シャルリア宮の第一夫君   作:倉庫から出す

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時代のうねり

「麦わらのルフィが奪った軍艦でマリンフォードを一周……相変わらず興味の尽きない男だな」

 

 読んでいた世経をバサッとテーブルに投げ捨てるように置く。

 

 姉様があの男に惚れ込んでいる理由が分かる気がする。

 もしもシャルリアより先に出会っていたら、俺はきっとこの男の船に乗って同じ景色を見てみたいと思っただろう。

 

 テーブルの上には他にも読みかけの本がいくつか出しっぱなしになっている。

 数日前に新たに与えられた俺の部屋はとても広く、大きな本棚があるおかげでわざわざ図書室まで足を運ぶ必要もなくなった。

 

 部屋の隅に設置された小型の装置からはいつでもシャロム用の新鮮な飲み水が出るようになっていて、美しい庭園には水浴びスペースまで用意されている。

 

 俺のベッドで丸くなっているシャロムは未だ起きる気配がない。

 

「第一夫君。予定通りシャボンディ諸島へお出かけになられますか?」

「そのつもりです」

 

 ノックの後に部屋に入ってきた付き人があっという間に俺の身支度を済ませてくれる。同行する衛兵達も屋敷の前に待機しているようだ。

 

「シャロム様はいかがいたしましょう」

「そうですね……今日は置いていくことにします。このまま寝かせておいてください」

「畏まりました。シャルリア宮にもお伝えしておきます」

 

 昔からシャロムはサロメと比べてよく眠るヘビだった。体力の消耗が激しいのか、少しでも動いた後はああやってとぐろを巻いて動かなくなってしまう。

 

 いつものように屋敷を出る直前に頭にシャボンを被り、男の奴隷が差す日傘が作り出した日陰を歩く。

 この日傘はティアンナ宮が贈ってくれたものだ。俺に贈り物をすることについて様々な理由を口にしていたが、とにかく「男だろうと日に焼けすぎるのはいかがなものか」ということらしい。

 天竜人の夫の最低限の嗜みとしてありがたく頂戴しておくことにした。

 

「本日は十八時頃からティアンナ宮が屋敷にお越しになられますので、それまでに聖地にお戻りください」

「分かりました」

 

 今日は付き人と衛兵を連れていくことを条件に、俺だけでシャボンディ諸島に行ってもいいことになっている。

 シャルリアには日頃の感謝を込めて、ティアンナ宮には日傘のお礼に何か買って帰ってくるつもりだ。

 チャルロス聖とロズワード聖は……別にいいよな? チャルロス聖はともかくロズワード聖の好みは全く分からないし、欲しいものがあれば自分で手に入れてるだろう。

 

 

 

 

 

「私どもの店にようこそお越しくださいました。シャルリア宮……ん? まさか今日はアンタだけなのか」

 

 神の花屋(フラワーショップ)

 真っ先に出迎えてくれたディスコがシャルリアの姿を探すように目をキョロキョロとさせていたから、今日はいないと教えてやった。

 

「天竜人の夫が一人でシャボンディまで来るなんて前代未聞だろう。あんたは出会った時からそうだったが……」

「俺はずっと妻にくっついていたいくらいなんだがな」

 

 ふう、とため息をつく。自由に動ける範囲が増えていくのは嬉しいけど、日を重ねるごとにシャルリアと離れがたくなっている俺としては複雑な気持ちもあるというか……。

 今日もシャルリアを腕の中から出したくなくて抱きしめる力を緩めなかったのに、彼女は謎の腕力を発揮してあっさりと俺の腕から出て行ってしまった。

 

「あんたの惚気は長くなるからこの辺でいいか? 頼まれていた特注の額縁のことで――」

 

 慣れた様子で俺との会話をぶった斬ったディスコがバックヤードから一メートルほどの箱を持ってくる。

 箱を開いて緩衝材を取り除くと、素人目でも繊細で美しい装飾が施された額縁が出てきた。

 

「カブトムシ大会の初代優勝者の額縁だ。初代のものだけは特注品にしたいと言っていただろう。デザインはおれの方で指定してみたんだが……どうだ?」

「……へぇ。お前はセンスまでいいんだな」

 

