シャルリア宮の第一夫君 作:倉庫から出す
やっと四十二番GRを出たと思ったら、次は突然の雨に見舞われた。
今日は聖地もシャボンディも雲一つない快晴の予報だったはず。……どうなってる?
幸い従者がすぐに傘を調達してきてくれたおかげで、俺とシャルリアはほとんど濡れずに済んだ。
マングローブの隙間から見える分厚い雲に覆われた空を見上げる。
どうやら雨が降っているのはここだけのようだ。すぐ隣の空は不自然なくらいの青色が広がっている。
「いいコアマスね、シャロム。お前がいなければ私もこの人も無事ではいられなったアマスわ」
シャルリアに撫でられたシャロムは嬉しそうに目を細めている。
「あなたもアマス」
シャロムに嫉妬する隙もなく、シャルリアは俺の頭も撫でてくれた。
「それにしても……すごい雨ですね」
ネガティブになるゴーストや謎の生命体に襲われるよりは断然こっちの方がいい。
「こちら第四小隊!! 突然の雨で火薬をやられてしまい……麦わらの一味のいる四十二番には合流できそうになく…………」
電伝虫片手に本部へ報告している海兵を見かけた。
……全てただの偶然なんだろうか。
ゴースト使いは麦わらの一味の知り合いだったようだったし、この雨だってそうだ。一味と関わりのある人物が彼らの船出を手助けしているような……。
さらに別のGRへ移動すると、そこでは雨一つ降っていなかった。
「シャルリア宮……!? このGRは危険です、すぐにお逃げください!!」
雨は降っていなかったが、銃声と悲鳴が飛び交う混沌の地と化しているようだった。
「こちら第三小隊!! 四十二番GRに向かう途中、巨大な昆虫に行手を阻まれ……!! それも物凄い数です! むしろこちらに援軍がほし……うぶぉっ!!」
必死に報告していた海兵の顔に巨大な蛾のような生物が張り付く。
その生き物は
「コイツらただの昆虫じゃないのか……!? どれも規格外に強いぞ!」
「こっちは銃がほとんど効かない!!」
GR内に放たれた虫達の中でも、一際大きく凶暴な個体を見つけた。
「…………カブトムシ!?」
なんて神々しい姿なんだ。こんなにも巨大で強そうなカブトムシは見たことがない。
立派な角を振り回しながら海兵達を空に打ち上げていくその姿は、まさに王者のカブトムシに相応しい。
「どうかお下がりください、シャルリア宮、第一夫君! この昆虫は我々が駆除してみせますので……」
「駆除? その必要はない」
シャロムがその大きな体でシャルリアを完全に覆い隠したのを確認してから、ボキッと拳を鳴らす。
俺としたことが……昆虫屋で買った適当な虫や食人植物で妥協するなんてらしくなかったな。
「この場にいる全ての昆虫を貰う。海兵、お前達は下がっていろ。これ以上チャルロス義兄様への献上品を傷つけることは許さない」
海兵達に用意させた巨人族用の檻に、気絶して目を回している昆虫達を収容していく。
「…………どこかに虫を放った人物がいるはずなんだが」
このような虫達が自らの意思で集団で移動してきたとは考えにくい。
俺は虫達が「大きいサイズ」で「半数以上がメス」だったおかげで簡単に無力化できたものの、あれだけの数の昆虫を捕獲してここまで連れてきたとしたら……相当な実力者だろう。
海兵達にも周囲を捜索させたが怪しい人物は見つからなかったそうだ。
「あなた。全て終わったのアマス?」
シャロムの尻尾に包まれていたシャルリアがひょこっと顔を出す。
俺は巨大なカブトムシを頭上に掲げながら振り返った。
「シャルリア! これを見てください。立派でしょう」
「……何アマス、それは」
「カブトムシです!」
「そう」
シャルリアは冷めた目で俺の頭上のカブトムシを見ている。
「義兄様は喜んでくださるでしょうか」
「…………ええ。きっと大喜びしてくださるはずアマスわ」
「知能がそれなりにあるようなので、調教したら思い通りに動かせるかもしれません。他にもたくさんいるからシャルリアにも、」
「いらないアマス」
薄ら微笑んだ状態で即答された。
ターゲットの水分を吸い取る蛾や、とにかく強くて巨大なカブトムシ、あまりにも飛翔力が高すぎてもはや鳥レベルなバッタに……。
