シャルリア宮の第一夫君 作:倉庫から出す
「……便利すぎるな。本当に能力者じゃねェのか」
「これは生まれつきだ」
グリーンビットの森の中。
襲いかかってくるオスの獣達を魅了したメスで一掃し、俺とローは安全に逃げ回っていた。
「シーザーとやらはもう人質の役目を失ったんだろ。何で始末しない」
「コイツにはまだ使い道がある」
「ジョーカー!! ローよりこの男の方がやべェ……!! 早くおれを助け出してくれ〜!!」
ドフラミンゴは森の中まで追いかけてきているようだが、まだこちら側とは距離がある。今頃俺が差し向けたメス達の妨害に遭っているはずだ。
「にしても、何故ただの科学者にドフラミンゴがあそこまで執着する?」
「
シーザーが「シュロロロロ!!」という独特な笑い声と共に一息で捲し立てる。
「兵器ね……。ドフラミンゴはそんなものを欲しがってるのか?」
「シュロロロ! これもただの武器じゃねェぞ。〝SMILE〟だッ!!」
「…………」
「……笑顔のスマイルじゃねェよ、このっ……バカがァ!!」
笑顔とは無縁そうなドフラミンゴを笑わせる何かだと思って微笑んでみたら、シーザーが頬をピンク色に染めながら怒鳴る。
「スマイルってのは人造の悪魔の実のことだ!」
「悪魔の実を作ったってことか……? お前すごいんだな」
「そ……そうだろう!? シュロロロロ!」
二年前のドフラミンゴとディスコの会話でもスマイルという単語を聞いたような気がする。……そうだ、確か「人身売買はもう古い」だとか「時代はスマイルだ」などと言っていた。
あの時からなんかキショい男だなとは思っていたが、まさか笑顔の方じゃなかったとは。
「花屋、絆されるんじゃねェぞ。シーザーはパンクハザードで爆発事故を起こした張本人でありながら、その被害に遭った囚人を騙して英雄扱いさせて散々利用した挙句ゴミのように捨て、さらには何の罪もねェガキ共を使って人体実験してたクソ野郎だ」
「ゴミクズだな」
「お前には言われたくねェよ!!」
散々利用した挙句ゴミのように捨てる部分に関しては心当たりがたくさんあるが、それ以外はどう考えてもシーザーのクズレベルが圧倒的に上回ってる。俺は殺戮兵器も作ってないしこの男と比べたら可愛いものだ。
「悪魔の実を作れるってことは、メロメロの実も作れたりするのか?」
「無理だ。スマイルで作れるのは
「ゴミクズな上に役立たずかよ」
「ジョーカー……!! 早く助け出してくれねェと、先におれの心が死んじまうよォ……!!」
石化能力に興味はなくとも、姉様のようなビームを撃てるならアリだと思ったのに。動物系でビーム出せるのってあったかな……。
ローの持つ電伝虫が鳴り、一言二言話した後に切れる。
「船が近くまで来たようだ。闘魚の群れに襲われてなきゃいいが」
「麦わらの一味の船の特徴はメスの闘魚達に伝えてある。ジョーラから事前に船のことを聞いていたからな」
「花屋……おれの船に乗るか?」
「モルガンズのところに行くなら乗る」
ローは「麦わら達と行動を共にするようになってから、これほどストレスのないやり取りは久しぶりだ」と感激したように言い、モルガンズの件に関しては「そりゃァ無理だ」とアッサリ俺の乗船を諦めていた。
麦わらの一味とは短い付き合いだが、ローの気持ちは嫌というほど分かる。
アイツらは厄介事を引き寄せる天才すぎるんだよ。
「生意気なガキ共がァ……ッ!! コソコソ逃げ回ってねェで姿を見せやがれ!!」
思ったより近いところから、ブチ切れたドフラミンゴの怒鳴り声が聞こえてくる。
少し揶揄ってやっただけなのに沸点低すぎだろ。
「おー怖っ。どうする。大将の姿が見えないうちに二人で
「見えないだけで藤虎も近くにいるはずだ。おれはこのまま奴らを十分に引きつけてから麦わら屋達の船に移動する」
「慎重でつまらない男だな。まあいい。なら俺は地下とやらの道を見つけてウソップさんと合流しよう」
「いや。お前には工場の破壊を頼みたい」
そういや
つまり、この工場でスマイルとやらを作ってるってことか?
