シャルリア宮の第一夫君 作:倉庫から出す
「メス達に橋を護衛させる。橋が崩れてる箇所に足場を作らせれば安全に渡れるはずだ」
「こんなの反則じゃねェか……」
初めて見る男が冷や汗混じりに呟く。
さっきロビンが「二人とも見て」と声をかけた時にこの男は数に入ってなかった。ということは、コイツが人質になっているというシーザー・クラウンだろう。
「この手の生物はメスの方が強いことが多いんだ。まあ人間でも同じようなものか」
「お前の目的は何だ。なぜ天竜人の夫がジョーラと行動を共にしている。……人間オークションの時といい、麦わら屋側の人間なのか?」
ローは巨大な太刀を手に持ち、いつでも鞘から抜ける状態で俺を警戒している。
「質問だらけだな。俺に答える義務があるとは思えないが」
「お前がドフラミンゴ側の人間で、おれ達の計画の邪魔になるならここで消すしかねェ」
「最初に邪魔をしたのはお前達の方なのに……」
こんな理不尽があっていいはずがない。同盟を組むだけあって、コイツも麦わらの一味と同類だろ。
「俺はもう天竜人の夫じゃない。町では衛兵達が血眼になって探してるだろうから、一時的に無人島に身を隠したかっただけだ。ジョーラとは偶然出会ったから何故と問われると返答に困るな……。それに別に麦わらの一味側の人間ってわけじゃ、」
「ラース! これだ、このポップグリーンを前回お前に渡し損ねてた」
「俺は麦わらの一味側の人間ということになるな」
ウソップさんが差し出してきた小袋をしっかり受け取って頷く。
「ウソップさん」
「またさん付け!?」
「実は持ち合わせがなくてお礼が……あっ、売れば高値がつきそうな天竜人の夫用の首輪はどうですか?」
「いらねェよ!! あんなおっかない連中の首輪なんか持ってたら呪われそうだ……!」
「オークションの時に俺の居場所が分からなくなってたから発信機の類いはないはずだけど……。じゃあ他に俺に望むものは? 前回のように宝石類がいいならすぐに調達してきますよ」
これまで出会ってきた人間ならここで喜色を浮かべるはずなのに、なぜかウソップさんは顔を青ざめさせていた。
「調達っつーか、それカツアゲなんじゃ……」
「相手が快く差し出してくれるのでカツアゲには該当しません」
「何する気だ!?」
相変わらず海賊らしくない海賊だ。どうしてそんなことを気にするのか理解できない。
「い、いいよ……お礼なんて。おれがやりたくてやったことだしよ。どうしてもって言うなら、これからおれ達の手助けをしてくれちゃったりしないかなぁ〜なんて」
「分かりました。何人
「何でさっきからいちいち物騒なんだよ!!」
ローは俺とウソップさんの会話にすっかり毒気を抜かれたらしく、すでに刀の鞘から手を離していた。
「鼻屋。その男、信用できるのか?」
「おれもどんな人間かはよく分かってねェが……そんなに悪い奴じゃない、とは思う」
「ニコ屋は」
「そうね……。町にいた衛兵達が必死に何かを探してる様子だったから、彼が天竜人の夫をやめようとしているのは事実かもしれない」
「おい、ロー! おれは? この天才科学者シーザー・クラウンの意見は聞かなくていいのか!?」
シーザーだけを綺麗に無視したローが改めて俺達に向き直る。
「ジョーラ、てめェは……」
「あたくしはすでに恋に彩られた女。ラース様の望みを全て叶えて差し上げるだけざます。ああ、これが無償の愛……♡」
二人は元から知り合いだったらしく、ローはジョーラの変わり様にドン引きしていた。
「……いいだろう。おれ達に協力させてやる」
「勘違いするな。俺はウソップさんに恩を返したいだけだ。ジョーラ、この男が次に俺に無礼を働いたら芸術にしてやれ」
「存在が無礼だから今すぐ芸術にしてやるざます」
ジョーラがフライングで煙を出したせいで、ローだけでなく全員が駆け足でグリーンビットに逃げ込む羽目になった。
「さっき闘魚を一匹仕留めて逃げていったのは何だったんだ? んでここがグリーンビットか、この巨大な植物群は一体……」
やっと目的地であるグリーンビットに着いた。
ウソップは見慣れぬ植物に興味津々で、シャロムは食欲的な意味で森の動物達を熱心に見つめている。
「ラース様♡」
「……俺に必要以上に近づくな。もっと離れろ」
俺は俺でジョーラからのスキンシップを全力で回避するのに忙しかった。
……この女が俺の好みから外れてるのを抜きにしても、この強烈な不快感は何なんだろう。絶対に触れられたくない。