 素直に褒めたらディスコは「当然だ。おれ様は歩くスーパーバザール! 商売においてセンスは必要不可欠だからな!」と誇らしげに胸を張っていた。

 

 

 

 

 

 二階、展示室。相変わらず何もない殺風景な部屋。手に持っていた特注の額縁を仮で置いていたものと取り替える。これだけで随分と雰囲気が違って見えた。

 

「初代の肖像画は高名な画家に描かせると言ってたよな?」

「もう聖地にて手配してある。一ヶ月あれば仕上がるそうだ」

「カブトムシ大会の初代優勝者がロズワード聖なだけにアンタも気を抜けないだろう」

「愛する妻の父君だからな」

 

 数日前に行われたカブトムシ大会では、シャルリアとチャルロス聖の父親であるロズワード聖がぶっちぎりで優勝した。

 

 大会には俺も観戦側で参加した。その場の会話の流れで「ロズワード聖が俺を神の騎士団に推薦しようとしていた」ことが会場内にいた全ての天竜人に伝わり、あの日をさかいに天竜人達から向けられる視線ががらりと変わった気がする。

 

 これまではシャルリアが特別に可愛がっている元下々民への興味でしかなかったのが、今は身内に向けるものに近くなったというか……。

 

 俺が一人で神の庭を散歩していても気さくに声をかけてくる人が増えた。男性天竜人の話題は九割ほどカブトムシに関するもので、女性天竜人はなぜか自身に関するものが多かった。

 最近取り寄せたというアクセサリーを見せてくれたり、俺が花屋を始めることも当然のように知っていて「私の誕生花はご存知アマス?」と尋ねてきたりだとか。初対面なのに知るわけないだろ。

 

 とりあえず近くにあった適当な花を差し出して「お恥ずかしながらまだまだ花への知識が乏しいようです。ですが、貴女がこの花に負けないくらい美しいことは分かります」とだけ言って去ったが、あの対応が正解だったのかは分からない。

 

 もしも女天竜人の間で出会い頭に相手の誕生花を言い当てられなければ村八分、みたいなルールがあったら俺は終わる。シャルリアに恥をかかせてしまっただろうか……。

 

 こんなことなら「貴女という尊い存在が生まれ落ちた瞬間に私がその場にいられなかったことが悔やまれます」とでも言っておけばよかった。

 貴族は遠回しな表現を好むらしいから、それとなく誕生日すら知らないことを伝えられたかもしれない。

 

「キャプションボードも届いてるぞ。これだ」

 

 ディスコが額縁のすぐ下に、金でできたボードを添えた。

 

 ボードには『ロズワード・ロズワード聖』という頭痛が痛くなりそうな優勝者の名前と、『エクセレントゴージャス・マヌケ号』という何とも反応に困るカブトムシの名が刻まれている。

 カブトムシが押され気味になるたびに「これだから虫はマヌケで嫌なんだえー!!」って叫んでたから名前の由来はコレだろう。

 

「あんた、今日はロズワード聖も参加する食事会に招待されていると言ってたよな」

「ああ」

「ティアンナ宮などへの贈り物に迷っているとも聞いていたから、こちらでいくつか候補を見つけておいた」

 

 ディスコは「優勝者のカブトムシの像も完成してる。ロズワード聖への贈り物はこれでいいんじゃないか」と続け、あまりの有能さに感動すら覚えてしまった。

 彼は天竜人相手の商売を長く続けてきただけあって聖地の流行りにも明るく、チャルロス聖やティアンナ宮への贈り物もあっという間に決まった。

 

「シャルリア宮のものはアンタが選んだ方がいい」

「そうだな……」

「聖地の流行は関係なく、シャルリア宮はどのようなものがお好きか分かるか?」

 

 シャルリアが好きなもの……。

 

「俺、キャビア、サルウ、シャロム、ハート、とにかく可愛らしいデザインのもの」

「あんた、しれっと自分を入れたな」

 

 目敏く指摘してきたディスコが、「前にもハートがお好きだと言っていたな……」と持ち前の切り替えの速さで思案顔になる。

 