一年前にチャルロス義兄様が作っていた昆虫部屋にも十分入るだろう。義兄様の反応が楽しみだ。
「あなたも虫が好きなのであれば、兄さまのような昆虫部屋を作らせるアマスわ」
「俺は大丈夫です。見るのは好きですが所有したいわけではないので……」
「あなたはいつもそうアマスね。形あるものを欲しがっているところを見たことがないアマスわ」
自分の面倒な
俺は昔から、自分の手の届く場所にあるようなものには興味を持てない。それは人間であっても同じ。掌握したと思った途端にどうでもよくなってしまう。
シャルリアに対してそれがないのは、彼女が未だに俺の手が届かない場所に咲く高嶺の花であるからなのか、単純に俺が彼女に抱いている愛ゆえか。
「これでも貴女の夫となって貪欲になったほうです。貴女やチャルロス義兄様達への贈り物だけでなく、二年前は貴女に無礼を働いたディスコの命まで求めてしまいました」
「あなた自身が所有する為に求めるものはないのアマス? ……あなたへの贈り物はとても難しいアマスから」
シャルリアは何かと俺に贈り物をしてくれるから、それで満足しちゃってるのもあるんだろうな。というより、シャルリアから貰ったものが俺の欲しい物になってしまう。
だから事前に何が欲しいかと尋ねられた時には「シャルリアが選んでくれた物なら何でも嬉しい」と答えていたが、贈る側としてこの返答が一番困るという気持ちも分かる。
でも実際に俺には物欲がないし、シャルリアが贈ってくれる物全てが欲しいのも事実だった。
「所有するというと違う気がしますが、やはり俺は貪欲だと思いますよ。……他でもない貴女の心と体を求めたのですから」
俺以上に貪欲で幸運な男は滅多にいないと断言できる。
神に等しい存在である天竜人からの愛を求め、手に入れることができる人間なんてほんの一握りだろう。
「……ふふ。体もアマスか?」
「えっ。……あ、いや違います、決してそのような意味で口にしたわけでは」
「私はいつだってそのような意味であなたが欲しいアマスわ。あなたは違うの?」
顔に熱を集中させながらパクパクと口を開閉させている俺に、シャルリアは「本当に可愛い人」と余裕に満ちた色っぽい笑みを浮かべる。
「…………違いませんでした」
「そうアマスね」
これはもうアレだ。夜になったらすぐ夫婦の寝室に連れ込まれるコース。
今回こそは俺の心臓がもたない予感がした。
「…………誰だ。俺の妻の通り道で穴を掘ってるバカは」
「兄助ェ……!! すっげ痛ェッ!!」
赤い港へ行く為、無法地帯に置いてきた船に向かったのが良くなかったらしい。
やっぱり俺の人生は間違いだらけだ。こうなると分かっていたら、シャルリアが乗ってきた船を使ったのに。
あちらの船に積んであるシャルリアのお土産を見てほしかったからって……。浮かれすぎだろう。
「コリブー!?」
天竜人であるシャルリアがいるというのに、無礼にも膝をつかないどころかスコップで穴を掘り続けてるのが複数人。
目についた全員の片足を銃で撃ち抜いてやれば、自然と片膝をついて相応しい姿になった。
「それでいい。……シャルリア。今回は片膝でも構いませんか? もう片方は俺がダメにしてしまいました」
「いいアマスわ」
俺に手を引かれたシャルリアが何事もなかったように無法地帯の土を踏む。
俺が足を撃った男に兄助と呼ばれていた男が、慌ててその場に両膝をついた。
「あの時の天竜人の夫君……!?」
「お前はさっき四十六番GRにいた……濡れ髪のカリブーだったか?」
よく見ると男の周囲には偽の麦わらの一味が縛られた状態で座らされていて、偽サンジと思われる黒スーツの男は泥状の何かに頭を覆われた状態で地面に転がっていた。
上手く息ができないのかピクピクと痙攣している。
「知り合いアマス?」
「ええ。遊び相手になるはずでした」
遊び相手が何を意味するのかよく知っているシャルリアは、俺が懐に仕舞いかけた銃を再び手に取っても驚かない。
「ケヒヒヒィ……誤解だ!! いや、ですぜェ天竜人の旦那ァ〜! おれァ麦わらの一味を騙るニセカス野郎に騙された被害者の一人でさァ〜〜!! このおバカさん達は天竜人様にいつでも捧げる準備が、」