「あそこに見えるのが約束のビーチだ。十五時になったらシーザー、お前をあそこに放り出す」
「あ……逆の海岸!! 島に突っ込んでるの、海軍の軍艦じゃねェか!?」
その軍艦は巨大な植物の蔓に乗り上げていた。周辺に人の姿は見えない。
「海軍が森にいるかもしれねェ。鼻屋とニコ屋には狙撃と諜報を任せる。何かあればすぐに連絡してくれ」
「待て待て!! 海軍がいるなんて予想外だ。ラース! おれの護衛を……」
「コイツはおれとここで待機だ」
「ウソップさん」
滝のような涙を流しながらロビンと森へ入ろうとしていたウソップさんを呼び止める。
「代わりにシャロムを連れて行ってください。貴方を全力で守るように言い聞かせておくので」
「ラ、ラースゥ……!!」
シャロムの頭をぽんぽんと叩く。
「シャロム。聞いていたな? 頼んだぞ」
「……ラースくん? そのヘビ、今おれのことを睨みながら牙を剥き出しにしたような……」
「シャロム。ウソップさんを傷つけたら一週間飯抜きだ」
シャロムが大人しく牙を仕舞う。
ウソップさんは「本当に……本当の本当に大丈夫なんだよな……?」と何度も念押ししながらシャロムを連れて森へ消えていった。
「約束の時間まであと十分。
「…………鼻屋? 俺をウソップさんと間違えてるのか」
「花屋のほうだ。以前記事になってただろ、麦わら屋と一緒に。そこでシャボンディ諸島にある花屋の経営者だってことも載っていた」
「今すぐあの記事の記憶を消せ」
決めた。次の行き先はモルガンズのいるところにしよう。シャロムに丸呑みにさせてやる。
「お前は世間では天竜人の夫のままだ。最悪の場合、シーザーのように人質にさせてもらう」
「どいつもこいつも天竜人の夫を何だと思ってるんだ。奴隷とそう変わらないってのに」
肩を竦めながら「俺に人質の価値はない」と断言しておく。
俺が聖地で何不自由なく生活できていたのは、女天竜人達を上手く利用してきたからだ。ただの夫や妻であれば良くて性欲処理、悪くて奴隷と変わらない生活を強いられていただろう。
「お前の言う最悪の場合ってのは、取引が終わるまでにあの軍艦に乗ってきた海兵達がここにやって来ることか? ……それとも、ドフラミンゴの王下七武海脱退が誤報だと知らされることか?」
「…………は?」
表面上は落ち着き払っていた男の余裕が崩れる瞬間を見るのは楽しい。
ドフラミンゴが手の込んだことをしてまでローと麦わらの一味を騙したのも、こんないい反応が見られると分かっていたからだろう。
「十五時になったら世界中に誤報を知らせる号外が配られるそうだ。この件にはサイファーポールが絡んでる」
「……ありえねェ。そんなふざけた真似ができるサイファーポールは〝イージス〟ゼロくらいだ。奴らを動かせるのは天竜人しかいない」
ローは自分で口にしたことでさらに良くない事実に気づいたようだった。
「聖地で暮らす天竜人にドフラミンゴと同じファミリーネームを持つ者がいる。ドンキホーテ・ミョスガルド聖だ。……十五時まであと五分だな」
鞘に入ったままの大太刀を首に突きつけられた。
「……それが本当だとして、なぜ今の今まで黙っていた」
「この情報を俺とお前が会った時点で知らせていたとして状況は好転していたのか? ドフラミンゴと衝突する場所がグリーンビットから足場の悪い鉄橋に変わるだけだ」
「そうざます、ロー! ラース様に向けているその刀をさっさと下げるのざます!!」
ローはすぐに懐から電伝虫を取り出し、「トニー屋か……今すぐ船をグリーンビットに回せ! お前らにシーザーを預ける!!」と声を張り上げていた。
「お前はこの状況を楽しんでやがる……。最初から鼻屋を騙しておれ達を妨害するのが目的だったんだな」
「いやウソップさんはマジでいい奴だからそんなことはしない。お前はどうなってもいいけどウソップさんはダメだ」
「…………何なんだお前?」
逆にその質問が何なんだ。人間以外に答えようがないだろ。
「お前達と鉄橋で会う前、引っ掻き回してやろうと思ってたのは事実だが……。貴重な種を譲ってもらった恩があるのに、わざわざウソップさんの不利益になることはしない。だから
もし俺とローがドフラミンゴと勝ち目のない戦いをしていた場合、シャロムなら俺の命令を守る為に無理矢理にでもウソップさんを遠くへ避難させてくれるはずだ。
計ったようなタイミングでローの電伝虫が鳴る。
「黒足屋か」
