シャルリア宮の第一夫君   作:倉庫から出す

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主義

 オモチャと共にコリーダコロシアムに来た。

 

 巨大な円形の闘技場は下から見上げるとなかなか迫力がある。

 建物の周囲では席を確保できなかった者達が少しでもコロシアムの空気を味わおうと、酒を片手に騒いでいるようだった。野次馬の中に身を隠すようにチラホラと海兵たちの姿も見える。

 

「てめェは……天竜人の」

「…………なんだ。デュバルのパクリ野郎はここにはいないのか。お前とセットのイメージだったのに」

「誰と誰がセットだァ!! 斬るぞ!」

 

 コロシアムの前にいたサングラスをかけた二人組のうちの一人が、眉を吊り上げながら腰の刀に手をかける。

 

「落ち着け。俺のことはローがパクリ野郎に電伝虫で伝えていたはず。お前達はどこまで聞いてる?」

「お前が一時的におれ達に協力するってのは聞いてる。何が目的だ」

 

 ロー以上に俺に疑いの眼差しを向けてくる男に薄ら笑みを浮かべる。

 

「ただの暇つぶしだ。……それよりお前、それで変装のつもりじゃないだろうな。サングラスよりも腰の刀をどうにかしておけよ」

 

 こちらとしては見つけやすくて助かったけど。なんで周りの連中は目の前の男がロロノア・ゾロだって気づかないんだよ。刀を三本もぶら下げてるヤツなんてこの男以外にいないだろ。

 

「ゾロ殿。この者が例の?」

「ああ」

 

 ゾロの隣にいる男は、サングラスをしていることを抜きにしても見覚えのない顔立ちをしていた。手配書で見た記憶もない。

 

「あ〜〜〜っ!! ゾロ、キンえもーん!!」

 

 新しい船員かとゾロに尋ねる前にコロシアム側から大きな声がした。

 声の持ち主はゾロともう一人の男の元に笑顔で駆け寄り、そこでようやく俺の存在に気がついたようだった。不思議そうに首を傾げる。

 

「ん? 変な格好が何でここにいんだ」

「成り行きだ。お前達はローに工場の破壊とやらを任されてるんだろ」

 

 コロシアムの柵越しにこちらを見下ろしているルフィは、スクリーンで見た時と同じ剣闘士の格好をしている。

 俺の予想通り、彼はエースのメラメラの実を手に入れる為にコロシアムに参加したようだった。

 ここまで自分の狙い通りの動きをしてくれて、ドフラミンゴも今頃笑いが止まらないだろうな。

 

「お前はキンえもんっていうのか」

「錦えもんでござる」

 

 微妙な音の響きの違いを訂正してきた男の顔をじっと見つめる。

 ……話し方といい名前といい、本で読んだワノ国の人間の特徴と一致する。髪型も独特だと書いてあった気がするが、目の前の男は妙な形の被り物をしていてほとんどの髪が隠れてしまっていた。

 

 先ほどからずっと何かを思い出そうと顰めっ面をしていたルフィが「あっ」と声を上げる。

 

「そういやお前。キャベツの奴にすっげー恨まれてたぞ」

「キャベツ?」

「キャベツはキャベツだ」

 

 全く聞いた覚えのない名前だった。そんなダサい名前、自分に付けられてたら悲惨だなとでも思って忘れなさそうなのに。

 

「恨まれてる、ね。心当たりがありすぎて誰か分からないな」

「なんだっけ。おれと変な格好が写ってる記事が出回ってからさらに人気が落ちたとか……。お前を殺して堂々と世界一美しい男になってみせるって言ってたような」

「なんだそりゃ。男の美醜なんぞこの世で最もどうでもいいだろ」

 

 男の顔が美しくても何も嬉しくないしな。デュバルに関しては前の顔のほうが面白かったし、美しいのは女だけで十分だ。

 

「…………で、そっちのオモチャは」

 

 ゾロの視線の先では、例のオモチャがゾロ達を睨みつけていた。

 

「お父上様と兄さまに無礼を働いた上、私の夫を誑かす極悪な海賊アマス……!!」

「ああ? 何の話だ」

「あー……気にするな。オモチャの人間病ってやつで、自分のことを人間だと思い込んでるらしい」

 

 怪訝な顔をしていたゾロが「……いや。アイツらの話が本当ならそいつは人間病じゃ、」と言いかけたのを、錦えもんが手に持つ電伝虫の音が遮る。

 

「お前何してる」

「ルフィ殿と合流できたらかけろと、サンジ殿が」

 

 電伝虫が再度プルルル……と鳴く。ガチャッという音と共に向こう側から波の音が聞こえてきた。

 

