シャルリア宮の第一夫君   作:倉庫から出す

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姉と弟

「こんなところまで来てよかったのかな……」

「僕といっしょなら平気だよ、マーガレット」

 

 手を繋いで隣を歩いてる女の子が不安そうにジャングルを見渡す。

 

 昨夜降った雨のせいで足元の石はつやつやとしていて、いつもより滑りやすい。

 こんな日にジャングルを散歩するのは好きだった。草も土もすべての匂いが濃くて、なんだかちょっとだけ特別な感じがする。

 

「大人たちにおこられちゃうよ」

「僕をしかる人がいるの?」

「わたしの心配をしてるの!」

 

 ぷんぷんと怒ったマーガレットが僕の前を歩こうとして、突然草むらから飛び出してきた猛獣に「キャーッ!?」と叫ぶ。

 猛獣はマーガレットには目もくれず、こちらへ擦り寄ってきて甘えるように鳴いた。

 

「…………あれ?」

「この子はメスだから大丈夫。それに強いから、オスがきても守ってくれるんだ」

 

 閉じていた目を恐る恐る開けたマーガレット。同じように縮こまっていた彼女のヘビも不思議そうに目を瞬かせている。

 

「……ほんとう?」

「うん」

 

 半信半疑なマーガレットは、僕の背中に隠れながらこっそり猛獣を盗み見る。猛獣はすっかりリラックスしていて、なんと欠伸までしていた。

 

「ね? だからもう少し奥へ行ってみようよ」

「ダメ! トリトマさまに見つかったらどうするの。もう帰る!」

「あっ……マーガレット!」

 

 手を振り解かれそうになり、マーガレットの指と指の間に自分の指をするりと滑り込ませた。

 

「分かった僕もかえるから……いっしょに戻ろう。マーガレットだけでジャングルをあるくのは危ないよ」

「う……うん」

「よかった。僕、ジャングルを探検するのもすきだけど、マーガレットとお話するのはもっとすきなんだ」

 

 マーガレットとは話が合って楽しい。それに僕のお願いを何でもきくようなつまらないことはしないし、ここぞという時には必ず自分の意見を通してくる。

 

「明日も僕とあそんでくれる?」

「ジャングルいがいなら」

「……マーガレットのことは僕がまもるし、トリトマさまに見つかってもマーガレットはわるくないっていうよ。それでもだめ?」

「ぜーったいにダメ」

 

 マーガレットといれば退屈はしない代わりに色々と制限が入ってくる。それでも一人でできることはとっくに飽きちゃったから、こっちの方がずっといい。

 

 マーガレットが僕の名を呼び、「大人たちがいいって言ったあそびだけするのよ」と釘をさしてくる。

 

「あしたはそれでいいよ。……ところで、マーガレット。僕の名前って僕に似合わないとおもわない?」

「そう? ぴったりだとおもう」

「もっとかっこいい名前がいい」

「あなたって変。フリルだけじゃなくてかわいい名前もいやなの?」

 

 マーガレットは女の子だから分からないんだ。トリトマさまがこの国に男の子は僕しかいないって言ってたから、外の海にいる男の子になら僕の気持ちを分かってもらえるのかなあ。

 

 トリトマさまに「かっこいい名前にしてください」ってお願いしてみようかな? この間の読みきかせ会のお話にでてきた名付け親っていうのになってもらえるかもしれない。

 

 話してるうちにジャングルの外に出た。マーガレットと繋いだままだった手を離す。

 

「またあした! 僕、今日と同じばしょでまってるから。絶対にきてね!」

 

 控えめに手を振ってくれたマーガレットにぶんぶんと全力で手を振り返し、駆け足でトリトマさまが待ってる九蛇城へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 この先の人生、アマゾン・リリーの人間に会うことは二度とないと思っていたのに。

 

 朧げに年の離れた三人の姉達に興味を持っていた頃の記憶もあるが、それも育ての親に新しい名前を貰う時にはすっかりどうでもよくなっていた。

 

「…………天竜人、の夫じゃと?」

 

 目の前ですっかり顔を蒼白にさせているのは俺の実姉であり、王下七武海でありながらこれまで一度も政府の召集に応じなかった『不動の女帝』とも呼ばれている女だ。

 

 世界一の美女と謳われながら表舞台には一切その姿を見せず、これまでに何人もの記者が彼女の姿をカメラに収めようとしたが無事に帰ってきた者はいないという。

 