『おい今すぐにそこを離れろ!! ドフラミンゴは七武海をやめてなんかいねェんだ!!』
「……ああ。おれもたった今聞いたところだ」
『そうか聞いてたか……。ならおれは今からフランキー達にも知らせてくる。ロビンちゃんは任せたぞ!!』
電伝虫は慌ただしく切れた。それとほぼ同時に地面から花が咲くように上半身だけのロビンが現れる。
「今の連絡、私も聞いたわ!」
「ウォー!? 女が半分出てきた!!」
シーザーが叫ぶ。ローは瞬時に状況を理解して「おい!! お前の本体と鼻屋はどこにいる!?」と尋ねていた。
「船が到着次第、すぐにこの島から脱出するぞ!」
「それが……私達、今地下にいるの!! ちょっとトラブルに巻き込まれていて……でもウソップもシャロムちゃんも無事よ。安心してちょうだい」
「…………シャロムちゃん」
あのヘビにちゃん付けをする女がいるとは。どこにそんな可愛げがあるんだ。
「約束の港には後で必ず向かうわ」
「そうか、分かっ……」
ローが俺に向けていた刀を下ろし、シーザーの首根っこを掴む。上半身だけのロビンは花が散るようにして消えていく。
十五時ちょうど。南東のビーチとすぐ側の森から、ほぼ同時に海兵達とドフラミンゴが姿を見せた。
「フッフッフッ!! 来たぞ、ロー……!! さあ、約束通りシーザーを解放してもらおうか」
「お楽しみのところ悪いなドフラミンゴ。俺が数分前に誤報の件をネタバレしちまった」
「…………ボア・ラースか」
明らかにテンションが三段階は下がったドフラミンゴが、平坦な声で俺の名を呟く。
「外海の人間にファミリーネームを呼ばれたのは初めてだ」
「フッフッフッ……お前の相手は後だ、小僧。おれはそこの裏切り者に用がある。……ロー、おれがなぜこんな手の込んだ真似をしてまでお前達を欺いたか分かるか?」
ローが何らかのアクションを起こす前に口を挟む。
「ジョーラ。お前の口から教えてやれ」
「はぁん……♡ あたくしを許さないで若様……『勝ち誇った顔で現れたローを誤報の知らせと共に天国から地獄へ落とす為、若は間違いなく時間ギリギリに姿を見せるはず』だとラース様に教えてしまったのざます♡♡」
「………………ジョーラ。何でここにいる。そこのクソガキの始末を命じたはずだ」
ついにその声には怒りが混じっていた。
しかしドフラミンゴは想定よりも辛抱強い男だったらしい。めげずに再びローを標的にしていた。
「…………ロー。なぜおれにこんなことが出来たと思う。賢いお前なら大方予想がついてるんじゃねェか?」
「お前は元天竜人だからな。これもさっきローに喋っちまった。いい反応をしてくれたからこちらも話し甲斐があったよ」
「………………」
ドフラミンゴは以前聖地でディスコの話題を出した時のように、完全な無表情になっていた。
「妬けるな。そろそろ俺の相手をしてくれる気になったか?」
「ただの天竜人の夫風情が……どうやら死に急いでるらしい」
「お前に個人的な恨みはないはずなんだが、その顔を見ていると無性にぶん殴りたくなる」
「ジョーカー!! そんなことより早くおれを助けてくれえええ!!」
涙目になっているシーザーの隣で、ローが呆れ顔をしていた。
「……花屋。お前、ドフラミンゴを煽る為だけにおれに喋っただろ」
「何のことだか」
自分でもニヤニヤ顔を抑えられていない自覚がある。どう見てもバレバレだった。しかもローは俺以上にニヤけてる。
「ドフラミンゴ!! シーザーは渡さねェぞ。何も約束は守られてねェんだからな、今回の取引は白紙に戻させてもらう!!」
「フッフッフッ!! それが十年以上も無沙汰をしたボスに言う言葉か!? シーザーを渡せ! おれのかわいい部下だ!」
「ディスコの次はコイツか」
俺がぽつっと呟いた言葉を拾ったらしい。ドフラミンゴの額がいつかのようにビキッと不穏な音を立てる。
「…………そこにいるのは世界徴兵で海軍大将に特任された藤虎だな。噂はよく聞いてる」
ドフラミンゴは一旦俺の存在を消したようだった。
森から出てきた海兵達の中で唯一、明らかに纏うオーラが別格の男がいる。
盲目なのか両目は閉じられており、額には深い傷が刻まれていた。
「藤虎……。そういや正式な任命が聖地で行われてたっけ」
俺は興味がなくて見に行かなかったが、チャルロス聖は「女の海軍大将じゃなかったえ」と残念そうにしていた。
「こらどうも。恐れ入りやす。そちらにいらっしゃる天竜人の夫君、ラースさんはマリージョアより『無傷での保護』を命じられておりやすが……」