「喋り方がムカつく」
イラッとして即撃ってしまった。
どいつもこいつも何なんだ。天竜人の夫に気安く話しかけてくる奴が多すぎる。
俺が放った銃弾は男の左肩を貫通し、男は予想外の痛みに悶絶していた。
「天竜人の夫が覇気を使うとは思ってもいなかったようだな。偽サンジに纏わりついてるその泥……
ため息混じりに銃を懐に戻す。その直後、銃を扱えることをシャルリアに知られたら都合が悪いことを思い出した。
「今のはたまたま狙ったところに当たっただけです」
「ふふっ……あなたの銃の腕前がいいことはとっくに知っているアマスわ」
「いいえ、いつもは全て外してしまいます」
「最近のあなたは嘘ばかりアマスね」
シャルリアはそう言いながらも気を悪くした様子はない。
「……もう、俺に銃を教えてはくださらないのですか?」
シャルリアと一緒に何かをする貴重な時間だったのに……。
とくにやることを決めずに二人で部屋でまったり過ごすのも好きだけど、それとこれとはまた別だ。
「そんな顔をしてもダメアマス」
俺のものよりも一回り小さい指先が、つんっと俺の唇に触れる。
「おれァ……一体何を見せつけられてるんだよォ〜〜!?」
「シャルリア…………」
「さあ聖地へ帰るアマス。銃以外にも私があなたに教えてあげられるものはあるアマスわ」
銃のことは残念だけどシャルリアがそう言うなら……。
何やら別方向からのダメージも受けて悶絶しているカリブーを置いて、俺とシャルリアは無事に聖地へ帰還した。
「むふふ〜ん♪ カ〜ブトムシ〜カブトムシッ♪」
夕食前にお土産であるカブトムシ達を見せてからというもの、チャルロス義兄様は歌いっぱなしだった。
「チャルロスは何がそんなに嬉しいんだえ?」
俺とシャルリア、チャルロス義兄様がいる食事の席に、屋敷の主であるロズワード聖が遅れてやって来る。
「あ……実は今日、シャボンディ諸島で巨大なカブトムシを見つけたのです」
「お父上様! ラースがわちしにくれたんだえ〜! とっても強いカブトムシ〜♪」
ムフムフと喜びを隠しきれないチャルロス義兄様の笑みを見たロズワード聖は、何とも言えない微妙な表情をしていた。
「…………私のものはないのかえ?」
「申し訳ありません、ロズワード聖。義兄様は『ロズワード聖に勝てるカブトムシ』をご所望でしたので、全て義兄様にお渡ししました」
ロズワード聖が助けを求めるように俺の隣に座っているシャルリアを見る。シャルリアはというと、俺とチャルロス義兄様を微笑ましく見つめているせいで、ロズワード聖の視線には全く気がついていないようだった。
「何故いつまでも私にだけそのような呼び方を……」
「お父上様! 早く食事を済ませて、わちしのカブトムシをご覧になってくださいえ〜!」
「チャルロス。フォークでグラスを叩くのはやめなさい。叩くならそこの奴隷にするえ」
チャルロス義兄様の催促により、使用人達がお大慌てで料理を運んでくる。
その後も頻繁にロズワード聖からの視線を感じたがとくに何かを言われることはなく、食事会は無事に終わった。
今日の夕食は早めの時間だったこともあり、食後の運動にと庭園に出てみたら空はまだ明るさを保ったままだった。
シャルリアは先日手に入れた奴隷を調教する為に奴隷部屋へ、チャルロス義兄様とロズワード聖は昆虫部屋にいらっしゃる頃合いだろう。
「ラース様。ご所望のものは全て用意できております」
「相変わらず仕事が早いな」
俺の斜め後ろを歩く付き人が「恐縮です」とだけ返してくる。
この男の出身は……ゴア王国だったか。あの国の貴族は天竜人への忠誠心が高く、優れた教育を受けた者が多いとも聞いている。
庭園の奥、好きに使っていいと言われているエリアまで来た。
付き人に用意させたプランターに軽石を敷き詰めておき(ウソップ曰くあってもなくてもいいらしい)、その上にシャボンディから持ち帰った土を入れる。
ウソップにもらったメモの手順通りにポップグリーンを植え、土全体にたっぷり水を含ませる。最後にプランターの左右の底にレンガを重ねておく。