 それほどまでに徹底して自らの容姿を隠し、世界政府から距離を置いて好き勝手やっていた女が、どうして今回のマリンフォードの戦いに顔を出したのか。

 何となく予想はしているものの確信はできない。俺がこの女について知っていることが何一つないせいだ。

 

「はい。ちょうど一年ほど前からです」

「……一年? アマゾン・リリーから姿を消したのは人攫いに捕まったからではないのか?」

 

 予想していなかった方向からの問いかけだった。確信に至るまでに必要なパズルのピースが一つ集まった気がして、薄らと微笑む。

 

「故郷を出たのは私の意思です。ボロボロの小舟とまだ幼い毒海ヘビを使ったせいで、すぐ近くのルスカイナで長い間足止めを食らってましたけどね」

 

 海に出てすぐに小舟は壊れたし、毒海ヘビにしがみついて何とか島に足を下ろせたものの、まさかそこが散々危険だと言い聞かされていたルスカイナ島だとは思いもしなかった。

 

 昼夜問わず恐ろしいほど強い猛獣たちに追いかけ回され、季節の巡りが早すぎるがゆえに何度も体調を崩した。

 

 俺が小動物以外のメスを魅了して従わせることができる人間でなかったら、とっくの昔に死んでいただろう。これが容姿のおかげか何かしらの体質によるものなのかは分からない。

 

 中性的な見た目をしていた幼少期の方が魅了できる対象が多かった気がするから、容姿のおかげなんだろうけど……。

 当時は匂いで俺が男だと分かってるオスの猛獣相手でも三十秒くらいは誤魔化せることもあった。

 

「……そなたは、わらわの助力を得て聖地を抜け出したいというのじゃな」

「私は妻となった天竜人を愛しています。聖地を出たいなどとは考えたこともありません」

 

 シャルリアのいない下界へ戻ったって、俺には行くべき場所も行きたいと思う場所もない。

 シャルリアが望んでくれる限り、俺の居場所は聖地(ここ)だ。

 

「なんじゃと……!? そなた、誇り高きアマゾン・リリーの人間でありながら自ら望んで天竜人に身を捧げたと申すのか!?」

「…………意外ですね。血の繋がりが明白とはいえ、男の私をアマゾン・リリーの人間だとお認めになってくれているとは」

 

 口先だけじゃなく本当に驚いた。俺が男だと知っても予想より反応が薄かったし、天竜人の件もそうだ。

 まるで半信半疑だったところに改めて事実を突きつけられたかのような……。

 

「わらわとてそなたを弟だとは認めとうない。 しかしあの方が『ずっと探してたなんて、いい姉ちゃんだな』などと褒めてくださったから……♡ そうでなければそなたなど、今頃口もきいておらぬわ!」

 

 途中でポッと頬を赤らめながら続けられた言葉に、なんだか無性にイラッとして言い返す。

 

「私も妻に『あなたによく似たあの者が誰かの奴隷にされるのは耐えられないの』とお願いされていなければ、わざわざ姉様のところには来ていませんよ」

「天竜人がわらわの身を案じたじゃと……? そんなもの、信じられぬ!」

「アンタじゃなくて俺の心配をしてくれたに決まってるだろ!」

「そなた……弟のくせに無礼な!! わらわを誰だと思うておる!」

「アンタこそ俺を誰だと思ってるんだ。天竜人の夫!! 本来なら下界の王だろうと気安く口をきいていい存在じゃないんだよ!」

「己ではなく伴侶の地位を振りかざすなど恥を知れ!」

「ええ、俺は恥なんぞ知りませんよ。育ちが悪いからな!!」

 

 お互いなぜか肩で息をしていた。

 

 急に切れた糸が張り直されたかのように冷静になる。……何であんなにイラついてたんだろう。どうやら向こうもそう思っているらしかった。

 彼女はどこか決まりの悪そうな顔をしていて、落ち着いて先ほどの会話を振り返ってみたらしい。

 

「…………わらわを奴隷に?」

「…………はい。城門を出てすぐのところで、巨人族の奴隷やサイファーポールを引き連れた天竜人たちが貴女が出てくるのを待っています」

 

 そうだ。この話を最初にするつもりだったのに。

 なんだって俺は十以上も歳が離れてる姉とガキみたいな言い争いをしてたんだろう。しかも天竜人の夫は下界の王であろうと云々は完全に嘘だ。どう考えても奴隷よりちょっとマシくらいの身分でしかない。