「…………あの女。自分の手で俺を罰しないと気が済まないようだな」
あの女というより女天竜人達の総意だろう。人をいつでも貸し借りできるお気に入りのオモチャ扱いしやがって。
「七武海の旦那の件にローさんと麦わらの一味の海賊同盟……。あっしらとしてもこれ以上の厄介事は勘弁願いてェところだ」
「俺は聖地へ戻るつもりはない。正義を掲げるなら、天竜人の奴隷にされた可哀想な奴らの解放に専念すべきなんじゃないか?」
頬に手を添えてため息をつく。
「海軍も海賊も何も変わらないな。正義面してる分そっちのがタチが悪い」
「フッフッフッ……!! おめェが言えたことじゃねェだろ」
「残念だったな。俺は
意気揚々と俺を刺しにきたドフラミンゴを返り討ちにする。さっきまで俺の存在ごと無視してたくせに厚かましいんだよ。
「聖地で起きてる何もかもは、いずれ必ず正すつもりでいやす」
「…………ふーん。早死にしないといいな」
「ご心配痛み入りやす」
冗談には聞こえなかった。世界政府に都合のいい犬にはならないという確固たる意志を感じる。
「そのいずれくるであろう
「あっしの目はこの通り何も映さないが……。ラースさん、あんたが大人しく奴隷の身分に甘んじる男には到底見えないでさァ。随分とお若いようで」
「…………またガキ扱いか」
これまで生きてきて何度「クソガキ」呼ばわりされたか分からない。
俺のクソガキレベルが高すぎるのか、アイツらの罵倒の語彙力がなさすぎるのかどっちだ。
「ローさん。あんたと麦わらの一味の件……今朝の新聞の記事通り同盟なら黒、麦わらの一味があんたの傘下に加わっただけなら白だ」
「頑固で融通が利かなさそうな男だな。そんなの誰でも白を主張するに決まって、」
「麦わらの一味とおれに上下関係はねェッ! 記事通り同盟だ!!」
「…………!?」
予想外すぎて咄嗟に声が出なかった。……この男、そんなところまでルフィと同類じゃなくてもいいだろ!!
「バカなのか!? 表面上だけでも海軍大将の動きを封じられたかもしれないのに」
「この状況をドレスローザに持ち込んでも余計に拗れるだけだ。トニー屋達が来るまでの時間を稼ぐ」
「そうか……? どう考えてもここであのイカれピンクと海軍大将を同時に相手するのがベストだとは思えないけどな……」
「…………フッ……イカれピンク」
「笑ってる場合でもないだろ。お前こそ何なんだよ……!?」
俺達の会話を聞いていた藤虎の肩も微かに上下し、ドフラミンゴの眉間の皺は倍増していた。
「ププ……では七武海の称号は剥奪で……。あんたさんと麦わらの一味は一旦逮捕、天竜人の夫君は拘束させてもらいやす」
海軍大将と戦うのは初めてだ。大将の座についたばかりとはいえ、その実力は前任者達に劣らず優秀だと聞いている。
「…………何の音だ?」
今まで聞いたことがないタイプの音がグリーンビット内に響く。まるで地震のような……いや、この音は地面じゃなく空から――
「…………は? 隕石!?」
見間違いかと思って三度見した。
巨大な岩石が、炎を帯びながら俺達の元へ落下してこようとしていた。
「そんなのアリかよ……! ジョーラ!!」
「ええ♡ あたくしの愛と芸術の力でラース様をお救いするのざます!!」
ジョーラの頭から例の煙が飛び出し、頭上にまで迫っていた隕石と接触する。煙が触れた箇所が瞬く間に風船のような歪な見た目に変貌した。
鞘から抜いたままだった剣を構える。
「剣を使うのは初めてだが……」
隕石を斬る自信はなくても風船もどきならいけるかもしれない。
剣を振り上げ、隕石を真っ二つに斬った。
直後にやってきた地割れのような激しい音と震動は、守ったはずの足場すらなくなったんじゃないかと不安にさせるほどだった。
「…………規格外だな。海軍大将ってのはどいつもこんなふざけた能力を持ってるのか?」
視界を塞いでいた土煙が晴れる。どうやらローは無事なようだ。ムカつくことにドフラミンゴも無傷だった。
俺とジョーラ、ローとシーザー、ドフラミンゴ、藤虎の足元の地面だけが無事で、周囲には底すら分からないほど深い穴があいている。
「イッショウさん!! 隕石を落とすなら先に我々にも一言ほしいです……あと、天竜人の夫君は『無傷』で聖地へお連れしなければならないのでは!?」
「ああ……こりゃァいけねェや」
「……おいおい。うっかりで自分と部下全員の首が飛ばされるところだぞ」
いまいち掴みどころのないオッサンだ。惚けてやがるのか?
