シャルリア宮の第一夫君   作:倉庫から出す

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王下七武海

「白ひげ海賊団の二番隊隊長、火拳のエースの公開処刑……」

 

 人間オークションの日に号外として島中に配られた新聞は、当然マリージョアにも届いていた。

 

「エース? 以前お父上様が所望されていた船長コレクションの一つアマスね」

「彼は船長だった頃があるのですか?」

「数年前まではそうだったはずアマス」

 

 シャルリアにも見えるように新聞をズラしてあげると、「そう、この顔アマスわ」と頷く。

 

「七武海の一人がこの人間に敗北した時には、マリージョアの新聞にも載っていたアマス」

 

 俺がこういった情報を集め出したのは、シャボンディ諸島で暮らし始めてから少し経った頃。

 その時エースはすでに白ひげ海賊団の一員として名を挙げていたから、勝手にそれなりの古株だと思っていた。

 

「……七武海の一人を」

 

 バーソロミュー・くまが七武海へ加入した時期からして、彼はこのエースが落としたと思われる七武海の後釜だろう。

 

 俺の知るくまという人間は、世間一般的な海賊とはほど遠い性格だった。

 全ての海賊が強奪や殺人といった非道とされる行為をするわけではないが、ボニーを置いて海賊旗を掲げること自体が彼の性格的にありえない。

 

 あの頃の俺が自分の善良な部分しか見せなかったように、くまもそうだったんだろうか?

 

「失礼いたします。軽食をお持ちしました」

 

 メイドが食事をのせたカートを押しながら部屋に入ってくる。

 

 彼女はシャルリアに膝枕されている俺を見て一瞬固まったが、すぐに何事もなかったかのように食事の用意を済ませて部屋を出ていく。

 

「やはり貴女に膝枕をしていただくなんて、俺には分不相応なのではないでしょうか?」

「あのメイドは処理させるアマス」

「……いえ、シャルリア。あのメイドに落ち度があるわけではないです」

 

 シャルリアの意を汲んだ付き人はすでに部屋を出てしまっている。

 

 あのメイド、もう死んだだろうな。ある意味ではテロのようなことをしてしまった。

 

「言ったはずアマス。あなたが奴隷や下々民を気にかける必要はないと」

 

 シャルリアが俺の頭を撫でる。こういう時の彼女の手つきはとても気持ちがいい。

 

 犬か猫のように目を細めてされるがままとなっている俺に、シャルリアがくすっと笑う。

 

「それに今更アマスわ。私達が出会った日も、こうやってあなたを膝にのせていたもの」

「えっ」

「あなたはよく眠っていたから知らないアマスね」

 

 あーそういやあの時、妙に眠くて爆睡したんだった。

 

「あなたに薬が効きにくいのは何か理由があるアマス?」

「効きにくい、ですか。とくに何も……あっ」

 

 その辺に生えてる草花を食べて生活していた頃、何度か死にかけたことがある。

 食べる量を少しずつ増やしていくと、そのうち腹痛や舌が痺れるだけになったり、最終的にはどれだけ食べても平気になったんだった。

 

「少しずつ毒などを摂取していた時期がありました。そのおかげで耐性ができたのかもしれません」

「まあ……そのようなことを?」

 

 シャルリアが心配そうに俺を見下ろしてくる。

 

「随分前のことですから平気です」

 

 流石に天竜人であるシャルリアに「道端に生えていた草を食べて暮らしてました」と言う勇気は出なかった。蛮族すぎる。

 

 今思い返すと年齢が一桁の時の俺って、死ななかったのが不思議なくらい生活が終わってたな。

 

「もう二度となさらないでくださいまし」

「はい」

 

 シャルリアはホッと息を吐く。

 

 後ろ髪を引っ張られるような気持ちで体を起こし、サイドテーブルに用意されていた軽食を二人で食べる。

 今日の軽食は、一口サイズのパンに上品な甘さのクリームが塗られているものだった。

 

「美味しい」

「気に入ったのアマスね」

 

 一番上には旬のフルーツを刻んだものがのせられていて、ほどよい酸味はクリームとの相性がいい。

 グルメ小説の連載が始まりそうなくらいには美味しかった。

 

