シャルリア宮の第一夫君   作:倉庫から出す

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逆行

「……まだ手が震えてるな」

 

 人とオモチャの明るい笑い声が微かに聞こえてくる路地裏。

 壁に背中を預けて冷や汗をかいている俺の顔を、シャロムが心配そうに覗き込んでくる。

 

「問題ない。もう少しこうしていれば良くなるはずだ」

 

 まさか痺れ薬が注入されるとは思わなかった。

 真っ二つに割れて足元に転がっている首輪を見下ろす。

 

「いっそ爆発してくれたら、いくらでもやりようはあったのに」

 

 覇気を扱えないデビル・ディアスですら死ぬことはなかったんだから、俺ならすぐに動ける程度で済むだろうと甘く見ていた。

 現実は、首輪を割った瞬間に内側から無数の針が飛び出してきてこのザマだ。ダサすぎる。

 

 この俺の体を数分間とはいえ麻痺させるとは……この手のものが効いたのは久しぶりだ。

 

「まあいい。これで首輪の問題は解決した。粉々に砕いて……そういやコレ五億の人魚より高かった気が。…………本物の人魚を見たことは……ないはず、だよな」

 

 いくつかの記憶と記憶が上手く結びつかない。どうやらまた自分に不都合な記憶を消したようだ。

 

 その場で服屋から持ってきていた動きやすい服に着替え、懐に二つに分かれた首輪を仕舞う。

 最後に両手足を軽く動かして調子を確認する。問題なさそうだ。

 

「行こう、シャロム」

 

 

 

 

 

 港に着くと、そこでは船を出せずに途方に暮れている人々で溢れていた。

 

「天竜人の夫君が逃げ出したのだ。我々が見つけ出すまで、あらゆる船の出航を禁じる!!」

「そんな……困ります!! 明日店に出すドレスエビをこれから調達しにいくところだったのに!」

 

 港は衛兵達によって完全に閉鎖され、逆らう者が出るたびに複数の発砲音が鳴り響く。

 

「ご苦労なことで」

 

 シャロムが「どうするんだよ」とでも言いたげな様子で俺の手のひらをつつく。

 

「アイツらを殺すのは簡単だけど、こうなったら俺を乗せてくれる船乗りは出てこないよな。俺一人で新世界の海を進めるはずもない」

 

 天竜人の怒りを買う可能性があるとなれば、そう簡単に脅しに屈してはくれないだろう。

 面倒なことになった。

 あまりこの国に長居しては聖地からさらなる追っ手が来そうだし、やけに俺を敵視しているドフラミンゴが何をしてくるか分からない。

 

「…………なあシャロム。別に船なんかなくても、お前の背中に乗れば何とかなるんじゃないか?」

 

 俺はいたって真面目だったのに、シャロムの尻尾に思い切り頭を叩かれた。

 

 

 

 

 

 船は一旦諦めて再び町へ戻ってきた。

 

「……海を泳いで他の国に行きたい!? バカなのか?」

「俺はバカじゃないから俺の話じゃない。知人がそうしたいと言ってた」

「いや絶対アンタの話だろ」

 

 適当な酒場に入って店主と話をしてみたが、やはり新世界の海は生身の人間が移動するにはあまりにも危険らしかった。

 

「それにこの辺りの海は闘魚が出る。基本的には無人島のグリーンビット周辺にしかいねェが、年々生息域が広がってる。最近はどこで見かけてもおかしくないほどだ」

「ふーん。でも所詮は魚だろう?」

「あれは海獣と変わりねェよ。ドレスローザとグリーンビットを繋ぐ鉄の橋を破壊するほど凶暴だ」

「デカくて強いのか」

「デカくて強い」

 

 俺の言葉をなぞり返してきた店主が注文していた酒を差し出してくる。

 

 デカくて強い魚か、それはまたチャルロス聖が好きそうな。……いやもう俺には関係のない話だった。

 

 酒を一気に飲み干し、空になったグラスの隣に金を置く。

 

「そういやアンタ見慣れない姿をしているな。フードまで被って……海賊には見えないが訳アリか」

「実は女から逃げてるんだ。だから内緒にしておいてほしい」

「ははっ。浮気でもしたのか? もし見つかったら大人しく刺されてやりな。相手がこの国の女なら国外に逃げても追いかけてくるぞ」

「…………覚えておく」

 

 俺の場合は国外どころの話じゃないんだけどな。刺されるくらいで済めばいいが……その場で射殺か良くて奴隷堕ちだろう。

 