「藤虎ァ!! 七武海であるおれにも落としやがって……。ここはおれの国だ! そこのクソ生意気なガキの処遇も王であるおれが決める!! てめェら海軍は何も見なかったことにしてガキ共の拘束にだけ手を貸せ!!」
「そいつァ無理な話で……」
「…………フッフッ!! なら、ローより先に始末する必要があるな!!」
ドフラミンゴが俺に向かって何かを飛ばすような動作をする。先ほど隕石を細かく切り刻んでいた能力だろう。
しかし、いくら経っても俺の手足が切り刻まれる様子はない。
「…………へえ。裏切り者に対して随分とお優しいんだな」
「ラ、ラース様…………?」
この至近距離でやっとドフラミンゴの能力である糸を視認できた。
こちらへ飛ばされていた糸は俺の、正確には盾にしていたジョーラの体スレスレの位置で止まっている。
「ドフラミンゴ。やっと少しはお前という人間に興味が持てそうだ」
「どうしてこのあたくしを……」
「不安にさせてすまない、ジョーラ。あの男がお前を傷つけるつもりだったら、当然お前のことはすぐに俺の後ろに隠していたよ」
「それならいいの、ラース様♡ ……ところで、どうしてあたくしの体を縄で縛っているのざます?」
シャロムが入っていた木箱を縛っていた紐で、ジョーラの全身を縛り上げた。
彼女の後ろから、耳元で囁くようにして言葉を投げかける。
「俺はこういうプレイが好きなんだ……。お前もそうだといいんだが」
「大好きざます♡♡♡」
「それは良かった」
本当は縛られるほうが好きなんだけどな。残念ながらこれまでに俺を縛った女はいない。
こんなにも女の尻に敷かれたいと願ってるのに……。女という生き物はすぐ俺に従順になってしまうから残念だ。
俺に魅了されない女はいないように、俺を掌握してくれる女もこの世には存在しないのかもしれない。
ジョーラを縛っている縄の先端を掴み、彼女の背中を軽く足で押す。
「ぎゃあああっ!? 落ちる……ッ! 落ちるざます、ラース様ああ!!」
「ドフラミンゴ。ジョーラもお前のかわいい部下なんだろう。この高さから落ちたらどうなるか気にならないか?」
俺から離れたところに立っていたローが「……花屋。お前には罪悪感ってモンがねェのか」とドン引きしていた。
知らない感情だな。
「どうしてッ……愛を誓いあったこのあたくしにこんな仕打ちができるのざます!?」
「クク……愛か。そんなバカげたものがこの世に存在すると思ってるとはな」
「若……若様……申し訳ありません……とんでもないことを……あたくし、今すぐ死んでお詫びを…………」
俺達と同じく不安定な足場に立っているドフラミンゴが、ギリッと歯を食いしばる。
「……ジョーラ。お前はただこの男に惑わされただけだ。…………何の能力者だ」
「悪魔の実は食べてない。海に好かれたいわけじゃないからな」
「好かれる? 嫌われるの間違いだろう」
「考えてもみろ。俺が海だったら呪うほど気に入らない存在をわざわざ自分の中へ閉じ込めておこうとはしない。溺れさせるのではなく、二度と足を踏み入れてこないように空島にでも飛ばしてるところだ」
でもコロシアムの景品が腕か口からビームが出るような悪魔の実だったら参加してたな。もしくはジャンプ人間になれる実とか。
「ロー。俺がコイツを落としたらすぐに森へ」
「ああ」
掴んでいた縄の先端を離す。
ジョーラの悲鳴が響き渡り、ドフラミンゴが舌打ちしながら彼女を掴む為に糸を放つ。
ドフラミンゴがジョーラを救い出した時には、すでに俺とローは森の中に身を隠していた。