ジョーラはロー達の狙いはドフラミンゴかカイドウか、もしくはその両方だと言っていた。
ドフラミンゴは闇の
スマイルの取引先の一つがカイドウだとしたら辻褄が合う。
「……分かった。そっちの方が面白そうだ」
ローとドフラミンゴの間に何かしらの因縁がありそうなのは気になるが、どうせ俺はドレスローザでの一件が落ち着いたら彼らとは別行動になる。この同盟の最終目的がカイドウだろうと見届けることはできない。
「町まで戻る手段は持ってるか?」
「メスの闘魚達に護衛させながら泳いで戻る。上手くいけば背中に乗せてもらえるはずだ」
「……そうだったな」
どうやらロー側はシーザーを抱えながら船まで一瞬で移動する手段があるようだ。
「ロー!! クソガキ!! どこに隠れやがった!!」
ドフラミンゴの声は先ほどより近くなっていた。
「おれはここだ、ジョー……ぅぶっ!?」
「人質は人質らしくしてろ。……あのピンク、何回俺をクソガキ呼ばわりすれば気が済むんだ」
シーザーの口を手で塞ぐついでに軽く殴っておいた。
「気をつけろ。俺と離れたら大将は容赦なく隕石を落としてくるぞ」
「ああ、分かってる。向こうは任せた」
ローはシーザーを俵のように担ぎ、船が来るであろう方角とは逆方向に走り去っていった。
町まで戻ってきたのはいいが、肝心の麦わらの一味が見当たらない。
新しく調達したマントを羽織り、被っていたフードをさらに深く被り直す。
町で話題になっていないということは、彼らも変装しているはずだ。大人しくしていられる連中ではないから、必ずどこかで騒ぎを起こしてると思ったんだが……。
今いる場所はドレスローザの北東。とりあえず目についた適当なカフェに入ってみることにした。
「ここら辺で妙な連中を見なかったって? そりゃァ、顔を隠してるアンタもそうだし……今日はコロシアムの影響で色んなのが国を出入りしてるからな」
人間か魚人か判断できない見た目をした店主が、俺が注文したコーヒーを手に持ったまま首を傾げる。
「ん? いや心当たりがあった。グリーンビットに行きたがってる四人組がいたな」
「……鼻が長いのが混ざってた?」
「おお、そうだ! なんだいアンタ知り合いかい?」
テーブルに置かれたコーヒーに口をつける。この店主が淹れたとは思えないほど繊細な味がした。
「実は待ち合わせ時間を勘違いしていて会えなかったんだ。その四人以外にもいたはずなんだが、見かけなかったか?」
「その四人だけだったと思うぜ」
この時点でロー達はルフィ達とは別行動だったということか。せめてルフィ達が向かった場所さえ分かれば……。
それもこれもローが「いつの間にかいなくなってやがった」などとふざけたことを言ってきたせいだ。一番ふざけてるのは勝手に姿を消したルフィ達なんだろうが。
「アンタはコロシアムを見に行かなかったんだな。今日はどの店も観光客ばっかりで、コロシアムの常連はみんないなくなっちまったよ」
「興味はある。でもすでに観客席は埋まってるんだろう?」
「そりゃそうだ。とくに今回は規模がデケェから埋まるのも一瞬よ。出遅れた連中はみんな中継を観てる」
複数箇所に巨大なスクリーンが設置されていたのはコロシアムの為だったらしい。
あれって結構高かったはずだ。国民の暮らしぶりといい、随分と懐に余裕があるように見える。
「そうか。気が向いたら見てみるよ」
「おう。ところでコーヒーのおかわりは?」
もう十分だと答える前にカフェの扉が勢いよく開かれた。
入ってきたのはピエロのような見た目をしたオモチャで、真っ直ぐ店主の元へ駆けていく。
「あんた!! もう我慢ならない……。たとえスクラップ場行きになろうとも、あたしはあんたに全てを話すよ!!」
「…………なんだ?」
どうやら店主とピエロは知り合いのようだ。しかし、店主は「急にどうしたんだ?」とか「カタコトしか喋れないオモチャなんじゃなかったのか」と明らかに困惑している。