驚くほどに普通の植物とほぼ同じやり方だった。
これで上手く育ってくれたらいいんだが……。ウソップが譲ってくれた種に予備はない。失敗しないことを祈るばかりだ。
じっとプランターを見つめていたら、俺と付き人以外の足音が聞こえてきた。
「…………あら。懐かしい光景アマスね」
シャルリアのものより少し低い声が鼓膜を震わせる。
手のひらの泥を軽く払ってから慌てて立ち上がった。
「ティア義姉様。事前にお越しになると知っていれば、お出迎えさせていただいたのですが……」
シャルリアとは別ベクトルに美しい女性が立っていた。
手入れの行き届いた黒髪は綺麗に結い上げられており、少し長めの前髪から覗く瞳は楽しげに細められている。
「フフ。……お前にそう呼ばれるのはまだ慣れないアマスね」
「以前の呼び方に戻したほうがよろしいでしょうか」
「まあ。チャルロスのことは義兄と呼ぶのに、私にだけ他人行儀な呼び方をするつもりアマス?」
ティア義姉様が気分を害されたわけじゃないことは分かってる。こうやって俺を揶揄って楽しんでいるだけだ。
「他人になるならいっそ、私の屋敷の庭師にしてやるのも悪くないアマスね」
「義姉様の庭園が食人植物だらけになってしまいますよ」
「解雇アマス」
あまりにも早い解雇通告に笑ってしまった。天竜人が所有する庭園で好き勝手して解雇で済むなら寛容なほうだ。
「義姉様に頼まれていた『流行の扇子』ですが、本当に俺が選んだもので良かったのですか? それも聖地ではなくシャボンディのものだなんて……」
「お前が選んだものがいいのアマス。それに聖地のものはとっくに見飽きてしまったアマスわ」
この二年間でこの人も随分と丸くなったと思う。丸くなったというか素直になったというか。ただ、シャルリアとの仲は相変わらずだ。
「では、お帰りの時間までに従者に用意させておきますね」
「……ところで。シャボンディで麦わらの一味に人質にされたと聞いたアマスわ。本当なの?」
やっぱり本題はそれか。
こちらに向けられた瞳は、僅かな俺の反応すら見逃してくれそうにない。
「その前にシャルリアはお前を迎えに行くのだとパーティーを抜け出して……こうやってお前が呑気に庭師の真似事をしているのアマスから、当然あの子には傷一つ付いていないアマスね」
どうにも嫌味ったらしい言い方に感じたのはきっと気のせいじゃないはずだ。
こうなると分かっていたから、この人に会うの嫌だったんだよ。
「…………ティア義姉様。それほど心配なのであればシャルリアに直接尋ねればいいではありませんか」
微かに俺を睨みつけていた目が一気に見開かれた。
「何を言うの……!? 私はシャルリアの心配なんてしていないアマス!!」
「何度も申し上げていますが、義姉様はシャルリアのことを大切に想っていらっしゃいます。義姉様が俺に対してそうであるように、シャルリアにも素直に接してくだされば彼女も義姉様を邪険に扱ったりしません」
「義姉である私に対して無礼アマスわ、ラース!!」
ティア義姉様の顔は沸騰してるかのように真っ赤で、その唇はわなわなと震えていた。
「シャルリアだって本当はティア義姉様と親しくしたいはずです」
「な、何を……あの子がそんなことを思うはずがないアマス!」
「思っています。さあ、俺が一緒に行って差し上げますから」
「最近のお前は本当に生意気アマスわ……! この私を幼子とでも思っているの!?」
以前は不器用な二人を微笑ましく見守ったりもしていたが、いい加減間に挟まれるのにも疲れてきた。
ティア義姉様は照れ隠しに俺絡みのくだらない冗談を口にしてはシャルリアを怒らせて自爆するし、かと言って俺が義姉様を庇う素振りを見せれば、今度はシャルリアが拗ねて数時間は口をきいてくれなくなる。
とくに後者は毎回俺に多大なダメージを与えてくるので避けたいところだ。
落ち込んで見えるように控えめな困り顔を作ってみた。
「俺はただ……愛する妻が大切な義姉様のことを誤解しているのが悲しくて……」
「そんな顔をしても行かないアマス!」
さすが従姉妹といったところだろうか。シャルリア同様、微塵も効いている気配がない。