 俺を夫にした天竜人は嫉妬深く過激な女だから、殺す前に性器を切断して拷問してくる気もする。

 

「…………最後にもう一つ聞きたいことがある」

「なんだ。多めに出してくれてることだし、おれが知ってることなら何でも教えてやるよ」

 

 店主はグラスごと金を回収し、機嫌良さげに鼻歌を歌っていた。

 

「ここに来るまでにやけに海賊とすれ違ったが、普段からこうなのか?」

「今日はコリーダコロシアムで豪華な報酬が用意されることになってるんだよ。新世界の猛者達がその宝を手に入れようとこの国に集まってるのさ」

 

 店主がカウンターから乗り出してきて、俺にだけ聞こえるように耳打ちしてくる。

 

「一般客にはまだ知らされていない情報だが特別に教えてやる。今回の商品は――あの自然(ロギア)系の悪魔の実、メラメラの実らしいぜ」

 

 

 

 

 

 酒場を出て、店の前に置いていた荷車の持ち手部分を掴む。振動を察知したのか荷車に積んでいた大きな木箱がガタガタと揺れた。

 

「もう少しの辛抱だ、シャロム。鉄橋で人の目がなくなったら出してやる」

 

 木箱がまたガタガタと揺れる。多分「ふざけんなこの野郎」だろう。それでも箱を破壊せずに収まってくれているだけマシな方だ。

 気休め程度にしかならないだろうが、用意しておいた紐で木箱の蓋が開かないように縛っておく。

 

「仕方ないだろ。お前は俺以上に目立つ見た目をしているんだから」

 

 不貞寝でも始めたらしい。木箱からは何も聞こえてこなくなった。

 

 とりあえず今日は、人が住んでいないというグリーンビットで一晩過ごしてから今後の身の振り方を考えるつもりだ。

 

 すでにドレスローザ中の宿屋に兵士が派遣されている頃合いだろう。そのうち店以外の一般人の住居にまで捜索の手が伸び、見つかれば強制的に聖地に連れ戻されてしまう。

 今は例のサイファーポールといい雑魚しかいないから問題ないが、聖地から優秀な人間が派遣されてきたら話は別だ。

 一人や二人ならまだしも、大人数で来られたら流石に逃げきれないだろうな。

 

 現時点の自分の考えを整理したところで、シャロムを宥めるために木箱を撫でていた手を止める。

 

「…………妙だな」

 

 俺はこんなにも保身的な人間だったか?

 この数年間で随分と体が鈍ってしまったから怖気付いているのか?

 

 以前の俺なら問答無用で港で船を強奪しているか、いや………そもそもこの国にいること自体がおかしい。

 聖地から離れるためにわざわざドレスローザへの外出を強請るなんてあり得ないことだ。これまでも逃げ出す機会なんていくらでもあったのに。

 

 ――あの時、人間オークションで、どうして俺はレイさんに首輪を外してもらうことを拒んだ?

 

 首輪を外して自由になること以上に、聖地に俺の興味を引くような物事があったということになるが、肝心なその辺りの記憶が曖昧だ。

 俺がレイさんに「外さなくていい」と答えた事実だけが頭に残っている。

 

 ……まあ、俺が記憶から消すのは自分に都合の悪い出来事に限定しているはずだから、とくに問題はないだろう。これまでに挙げた違和感の全てに何かしらの理由があるはずだ。

 

 シャロムを乗せた荷車を引き、北の方角にあるというグリーンビットを目指して進んだ。

 

 

 

 

 

「オッホッホ! やっと見つけた、大蛇を連れている男……。若に楯突いた生意気なガキざます!」

 

 町の人間の反対を押し切って鉄橋を渡っていたら、薄紫色のサングラスを付けた全てが派手な女が現れた。

 

「全てヴァイオレットの報告通り。あーたを芸術(アート)にして若に献上するのがあたくしの任務!!」

 

 女は花柄のマーメイドドレスに身を包み、ボリュームのある橙色と黄色の髪は彼女の動きに合わせてふわふわと綿菓子のように揺れている。

 

「ドフラミンゴの腰巻きか?」

「誰が美しいマーメイドざます!!」

「言ってねェよ」

 

 頭の奥底に眠っていた何かが呼び起こされる感覚があり、思わず即答してしまった。

 

「シャロム。遅くなったが昼飯の時間だ」

 

