ようこそ櫛田桔梗から攻略する教室へ 作:葱塩柚胡椒
ーー『俺のハーレムを形成するために、あらかじめ全ての準備を万全にして「東京都高度育成高等学校」に望む』
それが俺の決めた方針だった。
そのために、その二つの目的をお手軽に達成する方法として、『東京都高度育成高等学校』に進学するヒロインの誰かを落とす予定を組んでいた。
このチートボディなら簡単に女を落とせるに決まっているのだから。
「って、思ったんだけどなぁ……」
結論を言ってしまうと、櫛田と堀北ぐらいしか同じ学校にはいなかった。
「まあ、あの学年で櫛田の所業を知ってるのが堀北ぐらいしかいないことから察してはいたんだけどさ」
そのため攻略するならこの二人になるのだが、それも簡単にはいかなかった。
「櫛田とは距離が近すぎると本性を見せない可能性を考えて、気の合う幼馴染みというポジションで在り続けるしかなかった。
もし、綾小路に付け入れられるとしたら、俺が櫛田の裏の顔を受け入れるタイミングを逃し続けて、綾小路の方が先に本性を知ってしまうパターン」
それこそ、『謳歌くんには見せられない一面でも綾小路くんなら受け止めてくれる……トゥンク♡』みたいなのが起こり兼ねない。
承認欲求の怪物である櫛田ならば、それで心変わりする可能性が高くなると踏んだからこそ、足踏みをするしかなかった。
「堀北鈴音もあの『東京都高度育成高等学校』の生徒会長になった堀北学という兄が居る以上は、安易に攻めるわけにはいかないし……はあ……っ、チートを持っててもこんなに上手くいかないのか……」
つまり、俺が中学一年生の時点でこの二人のヒロインを落とすことは実質不可能。……つまり、他のことをするしかない。
「取り敢えず小学生で決めた、『東京都高度育成高等学校』に入学するという目標を見据えて、格闘技も習って暴力には慣れておいたんだけど……いや、あの学校に入ることを考えると格闘技が必須技能とか、ホント頭おかしくないか?学校として」
そんなわけで覚えた格闘技は極真空手と柔道、そしてボクシング。強くなる手段は一つでも獲得しないと搾取される側になりかねない。
あの学校ではあり得てしまう未来のため、防衛手段を獲得するなどといった対策をしないわけにはいかなかった。
「とはいえ、俺の見立て通りなら綾小路はジークンドーの目潰しや金的、鼓膜を破る技なんかも普通に身に付けてそうだし、やっぱりなるべく戦いたくはないんだけど……」
自衛目的。龍園のように暴力に走れば碌なことにならない。綾小路はもちろん後輩に『ホワイトルーム』の人間がやって来るんだ。ボコボコにされる未来もある。
「まあ、この身体の学習能力は天才的だから、型を覚えるだけで有段者クラスの技をある程度は身に付けられるんだけどな」
やっぱり肉体チートは無法だわ。元凡人だから天才がどれほど恵まれてるのか痛いほど理解できる。
「もう、基本的に三つ以上年上じゃないと組み手にならないことを考えれば、綾小路にもある程度は追い縋ることもできるはず……だと思う…………そうだといいなぁ……」
だけど、このチートボディでここまで格闘術を身に付けてもまだ勝てない可能性が普通にある、ホワイトルームが産んだ化け物こと綾小路清隆くん。
どうせCQCなんかも習得してんだろうなぁ……。
「あとはチェスを始めとしたマインドスポーツ*1の腕を上げること。勉強しかできないガリ勉というだけではあの学校ではやっていけない。
少しでも腕を磨かないと坂柳などといった天才に遊び半分で潰される可能性がある」
実を言うと、今ではこのマインドスポーツに宛てる時間の方が長くなっていた。
「オンラインのゲームだから、めちゃくちゃ金が掛かるわけでもないのが魅力的だよな。
短期間で効果的に腕を磨くっていうなら、格闘技よりも遥かに効率的だし」
相手を圧倒して叩きのめすことには優越感を抱くが、ぶっちゃけ武道を極めようって感覚は薄い。
それこそ原作主人公である綾小路に襲い掛かれる恐怖から、強くなることに意欲的だったってだけなんだから。
「まあ、その副産物で堀北兄妹と距離が近付くとは思わなかったけど」
このチートボディがあるからこそ渡り合えてるが、それがなければどうしようもなかった。あのシスコン生徒会長ハイスペックにも程がある。
……それとなんかブラコン妹には敵視されている。
「最初は体格とか技量で負けてたけど、途中から身体も追い付いたからか一緒に出た大会の決勝で、俺が勝って優勝をした。
それを見ていた堀北鈴音からは睨まれ続けているのに、堀北学からの好感度が何故かめっちゃ上がるという、俺にとって嬉しくもなんにもない状況が生まれちまった」
それどころか自分と実力が同じかそれ以上の存在が居なかったからか、どこか目を輝かせながら組み手をしてくるほどだ。戦闘民族かな?