 

「私の妻は姉様が天竜人の奴隷になることを望んでいません。ですから、こうして私が貴女を安全なルートから外へ誘導しようと衛兵の格好までして……結局正体を明かすことになりましたが」

 

 手に持ったままだった鉄兜を被り直す。

 それから乱暴に扱ってしまったサロメを謝罪の意を込めて撫でてやった。サロメはすっかり機嫌を悪くしたようで、俺の手を丸呑みするような素振りを見せて威嚇してくる。心の狭いヘビだな。

 

「わらわはあの方以外の男は信じぬ」

「ではどうすれば信じていただけるのですか? 私は妻の願いを叶えるためなら何でもします。姉様がスリルを求めていらっしゃるのなら、このまま二人で正面突破を試みるのもいいでしょう」

 

 サイファーポール相手となるとどう足掻いても二人とも捕まるだろうな。

 シャルリアの助けが遅れた場合はその場で即処刑もあり得る。そんなことはこの人が誰よりもよく知っているはずだ。

 

「今だけは私のことを信じてください。妻が姉様の無事を望んでいる限り、私が貴女を害することはないとお約束します」

「……そなた。あの方が言うには、首輪が爆発した奴隷に治療を施そうとしたそうじゃな」

 

 やっと確信が得られた。

 この人が何度も口にしていた「あの方」はモンキー・D・ルフィであり、あの男がくまの能力によって飛ばされた先がアマゾン・リリーだってことが。

 

 人攫いが横行していた時代に九蛇の海賊船から姿を消した三人の姉。

 少なくとも今は聖地の近くにあるシャボンディ諸島で暮らすレイさんやシャッキーさんと共に姉様達がアマゾン・リリーへ帰還した日の記憶。

 

 そして、海軍大将に追われる身でありながら忽然と姿を消した麦わらの一味の行方。

 

 本人が一度行った場所であればどこでも対象を飛ばすことができる能力を持つバーソロミュー・くまが、彼らを安全な場所へ逃したとしたら?

 

 俺もあの能力を受けたことがあるから分かる。途中で物理的な邪魔が入らない限り、対象は遠く離れた国であろうと無事に降り立つことができる。

 アマゾン・リリーは男子禁制の女人国ではあるが、七武海であるくまがボア・ハンコックの送迎目的で足を踏み入れていても違和感はない。

 

 麦わらのルフィがアマゾン・リリーにいたのなら、インペルダウンに現れたことへの説明もつく。間違いなくあの女……いやハンコック姉様の助けがあったはずだ。

 

 以前チャルロス聖とパンゲア城に行った時、姉様は直前になって召集に応じると政府に返答を寄越したようだった。今回も要請を聞き流すつもりだったんだろう。

 しかしそうはいかなくなった。

 最初は魚人族でありタイヨウの海賊団の船長でもあるジンベエの件を受けて、重い腰を上げたんだと思っていたが……。

 

 俺のことを事前に知っていたかのような素振りも、あらかじめ麦わらのルフィから聞いていたのだとしたら全て辻褄が合う。

 

「……ああ、そんなこともありましたね。私がその方とお会いしたのもその時です。仲間の人魚…………ん? 人魚だったか? ……とにかく、そのような存在がオークションに出されたとかで天竜人を殴り飛ばした型破りな人でした」

「そうなのじゃそうなのじゃ……♡ あの方は誰よりも勇敢で美しい…………そなた!! まさかあの方に危害を加えたのではなかろうな!?」

 

 姉様は照れたり怒り出したりと嵐のように忙しない。最後には見下しすぎて逆に見上げてしまっていた。

 

 誰よりも勇敢で美しいの部分には物申したい気持ちになったが、なんとか口から飛び出す前に押し込む。誰よりも美しいのはシャルリアだってことは俺が分かっていればいい。

 

「ご安心ください。姉様の大切な方には指一本触れておりません」

「わ……わらわの愛する旦那様じゃと!?」

「とんでもない幻聴です、姉様」

 

 一瞬この二人が結婚まで済ませているのかと思ってしまった。

 麦わらのルフィは出会ってすぐの女に手を出すタイプには見えない。姉様のこの妄信っぷりからして、彼女の願望が口から出ただけだろう。

 

「…………あれ。結局何というお話でしたか?」

「…………」

「思い出した。私を信用するか否かの話でしたね」

 