「あなたは嫌いな食べ物はあるアマス?」

「今のところはありません。食べ物であれば何でも食べられます」

「では、一番好きなものは?」

「好きなもの……麻婆豆腐、だと思います」

 

 好きではあるがメジャーではない料理なのもあって、シャッキーさんのとこで食べたのが最後だと思う。あの人の作る料理は全部美味かった。

 

「…………ふふっ」

 

 シャルリアが思わずといった風にくすくす笑う。

 まず彼女が口にするような食べ物ではないからなあと思っていたら、「違うアマス」と相変わらず俺の心を読んだようなタイミングで否定が入る。

 

「私達は本当にお互いのことを何も知らないアマスね……。でも、それも悪くないと思ったの。私達にはこれからたくさん時間があるのだから」

「……俺も貴女のことをこれから知っていきたいです」

「ええ。お好きなだけどうぞ」

 

 シャルリアは意地悪な笑みを浮かべる。

 以前の俺の言葉をそのまま使ったのだと気づくのに、かなりの時間がかかってしまった。

 

「…………貴女がそのような揶揄い方をすることも今知りました」

 

 シャルリアは俺の目元にかかっていた前髪をそっと指で払いのけ、「私も今知ったアマスわ」と綺麗に微笑んだ。

 

 

 

 

 

『一体どういうことなんだ? いや、どういうこと……ですか?』

「何のことでしょうか」

 

 丁寧な言い方に訂正した相手に、それが正解だと知らせる為にこちらも同じ口調で返す。

 

 夫婦の寝室にて、電伝虫を手に持っている俺のそばには付き人が立っている。

 電伝虫の向こう側にいる男の俺への無礼は、すぐにシャルリアに伝わってしまうだろう。

 

『私共はあの店を一度畳む覚悟でいたのですが、聖地からの使者が持ってきたのは新事業への資金援助の話のみでした。……それに電伝虫での連絡手段がとれないからと、第一夫君自らこちらに足を運んでくださるはずではなかったのですか?』

 

 問題なさそうだと判断したのか、付き人が部屋を出て行く。

 

 寝室に一人残された俺は、思案しながら電伝虫の顎らしき部分を指で撫でる。

 話し相手らしき表情を作っていた電伝虫は気持ち良さげに目を細め、もっともっととおねだりしてきた。

 

「ああ、そんなことか」

『そんなことだとォ!? こっちはマリージョアの使者がおれの首を天竜人への手土産にするんじゃないかって、眠れない夜を過ごしたんだぞ!』

「誰がお前なんかの首を欲しがるかよ」

『おれなんか!?』

「お前の首が飛ぶこと自体は大いにあり得るが、お前の首を妻が欲しがることはない。絶対にない。自惚れるな」

『あんた……それはかなりの嫉妬が入ってないか?』

 

 電伝虫はあっという間に呆れ顔に変わっていた。相手の声色から表情を見極めるのが上手い。

 

「資金援助の件は、妻に話をしたからだろう。こんなに早く動いてくれるとは俺も思ってなかった。花屋のことは全て俺の好きにしていいらしい」

『……やっぱりあんた、とんでもねェよ』

「その流れで電伝虫での連絡も許可された。もう少しこちらが落ち着いたら、直接店にも顔を出すつもりだ」

『それならいい。てっきり電伝虫越しの連絡のみで終わらせるつもりかと思ったんだよ』

 

 電伝虫は短い手を駆使し、ホッと胸を撫で下ろすような動作をする。

 

『そうだ! おれの新しい名前、いくつか候補を考えたからあんたが選んでくれ。ディスコという名前も気に入ってたが、この際だからよりかっこよく、おれ様らしい名前に……!』

「名前はもう変えなくていい。妻はお前に花屋を任せることを知っているし、気に入らない部分があれば変えさせるとも伝えたが、とくにないそうだ」

『はぁっ!? せっかくいい名前をたくさん考え……いや、ということはハートのサングラスにしなくて良くなったのか?』

「ハートのサングラスは付けろ」

『…………そうか』

 

 電伝虫は届くはずもないのに膝を抱えるような素振りを見せ、その顔には哀愁が漂っている。

 

『あんたは商品もおれの好きにしろと言っていたよな。本当に何も要望はないのか?』

「そうだな……。グラジオラスという花に関する商品は充実させておいてくれないか。妻の誕生花の一つなんだ」

『なるほど。シャルリア宮の誕生花……』

「それから付き添いの男が暇を潰せる工夫も必要だな。男が退屈そうにしていると、女性側もゆっくり見て回れないだろうから」

 

 とは言っても、花屋で男が退屈しない方法なんてあるか?