イラつきで片頬が引くつく。
「ああ、クソ……ッ!適当なギャルゲーならこんな遊ぶことすらできない鍛練なんてしなくてもいいってのにぃ……ッ!
つーか、何で男を攻略しなくちゃいけないんだよ!?」
わけが分からない。いつの間にかスポ根のような汗を流し、拳で語る暑苦しい環境に身を置かれていた……なんでこうなった?
だが、堀北学は未来の生徒会長というあの学校でも有数の権力者となる男。ここまで有益なコネ作りを疎かにはできねぇ……。
「モテるために転生したのに、女漁りが二の次とかマジでありえないだろ……まあ、全国から入試に来た生徒から160人選んでるわけで、中学の時点で所在が分かってるキャラなんて櫛田と堀北以外は分からなくて当然なんだけど……」
それのせいで、中学一年までの間で
まあ、その二人のお陰で思いがけない新事実に気付けたから、どっちかというとプラスではあるか。
「堀北学の卒業は見届けた。つまり、これから始まる中学二年からの中学生活にあの男の存在はいない。
なら、櫛田桔梗を始めとしたヒロイン達の攻略に動いても問題はないということだ」
『東京都高度育成高等学校』に入学してるだろう堀北学は堀北の現状を知る術がない。手を出す良い機会だ。
「でも、そうすると今後の展開がさらに読めなくなる上に、堀北学から睨まれる……ホント面倒臭いなあの人」
どれだけ鍛えて上回ったとしても、俺が一年に対して三年生というアドバンテージ。さらには、生徒会長という権限の前には太刀打ちなんてできやしない。
あの人には味方側だと思われていた方が都合が良い。
「俺の目的は何人かのヒロイン達を俺の女にすること。そしてそれを成し遂げるには『東京都高度育成高等学校』での完璧な立ち回りと、綾小路清隆を始めとした様々な敵となるキャラの完全攻略をしなければならないーー例え、何度敗北をしてもだ」
そう言うと俺はリザインのボタンを押す。これで記念すべき俺の500戦319敗の投了だ。
ルールの裏を突くような発想力が試されるものが苦手でも、単純な思考力が試されるチェスではこの肉体の優秀さを以てすれば、どうにでもなる。
「その弱点もチェスなんかのマインドゲームで少しは改善されただろうし、この【女受けする理想の男の肉体】も、ちゃんと活用すればルールの裏を突くにはうってつけだ」
ハニトラは古今東西いつの時代も行われてきた相手を懐柔する一手。性欲が暴走しがちな高校生には極めて効果的だ。
それこそ、男子だけではなく女子であっても性欲への衝動と好奇心に勝てる奴は少ないのだから。
そして男としてだけじゃなく、あらゆる能力を最大限まで極めてきた俺に隙はない。
それこそ俺の能力を超えるだろう存在は、綾小路と高円寺、そして眼前のデスクトップに映る目の前の名前の少女くらいだろう。
俺は笑みを広げながら向こう側に居る天才少女に狙いを定める。
「さて、顔を会わせずに君の好感度はどれくらい稼げてるのかな?ーー『Alice』ちゃん」