ピエロは店主のすぐそばにあるテーブル、つまり俺が使っていたそれに飛び乗り、店主の両手を握りしめた。
「あたしはあんたの妻、エリーザだよ! あんたと一緒にこのカフェを経営して、コーヒーの淹れ方だって一から教えてやったのに本当に何も思い出せないのかい……!?」
「ええっ? おれはずっと独り身だし……コーヒーは必死に勉強してこの味が出せるようになったんだ。オモチャだろうとそんなこと言われたくねェや」
「何言ってんだい!! あんた一人でこの味が出せるわけないじゃないか!」
店主は不快そうにオモチャを厄介払いしようとしていたが、オモチャは俊敏な動きで店主の腕から逃れていた。
「この数年間、あたしがどんな気持ちで見守ってきたか。あんたに変な虫がつかないか心配で夜も眠れなくて……オモチャは眠らないけど……。あんたが忘れてるだけで、あたし達は一生一緒にいることを誓い合った夫婦なんだよ!!」
「これがオモチャの人間病か……? 早く通報しねェと……」
「愛する妻をスクラップ場に送ったと知って後悔すんのはあんたさ! いつかきっとこの呪いは解けると信じて耐えてきたけどもう無理……。今朝の誤報の件であたしは確信したんだ。ドフラミンゴは悪魔のような男、呪いが解けることはないってね!!」
ピエロのオモチャは狂ったように笑っていたかと思いきや、ふとこちらを振り返って俺と目が合う。
このオモチャは子供くらいのサイズしかない。俺が被っていたフードも下から見られてしまえばほぼ無意味だった。
「………………えっ! なんだいこの絶世の美男子は……この世のものとは思えない!!」
「おいピエロ!! たった今までおれと一生の誓いを立てたとか言ってなかったか!?」
店主は眉を吊り上げながら突っ込んだ直後、「人間病のオモチャ相手に何マジになってんだおれは……」と気まずそうに頭を掻く。
ピエロは両目をハートにした状態でぼんやりと俺を見つめている。
「…………オモチャにも効くのか」
「貴方のお名前を伺っても……?」
「ラースだ。お前、なんで店主の妻だなんて嘘をついてる?」
ピエロはぽっと頬を赤らめて首を横に振る。
「嘘じゃありません! でもラース様の妻にしてくれるなら、この人のことは過去の男にしてもいいかも……♡」
「ピエロ!! おれという男がありながら…………いや、さっきからおれはオモチャ相手に何を言ってるんだよ……!?」
こうなった女が俺に嘘をつくとは考えにくい。
本当に店主の妻だったか、本人がそう思い込んでいるかの二択だ。
「人間病ってのは?」
「ああ……この国のオモチャは時々壊れて人間病ってのを発症するんだ。その名の通り、自分を人間だと思い込む厄介な病気だよ。そうなったらガラクタ扱いでスクラップ場に運ばれることになってる」
「あんた!! 妻をガラクタ呼ばわりして許されると思ってるのかい!?」
「うわあああ! ごめん母ちゃん……って母ちゃんじゃねェよ。何なんだよさっきから!!」
店主とオモチャはいつまでも息の合ったコントを繰り広げていた。
いつまでもコントに付き合っていられないので、さっさと金だけ払ってカフェを出た。
「レベッカが出てきたぞー!」
「おれの手で殺してやりたいくらいだ!!」
広場に大勢の人が集まっていたから寄ってみたら、どうやらスクリーンで例のコロシアムの中継を見ているようだった。
観客達のほとんどが、たった今入場口から出てきた一人の女にヤジを飛ばしている。
突然画面は二分割され、左側にはレベッカという女が映り、右側ではこれまでのおさらいなのかダイジェスト映像が流れ始める。
そこにはたっぷりとした長いヒゲを生やし、変わった兜とマントを身につけた男の戦闘シーンも入っていた。
「ルーシー早く出てこねェかなあ。あいつの戦闘、最高なんだ!」
……どう見てもアレ、麦わらのルフィでは?
シャボンディで見た付け髭姿のまんまだった。
「なんでコロシアムに」
まさか優勝者に与えられるという悪魔の実の為に?
