ようこそ櫛田桔梗から攻略する教室へ   作:葱塩柚胡椒

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櫛田の描写がこれで合ってるのかめっちゃ不安な5話です

追記-
R-18はこの小説の移動ではなく、別途で書くことにしました。よろしくお願いします!


5.スクールカースト形成のためのカラオケ新クラス会

 歌声を聴いていた他のメンバーが拍手をしている中で、私は安っぽい紅色のソファから立ち上がる。

 

「あっ、じゃあ私飲み物取ってくるね!」

 

「行ってらっしゃーい!櫛田ちゃんっ!よぉ~し、盛り上がっていくよー!」

 

 そんな声を聞きながらカラオケ部屋から出て、ドリンクがある場所まで歩いていく。クラスの10人くらいでやって来た土曜日のカラオケ。

 予約のセッティングも何もかも私が事前に済ませた。私にみんなありがとうって、さすがは櫛田さんだって言ってくれた。

 それでも……、

 

「……めんどくさ

 

 優しくて可愛い一番人気の櫛田桔梗。これこそ私が一番になれる方法。それが分かってて結果も出てきてるけど、それはそれとしてストレスがどんどん溜まっていくのを自覚する。

 なんで好きでもない相手に良い顔をしなければならないんだろう?そんな相手に媚を売って時間と体力を使うことが嫌だ。

 年齢と共に大きくなった私の胸に、男子達が情欲が(こも)った視線を向けてくることに怖気が走る。ナメクジが肌の上を這っているような身の毛もよだつ気持ち悪さに吐き気がする。

 気付かれないとでも思ってるの?マジで不愉快なんだけど。

 

「女子も女子でキモ過ぎ。どんな顔して私と馴れ馴れしくしてんの……?」

 

 クラスの中心になって人気者になるための土台を作ったけど、それをよく思わない我の強い奴がチラホラ居る。さっき私のことを『櫛田ちゃん』なんて気安く読んできた女がそれだ。

 男子の前で良い顔をするために、私と距離が近い親しい関係性のような振る舞いをする。目障りで鬱陶しいプライドの欠片もない小判鮫の尻軽女。

 

「……ねえ、私が席を外したらみんなで私の悪口を言って盛り上がったの、知らないとでも思ってた?アンタらの性格が最悪なのはもう知ってるから」

 

 あの女は上っ面では仲良く見せるけど、裏では何の確証もないことを口にしてその相手を嗤う性悪。

 それを多くの生徒がそれを知ってるけど、謳歌が目の前に来るとわざとらしく(しな)を作って女らしく振る舞い、誘惑しようとする浅ましく頭が軽い女だ。

 

「(実は私で嗤い合って楽しんでるその姿を、他でもない謳歌に見せていたことにすら気付かないなんて、ーー本当に頭弱くて扱いやすい、馬鹿ばあっっかッ!!

 まあ、謳歌がアンタらの醜い側面知って、距離を取ってたことにすら気付かないくらいの馬鹿だし、ざまぁないけど)」

 

 鼻で笑うがそれもストレス発散には繋がらない。胸の中に宿るのは屈辱感。何故ここまで程度が低い相手のご機嫌取りを私が取らなくてはならないのか。

 

「……いい加減にしてくれないかなぁ……ホンッットに……ッ!」

 

 持ったコップがミシリッ!と軋んだ音を立てる。『どうして私がここまでやらなくちゃいけないの?』という感情が溢れて止まらない。

 

「(いや、分かってる。私が一番人気になりたいからしてるだけ。

 みんなからチヤホヤ言われたいから自分から進んでやってるんだから、止めてしまえばそれで終わり……)」

 

 でも、みんなから褒められたいッ!称えられたいッ!私のことを好きだって言わしたいッ!私を中心になるように人気を集めたいッッ!!