 しかも付き添い……女の買い物って大体長いし、花屋に来るまでにすでにいくつかの店を経由していることもある。

 

「貴族の男って普段何をしてるんだ?」

『それはあんたの方が詳しいんじゃ……ああ、あんたにそんな社交性はないよな』

 

 流れるように斬られたせいで、一瞬そのことに気がつかなかった。

 なぜ俺たちは出会った時から無駄な斬り合いを続けてるんだろうか。

 

「まあいい。とりあえずそちらには近いうちに足を運ぶ。余裕があれば事前にもう一度こちらから連絡を入れる」

『分かった』

 

 受話器を置けば電伝虫が律儀に「ブツンッ」と鳴く。

 

「音はもう少し小さくていいんだけどな」

 

 電伝虫を撫で続けていた指を離そうとすると、小さな手で掴まれて引き戻されてしまう。

 腹が減ってるのかと逆の手で餌を差し出してみるも、しっかり餌は食べておきながら俺の手を解放する素振りもない。

 

「……お前、メスだっけ」

 

 よく見るまでもなく、俺を見る電伝虫の目はハートになっていた。

 シャルリアによって貝殻部分をリボンやハートの形をした宝石でデコレーションされていることもあって、ますますメスにしか見えない。

 

 電伝虫に見た目が近いカタツムリなら、オスメスの区別はなかった気がする。コイツらはどうなんだろう。

 

「どちらにせよ珍しいな。昔から小さい生き物相手だと、オスメス関係なく避けられることの方が多かったのに」

 

 逆にそれなりに体の大きい個体でさらにメスであれば、俺に良くしてくれることの方が圧倒的に多かった。これは人間にも適用される。

 

 勿論、例外も度々あった。俺が彼女達の好みに一致しなかったからだろう。

 

「…………寝た」

 

 満腹による睡魔には勝てなかったらしい。電伝虫はいつの間にか気持ち良さげな寝息を立てていた。

 

 嘆息を漏らし、電伝虫のそばに残りの餌を置いておく。腹が減れば勝手に食べるだろう。

 

 寝室を出ると、扉のすぐ横に俺の付き人が立っていた。

 

「第一夫君。どちらへ?」

「庭園に。俺はそこにしか行けませんから」

「衛兵を同行させる必要はありますが、聖地内であればどこでもお好きな場所へお連れするよう、シャルリア宮から仰せつかっております」

「…………そうですか。今は行きたいところが思いつかないので庭園にしておきます」

 

 びっくりした。俺の活動範囲は寝室と庭園だけだったのに、急にマリージョア全体にまで広がっていた。

 今日限定だとしたら、少し勿体ないことをしたかもしれない。

 

「シャルリア宮のお帰りは夜でしたよね」

「はい。二十時頃の予定です」

 

 今は十四時になったばかり。まだこれから六時間もある。

 

 シャルリアは他の天竜人に会う約束があるらしく、数時間前に屋敷を出てしまっていた。

 

 ……シャルリアと一緒じゃないなら、どこへ行ったってつまらないよなあ。

 

「一つ聞きたいことがあります」

「はい」

「一般的な貴族の男性は普段どのように過ごしているのでしょうか。例えば、趣味とか」

「一般的ということは、下界の貴族達のことですね」

 

 付き人は珍しく思案する時間を僅かにとっていた。

 

「狩りや賭け事、チェスやカードゲーム、楽器を嗜む者もいるでしょう。これは男性だけでなく女性もですが……天竜人への畏敬の念から、聖地の流行りを後から追いかけることもよくあります」

 

 花屋をシャルリアが気に入ってくれれば、自ずと下界の貴族達の目にも止まるということだろうか?