メラメラの実は、元々ルフィの兄である火拳のエースが持っていた能力。だからってドフラミンゴに喧嘩を売ってる状況でこんな軽率な真似…………するんだろうな、あの男は。
クソ、ルフィが出てるなら俺もコロシアムに参加すればよかった。そっちの方が絶対楽しかっただろうに……。
ルフィがあそこにいるのなら、他の船員もコロシアムに参加しているかもしれない。それとも近くで待機しているんだろうか。
工場破壊とやらの作戦はどうなってるんだ。
「ちょっといいか。コロシアムにはどう向かえばいい?」
「旅の人間か。今から行ったって中には入れないぜ」
「知人とコロシアムの前で待ち合わせしてるんだ」
「ああ、それなら……。あそこの道を曲がって暫く進むとデカい階段がある。その先をひたすら真っ直ぐ進めばコロシアムに着く」
適当な人間に声をかけてコロシアムへの行き方を教えてもらった。
男に礼を言ってその場を離れようとしたその時、巨大なスクリーンが突然爆発する。
スクリーンの周囲にいた人々が慌てふためいている中。俺はすでに、馬のオモチャに乗っていた女の喉元を掴んで引き摺り落としていた。
「ぐぅ……っ!!」
「ジョーラから聞いていた特徴と一致する。お前がヴァイオレットだな」
「あなた、天竜人の夫君!? 少し前までグリーンビットにいたはずじゃ……」
女の被っていたフードが外れ、全身に色香をたっぷりと纏った美女が姿を見せる。
無理やり地面に押し倒された女の顔は苦痛で歪んでいた。
「今さっきスクリーンを爆破したのもお前だろ。それもドフラミンゴからの指示か? ジョーラの話では、お前の能力は視界を鳥のように飛ばして周囲の情報を得ることができるそうだな」
「どうしてジョーラがそんなことまであなたに……うっ……、ゴホゴホッ!!」
女の首を掴んでいた手を緩めて離す。
「ジョーラの様子が随分とおかしかったようだけど……彼女に何をしたの?」
「さあな」
「……いいえ。そんなこと今はどうでもいいわ。天竜人の夫君がたった一人でこの国に来るなんておかしいと思ったのよ。あなたこそ何が目的なの? 私がすべてを暴いてあげる……!!」
女が指で丸を作り、まるでメガネのように自身の目元に装着する。
「まさか…………目からビーム!?」
「――――
女、ヴァイオレットの目からビームが出――ることはなく、ただ単純にこちらの目を覗き込まれただけだった。
僅かな期待を込めて大人しく見つめ返しているのに何かが起きる気配はない。
「…………目に見えないビームってわけでもなさそうだな」
「な……な……何なのよ、これは……!?」
どうやら様子がおかしい。俺の目を見ただけでは魅了されない女はこれまでにもいたが、バケモノを見たような反応をされたのは初めてだ。
「あなたの頭を占めている、この顔が真っ暗な女性は誰なの……!? 女性の周囲を飛び交ってるピンクのハートも! しかもこれどんどん菌のように増殖して……きゃあああっ!! やめてっ、こっちに来ないで!!」
「え」
「あなたどうかしてる……!!」
「いやどうかしてるのはどう考えてもそっちじゃ、」
ヴァイオレットは恐怖で引き攣った顔をしていて、乗っていた馬のオモチャの手綱を必死に手繰り寄せていた。
「お馬さん……! 私をこの人から逃して!」
「はいよ」
やけに落ち着いてる馬がヴァイオレットを乗せ、カポラッポカラッと変な音を立てながら走り去っていく。
「…………はぁ?」
小さくなっていく後ろ姿を呆然と見送る。
俺をバケモノ扱いしやがって、何なんだあの女。
ジョーラがヴァイオレットは「この国の元王女」で「麦わらの一味がドレスローザに到着する前から存在に気づいていたはずなのに知らせなかった」ことから、ドフラミンゴを裏切るつもりなんじゃないかと言っていたが……。
……あの女がどちら側の人間かなんてどうでもいいか。俺の邪魔になるようだったらその時考えよう。
今はとにかくルフィ達のいるコロシアムに、
「――――あなたっ!」
突然背中にかけられた声には、妙にこちらを惹き寄せる力があった。
思考する隙も挟まずに振り返って声の持ち主と対峙する。
「…………オモチャ?」
そこには人型のオモチャが立っていた。
背中にはゼンマイが付いており、両手首には筒状の砲身のようなものが嵌め込まれている。
全身の光沢からしてブリキでできているようだった。
「私アマス。変な子供の元から逃げてきたの! この腕からあのようなものが出なければ、きっと一つ前にいたオモチャのように何かを命じられて逆らえなくなっていたはずアマスわ」
