シャルリア宮の第一夫君   作:倉庫から出す

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始まりの島

「む〜ん。何でわちし達とパーティーに行かないんだえ? シャボンディなんていつでも行けるのに」

 

 隣を歩くチャルロス義兄様が不満げに口を尖らせる。

 義兄(あに)様とシャルリアは昼前に開かれるパーティーに参加するべく朝食を軽めに済ませ、この数日間は主催者への贈り物や当日の衣装を選ぶのに忙しそうにしていた。

 

「すみません。俺も義兄様たちと行きたかったけど……そろそろ店の方にも顔を出しておきたくて」

「お前がいないとつまらないえ」

「俺もです。出来るだけ早めに戻りますね」

 

 何の含みもない真っ直ぐな言葉に対して、自分も同じように返すことにも慣れてきた。

 心にもないことを口にするのは簡単なのに、本心となるとどうしてこうも照れくさいんだろう。

 

「お土産は何がいいですか?」

「お父上様のカブトムシより頑丈なのが欲しいえ〜。次こそは絶対勝つんだえ!!」

「また難しい注文を……探してみますね」

 

 次回のカブトムシ大会で四度目の開催となる。

 花屋の展示室に三つあるキャプションボードには全て『ロズワード・ロズワード聖』の名が刻まれていた。

 ちなみにエクセレントゴージャス・マヌケ号も現役だ。本当にカブトムシなのか疑わしいほどに長寿な個体である。

 

 義兄様と庭園から屋敷に戻ると、エントランスホールには一人の女性が立っていた。

 

 サクラ色のドレスに身を包み、明るい色の髪を綺麗に結い上げているその人が髪と同じ透き通った色の瞳をこちらに向ける。

 胸元には花びらを模した小さな石のネックレスが輝き、左手の薬指ではハートの指輪が落ち着いた上品な光を放っている。

 

 その人は蕩けるような笑みを浮かべた。

 

「あなた、チャルロス兄さま。遅かったアマスね」

「義兄様。あちらにいらっしゃる妖精のようにお美しい方はどなたですか?」

「シャルリアだえ」

「…………俺の妻ッ!?」

「ラース。毎回同じことを尋ねてくるのは何かの病気かえ?」

 

 シャルリアは年を重ねるごとに順調に美しさに磨きをかけており、ついに今年からは高頻度で彼女だと認識できなくなってしまった。

 あまりにも美しすぎて何かしらの罪に問われかねないほどだ。

 

「ふふ。あなたも目にするたびに魅力的になっていくアマスわ」

「…………ありがとう」

 

 俺の変化といえば二年間で身長が十センチ伸びたことくらい。ティータイムという名の間食が多いことと、聖地で出される食事の質がいいせいだろう。天竜人の平均身長が高い理由がよく分かった。

 それなのにシャルリアに褒められると上手く言葉が出なくなってしまう。俺の心臓がもたないからやめてほしいけど、やめてほしくはなくて……。

 

「本当に一緒に行ってくださらないの? 寂しいアマスわ」

「ご一緒させてください」

「さっきと言ってることが違うえ!?」

「あ……ごめん、シャルリア。今日はさすがに店に顔を出さないといけないから……」

 

 同じような流れでディスコの催促を無視し続けた結果、そろそろ雷が落ちてきそうだった。

 一年ほど前にデュバル率いるトビウオライダーズが全治一年の大怪我を負ってからというもの、深刻な人手不足が原因で多忙な日々を送っているらしい。

 

「仕方ないアマスね。私の友人達も花屋の新作を楽しみにしているもの」

 

 ため息をついたシャルリアがこちらに手を伸ばす。彼女の指先が耳朶を掠めていき、遅れて左頬に柔らかな感触があった。

 

「すぐに帰ってきてくださいまし」

「たった今帰ってきたことにしてもいいですか?」

「ラース! わちしのカブトムシを買ってくる約束を忘れたのかえ!!」

 