 とっくに木箱から出ていたシャロムが、その長い体をバネのようにして女に飛びかかる。

 

「オホホホ〜!! ああ……感じる……この胸の奥底から溢れ出るパッション……。獰猛な獣の魂と、あたくしの芸術(アート)共鳴(セッション)……ッ!!」

 

 女の頭からモクモクと雲のような煙が飛び出す。

 

 ドフラミンゴの部下にしては大した強さを感じられないと思ったら……やはり能力者か。

 

「能力者だ。油断は…………シャロム!?」

 

 女が出した煙に触れたシャロムは、次の瞬間には三角形のパーツが組み合わさったオモチャのような見た目へと変わっていた。

 シャロムも混乱しているようでカタカタと機械のように体を震わせている。

 

「嘘だろお前……そんなクソダサい姿になって…………」

「ダサいとは何ざます! これだから芸術(アート)が何たるかを分かっていないド素人は!!」

「おいやめろ! 俺まであんなダサくするつもりか!?」

 

 この女、何の実を食べた能力者なんだ。ダサダサの実!?

 

 女が飛ばしてくる煙を必死に避けていたが、手に持っていた銃だけが触れてしまった。天竜人の銃はあっという間に変形し、俺の手元には腐ったバナナのような形をした謎の物体が残る。

 

「うっ……なんてダサさだ……! この俺がダサいペットとダサい武器を持つ羽目になるとは……!!」

「逃げても無駄ざます。あたくしの芸術はどこまでもあーたを追いかけ、」

「逃げる? 俺が? 冗談だろ」

 

 瞬時に女の背後へ移動する。女がこちらを振り返った時、すでに俺は地面に片手をついた状態で足を振り上げていた。

 

「――――天砕脚!!」

「ぎゃあああっ!?」

 

 避けられるだろうと思って次の動きも考えてたのに一発KOだった。

 

 能力頼りの雑魚はこれだから……でもドフラミンゴがこの女を側に置いていたのも納得がいく。お粗末な戦闘力には目を瞑ってもいいと思えるほど便利な能力だ。

 それに、俺の銃とシャロムもどうにかしなきゃいけないしな。

 

 地面に転がっている女の前にしゃがみ、顔を隠す為に被っていたフードを下ろす。

 

「…………手荒な真似をしてすみません。貴女が他の男の存在をチラつかせるものだから嫉妬してしまったんです」

「…………えっ?」

 

 俺と目が合った女の顔は上気して赤くなり、両目はハートになっていた。心なしか鼻息も荒くなってる。

 

「わざわざ芸術で飾り立てる必要がないほど貴女は美しい。名前をお伺いしても?」

「ジョーラ…………ざます♡」

「ジョーラ。芸術も素晴らしいですが、俺はもっと自然体の貴女を知りたいです。……いけませんか?」

「自然体のあたくし……!?」

 

 目から鱗だったのか驚いているジョーラを適当に言いくるめて、銃とシャロムを元に戻してもらった。

 

「芸術で飾られていない今の俺は、貴女にとっては魅力的ではないかもしれませんね」

「そ、そんなことはないざます!!」

「よかった。それでは今後は俺と貴女以外のものを芸術で彩ることにしましょう。そのほうがより一層貴女を感じられると思うんです」

「オッホッホ……。それがラース様の望みなら……♡」

 

 ジョーラの顔はすっかり蕩けてしまっていて暫くは元に戻りそうにない。

 

 こうも簡単に落とせてしまうと楽っていうよりはつまらないな。

 シャボンディに来てからは常に抑えてきたが、少し目を合わせる時間が長すぎたようだ。

 

「…………実は、困っていることがあって」

「何ざます? あたくしが解決してあげるざます!」

「今すぐにでも貴女を攫って逃げてしまいたいのに、港をマリージョアの衛兵が封鎖しているせいで手段がないんです。俺は新世界どころか航海の知識がありませんから……船だけ手に入れても愛しい貴女を遭難させてしまうかも……」

「ああっ……捨てられた子猫のような愛らしさと……燃えるような激しい愛のシャワー……!! ああ〜……世界中をこの眩い光で満たす必要があるざます!!」

「煙はいいからさっさと持ってる情報を寄越せよ」

 

 用済みになったらすぐに捨てよう。事あるごとにあの煙を出されたらたまったものじゃない。

 

「逃走用の船はすぐに手に入るざます。ヴァイオレットの情報によればそこに航海士も乗っているのだとか。ああ……若……あたくしを許さないで……それでもあたくしは、この背徳的な恋に溺れてしまいたい……!!」