 

 彼らが天竜人に強く憧れているのなら、棲み分けも兼ねて上客限定の部屋や商品を用意しても良いかもしれない。

 

 基本は天竜人のみが通される部屋で、一般貴族も条件を達成したら利用できるとすれば……この辺も後でディスコに相談してみるか。

 

 話をしているうちに庭園に着いた。

 今はもうグラジオラスは咲いていないし、適当な花でも眺めて帰ろう。

 

「なんだお前か。今日は一人かえ?」

 

 目についた花を覗き込もうとしていたところ、急に背後をとられてドキッとした。

 

「チャルロス聖。……はい。今は私だけです」

 

 チャルロス聖といいティアンナ宮といい、纏う雰囲気がシャルリアに似ているせいかどうにも警戒心が鈍ってしまう。

 それとも、こう見えて気配を消すことに長けているんだろうか?

 

「チャルロス聖の歩みを妨げてしまい申し訳ありません。私は失礼させていただきます、チャルロス聖におかれましては、」

「待つえ」

「…………分かりました」

 

 いつものようにスラスラと機械的に述べてこの場から退散しようとしたら、いつかのティアンナ宮のように呼び止められてしまった。

 

 やっぱこれ、相手に言葉を挟ませる隙すら与えないようにする必要があるな。

 攻撃は最大の防御というように、先制離脱は最大のリスク回避だ。なんか色々と違う気がしてきたけどまあいい。

 

「お前にするえ。シャルリアの夫がいれば、わちしがパンゲア城に行っても問題ないはずだえ!」

「……パンゲア城、ですか?」

 

 反射的に聞き返してから、しまったと思った。

 俺に好意的なシャルリアやティアンナ宮ならまだしも、天竜人相手に説明を求めるなんて。

 

「なんだ、知らんのかえ」

 

 チャルロス聖は意外にも気分を害した様子はなく、代わりに無知で愚かなバカを見るような目で俺を見た。これはこれで火力が高い。

 

「今日は城に王下七武海が召集されている。ということは、あの世界一の美女と名高い海賊女帝がいるはず……♡ むふふーん♡」

 

 チャルロス聖は頬を赤く染め、うっとりとした表情になる。

 別に俺は無知で愚かなバカで問題ないらしかった。

 

 そもそもシャルリアという綺麗で美しい人と一緒に育ってきたなら、もうどの女を見ても霞むんじゃないか? この人絶対に目肥えてるだろ。

 

「海賊女帝を見たことがあるかえ?」

「いえ。ありません」

「世界一の美女という噂が本当なら、ぜひともわちしの奴隷にしたいんだえ〜。王下七武海とはいえ所詮は海賊だえ? 金さえ出せば、わちしの奴隷にしてもいいに決まってる!」

 

 なるほど。だからパンゲア城に……でも何で俺を連れて行きたがってるんだろう。

 

「お前も見たいはずだえ。仕方ないから連れて行ってやる」

「私は海賊女帝に興味はないのですが……」

 

 これは流石に怒るかと思いきや、今度は未知なる生命体を見るような目で俺を見ていた。

 

 チャルロス聖が夫人の失言を見逃してるところを見たことがあるし、この人は他の天竜人と比べるとまだ寛容な方なのかもしれない。

 

 それに、鑑賞用の女奴隷であれば傷が付かないように丁寧に扱っているようだった。しかし暴力は振るわなくとも人間扱いはしていないようで、チャルロス聖の女奴隷は大体いつ見てもふらついていた。恐らく栄養失調だろう。

 鑑賞用の奴隷だろうが夫人や夫君だろうが、下々民には等しく加虐心を向ける天竜人と比べたら、いくらかはマシではある。

 

「世界一の美女に興味がないとは。お前本当に男かえ」

「私にとってはシャルリア宮が世界一美しく尊い女性です。あのお方以上に美しい女性が存在するとは思えません」

「…………そうかえ」

 

 チャルロス聖は何とも言えない表情になったが、どことなく俺を見る目に温度が宿ったような気がした。

 

「どうして私を同行させてくださるのか、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「お父上様は『護衛を連れて行くならいい』と仰ったが、肝心の海軍が人手不足を理由に護衛を断ってきたんだえ……まったく、わちしの要望をなんだと思ってる!!」