 ポンッと手を叩く。これまで誰かとの会話でここまで脱線したことがあっただろうか。

 デュバルとは別の意味で調子が狂う相手だ。

 

「……もうよい。あの方がそなたのことを『奴隷を助けようとしてたからいい奴だ』と仰っていた。わらわはあの方の全てを信じておる。よって今だけはそなたの提案を受けてやろう」

「それは良かったです」

 

 あの奴隷の首輪が爆発する前にぶん殴って戦闘不能にしたのは俺だけど、とりあえず黙っておこう。シャルリアを侮辱したアイツが全面的に悪い。

 

 ……麦わらのルフィには大きな借りができてしまったな。

 ただでさえ九蛇の女達は、男は野蛮で強欲で危険な病原菌を持つ生き物だと教わりながら育つ。彼がいなければ、俺はこの人と会話すらさせてもらえなかったかもしれない。

 

 

「急ぎましょう。こちらです」

 

 もう随分話し込んでいた気がしたが、思ったより短い時間だった。

 

 前を先導して歩く俺の後ろを姉様とサロメがついてくる。

 主に世界会議(レヴェリー)などで王達と共に聖地へやって来た従者達の待機所として使われている部屋の前を歩き、衛兵達の訓練場にまで顔を出す。この時間の訓練場が使われていないことは把握済みだ。

 

「衛兵は訓練中でも城内外で起こったトラブルに瞬時に対処できるよう、ここには各場所への抜け道があるそうです」

 

 聖地にあるパンゲア城に攻め込んでくる輩は滅多に現れないので、見張りと巡回以外の衛兵は城でのほとんどの時間を訓練に費やしている。

 

 ちょうど今は訓練組と巡回組が交代する時間な上、城内のどこかにいるシャルリアが適当な理由をつけて衛兵を集めてくれているはずだ。

 

 閑散としている訓練場の壁に手を触れる。甲冑と兜を拝借した衛兵によれば、この辺にあるはず……。

 

「あった」

 

 回転式の扉らしく、壁を軽く押すだけで隙間から外の光が差し込んできた。先に姉様を行かせてから自分の体を滑り込ませる。

 

 一応外には出られたが、ここはまだ城壁の内側。社交の広場へ繋がる裏道のような場所だ。

 

「これより先はどう進む。城門の先では天竜人達がわらわを待っているという話じゃったが……」

 

 姉様の顔色は今日一番の悪さになっていた。

 

 本人の口から直接聞いたわけじゃないが、姉様達が天竜人か貴族の奴隷だったのはほぼ確実。

 ……姉弟揃ってなんの因果なのか。

 姉様の容姿であれば奴隷ではなく天竜人の夫人だった可能性もある。この怯えようからして、奴隷だろうと夫人だろうと下々民には容赦しないタイプだったんだろう。

 

「基本的に城に招かれた客人は正門から入って正門から出ていきます。天竜人達が待機しているのも正門。よって私達は別の門から外に出ればいいだけです」

「途中で見つかるのではないか?」

「その際は全力ダッシュでボンドラまでお逃げください」

 

 キッパリと答えたら姉様は絶句していた。

 この人が全力で走ってる姿は想像できないな。

 

「まあ問題はないでしょう。その辺の兵士にまでは此度の件は伝わっていないようですから、衛兵(わたし)がお側についておりますので不審がられることもないはずです」

 

 俺の予想通り、外へ出る際にも門番に何かを尋ねられることはなく、俺達はあっさりとパンゲア城を離れることが出来た。

 今回はどこに今回の件を把握している人間が潜んでいるか分からないから人目を避けてここまで来たが、案外普通のルートを使っても出られたのかもしれない。

 

「この先はお一人で大丈夫ですよね。あとはここに来た時と同じ船に乗ってアマゾン・リリーへ戻るだけです」

 

 これでようやく俺の仕事が終わった。

 ああ早くシャルリアに会いたい。ほんの数時間離れてただけなのにまるで一週間は会えなかったかのように恋しい。

 

「待て。そなたに渡すものがあるゆえ、このまま船まで同行せよ」

「お断りします。私は急用がありますのでここで失礼させていただきます」

「相変わらず無礼な。……それではわらわは船には乗らぬ」

「私でよければ同行させていただきます」

 

 なんて面倒くさい女なんだ。会ったばかりの俺に何を求めてるんだよ。

 