『こちらサンジ』

「……デュバルのパクリ野郎か!」

『ああ゙ん!?』

 

 電伝虫から聞こえてきた声にいち早く反応したら、ゾロに「何でちょっと嬉しそうなんだよ」と突っ込まれた。別に嬉しくないし。

 

「とにかく今はよせ。バカ二人のやり取りで時間を無駄にしてる場合じゃねェんだ」

 

 サンジと息を合わせてゾロに反論しようとしたが、その前に『こちらウソーップ!!』と元気な声が響く。

 音の感じからして、サンジ側でウソップさんと繋がっている電伝虫を別で用意したんだろう。

 

「ウソップさんも無事でしたか。よかったです」

『ラース! お前のヘビなんだが……今すぐおれの手を噛むのをやめるよう言ってくれませんか?』

「シャロム。何があったか知らないがウソップさんの手を噛むな」

『ラースくん。今度はおれの右足に噛みつきました』

「ウソップさんへのひと噛みごとにお前のメシを減らす」

『ありがとう……ありがとう……』

 

 今にも成仏しそうなか細い声が聞こえてくる。どうやら上手くいったようだ。

 

 その後も電伝虫経由での情報共有が続く。

 俺にとってはほぼ全てが初耳だったが、想像していたよりも周囲を巻き込んだ大きな騒動になりそうだった。

 

「…………オモチャが、元人間?」

『こっちにいるオモチャの兵隊も元々はおれたちと同じ人間。しかもこの国の――って詳しく説明してる時間はねェか。とにかくラース、お前もこっちに来てくれ。お前にしか出来ない仕事を任せたい』

「それはいいですけど……」

 

 麦わらの一味とは別に、オモチャにされて周りの人間の記憶からも消えた元人間と小人族たちがドフラミンゴに反旗を翻そうとしてる、ということは。

 何かを訴えかけるようにこちらを見つめてくる例のオモチャを見下ろす。

 …………まさかコイツ、本当に?

 

 言われてみればおかしな点はいくつもあった。

 サイファーポールがいるとはいえ俺一人でドレスローザへ行く許可が出たことや、そもそも俺が天竜人の夫君となった経緯が妙に複雑なこと。

 表向きは天竜人ティアンナ宮の第十七夫君ということになっているが、俺の正式な所有者はチャルロス聖だ。

 

 本当は俺を所有する天竜人とここに来ていて、そいつがオモチャとなり俺の記憶から消えていたとしたら?

 

 今の俺は聖地に長期間留まった理由を「チャルロス聖との時間が存外魅力的だったから」だと認識しているが、これも言われてみれば妙な話だ。それだけのことで滞在時間を大幅に増やしたことはこれまでに一度もない。

 現にデュバルといた頃は、飽きるのすら惜しくて予定より早めに村を離れたほどだ。

 

 やはり俺が聖地に留まり続けたのは、そうせざるを得ない何かしらの障害があったんじゃないか?

 

『おい、そっちからすげェ音が聞こえるぞ! 何かあったのか!?』

「…………ん?」

 

 深く考え込んでいたせいで周囲の異変に気づくのが遅れた。

 この場にいる全員が目を向けた先では、建物の上部が真っ二つに切断されて落下していく様が見えた。同じ方角から小さな塊がこちらへ向かって飛んでくる。

 

「きゃあ!?」

 

 そばにいたオモチャを抱えて飛び退く。俺とオモチャが立っていた場所は衝撃音と共に土煙に包まれ、何も見えなくなってしまった。

 大袈裟な悲鳴を上げていたオモチャはやっと状況を飲み込めたらしく、俺に抱えられたまま顔だけをこちらに向ける。

 

「……いま、私を助けてくださったの?」

「天竜人サマに怪我をさせるわけにはいかないからな」

 

 ただでさえここには海軍大将がいるんだ。今のところは俺を無傷で聖地へ戻すという縛りがあるおかげで直接手は出されていない。天竜人傷害事件へと発展したら問答無用で向かってくるだろう。

 一番いいのはオモチャが人間に戻らないようにすることだが、それはウソップさんの望みに反する。悩ましいところだ。

 

「おいトラ男!? お前何でミンゴと……!!」

 

 土煙が晴れ、ようやくこちらへ飛んできた二つの塊の正体が分かった。塊の一つであるドフラミンゴが、ルフィの声など気にとめず足元に転がっているローに銃口を向ける。

 

「ガキが……調子に乗りすぎだ」

 

 ドフラミンゴが引き金に指をかける前に懐に潜り込み、天砕脚で蹴り上げた。俺の蹴りが掠めた銃がドフラミンゴの手を離れて地面を転がっていく。

 