 

 エースの処刑を控えている今、海軍の人手不足は嘘じゃないはずだ。

 天竜人の護衛という最優先事項を却下してきたのは、戦争の鍵を握るであろう王下七武海を天竜人の奴隷にさせるわけにはいかないからだろう。

 

「お父上様は、シャルリアの夫のことを『衛兵よりは役に立つ』とも仰っていたえ。海軍がダメなら、お前にわちしを護衛させればいいえ!」

 

 予想の斜め上から降ってきた答えに目を瞬かせる。

 

 どうやらロズワード聖は、俺に対して悪くない印象を抱いてくれているみたいだった。

 シャルリアの夫になった時にそこそこ反対されてたから、むしろ嫌われてるものかと……。娘を誑かしたクズ野郎から衛兵以上に昇格できたっぽいのは素直に嬉しい。

 

 でもこれ護衛というか、俺が王下七武海を拘束する役ってことなのでは。無謀すぎる。どう考えても瞬殺されるだろ。

 

「チャルロス聖。私はシャルリア宮以外の女性に触れることができません。相手が王下七武海となると、サイファーポールを同行させた方が確実ではないでしょうか?」

「あやつらが来るには時間がかかる。わちしは今すぐ行きたいんだえ」

 

 チャルロス聖はちらっと俺の首輪に視線をよこす。

 

「…………お前を下々民の女に触れさせたら、シャルリアが何と言うか」

 

 チャルロス聖は想像だけで死にそうなくらい怯えた顔をしていた。

 怖いよな、シャルリア。あれだけの美人だから余計に。

 

「海賊女帝の捕獲はわちしの奴隷にやらせるから、お前は万が一の時にわちしを守れ」

 

 チャルロス聖の言葉を受け、後方から首輪をつけた魚人族の男が顔を出す。

 

「……この男一人で捕獲も護衛も全てこなしてしまいそうですね」

「当たり前だえ。この奴隷二号はお父上様が直々に調教した優秀な奴隷! よくわちしの言うことをきくし、魚人だから力も強い。この間も、魚縛りの奴隷腕相撲大会で優勝したえ!」

 

 下々民の男ならカブトムシ同士を対決させてるところを、天竜人は奴隷同士を戦わせて遊ぶのか。どうりで、天竜人同士が奴隷の腕力自慢をよくしているわけだ。

 

 この魚人の実力は分からないが、それでも王下七武海相手では手も足も出ない気がする。

 

 七武海ってどれくらい強いんだろう?

 

 俺が直接会ったことのある七武海はくまだけ。それも随分前のことだし、シャボンディ諸島で再会するまでは、手のひらの肉球を改造してビームが出せるようになっていたことも知らなかった。

 

 ビームはずるい。かっこよすぎるし、あんなの勝てるはずがない。

 

「分かったなら天竜門へ向かうえ」

 

 とりあえず俺に拒否権はないらしかった。事前に説明があっただけでも良心的だろう。

 

 

 

 

 

「チャルロス聖!? ご入城でしょうか? 本日は来たる大きな戦いに備えて重要な会議が開かれているのですが……」

「なんだ? 天竜人であるわちしに、足を踏み入れてはならない場所があるとでもいうのかえ」

「そっそんなことは……! どうぞお通りください!!」

 

 門番の兵士はすぐさま頭を垂れ、パンゲア城へと続く門を開く。

 

「行くえ」

「はい」

 

 チャルロス聖の言葉に頷いて一緒に門を抜ける。

 遠目に見かけたことはあっても、実際に城の中に入るのは初めてだった。

 

 中にも兵士が各所に配置されており、迷いなく進んでいくチャルロス聖を見ては、驚愕からかガチャガチャと余計な鎧の音を立てていた。

 

「どうしてチャルロス聖が……。マズいんじゃないか、今日は七武海が来てるってのに」

「うわっ! シャルリア宮の第一夫君!? おれもう強奪されるのも身代わりも勘弁だよぉ……!」

「おい! 声がデカい!!」

 

 声にどことなく聞き覚えがある三人の衛兵が、チャルロス聖の歩みを妨げないよう、道の端に避けてからコソコソと話をしている。

 