 渋々ながら共にボンドラで赤い港(レッドポート)へ降り立ち、いくつか停泊している船のうち、一際ハートが飛び交っている船の前で足を止める。

 

「お帰りなさいませハンコック様〜♡♡」

「お戻りになられるまでにお部屋の掃除は済ませておきました♡」

「港で補給も済ませましたので、次のお食事も一食百キロでご用意できておりますう♡」

 

 両目をハートにした海兵達が腰をクネらせながら姉様を出迎えていた。

 見かけによらずエグい量を食うんだな、この人。それくらい食べないとビームを放つエネルギーが足りないのかもしれない。

 

「そちらの方は……エッ!! 男版ハンコック様!?」

 

 パンゲア城と天竜人を守る衛兵が七武海と共に下界に降りることはない。

 ボンドラに乗る前に甲冑と鉄兜を脱いでしまったので、俺はすっかりエセ天竜人の格好に戻っていた。

 

「私に会ったことは他言なさらぬよう。これはシャルリア宮からの御命令です」

「シャルリア宮ということは、貴方様が噂の……はっ! 畏まりました!!」

 

 姉様を見て喜色を浮かべていた顔は一気に青ざめ、気を引き締めるように綺麗な敬礼をされた。

 

 これまで公にされていなかった姉様の容姿が、全世界の人間が関心を寄せていたマリンフォードの戦いをきっかけに大々的に知られてしまった。

 この件がこれから先どのような影響を与えてくるか……。考えただけで憂鬱だな。

 

「姉様。私に渡したいものとは何でしょうか」

「あ……姉様!? ……弟!?」

「女しかいないはずの女ヶ島に男!?」

「女だけの楽園は存在しなかったのか!?」

 

 彼らの前で姉様呼びはマズかったか? いやどうせ時間の問題だしな……顔も似てるんだし隠しても意味ないか。

 

 とりあえず開き直って堂々としておくことにした。この場にいたほとんどの海兵が「夢が潰れた」だの「男が存在しちゃダメだろ……!」だのと床に膝をついて嘆いていた。

 同じ男として気持ちは分からないでもない。女だけっていう折角の特別感が台無しだもんな。

 

「これじゃ」

「これとは……はっ!?」

 

 いつの間にか船室に消えていた姉様が、こちらにブンッと何かを投げて寄越してくる。

 その物体は明らかに投げ渡すようなサイズではなく、俺は埋もれるようにしてそれを抱きとめる羽目になった。

 

「…………シャロム?」

 

 シュルッと背中に回ってきた分厚い尻尾が、後ろに倒れかけていた俺の体をしっかりと支える。

 顔を上げれば、サロメとは模様の色が違う大蛇が俺を見下ろしていた。

 

「そなたの蛇じゃ。普段から世話をしているわらわへの反抗的な態度に加え、先日はあの方の手に噛みつこうともした……許せぬ……!!」

「ああ……私以外には懐かない蛇でしたから」

「今日まで面倒を見てやったのだから十分であろう。そなた、シャロムを連れ帰るがよい」

 

 先ほどから俺を締め殺さんとばかりに巻きついてきているのは、俺が幼い頃にサロメと一緒に育てていたヘビだ。

 故郷を出る際には悪目立ちするからと置いてきたが、まさか姉様が世話をしていたとは。

 

「アマゾン・リリーのヘビを聖地に持ち込むのは……妻の許可を得ないことには何とも」

 

 俺もすっかり故郷よりも外界で過ごした時間の方が多くなった。一般的に女性がヘビを怖がる傾向にあることは分かってる。しかもこのサイズ……サロメより一回り大きいんじゃないか?

 

 多少ズレてるところがあるとはいえ、いくらシャルリアでも了承してくれないだろう。

 

「そなたの都合など知らぬ。そちらで何とかせよ」

「……分かりました」

 

 一旦は連れ帰るしかないか。明日になったらディスコにでも押し付けよう。

 

「これでもうそなたは用済みじゃ」

「はい。姉様をお見送りできて光栄でした」

 

 いつも天竜人相手にしているような丁寧なお辞儀を披露する。

 姉様はフンと鼻を鳴らしていた。

 

「この先あの方にお会いする機会があっても決して危害を加えるのではないぞ。サ……」

「私のことはラースとお呼びください。では道中お気をつけて」

 

 俺をあろうことか花の名で呼ぼうとした姉様に被せるように早口で話し、海兵達を急かして出航を早めさせた。

 

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