オモチャは何かに気づいた様子で、ぎこちない動きで自身の両手を胸の位置で握りしめる。
「あなた……? なぜ首輪を外して……嘘だと言ってくださいまし。あなたが私を忘れるなんてあり得ないアマス。あの者達の話なんて全て嘘に決まっているのに……」
「……オモチャにしてはやけに美人だな」
思わずそう呟いてしまったくらいには、オモチャは整った容姿をしていた。
冷静に一つ一つ部位を確認していくとブリキでできたオモチャでしかないのに、何故か全体として見ると目が離せなくなるほど美しい。
「オモチャでも俺のことを知ってるんだな。俺はもう天竜人の夫じゃないんだ。いつまでもふざけた首輪を付けているはずがない」
「ふざけた……? そんなはずはないアマス、あなたも気に入ってくれていたアマスわ」
この噛み合わない会話はついさっきも聞いた。自身をカフェの店主の妻だと思い込んでいたピエロのオモチャと全く同じ。
「その口調、自認天竜人か? この国のオモチャってのは命知らずなんだな。あんな連中になりたがる思考も理解できないが」
人型のオモチャはショックを受けた様子で、わなわなと体を震わせる。
「どうして……あなたが私にそのような酷い言葉を投げかけることができるのアマス。かつて私を愛してると言ってくれたその口で、私を傷つけるなんて」
「今度は俺の恋人気取りね……。オモチャを口説いた記憶はないんだがな」
やれやれと肩をすくめる。オモチャの人間病ってのは随分と深刻な病らしい。
オモチャが俺の足に縋り付いてくる。
「あなたは出会った時から私の夫アマス……!」
「……はぁ。お前もスクラップ場行きになりたくないなら、くだらないジョークを言ってないでオモチャの家とやらに帰れ」
「きゃっ!?」
軽い力でオモチャの手を振り払う。俺がそんなことをするはずがないと思っていたのか、オモチャはあっさり後ろに倒れて尻餅をつく。
「うっ! なんだ……急に胸が痛くなって……?」
心臓を直接鷲掴みにされたような鈍い痛みはほんの一瞬のことで、もう何も感じない。
何だったんだ、今のは。
「…………よく分かったアマスわ」
オモチャがぽつっと呟く。次の瞬間には両手をこちらへ向けていた。
オモチャの手のひらがガキンッと音を立てながら折り畳まれ、手首の位置にある砲身の中へ収納される。
完全に砲身だけとなった両腕に眩いほどの光が集まっていく。
「あなたは正気を失っているのアマス。そうでなければこのようなことをするはずがないもの……。全てはドフラミンゴ、あの男の仕組んだことなのアマスわ!」
「ちょっと待て。その腕もしかして……」
「今すぐ目をさましてあげるアマス!!」
俺がオモチャの腕を掴んだ瞬間、圧縮された粒子がビームとなって顔の真横を通り過ぎていく。
切れた頬からぷくっと出てきた血液が流れ落ちていき、ビームが直撃した真後ろの建物は崩壊してしまっていた。
……物凄い威力だ。シャボンディで見たパシフィスタと同等、いやそれ以上かもしれない。
一部始終を見ていた住民達が「人間に危害を加えるオモチャだ! 指名手配されてる兵隊のオモチャだけじゃなかったのか!?」と騒然としていた。
「あ……ああ……なんてことを。あなたに当てるつもりはなかったのアマス……。どうして私の手を掴んで自分に向けさせようとしたのアマスか……?」
オモチャが血が出ている俺の頬に手のひらを添える。その手は小刻みに震えていた。
「…………すごいな」
「え?」
「今のビームだよ! パシフィスタみたいに手のひらや口から出すのも良かったけど……お前のが今まで見た中で一番カッコいい……!! とくに手の部分を収納してから撃つところが最高だ!」
「そ、そうアマスか」
ちょっと引いているオモチャの両肩を掴む。
「もう一度撃ってくれないか。次こそは俺に向かって!」
「何を仰っているの……!? 私が愛するあなたを傷つけるはずがないアマスわ!」
「頼む。これまで一度も使わずに大事にとっておいた『一生のお願い』をここで消費してもいい!」
「絶対にやだアマス!!」
オモチャはどれだけお願いしても頑なに首を縦に振ってくれなかった。
「じゃあ片腕ずつ交換とか……」
「…………いくらあなたの望みでも、こればかりは無理アマス」
全て断られてしまってがっくり肩を落とす。
オモチャはそんな俺の様子をじっと見つめていたかと思えば、無意識のうちに溢れてしまった本音のようにぼそっと呟く。
「……ズルいアマスわ」
表情が動いているわけでもないのに、なぜか目の前のオモチャが今にも泣きだしそうに見えた。
「あなたは記憶を失っても、残酷なまでに私の大好きなあなたのままなのアマスね……」