異世界と銃と義手のメイド   作:レゾリューション

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この世界の咲夜さんはこんな感じです。(AIに頼んで描いてもらいました)


【挿絵表示】

 
今回は短め


ウェルカム

風が吹くたび、破れた布切れと錆びついた看板がかすかに軋み、その音はまるで死んだ街がまだわずかに呼吸を続けているかのような錯覚を与え、静寂の中に微かな不気味さを混ぜ込んでいる。

 

その中を――咲夜は、音もなく歩いていた。

 

その歩行は、もはや習慣ではなく生存のために研ぎ澄まされた技術そのものであり、視線は絶えず動き続け、影の濃淡、瓦礫の積み重なり、崩れた建物の内部構造、さらには屋根の上に至るまで、あらゆる「潜伏可能な位置」を順番に潰していくように観察していた。

 

ツイステッドハウラーとの戦闘の痕跡は、彼女自身の身体よりもむしろ装備の方に色濃く残っていた。

 

主力として使っていたナイフは刃こぼれを起こし、刃の光沢は鈍く、もはや精密な切断よりも“押し切る”ための道具に近づいている状態であり、予備として携帯していた数本のナイフもシャドウクリーパーとの連戦で折損し、数を減らしている。

 

さらに弾薬も心許ない。この状態で次の戦闘に入れば、勝率は確実に落ちる。それは経験ではなく、純粋な計算として理解できる現実だった。

 

「武器を整備したいわ....」

 

小さく呟いたその声は風に紛れて消えたが、その判断自体は極めて合理的であり、この世界で生き延びるための必須条件でもあった。

 

その時だった。

 

「こっちだぜ……そこのアンタ」

 

不意に、空間を裂くように声が差し込まれ咲夜の動きが止まる。だがそれは硬直ではない。完全な静止と同時に、思考と感覚が加速する。視線だけをわずかに滑らせ、音源の方向を正確に特定する。半壊した店舗の奥、崩れかけた壁の影に隠れるように存在する扉、そのわずかな隙間の奥に――人影。

 

「……」

 

沈黙の時間が流れる。その間に咲夜は位置をわずかにずらし、死角を減らし、退路を頭の中で組み立て、仮に銃撃が来た場合の射線と回避ルートまで計算し終えていた。

 

罠である可能性は高い。だが同時に、この世界において“人間”と接触できる機会そのものが極めて貴重であることも理解している。

 

ゆっくりと、だが迷いなく、彼女は扉へと歩み寄る。軋む音と共に、その内部が露わになる。そこにいたのは、黒いフードを深く被り、口元を紫の布で覆った男だった。

 

露出しているのは目元だけ。だがその視線は濁っていない。むしろ、異様なまでに澄んでいる。それは、この世界で長く生き延びてきた者特有の、“死と隣り合わせで磨かれた視線”だった。

 

(……武器商人かしら?)

 

咲夜は一瞬で結論に至る。外見、態度、そしてこの状況で声をかけてくるという行動。どれもが“戦闘員”ではなく“供給者”のそれだった。男は指先で何か――おそらく弾薬か小型の部品――を弄びながら、ゆっくりと口元を歪める。

 

「よし……それじゃあ、アンタとの記念すべき最初の取引を始めようじゃないか」

 

その声は掠れているが、不思議と不安定さはない。むしろ、長く使い込まれた刃物のように、鈍くも確かな信頼性を感じさせる響きだった。咲夜は一歩踏み込みながら、室内の構造を素早く把握する。外観とは異なり、内部は意外なほど整然としていた。

 

壁際には木箱や棚が並び、それぞれに弾薬やパーツ、見慣れない機構部品などが分類されて収められている。無秩序に見えて、実際には明確なルールで管理されている――そんな印象だった。

 

「こんな所で商売なんて、物好きね」

 

軽く皮肉を投げるがその声に油断はない。男は肩をすくめるようにわずかに動き、

 

「だが、あんたみたいな美人に会えたって訳だ」

 

と軽口を返す。言葉は軽いが視線は一切緩まない。互いに“相手を値踏みしている”状態だった。

 

次の瞬間――

 

「ウェルカム」

 

男はコートを開いた。その内側には、ぎっしりと武器が仕込まれている。拳銃、ナイフ、弾薬、工具、さらには即席改造用と思われる部品群まで、多種多様な装備が整然と並び、そのどれもが新品ではないものの、確実に“使える状態”で維持されていた。

 

それは単なる在庫ではない。この世界で生き延びるための“知識と経験の集積”そのものだった。咲夜の視線がわずかに動くが男はそれを見逃さない。

 

「それで、何をお求めだ、ストレンジャー?」

 

「そうね……」

 

それは迷いではなく、必要な選択肢を絞るための短い思考の間であり、次の瞬間にはすでに結論が固まっている。

 

「とりあえずナイフの修理に……それと――武器をいくつか」

 