 俺の頬から唇を離したシャルリアは、俺とぷりぷり怒っているチャルロス義兄様を交互に見つめて幸せそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 シャロムに乗ってシャボンディ諸島へ降りてきた。

 

 真っ先に向かった一番GRの花屋は前回来た時と変わらず――大繁盛しているようだった。

 

「ラース様!! 本日も来ていただけないのではないかと心配しておりました」

「妻や義兄様とパーティーに行きたかったんだがな」

「……はぁ!? 一部の気難しい女貴族はアンタにしか対応できないって何度も伝えたよな!! 前回もアンタが来るからって入店予約を入れていた王族がいたってのに! あの後おれがどれだけフォローに苦労したと思って……!!」

 

 嘘くさいニコニコ顔で俺を出迎えたデュスコだったが、すぐに本性を露わにして早口で責め立ててくる。

 彼は何事かとこちらに注目し始めた客達に「お騒がせして申し訳ありません! どうぞお買い物をお楽しみくださいませ」とだけ伝え、俺の腕を引っ張ってバックヤードへ連れ込む。

 

「……ふう。とにかく、以前のように『下々民の女と話せない』ってわけじゃないんだろう? それなら使えるものは使わせてもらうぞ。アンタが店に顔を出すだけで売上が何倍にも跳ね上がるんだから」

「ああ。だがデュバルの怪我が治るまでだ」

「勿体ない……。それよりシャルリア宮はどうして急にお願いとやらを取り下げたんだ?」

 

 それもこれも数ヶ月ほど前にシャルリアが「以前あなたにお願いしていたことだけれど……これからは下々民の女と自由に言葉を交わしてもいいアマスわ」と言ったことから始まった。

 

「…………俺の妻への態度と、その他女性への態度の違いを見るのが楽しいんだそうだ」

「おれは今、聞いたことを後悔してる。……まあ最近のアンタはまともにシャルリア宮のことを直視できてなさそうだったもんな」

「そうなんだよ。あまりに美しすぎて……何かを言おうとしても言葉に詰まってしまうというか」

「あーハイハイ」

 

 ディスコは雑に会話を終わらせ、俺にスタッフと書かれたネックストラップを押し付けてきた。

 

 

 

 

 

「貴女は……コマネ王女。また私の店にお越しいただけるなんて光栄です」

「べ、べつに貴方がいると聞いて来たんじゃないわよ! そろそろ私に似合う髪飾りが欲しいなって思っただけだから。今年は世界会議(レヴェリー)もあるもの!」

 

 腰まで届きそうな長い髪をツインテールにしている女性が、俺と目が合った途端に魚のように口をパクパクさせたかと思えば、堰を切ったように話し出す。

 

「それでは特別に良い物を選ぶ必要がありますね。王女様が身につけられたものがルルシア王国の次の流行になりますから」

 

 俺が軽く手を上げれば、あっという間に従業員が飛んでくる。

 

「髪飾りをいくつか持ってきてくれ。……色は赤がお好きですか?」

「赤も好きよ。貴方はどの色が私に一番似合うと思うの?」

「そうですね……。王女様は王族としての気品を備えた美しいお方ですから、こちらの白の胡蝶蘭はいかがでしょうか」

 

 従業員が素早く用意してきた髪飾りの中から目的のものを手に取る。

 

「失礼いたします」

 

 指の一本も王女に触れないように細心の注意を払いながら、彼女の頭に胡蝶蘭の髪飾りを添える。

 

「いかがでしょう。……とてもお綺麗ですよ。こちらでお髪を後ろでひとまとめにされるのも、小ぶりなサイズのものを二つ使って二つ結いにされてもお似合いになられると思います」

 

 ぽーっとした表情で目の前の鏡越しに俺を見つめていたコマネ王女の体がふらっと後ろに傾く。

 

「おっと」

 

 倒れてくる彼女の背中を抱きとめ――ることはせず、大きく一歩後ろに下がる。

 