「ここにあるものはしっくりこないか?」

「……これまで女性にちゃんとした贈り物をしたりことがないからよく分からない」

「この後時間があるなら他の店も見て回ったらどうだ。貴族向けの装飾品は四十八番、服は五番と六番GRの店ならハズレが少ない」

 

 ディスコの提案をありがたく採用させてもらうことにして、二階から一階へ戻る。

 エントランスには例の歌姫の曲が流れていて、ディスコが嬉しそうに「今日はこの時間から配信開始か!」と電伝虫に駆け寄っていた。

 

「…………なあ、ディスコ。チャルロス聖への贈り物だが、」

「却下だ。ウタちゃんはみんなの歌姫! 聖地で独り占めした暁には暴動が起きるからな!!」

 

 今のところ聖地でウタの話題が上がったことはないが、こうやって下界に降りてくると配信を楽しみに待っている人や幸せそうに歌を聴いている人をよく見かける。

 

「おれは彼女の歌を聴くために今日まで生きてきたのかもしれない……!」

「俺の店の為だろ」

 

 まさかディスコがここまで夢中になるとは。……何か怪しい魔術でも使ってるんじゃないだろうな?

 

「あんたはまともに聴いたことがないからウタちゃんの魅力が分からないんだよ! よし、このおれさまが先日の配信でウタちゃんが公開してくれた確実に配信がある時間リストを共有して――」

「お前のウタ語りは長くなるからこの辺でいいか? 俺はこれから四十八番に向かう、何かあれば電伝虫で連絡してくれ」

 

 別に根に持っていたわけじゃない。断じて違うが、少し晴々とした気持ちで花屋を後にした。

 

 

 

 

 

 観光客で賑わうシャボンディパークを抜け、四十番GRまで来た。

 観光客向けの店がずらりと立ち並ぶこのグローブではとくに飲食店が多い。

 

「こんな時に天竜人が……!!」

 

 グローブの奥から走ってきたと思われる男が俺の存在に気づいて慌てて地面に膝をつく。距離があるから聞こえないと思ったのか、隣の男とヒソヒソ声で話し始めた。

 

「四十四番に……いた麦わらの……船だが……見た目も態度もデカい……が守っ…………いっそ……政府に……」

 

 途切れ途切れにしか聞こえない。俺を天竜人だと勘違いして膝をついてる住民達の間を縫うようにして歩き、その男の前で足を止めた。

 

「あ……あ…………」

 

 ダラダラと冷や汗をかいている男をシャボン越しに見下ろす。

 

「お前、面白そうな話をしているな。偽らず全て話せ」

「え? あ……よん、四十四番GRに麦わらのルフィ、の船が……」

 

 衛兵に取り囲まれた男は恐怖でガチガチと歯を鳴らしながらも必死に言葉を続ける。

 

「それをデュバルという男が守っていたので、他の人攫いチームと協力、して……でも強くてまったく歯が立たなかったので、いっそ政府にでもチクろうかと……!! あっいや、初めから神に逆らった大罪人達の船の居場所を政府に知らせようと思っていたんです! これも全て天竜人の皆さまへの忠誠心ゆえです!」

「どこぞの海賊の船をデュバルが守ってるんだな」

「ですから以前この島で天竜人に危害を加えた麦わらの一味の船で……」

「そうか、どこぞの海賊の船か。それは困ったな。デュバルは友人なんだが……お前は俺の友人の邪魔をしようとしている、そういうことだな?」

「えっ!?」

 

 衛兵に両腕を掴まれた男が「なんでデュバルが天竜人と……! おれはどこに連れて行かれるんだ!?」と叫ぶ。ついでに隣にいた男も同じようにして連行されていく。

 人攫いだったなら奴隷堕ちも同情の余地なしだな。

 

「この件は私からシャルリア宮にご説明します」

「畏まりました」

 

 付き人がいつもの調子で返事を寄越してくる。麦わらの一味が絡んできた以上、この男がシャルリアへの報告を怠ることはないはずだ。

 