「ボア・ラース!!」

「オッサンなら調子に乗ってもいいってことか? 独裁的だな」

「フッフッフッ!! ローを置いて尻尾巻いて逃げ出した男が今更何の用だ」

 

 安い挑発を飛ばしてきたドフラミンゴが、ここは一旦話をしようとでも言うように両手をひらりと上げる。

 とりあえず虫の息状態のローを庇うように前に立った。

 

「なぜお前がローに肩入れする。麦わらたちとは顔見知りだったようだが」

「ウソップさんに頼まれたから」

「…………ウソップ?」

 

 ドフラミンゴが怪訝な顔をする。

 まだ繋がっていた電伝虫越しにウソップさんが何かを叫んでいた。残念ながら飛び退いた際に電伝虫とは距離ができてしまったから、何を言ってるかまでは分からない。

 

「彼ほどの人に頼まれたなら断れないだろ? 俺は彼がいいと言うまでお前への嫌がらせをやめないつもりだ」

 

 電伝虫から聞こえてくる声がさらに大きくなる。

 ドフラミンゴは今日一番の極悪な顔をしていた。

 

「フッフッフッ……!! ここでお前を殺すのは簡単だが、楽に死なせてやるのは惜しいと思っていたところだ。先にそのウソップとやらの男の死体を持ってきてやろう」

「ローを向こうで殺してこなかったことといい無駄なことが好きなようだな。ウソップさんには恩があるとはいえ、生死に関しては俺のあずかり知るところじゃないぞ」

 

 今度はハッキリと電伝虫から『おれを見捨てないでくれええ!!』と泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

 以前から思ってたけどこの人、なんであんなに強いのに臆病者のフリをしてるんだ? シャロムの時といい、ウソップさんなら自力で何とかできるだろうに。

 

「ディスコ……いや、例の花屋の売り子に親しい人間がいるそうだな。名はデュバル、といったか」

 

 ディスコの名前を出しても俺が顔色ひとつ変えなかったせいか、ドフラミンゴはすぐに別の人物の名前を出してくる。そして「当たり」だと判断したらしい。浮かべていた笑みが濃くなっていた。

 

「フッフッフッ……コ(・)イ(・)ツ(・)だな?」

「あー……デュバルは困る。まいったな……」

 

 俺があっさり認めたことにドフラミンゴは意外そうにしていた。

 

「友達ってのは、損得無視して相手のために動く関係のことをいうんだろ。お前がデュバルに手を出そうとするのを見て見ぬふりしたら、俺は約束を違えたことになる」

 

 最初に俺に「おれのダチにしてやる」と言ってきたのはデュバルで、友達の定義とやらを教えてくれたのも向こうだ。

 ゆっくり息を吐きながら両手を胸の前で構える。

 

「俺個人としてもお前を潰さなきゃいけない理由ができた」

「変な格好! ミンゴをぶっ飛ばすのはおれ……ってェ……コレ、海楼石なんらった」

 

 勢いよく叫んだルフィが、コロシアムの柵を掴んだ途端にへにゃっと崩れ落ちる。あまりの間抜けさにこちらの構えた手からも力が抜けそうだった。

 

「お前な……。俺以上にこの浮かれピンクを舐めてるだろ。文句があるならそこを出てから、っと! 危ねェな」

 

 浮かれピンク呼びが気に食わなかったのか、ドフラミンゴの指先から飛び出した糸に足を切断されそうになった。間一髪ルフィのいるコロシアム側に避けたおかげで何ともない。

 

「おい変な格好、なんで見聞色使わねェんだ?」

「……昔、人生のネタバレを食らって萎えてからほとんど使ってないんだよ」

 

 今更ろくに鍛錬していない見聞色を使ってみたところで役に立つとは思えない。むしろ邪魔になるだけだ。

 ルフィはコロシアムから出られないようだし、ゾロと錦えもんは海兵たちと対峙している。俺一人でドフラミンゴ相手にどこまでやれるだろうか。

 

 腰にぶら下げている天竜人の剣に触れる。これがあればある程度は戦えるだろう。

 

「フッフッフッ! お前には聞きたいこともある。半殺しにしてから城に連れて行ってやろう」

「この人を傷つけることは許さないアマス!!」

「なに……!?」

 

 再び指先をこちらに向けてきたドフラミンゴに、例のオモチャがビームが出る腕を持ち上げる。俺とルフィの目が同時に輝いた。

 

「オモチャは人間に攻撃できねェはずだ! まさかさっきトレーボルから入っていた連絡は……」

 