 コマネ王女は両目をハートにさせたまま勢いよく背中から床に倒れた。

 物凄い音がしたのに痛がるどころか幸せそうな表情のままだった。

 

「コマネ王女を静かにお休みいただける部屋にお連れするように」

「はい!」

「目を覚まされたら髪飾りは両方勧めておいてくれ」

 

 これもよくあることだ。コマネ王女は複数人の従業員の慣れた手つきによって担架で運ばれていく。

 

「私に似合うネックレスを選んでいただけるかしら?」

「私は指輪が見たいですわ」

 

 王族であるコマネ王女の手前、遠くから眺めているだけだった下級貴族の女性達が恐る恐るといった様子で話しかけてくる。

 

「ええ。喜んで」

「ラース……様は天竜人と同等の存在だと耳にしたのだけれど本当ですの?」

「……私は天竜人シャルリア宮の夫です。神の騎士団へ推薦していただく話が出たことはありますが、今でも身分は変わっていませんよ」

「まあ。でもシャルリア宮が貴方を手放したくないと仰ったからでしょう? 私達の間ではすっかり魅力的な恋物語として話題になっていますわ」

 

 この女性のように花屋の商品やサービスではなく、俺個人に興味があって店にやってくる人もそれなりにいる。

 天竜人に近い存在である俺と関わりを持つことを一種のステータスとしている人や、逆に敵対心を抱く人もいる。

 

 それにしても俺とシャルリアの恋物語か、なんだか照れるな。シャルリアはきっと物語の中でも綺麗で……。

 

「…………ラース様は噂に違わず、シャルリア宮のことを深く愛していらっしゃるのですね」

「ええ。私はあの方以上に美しい人を見たことが、」

「お話中に失礼します! ラース様、少しあちらでお話を」

 

 主にサイファーポールが扱う瞬間移動能力でも使ったのかと思うくらい急に現れたディスコが、俺を無理やり店の端へと連れていく。

 そして小声で捲し立てるように言った。

 

「おれはガチ恋営業をしてくれと言ったのになんで惚気話をしようとしてるんだ!? あれじゃアンタ目的の貴族達が白けちまうだろ!」

 

 またその話か。いい加減耳にタコができそうだった。

 

「俺に妻への愛を偽れと言うのか?」

「偽る必要はないが余計なことは言わなくてもいいだろう? ここには叶わぬ想いだと分かっていても万が一を夢見る乙女達がいるんだよ」

 

 どうせあの女達だって俺が下々民以下の身分になれば、あっという間に手のひらを返すだろう。

 その程度の感情でしかないのにわざわざ俺が気を遣ってやる必要もない。

 

「妻以外の女はどうでもいい。それにガチ恋営業とやらをやってるつもりもない、とにかく高い品を売りつけてそのお金で妻や義兄様たちにもっといい贈り物をしたいだけだ」

「クズの極み……!!」

「人間オークションをやってたお前にだけは言われたくないな」

 

 目下の悩みはチャルロス義兄様への手土産だ。

 エクセレントゴージャス・マヌケ号より強いカブトムシなんて……仮に見つけられたとしてもとんでもない値段がかけられてるに決まってる。

 聖地でカブトムシ対決が流行してからというもの、このシャボンディでも虫を取り扱う店が一気に増えたが、その分値段も倍以上に膨れ上がってしまった。

 

 無法地帯が増えて治安が悪化したこともあり、店の警備に想定以上の費用が発生してるのもなかなかの痛手になっている。

 

 俺が金を稼いでおきたい理由はそれだけじゃない。

 ここ最近、不気味なほど革命軍の動きが静かだ。嵐の前の静けさとはいうが、まさに今がその時なんじゃないかと思う。

 海賊達の活動も以前より活発になってきている。神々の住まう聖地であろうと、確実に安全だと断言できる場所はこの世のどこにもない。

 

 いつか革命軍の革命が成功し、聖地にまで被害が及ぶ事態になるかもしれない。

 シャルリアと彼女が大切にしている方々を安全な場所へ避難させて不自由の少ない生活を保障するためには、今は下界にも俺が自由にできるお金を確保しておく必要がある。

 

