪寒に慄く。首元に刃を突きつけられている、なんて感覚では到底足りない。四方八方から銃口を至近距離で向けられている。

 殺気だけで一度死ねそうだった。

 凍りついた関節を動かして顔を上げる。

 おそらくは一秒の猶予も無かったのだろう。

 オオニューラ様に抱きかかえられて飛び退いた地点で、巨大な亀裂が花開いた。

 

 

「っ……!!」

 

「え、っ……?」

 

 

 宙を舞う石の破片が視界を横切る。

 ノイズにしかならないそれよりも注視すべき相手に釘付けになる。

 しなやかに着地したオオニューラ様はおれだけを地面に降ろすと、ショウ先輩を連れてじりじりと後退してくれた。

 

 オヤブンにはもう慣れた。

 大大大発生の群れにももう慣れた。

 けど──これは、無いだろう。これは反則だろう。

 

 

「オヤブンガブリアスの、群れ……?」

 

 

 戦慄く先輩のか細い声が力無く雨音に破られる。

 寺院跡の崖の上。オヤブンレントラーを押し退けて現れた巨大な体躯のガブリアスたちが、おそらく同族、もしかしなくても身内のガバイトたちを撃破したおれたちを、身震いするような敵意の眼光で睨め下ろしていた。

 

 

「……先輩、そのまま」

 

 

 流石にこれは無理だ。ショウ先輩とその手持ちを守りながらオヤブンガブリアスを相手にする余裕は多分無い。

 今まで相対したどのオヤブンよりも凶暴で、それが徒党を組んでいるのだから、脅威度はハッキリ言って比べ物にならない。

 アルセウスフォンを握りしめる。ワープ機能を使えば今すぐにでも脱してしまえそうな気がするけれど、それではショウ先輩を置き去りにしてしまう。今から笛を奏でる時間は無い。一呼吸の内にガブリアスはこの間合いを詰められる。

 

 

「……ムウマ。行ってくれ」

 

 

 およそ()()()には頼めない指示を受けて、彼女は困惑するでもなく不敵にせせら笑ってみせた。

 全身を叩き付ける雨足は去る気配が無く、おれは恐怖に暴れ回る息を静かに整える。

 

 ……この群れが現れたのが、おれの元で良かった。

 喜べるとしたらただその一点だけ。その一点を心身共に理解するような、蹂躙の火蓋が落とされようとしていた。

 

 

 

 

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