 少し前の俺だったらシャルリアからの寵愛を失うんじゃないかと心配しただろうが、今ならそれはないと断言できる。

 姉様とルフィのことも話しておいた方がいいな。いつまでも隠し通せることでもない。

 もしもシャルリアが麦わらの一味の船を欲しがることがあれば、デュバルには悪いが俺の手で彼女に献上することにしよう。

 

 四十番から四十八番GRに来た。

 下界の貴族と思われる人たちが多く見られたが、一人の例外もなく立ち止まって膝をつき始める。

 ……そろそろ俺、身分を偽った罪で捕まりそうだな。

 

 ディスコが言っていた通り、ここは貴族向けのアクセサリーを取り扱う店が多そうだった。シャボンディで暮らしていた時でもこのグローブに来たことはなかった気がする。

 

 何となく目を惹かれた店に入ってみた。店の外装はシンプルで、小さな看板には「一点物の装飾品屋(アクセサリーショップ)」と書かれている。

 

「い……いらっしゃいませぇ!!」

 

 いくら天竜人相手だからって緊張しすぎだろうと呆れるくらい上擦った声だった。貴族向けの店らしくない。

 狭い店内には店主と思われる男が一人だけ立っており、薄汚れた作業着を身につけている。……本当に貴族向けの店か?

 

 ワンテンポ遅れて膝をつこうとする男の言葉を遮って「妻への贈り物を一緒に選んでほしい」と声をかける。

 天竜人が丁寧にお願いしてくるなんておかしいと思ったのか、店主がおそるおそるといった様子で顔を上げた。

 

「…………ラースさんでは?」

 

 ばっちり目が合った男が大慌てで「いえ人違いですよね大変失礼いたしましたぁ!!」と床に頭を擦り付ける。

 

「なぜ俺の名を?」

「やはりラースさんでしたか……。お話ししたのは一度きりだったので覚えていらっしゃらないのも無理ないかと……天竜人の夫君になったという話は本当だったんですね」

 

 頭を上げた男の顔をまじまじと見てみたが全く見覚えがない。良くも悪くも印象に残らなさそうな顔だった。

 

「実は装飾品を作るにあたって、一部の品で貴方が働いていたコーティング道具会社のものが必要だったんです。その際にラースさんや皆さんには大変お世話になって、おかげさまで納得のいく品が作れました」

「へえ。それはよかったスね」

 

 ここまで説明されても思い出せそうにない。当時の俺にとってはどうでもいいことだったようだ。

 

「……あ。そうです、皆さんがラースさんを助け出そうとしていて、ああ……今皆さんがどこにいらっしゃるのか、無事なのかすらも分からないんですが……」

「皆さん?」

 

 店主が、狭い店だからと外に置いてきた付き人と衛兵達に視線を向ける。

 

「ジャムズさん達です。貴方を取り返しに行くつもりだと教えてくれたんですよ。私は止めたのですが……貴方のその様子ではジャムズさん達に会えたわけでも、聖地から逃げ出せたわけでもないのでしょう」

「酒場が人間屋になっていたのと関係があるんスか?」

「行動に移す前にバレたのではないかと……あの日以降ジャムズさんやソルトスさん達の姿を一切見かけなくなってしまったので」

 

 ……ジャムズ兄さんだけじゃなく、ソルトス兄さんもか。バカなことを。

 俺と違ってこの島の生まれなのだから、天竜人の恐ろしさは嫌ってほど知っていただろうに。ここにきたばかりの俺に立ち回り方などを教えてくれたのも彼らだった。

 

「せめて貴方だけでも逃げられないのですか? 彼らの為にも貴方は幸せになるべきです」

「…………俺は今が一番幸せですよ」

 

 一年前の俺に言っても確実に信じてもらえないくらいには、今が一番満たされている。これを幸せと呼ばずして何と呼ぶ。

 

 店主は表情を暗くさせて俯く。

 

「そうですか……。先ほど奥様への贈り物を選んでほしいと仰っていましたよね」

 

 棚の中から手のひらサイズの小さな箱を取り出し、俺にも見えるように開いてくれた。

 

「これは特殊な削り方をした希少な石をはめ込んだ指輪です。これと対になる耳飾りもあったのですが、ちょうど一年前にとある天竜人がお買い求めになられました」

 