 オモチャが放ったビームは、突然間に割り込んできた影によって弾かれる。海軍大将、藤虎だ。

 彼はビームを弾いた刀を軽く振り、そのまま真っ直ぐこちらへ向けてくる。

 

「ドフラミンゴだけじゃなくお前もここに来ていたか」

「へえどうも……。ラースさん。ここいらであんたを保護させていただきやす」

 

 保護ではなく捕獲の間違いだろう。刀まで向けておきながら厚かましいヤツだ。

 俺は眉を顰めるだけで済ませたが、どうやらオモチャは違ったらしい。ブリキでできた体から出てきたのは地を這うような声だった。

 

「海軍大将……? なぜお前たちが天竜人の夫であるこの人に無礼を働けるのアマス」

「…………そちらにおいでなのは天竜人でござんすか?」

「お前たち海軍は本当に鈍臭い犬共アマスわ。シャボンディでは兄さまたちにお怪我を負わせた海賊を取り逃がした挙句、私の夫に刀を向けるなんて…………」

 

 ブツンッとまるで映像電伝虫の映像を切り替えた時のような音がする。音の出所は例のオモチャだ。この場にいる全員が冷や汗を浮かべながら彼女の挙動に釘付けになっていた。

 

「もはや天竜人としての身分など些細なこと。たとえ今の私がただのオモチャだろうと、愛する人への侮辱をみすみす見逃してやることはないのアマスわ……!!」

 

 オモチャから発せられた圧に、俺を含む全員が肩を震わせる。

 あのドフラミンゴと藤虎も一瞬言葉を失ったようだった。

 

「…………覇王色かと思った」

 

 レイさんのとは別方向の恐ろしさを感じた。

 ビームを出せることといい、コイツただの天竜人じゃないのか?

 

 俺の知る天竜人は銃の扱いが上手いだけで運動神経は壊滅的、多分走ったことすらないはずだ。

 同じ天竜人で構成された神の騎士団には戦闘に長けている者たちがいると聞いている。この女の所属先だとすれば色々納得がいく。

 

「てめェは賭博のオヤジか!?」

 

 倒した海兵たちを踏みつけながらこちらへ来たゾロが藤虎を見て声を上げる。そのまま斬り合いに発展していた。その隙に錦えもんがローの元へ駆けつける。

 

「まだ息があるでござる……って、ぐおおおォッ!? おぬしっ!?」

「さっさとソイツを安全なところへ運べ!」

「か、かたじけない!」

 

 錦えもんに当たるはずだったドフラミンゴの蹴りを、振り上げた脚で受け止める。

 

「お前の相手は俺だろうが」

「フッフッフッ!! 焦らずともローと仲良く連れて行ってやるから心配するな」

 

 背中の辺りでもぞもぞと動く気配を察知してニヤッと笑う。

 

「ドフラミンゴ。俺よりも自分の心配をしたほうがよさそうだな」

 

 俺の背中にしがみついていたオモチャが、俺の肩越しにビームを放つ。至近距離で食らったドフラミンゴは避けきれずに片腕を負傷、浮かれピンク部分も丸焦げになっていた。

 

「オモチャの分際で!!」

「きゃっ!!」

 

 ドフラミンゴの伸ばした腕がオモチャに届く前に蹴り上げる。

 今のところ全ての攻撃を俺に止められているドフラミンゴは噴火寸前の火山のようになっていた。

 

「小僧…………おれの邪魔をして無事で済むと思わないことだ」

「自分の心配をしろと言っただろ――傾国!!」

 

 糸を使って空に浮かんだドフラミンゴに、蹴りから生じた衝撃波をぶつける。

 先ほどのオモチャのビームとは違って今回は距離がある。ドフラミンゴは余裕に満ちた顔で避け、代わりに後ろの建物が破壊されたが予想の範囲内だ。

 

 腰元にある天竜人の剣の柄を掴み、鞘ごと引き抜く。上から降ってくる瓦礫を足場にしてドフラミンゴと同じ位置まで飛び上がる。

 

「フッフッフッフ……!! そのふざけた剣で何ができる!」

 

 何の気まぐれかロズワード聖が俺に授けた天竜人の剣は、至るところに一目で高価だと分かる宝石類が散りばめられている。俺に付けられていた悪趣味な首輪のように不思議と石の分の重さは感じられないが、見た目だけならどう考えても使い勝手の悪い玩具だろう。

 

「お前を地面に這いつくばらせることくらいは出来るんじゃないか?」

 

 鞘のまま振り上げた剣が油断しきっていたドフラミンゴの腕に当たる。この鞘の効力を知っていれば、腕で受けるなんて愚かな真似はしなかったはずだ。

 

「ううっ…………!!」

 