俺がこうすることで従わない女はいなかったのに……。
「フン。私はもう帰るアマス。お前とシャルリアなど、勝手にドレスローザに行ってしまえばいいのアマスわ」
「え?」
義姉様は呆気にとられている俺を置いて、さっさと庭園を出て行ってしまった。
「私から言おうと思っていたのに。先にティアから聞いたのアマスね」
湯浴みを済ませて夫婦の寝室で待機していたら、隣の部屋と繋がる扉が開いてシャルリアが姿を見せた。
一年ほど前に夫婦の寝室はシャルリアの部屋のすぐ隣に作られ、扉一つで自由に行き来できるようになっていた。逆側も同じように俺の部屋に繋がる扉が設置されている。
「その前に確認しておきたいのですが……俺の妻ですか?」
「まあ。また私が分からなくなったのアマス?」
シャルリア(ほぼ確実にそう)が「あなたとの部屋にこのような姿で現れる女が私以外にいるとでも?」と艶やかに笑う。
ベッドに腰掛ける俺のすぐ隣に座ってきた女性はバスローブ姿だ。状況的にどう考えてもシャルリアなのに、記憶にあるよりもさらに美しいのでイマイチ自信が持てない。
これまで生きてきて彼女以上に美しい人なんて他に――――あっ。
「あなたにも困ったものアマスね」
「……いえ。もう大丈夫です。たった今解決策が見つかりました」
シャルリアが不思議そうに目を瞬かせる。
「出会った時からずっと貴女は俺にとって世界で一番美しい人です。つまり俺は世界一美しい人を見かけたら全てシャルリアだと思えばいいのです」
「…………あなたという人は。一度その頭の中を覗いてみたいアマスわ」
何だろう。遠回しにバカって言われた気がする。
「それよりもドレスローザの件アマス」
シャルリアが軽く腰を浮かせる動作をしたので、流れるように腕を差し出して支える。
彼女は俺の膝の上に乗ってきたかと思えば、頭ひとつ分高い位置からこちらを見下ろしてきた。
「…………ダメですよ」
「まだ何も言っていないアマスわ」
「俺を誘惑して首を縦に振らせる気でしょう」
シャルリアは否定せずに微笑むだけだ。
「絶対にダメです。ドレスローザなんて……あのドフラミンゴの国ですよ。俺や天竜人を恨んでいるであろうあの男が一体何をしでかすか」
シャルリアは俺の右手を掴み、自身の頬に触れる場所へと誘導してくる。
「お父上様は、あなたと一緒であれば行っても構わないと仰っていたアマス」
俺の手のひらに頬を寄せて目を閉じる姿に、今すぐこの部屋から飛び出したい衝動に襲われた。
「……何を言っても無駄です。貴女を危険に晒すわけにはいかない」
「サイファーポールも連れて行くもの。それに花屋が繁忙期だということも理解しているアマス。今すぐではなくまだ先の話アマスわ」
シャルリアが「これならいいでしょう?」とでも言うように俺を見る。
「サイファーポールといえど七武海の領域でどこまで役に立つか分かりません。彼らの優秀さは知っていますが、」
「私はこれまでシャボンディ以外の下界に行ったことがないアマス」
シャルリアは俺の手をぎゅうっと強く握る。
「だから……あなたともっと色々な場所に行きたいアマスわ。いずれはあなたの故郷も見てみたいの」
「…………それでもドレスローザはいけません。せめて他の国であれば」
「ドレスローザにはたくさんの花々が咲き誇るとても美しい場所があるとパーティーで聞いたの。どうしてもそれが見たいアマス」
シャルリアの望みは全て叶えてあげたいけど、これだけは無理だ。
もしもドフラミンゴがシャルリアを傷つけるようなことがあれば……きっと俺は死ぬほど後悔する。
強い意思で断るつもりでいた俺に、シャルリアと思われるこれまで見たことがないほど美しい女性が口を開く。
その人は全身が光り輝いていて、天女以外の何者でもなかった。
「お願い、あなた……。どうしてもあなたとドレスローザに行きたいの」
「貴女が望むなら、俺はどこへでもご一緒します……♡」
「まあ本当アマス? 大好きアマスわ……!」
「………………はっ!!」
気がついた時には天女に抱きつかれており、さらに放心している間にベッドに押し倒されていた。