「航海士付きの船? そんな都合のいいものがあるのか」

 

 一度落としてしまえば、あの寒気がするような優男ムーブはもう必要ない。

 ヴァイオレットが誰かは知らないが、情報収集においてかなり優秀な人物のようだ。

 

「そう、麦わらの一味の船が」

「…………へえ。それはまた随分と楽しそうなことになっているな。七武海脱退の件も麦わら達が関係しているんだろう?」

「そうざます。若はあの生意気なガキ共を絶望させる為に手の込んだ()()を……。ああっ……愛の為ならファミリーの情報すら差し出してしまう……あたくし、このような感情はこれまで一度も……っ!!」

 

 いちいち恋だの愛だのと余計な発言を挟んでくるのは鬱陶しいが、なかなかに有益な情報を得られた。

 今はまだ次の生き方を決めていない空白期間。……他の国へ移動する前に少しくらい遊んでもいいんじゃないか?

 

「麦わら達の目的は?」

「若か四皇カイドウか、その両方かもしれないざます」

 

 ドフラミンゴどころか、最強の生き物だと言われているカイドウまで?

 

「……ははっ!! 海賊王になると豪語するくらいなんだ、いずれは四皇どころか世界政府すら潰すつもりだとは思っていたが……本当に興味が尽きない連中だな」

 

 新世界に出てきてすぐ四皇に手を出そうとするとは。動きが掴めない革命軍なんかよりこちらの方がよっぽど楽しそうだ。

 もしくは、彼らと敵対する道を選ぶのも悪くないかもしれないな。

 

「どちらも捨てがたい。まずはアイツらの船に乗ってから、最終的により面白そうな側を選ぶってのも…………どうしたシャロム?」

 

 さっきから落ち着かない様子で俺の周囲をうろうろしていたシャロムが、急に鉄でできた柵へ顔を向ける。その直後、ザバッと海から出てきた巨大な何かが鉄橋に突っ込んできた。

 

「もう闘魚とやらの生息域に入っ、デカ過ぎんだろ…………」

 

 柵の一部は変形し、牛と魚を足して二で割ったような生物がめり込んでいた。その鋭いツノだけでも一般的な人間の何倍も大きい。

 闘魚は器用に尾鰭を動かして柵から逃れ、海へ潜ってしまった。

 

「サイズだけならルスカイナにいたバケモノ達といい勝負だな」

「ラース様!! ここはあたくしの愛の力で……」

「ジョーラ。お前の力はまだ温存しておけ。ここは俺がやる」

「えっ…………!! 『お前を守ってやる』と言ったのざます!?」

「言った」

 

 適当に返したらジョーラは「そんなセリフ……今まで言われたこともないざます…………♡」と完全に溶けて地面と一体化していた。

 勝手に脳内補完して自給自足してくれるタイプは管理まで楽だな。

 

 再び海から飛び出してきた闘魚が真っ直ぐこちらへ向かってくる。

 シャロムの尻尾をバネ代わりにして跳躍した。

 

「デカいだけの魚がこの俺を見下ろすとはクソ生意気な……今すぐ這いつくばらせてやる――――天墜脚!!」

 

 闘魚の眉間に勢いよく踵を落とす。ベコッと眉間に穴があきそうなほど凹み、巨大な魚は橋に叩きつけられた。

 気絶した魚の上に着地してため息をつく。

 

「はぁ……この二年間で少しは感覚が戻ったと思っていたがまだまだだな」

 

 殺すつもりでやったのに気絶しただけとは情けない。一度衰えた体を元に戻すのに二年じゃ全く足りなかったようだ。

 平和すぎるマリージョアで出来ることにも限りがあるし……やっぱり外に出て戦わないことにはどうにもならないな。

 

 俺達の存在に気づいた闘魚はこの一匹だけのようだ。鉄橋周辺の海は沈黙に包まれている。

 

「ジョーラ。その麦わらの船はどこにある?」

「奴らと同盟を組んだローが若に指定してきた場所がグリーンビットざます。一味の船はいつでもローを回収できるように近くで待機しているはずざます」

「……アイツらとの腐れ縁もここまでくると気持ち悪いな」

 

 面白い連中ではあるが、毎回俺が振り回される側になっているのは気に入らない。

 