「ディスコさん、ラース様。コマネ王女ですが、ラース様が提案された髪飾りを両方ご購入されるそうです」

 

 従業員から報告を受けたディスコがため息をつく。

 

「コマネ王女の分だけで今日の売上目標を上回ったか……」

「アレは最高級品なんだろう? 今日は聖地で大規模なパーティーも開かれているし、これ以降は太客の来店は見込めそうにないな」

 

 王族達はVIPルームの利用者も多く、そのほとんどが事前予約を済ませてから来店する。

 本日の予約はコマネ王女のみ。あとは懐に余裕のある一般人か下級貴族くらいしか来ないだろう。

 

「とにかく、俺は先ほどの女達に営業してくる。今日は昆虫屋にも向かうから……そうだな。あと一時間ほどしたら店を出る」

「……はぁ。いいけどよ、次の来店予定日には必ず来てくれよ!」

「努力はする」

 

 

 

 

 

 花屋を出て真っ先に昆虫屋に向かったが、以前見に行った時と変わらない品揃えだった。

 

 まいったな。義兄様に頼まれたのに手ぶらで帰るわけにはいかない。かといって適当なカブトムシを見繕うのも失礼だろう。

 何よりチャルロス義兄様に喜んでもらいたいし……。

 あの人、嬉しい時は全力で喜んでくれるからこっちも贈り甲斐があるんだよな。

 カブトムシは無理だとしても、せめて彼が気に入ってくれそうなものを探したい。

 

 念の為カブトムシ以外で義兄様が好きそうな昆虫をいくつか購入する。これで手ぶらで帰るという最悪の事態は回避した。

 

 今日は付き人も衛兵もいないが荷物はシャロムが持ってくれる。それにシャロムもサルウと同じ軽量型のシャボン装置を装着していて、装置の側面には電伝虫が入っている箱が備え付けられている。何かあってもすぐに聖地へ連絡できるようにという、シャルリアの気遣いだ。

 

「さて。義兄様の好きそうなものを探すにも情報が必要だな。……酒場か」

 

 海賊の集まる酒場なら店主も自然と情報通になるし、いっそ海賊達に直接聞いてみるのもアリだな。海賊達がチャルロス義兄様の欲しがりそうなものをすでに持ってるかもしれない。

 

観光地(ここ)から一番近い酒場は四十六番。シャロム、連れていってくれ」

 

 さっそくシュルシュルと動き始めたシャロムの背に飛び乗った。

 

 

 

 

 

「仲間急募……モンキー・D・ルフィ?」

 

 昆虫屋から四十六番GRに来るまでに、見覚えのある髑髏マークが描かれたチラシを何度も見かけた。

 海賊らしき男達が手に持っていたり、店の扉や島の掲示板に至るまであらゆる場所に貼られているようだった。

 

 姉様のこともある。まさかあの一味が死んでいるとは思っていなかったが、こんな形で仲間を集めるとは思わなかった。

 

「…………ふーん」

 

 もっと面白い奴らだと思ってたのに。なんだか拍子抜けだな。

 

 酒場の扉に手をかけた。蝶番が軋む音と共に中に入る。小さな酒場だからシャロムは店の外で待機だ。

 

 酒場はカウンター席以外はほとんど埋まっているようで、複数人のバカ騒ぎする声が響いていた。

 

「一人か。適当に空いてる席に…………天竜人?」

 

 真っ先に俺に目を向けた店主の言葉によって、酒場内がシンと静まり返る。

 

「も……申し訳ありませんが、ここは高貴な方にお出しできるようなものは……」

「膝つきは不要だ。俺は天竜人の夫ではあるが天竜人じゃない」

「では貴方様が例の……!?」

 

 再び酒場に喧騒が戻った。先ほどのような下品な笑い声ではなく、動揺の声によって。

 