 浮かぶために蜘蛛の糸のように張り巡らせていた糸が弛んだのか、ドフラミンゴの体がガクンッと大きく傾く。

 

「海楼石だ。俺が悪魔の実にそれほど興味を持てないもう一つの理由でもある……。ただの石に屈するなんてダサいからな」

 

 鞘の部分にふんだんに海楼石が使われているこの剣は、対能力者戦において最適解となるだろう。

 なぜロズワード聖がこれほど貴重な武器を俺にくれたのかは今でも分からない。渡してくる時も「お前のような者には勿体無い代物を与えてやるえ」と相変わらずの上から目線だった。とりあえず愛想良く受け取っておいて本当によかった。

 

 力が入らずそのまま落下していくドフラミンゴに、もう一度傾国をお見舞いしてやろうと足に覇気を纏わせる。振り落とされないよう、俺の首にしがみついていたオモチャも次のビームの準備ができたようだ。

 

「――――傾城……傾国ッ!!」

 

 俺の傾国とオモチャのビームを同時に食らったドフラミンゴが地面に叩きつけられる。

 

「きゃあああっ!! 王様が……!!」

 

 野次馬連中から悲鳴が上がる。

 どうせあの程度では擦り傷だ。物理的に俺の剣から離れた今、ドフラミンゴは自由に動けるはずなのにすぐに立ち上がろうとはしなかった。背中を地面につけたまま、これまでに何度か見たあの無表情のまま微動だにしない。

 まるで、湧き上がってくる怒りを丁寧に咀嚼しているかのように。

 

 俺はといえば、そんなドフラミンゴの反応も含めて全てが愉快で仕方がなかった。その場で腹を抱えながら声を出して笑う。

 

「ふ……あはははっ!! あーやっぱこうでなくっちゃな」

「遊んでる場合かァ! 何やってんだてめェ!!」

 

 笑いすぎて涙まで出てきた。ゾロは藤虎と刀を交えながらブチギレていたが、とりあえず無視する。

 文句は先にお前のところの船長に言え。あの男が作戦を無視してコロシアムに寄り道してなきゃ、俺がここでドフラミンゴと遭遇することもなかったんだからな。

 

「その技……以前のあなたは、二つの足技含めて二度と使わないと仰っていたはずアマス」

「俺が?」

 

 天砕脚と天墜脚のことだろう。というか俺には傾国を除くとこの二つしか技と呼べるものがない。

 上から目線のムカつく野郎を蹴り上げ、時には蹴り落とすだけの単純な技だ。傾国もサイファーポールの嵐脚とやらと大して変わらないようだし、もっとかっこいい技を開発したのかもしれない。さすがに技ナシにはなってないだろう。

 …………もしそうだとしたら消えた記憶がちょっと惜しくなってきたな。俺にその技の記憶がないってことは、この天竜人がきっかけで生まれた技ってことか?

 

 とりあえずオモチャにはそのまま首にしがみつかせておき、ローを抱えて走っていた錦えもんに追いつく。

 

「ドフラミンゴが正気に戻る前にここを離れるぞ」

「しかしまだゾロ殿が海軍大将と……! それにルフィ殿もコロシアムから容易には出られないようでござる」

「ドフラミンゴと海軍大将の狙いはローと俺だ。だからコイツは俺が預かっておく。お前とゾロは、その隙にルフィと共にコロシアムから出る方法を探せばいい」

 

 半強制的に錦えもんからローを受け取り、俵のように抱える。

 

「そうでござるが……おぬしが危険なのではないか?」

「考えがある。心配するな」

 

 錦えもんはきゅっと唇を結んでゾロの元へ戻っていく。

 その直後、ゾロと戦っていた藤虎がこちらへ向かってくるのが見えた。

 足にはそこそこ自信があるし、ここには使えるものがたくさんある。やっぱり無人島で戦わなくて正解だった。

 

「王様を襲った男がこっちにきたわ! みんな逃げ……えっ?」

 

 こちらの様子を見守っていた野次馬たちの中に入り、適当な女たちの視界に入るように顔を上げる。

 

「親切なご婦人方……。何やら誤解があったようで追われる身なのです。どうか私を彼らから逃してくださいませんか?」

「喜んで♡」

「王様も海軍大将も絶対に通さない……♡」

 

 海軍大将として無闇に市民を傷つけられない藤虎と、この国の王として表向きは聖君として振る舞っているドフラミンゴ。こんな人目の多い場所で善良な市民を傷つけられないはずだ。

 

 両目をハートにした女たちが藤虎たちを取り囲みに行ったのを横目に、適当な路地裏に身を隠して追跡から逃れた。

 

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