「サイファーポールが十五時の号外で誤報だと世界に公表すると言っていたそうだな。つまりローが指定してきた時間も?」

「そうざます。『七武海を脱退すれば十五時に人質の科学者シーザー・クラウンを解放する』とローが若を脅したのざます」

 

 シーザー・クラウン……どこかで聞いたことがあるな。科学者ってことは例の世界的な天才科学者とも関わりがあるのかもしれない。

 

 十五時まであと三十分ほど。遠目にグリーンビットらしき島も見えてきた。

 

「ドフラミンゴはすでにグリーンビット内にいるかもしれないな」

「若は時間前のネタばらしはしないざます。勝ち誇った顔で現れたローを、誤報の知らせと共に天国から地獄へ落とす……。間違いなく時間ギリギリに姿を見せるはずざます」

「なるほど。お前がいてくれて助かるよ、ジョーラ」

「はぁん♡ これが夫婦の共同作業……ケーキ入刀ざます♡」

 

 それなら俺はこっそりグリーンビットに潜んでおこう。

 こういうのは一旦蚊帳の外から眺めるのが一番楽しいからな。

 

「結婚はしない。あんな退屈なもの、もう二度とごめんだ」

「そんなぁ……」

「…………それより、さっきからやけに後ろが騒がしいような、」

 

 騒がしいどころじゃない。海から何かが飛び出してくる音と、鉄橋にぶつかる音。それらはどんどん大きくなり、ついには大声で騒ぎ立てている人間の声まで聞こえてきた。

 

「うわあああ〜っ!!」

「こんなのが魚ァ!? サイズは置いといても牛の要素の方が勝ってるだろ!!」

 

 後ろを振り返ると、全力でこちらへ駆けてくる四人の男女が見えた。

 そのうちの一人、長鼻の男と目が合う。

 

「はっ!? なんでここに天竜人の夫が」

「…………嘘だろ」

 

 四人の騒がしい声に誘き寄せられた無数の闘魚達が鉄橋に集まっていた。

 

「ロー!?」

「てめェ、ジョーラ……なんでここにいやがる。隣にいるのは人間オークションの時の……?」

 

 トラファルガー・ローの言葉を遮るように複数の唸り声が響き渡る。

 鉄橋周辺の海は闘魚の群れで埋め尽くされており、海の部分を探す方が難しいほどだった。

 

 …………こっそりグリーンビットに潜む? もうどう足掻いても無理だな。

 コイツらもはや疫病神か何かだろ。どこまで人の邪魔をすれば気が済むんだ。俺のささやかな楽しみを奪いやがって。

 

「ヒィッ!! 闘魚達が誰が先におれ達を襲うかでケンカしてやがる! ……天竜人の夫! 海賊女帝の弟なら当然強いんだろ!? 一緒に戦ってくれよ!」

「あり得ない。お前達を囮にして俺は先に行く」

 

 長鼻の男、ウソップには薄情者だと叫ばれたが知ったことか。

 

「天竜人の夫……じゃなくてラース! 実はまだお前に渡してない、レアなポップグリーンをおれは持っている!!」

「おい鼻屋! 無駄口を叩いてる暇があったら手を動かせ。おれ達はこんなところで止まってられねェんだ!」

「……二人とも見て! 来るわよ」

 

 仲間内で争っていては獲物が逃げることに気がついたのか、周囲の闘魚達が戦闘態勢に入っていた。

 ローを除くウソップとロビン、もう一人初めて見る男が様々な技を駆使して襲いかかってくる闘魚を撃ち落としていく。

 

 一匹ずつでは勝てないと学習した闘魚達が、挟み撃ちにするように左右の海から五匹ずつ飛び出してきた。

 

「うわああっ!! コイツら同時に突っ込んでき…………ん?」

 

 左右合わせて十匹いる闘魚の一部が宙でピタッとその動きを止める。

 動きが止まったのはほんの一秒ほどで、次の瞬間には動きを止めなかった他の闘魚達に噛みつき始めた。

 

「なんだ……? 闘魚の目がハートに」

 

 突然仲間から噛みつかれた闘魚が次々に海へ落とされていく。全く同じことが海に残っていた他の闘魚達の間でも起きているようだった。

 

「闘魚にもメスがいてよかった。……それで、」

 

 真っ直ぐウソップを見つめる。

 

「俺がまだ持ってないポップグリーンってのはどういう……? 以前もらった種は聖地に置いてきてしまったんだが、もしかして予備を持ってたりす……しますか? ウソップ…………さん」

 

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