静かな声音ではあったが、その中にはこの世界で生き延びるための確かな意志が込められていた。男はわずかに肩を揺らし、布の奥で笑った気配を見せると、指先でカウンターを軽く叩きながら言う。

 

「いいねぇ、話が早い客は嫌いじゃねぇ」

 

そのやり取りの最中、咲夜はふと思い出す。シャドウクリーパーやツイステッドハウラーとの戦闘の後、瓦礫の中から回収した丸い金属のようなもの――それらをポーチから取り出し、無言のままカウンターに並べた。

 

鈍い光を放つそれらを見た瞬間、男の目がわずかに細められる。

 

「……クレドを持ってるな」

 

「クレド?」

 

咲夜が問い返すと、男は一つを指で弾き、乾いた金属音を鳴らしながら説明を始める。

 

「この世界で流通してる通貨だ。見ての通り、こいつには金が混ざってる。他にも銀製、銅製のクレドがある。だからこそ価値がある」

 

そこで一度言葉を切り、わざとらしく肩をすくめる。

 

「もし紙切れだったら?……こんな世界じゃ、焚き付けにもならねぇだろうよ」

 

淡々とした説明だったが、それはこの世界の現実を如実に表していた。文明は崩壊し、信用も制度も失われた中で、最後に残ったのは“物質としての価値”だけだったのだ。咲夜はカウンターの上のクレドに視線を落とし、わずかに目を細める。

 

(……あの異形たちが持っていた理由も、想像はつくわね)

 

それ以上の言及はしない。だが、その背景にある光景は容易に思い描けた。

 

「それで、こいつらで足りるかしら?」

 

「ああ、十分だ。むしろ上等な部類だな」

 

男は素早くクレドを回収し、代わりに作業台へとナイフを並べると、慣れた手つきで研磨と調整を始める。刃が砥石に触れるたび、シャリ、シャリ、と乾いた音が静かに響き、欠けていた刃先が少しずつ鋭さを取り戻していく。

 

その間、咲夜は周囲を観察していた。棚に並ぶ弾薬、分解された銃のパーツ、そして用途不明の機械部品。どれもこの世界では貴重な資源であり、同時に“生き延びるための手段”でもある。

 

やがて、男がナイフを差し出す。

 

「ほらよ、元よりよく切れるようにしてやった」

 

咲夜はそれを受け取り、軽く振って感触を確かめる。刃の重さ、バランス、空気の切れ――どれも問題ない。むしろ以前より洗練されている。

 

「……悪くないわね」

 

短くそう言うと、今度は別の袋を取り出した。中には道中で拾い集めた鉱物や金属片が詰められている。

 

「これも買い取ってもらえるかしら?」

 

男は袋の中身をざっと確認し、にやりと笑う。

 

「へっへ……ありがとよ。こういうのは大歓迎だ」

 

素早く計算し、追加のクレドをカウンターに置く。その動きには一切の無駄がなく、この商売に慣れきっていることがよく分かる。咲夜はそれを受け取ると、視線を棚へと移した。

 

「それで……武器だけど、遠距離から撃てるのはないかしら?」

 

「ああ、いいのがあるぜ」

 

男は奥から一本のライフルを取り出し、ゆっくりとカウンターに置く。古い設計ながらも丁寧に整備されており、無骨な存在感を放っていた。

 

「SR-E-M1917だ。遠く離れた場所からでも敵の頭に“オヤスミナサイ”をねじ込めるぜ」

 

軽口とも脅しともつかないその言葉に対し、咲夜は無言のままライフルを手に取る。重量を確かめ、ストックを肩に当て、そしてボルトを前後に操作する。

 

カチャリ、と小気味よい金属音。動きに引っかかりはなく、ガタつきもない。

 

「そうね、彼らに快適な睡眠をプレゼントしてあげるわ」

 

その言葉には皮肉と実用性が同居していた。取引はそれで終わらない。咲夜は続けてショットガン用のシェルとハンドガンの弾薬を指定し、必要な分だけ確実に補充していく。弾薬は命綱だ。無駄は許されないが、ケチる選択肢も存在しない。

 

「あと――」

 

ふと咲夜の視線が自身の義手へと落ちる。男はその視線を追い、わずかに口元を歪めた。

 

「そいつも金がかかるが強化できるぜ」

 

「……そうね、また機会があれば」

 

現状の戦力で対処可能な範囲を見極めた上での判断だった。すべての取引を終え、咲夜は装備を整え直す。研ぎ直されたナイフ、新たに手に入れたライフル、補充された弾薬。戦うための準備は、ひとまず整った。

 

扉へと向かうその背に、男の声が投げられる。

 

「また来いよ、ストレンジャー。俺たちはあんたを歓迎するぜ」

 

咲夜は振り返らない。ただ、わずかに足を止め

 

「えぇ、これかもよろしく頼むわ」

 

それだけを残し、再び荒廃した世界へと歩み出した。

 




SR-E-M1917の元ネタはM1917エンフィールド。
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