 最近のシャボンディでは「天竜人の夫が放し飼いにされている」だとか「男装したボア・ハンコックが出没する」などといったふざけた噂が出回っているらしい。

 ……後者は姉様の耳に入ったら殺されそうだな。

 

 店主には「甘くない酒を」とだけ言い、適当なカウンター席に座る。

 

 空席を一つ挟んだ右隣の女からの視線が少し気になったが、本来の目的を思い出して酒の準備に取り掛かっている店主に声をかけた。

 

「この辺でいいカブトムシを取り扱ってる店を知らないか? 買えるなら個人でもいい」

「カブトムシ……ええと、四十二番の昆虫屋には行かれましたか」

「さっき行った。ハズレだった」

「一番品揃えがいいのはあの店なのですが……」

「…………そうか」

 

 俺の知らない新しい店ができていればと思ったが、店主の反応を見る限りそれもなさそうだった。

 

 カウンターに腕を乗せて思案する。

 となれば、あとはこの場にいる海賊達から強だ……いや、巻き上……いや、譲り受ける道しか残ってないな。昆虫類はダメでも何かしらの宝石くらいは持ってるだろ。お土産の資金源にはなるはずだ。

 

「はっ……おれは知ってるぜ!? そこのお前が海賊女帝ボア・ハンコックで、天竜人の奴隷として主人の趣味で男の格好をさせられてるってなァ!」

「…………は?」

 

 もっと最悪な噂が出回っていた。

 

 声を上げたのは俺の後ろのテーブル席に座っていた男。体ごと後ろを振り向くと、まず最初に特徴的な麦わら帽子が目に入った。

 

「ほら見ろお前ら。マリンフォードの戦いで配信されたあの女帝と同じ顔、それに奴隷の首輪を付けてやがる!」

 

 男の顔にはこれまた特徴的な傷が刻まれており、意地悪そうに細められた二つの瞳は俺に向けられている。

 

「…………麦わらのルフィ?」

「ああそうだ。おれはあの革命家ドラゴンの息子で、二年前にはあの天竜人さえも殴り飛ばした男だぞ!!」

 

 …………マジか。人間ってたったの二年でここまで変わるのかよ。

 

 姉様にチヤホヤされて調子に乗ったか? あの人、愛する相手をひたすら甘やかしてダメにしそうな雰囲気あったもんな。

 縦よりも横に伸びてるし……。

 

 いやまてまて。さっきこの男、俺を姉様本人だと口にしていた。

 …………姉様に捨てられでもして、気がおかしくなったのでは?

 

 俺だってシャルリアに捨てられたら正気じゃいられなくなるだろうし、縦よりも横に伸びる自信がある。

 麦わらのルフィ……お前は俺の未来の姿かもしれないってことか。

 

「ということは、そこのアロハシャツがフランキーとかいう……そんな人間らしい体だったか? 隣の仮面の男がそげキング…………なんか違うな」

 

 どいつもこいつも絶妙に記憶にある姿とは違う。

 

 俺の前にオレンジ髪の女がやってきて、フフンッと鼻を鳴らす。

 

「本当に女なの? どこからどう見ても…………いい男にしか見えないわね……♡」

 

 後半は自分の頬に手を添えてうっとりしていた。

 

「アンタは泥棒猫のナミだな」

「ええそうよ! ねぇ、貴方って実は男――」

 

 ハッキリと感じ取ったわけじゃない。

 ただ何となく嫌な予感がした俺は、咄嗟にその場から飛び退いた。

 

 さっきまで目の前にいたナミの頭に細長い棒がめり込み、体ごと酒場の床に沈む。……死んだ?

 

「なんで私の時だけ自信満々に断言するのよッ!! どこからどう見ても似てないでしょうがァ!!」

 

 俺の右隣に座っていた女だった。

 

 彼女はいつかと同じ鬼のような形相をしていて、長いオレンジ色の髪を振り乱しながら、再度手に持っていた棒を振り上げた。

 

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