「ここは……」

「下界にはこのような美しい場所はないえ?」

「はい。聖地は何もかもが桁違いに美しいです。この広場も神の庭も……。チャルロス聖。私を同行させてくださり、本当にありがとうございます」

「……フン。大袈裟なヤツだえ」

 

 チャルロス聖は恋愛漫画に一人は出てくるツンデレ女みたいなことを言い、広場をぐるっと一周する形で歩き始める。

 歩くスピードも先ほどより圧倒的にゆっくりになった。どうやら俺に周りの景色を見せてくれるつもりらしい。

 

 ここは社交の広場と呼ばれる場所で、中心には象徴的な噴水があり、その周囲には美しい季節の花々が咲いている。

 シャルリアが好きそうだなと思いながら、ありがたくじっくり眺めていくことにした。

 

「チャルロス聖はお屋敷の庭園にもよく足を運ばれているそうですが、花にご興味があるのですか?」

「人食い花に不要になった奴隷や使用人を処理させていただけだえ」

 

 あの恐ろしい食人花エリアはシャルリアだけでなく、この人のせいでもあったのか。

 

「近いうちにお前に見せてやってもいい」

「…………ありがとうございます」

 

 食人花って、人間が身に付けてる服や靴とかも食べるのかな。踊り食いタイプか丸呑みタイプかどうかも気になる。

 

「これはこれは……チャルロス聖! 何かお探しでしょうか?」

 

 兵士の中でもそれなりに位が高そうな装備を身につけた男が、部下達の報告を聞いたのか慌てた様子で駆け寄ってきて片膝をつく。

 

「海賊女帝はどこだえ」

「海賊女帝、ですか。ボア・ハンコックは少し前に召集に応じると返答があったばかりでして、こちらにはまだ到着しておりません。また、日程の関係でマリージョアには立ち寄らずに直接マリンフォードに向かう可能性が……」

「海賊女帝がいない!?」

 

 チャルロス聖はわなわなと震えていた。

 

「わざわざわちしが足を運んでやったというのに……! では、魚は? 七武海にはジンベエとかいう魚人がいたはずだえ!?」

「そ、それが……ジンベエは早い段階で到着していたのですが、現在は別の場所に」

「この役立たずが!! わちしがどれだけ楽しみにしていたと思ってる!!」

「申し訳ありませんっ!! ですが他の七武海は揃っておりますので!」

「世界一の美女と強い魚以外には興味ないえ!」

 

 地面につける勢いで頭を下げている兵士を、チャルロス聖が何度も足で踏みつける。

 

「まったく、なんて日だえ」

 

 他の七武海といえばバーソロミュー・くまに、ジュラキュール・ミホーク、クロコダ……コイツはもういないんだった。

 ゲッコー・モリアに、つい最近入ったマーシャル・D・ティーチ。そして。

 

「…………ドンキホーテ・ドフラミンゴ」

「あやつを奴隷にしたいのかえ? わちしですら、お父上様にあれとは関わるなと言われているのに」

「いえ、そういうわけでは」

 

 あの男を奴隷にしたいなんて冗談でも口にしたら、今度こそ俺のところまで飛んできて息の根を止めようとするだろう。

 

 何となく視線のようなものを感じて顔を上げる。

 

「……チャルロス聖。今すぐここを離れませんか?」

 

 二階の窓ガラス越しにピンク色のコートを身につけた男と目が合った、気がした。男はサングラスを掛けていて、実際に目が合っているかは定かではない。

 

 ここから分かるのは、男の額にハッキリと青筋のようなものが浮かんでいることだけだ。

 

「わちしはまだここで、」

「先ほど仰っていた人食い花を見てみたいです。チャルロス聖ほどのお方が所有されているということは、とても貴重な種なのでしょうか?」

「当たり前だえ! あの人食い花はお父上様に頼んで特別に取り寄せた……お前にも分かるように直接見せてやるえ!!」

「嬉しいです。見に行きましょう、今すぐ」

 

 チャルロス聖には「どうしても早く見たいので」と彼を抱えて走る許可を貰い、その場に護衛の兵士達を置き去りにして急いで屋敷へと戻った。

 

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