 店主が慈しみのこもった瞳で指輪を見つめる。

 

「この削り方はコーティング道具会社のものでなければできないんですよ。もう二度と作れなくなってしまったので、最後の品であるこの指輪は一度も店には並べずにしまっておいたんです」

「……これを俺がいただいてもいいんですか?」

「はい。今の貴方にはこれが必要でしょう」

 

 寸分の狂いもなく美しくカットされた石はハートの形を模していて、台座部分にも繊細なデザインが施されている。一目見ただけでシャルリアの耳飾りと同じ物だと分かった。

 

「ただ……うちは巷では貴族向けの店だなんだのと言われてますが、たまたま客層がそうなってしまっただけであってサービスは全然なんですよ。だからアクセサリーもその場で付けて帰っていただくことが多くて」

「……まさか俺にハートの指輪をつけろと?」

「え? いや付けたいなら止めませんが。私が言いたかったのは、洒落た包装などは全くできないということです。その場で付けてお帰りいただくか、その箱のままお持ち帰りいただくかです。無地ですが袋に入れておきましょうか?」

「…………お願いします」

 

 店主が紙袋に詰めてくれた指輪を受け取る。どう見てもお土産店でキーホルダーでも買ったかのような親しみのある見た目をしていた。

 天竜人への贈り物にお土産包装……大丈夫か?

 

「せめてこの辺りにブランドのロゴとか……」

「センスがないのでロゴ自体作ってないんですよ。店の看板も見かねた友人が作ってくれたほどで。私としてはたまたま見かけた人がふらっと立ち寄ってくれる、その程度で十分なんですけどね」

「…………そうスか」

 

 あまりにも商売っ気がなさすぎる。それでも競争率が高そうなこのグローブでやっていけてるんだから、職人としての腕がよほどいいんだろう。

 

 店を出ると、そろそろ聖地へ戻らなければならない時間が近づいていた。

 

「こちらで包装し直しましょうか」

「……いえ。このままにしておきます」

 

 付き人の目から見てもアウトだったらしい。

 包装だけを別の店のものにするのも微妙だしな……こうなったら指輪だけを先に取り出しておいて、先にシャルリアの指にはめてしまえばいい。こういうのははめた者勝ち。サイズが自動的に調節される特殊なリングだと言っていたから、どの指を狙っても構わない。俺の勝ちだ。

 

 行きと同じように赤い港からボンドラに乗り、無事に聖地へ帰還した。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 ・・

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 時というものは瞬きをするように過ぎ去っていくと言うが、最近はまさしくそうだ。

 

 あれほど世間を騒がせた麦わらの一味の消息はぱったりと途絶え、今となっては死亡説が囁かれている。

 

 シャボンディ諸島も随分と様変わりした。

 海軍本部と支部が入れ替わった影響で島内の無法地帯が増え、以前より政府の目が届かない場所が増えてしまった。今となっては、俺の店がある一番GRが無法地帯の中で最も治安がいいとまで言われる始末。

 

 かつてのルーキー達は新世界で暴れ回り、またシャボンディに新たなルーキー達が集い始める。

 

 俺だけは何も変わっていない。むしろ元に戻ったとさえ言えるだろう。

 今でも元下々民であり、天竜人シャルリア宮のたった一人の夫だ。

 

「……………………ラース! ラース!!」

 

 庭園で大きな日傘の下にいた俺の耳に、いつかと同じようにこちらを探し求める声が届く。

 成長し過ぎた巨大な葉っぱを押しのけるようにして顔を出した人と目が合った。

 

「ラー………なんだ、ここにいたのかえ。どうしてわちしが呼んでいるのに返事をしない?」

「花を愛でるのに夢中になっていて聞こえなかったようです」

「嘘だえ。また聞こえないフリをしてわちしを撒こうとしていたに違いないえ!」

 

 数日前に適当に聞き流したことを根に持っていたらしい。

 ぷんぷんと怒っているその人に思わずふっと笑みをこぼしてしまった。

 

「まさか。それよりも早くシャルリアのところへ戻りましょう……チャルロス義兄様」

 

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