 

 ……でも、ストレスが溜まっていくのはどうやっても避けられない。ああ……なんで私がお前らのためになんかーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほ、桔梗ちゃん」

 

「!?」

 

 名前を呼ばれて肩がビクッと震える。

 振り返るとそこには『学校一の美男子』なんて言われている、二枚櫛(にまいぐし)謳歌(おうか)が立っていた。

 

「あっ、えと……どうしたの?」

 

「俺も飲み物が欲しくなったんだよ。ほら、ドリンクを注ぎに行こう」

 

「う、うん」

 

 その反応から先程の醜態は見られてないようだ。私は安心して深く息を吐く。そして横目で隣の170cmを超える背丈の彼を覗き見る。

 

「(……それにしても、マジで格好良すぎでしょ。テレビのアイドルや俳優よりもイケメンじゃないのこれ?

 あっ……そういえば、モデルの仕事をたまにしてるとか言ってたっけ)」

 

 私からすれば『学校』で一番のイケメンなんて小さく見積もり過ぎだと思う。どう考えても『全国』有数のイケメンだ。

 私が顔面偏差値70だとすれば、謳歌くんは顔面偏差値80……どころか、90だと言われても納得する。

 艶のある黒髪に海の様な紺碧の瞳。極真空手を初めとしていろいろな格闘技をしていたからか、その身体は学校のどの男子よりも引き締まっているらしい。

 

「(それでコミュ障どころか女子と普通に会話できるコミュ強って、神様は幾つこの男に授けてんの?もし、これが同性だったら絶対に許せなかった)」

 

 異性だからこそ住み分けができていて、私は許容することができた。ーーでも、それも今では怪しい。

 

「(……今までは格闘技にのめり込んで人付き合いが悪かったから、モテても学校中の人気者にはならなかった。だから、この男が同じクラスでも私が一番になれる可能性があったのに……)」

 

 私が唯一『一番』になれるものが奪われる。そんな恐怖心がどうしても付き纏う。

 

「(私が人気で一番になれていたのは、誰よりも優しく積極的にいろいろなことに取り組んでいたから。

 もしこれが顔面やスタイルが良さだけのコミュ障なら、私の愛想の良さでカバーできたかも知れないけど、コイツにそんな隙はない)」

 

 なら、どうするか。

 

 

「(簡単な方法としては性犯罪者にして汚名を着せること。適当にそれっぽい理由を作れば女である私の言い分は信じられるはず)」

 

 

 これは効果的ではある。ーーしかし、これは実を言うと余り良い手とは言い切れない。どちらかというと、悪手だと思う。

 

「(でも、確かこれをやった女が学校を退学させられたって話を聞いたことがある。

 一度こんな女が居たって事実を警察も理解している以上は、似たようなことを言う私の言葉だって疑って掛かるに決まってる。それこそ、徹底的に調べられて嘘がバレる可能性の方が高い。

 なら、この策は無し。私はそんな高いリスクを抱えてやるほど馬鹿じゃないんだから)」

 

 もしこれをやるのなら、揺るぎない物的証拠が必要になる。そんな真似を運動だけではなく、テストの成績も学年一位の男がそうそうしてくれるとは思えない。

 

「(……それに)」

 

 隣で無邪気に様々なドリンクを混ぜて、オリジナルジュースを作っている男を再びチラッと見る。

 

「(こんなカッコイイ男をそんな苛立ちを優先して排除するなんて勿体なくない?

 多分……ていうか、絶対にこんなルックスもスタイルもそして身に付けてるスペックも、この男以上なんて居ないでしょ。

 第一、幼馴染みで性格も知ってるしで別に嫌いじゃないし……なんだったらこのまま私の男にした方がいいんじゃない?)」

 

 この男を相手に見立てて、興奮を鎮めた夜が一度も無い同学年の女子はきっといない。

 男子禁制の女子トークだとあの逞しい身体に抱き締められて……なんてことも度々言われるほど。

 それほど魅力的……いや、凛々しさと共に魔性とも言えるほどの性を感じさせる魅惑を、中学生になってから醸し出し始めた謳歌は、私もクラっと来ることが何度もあった。

 男としての魅力と格闘技で努力している姿。そして一人の男子中学生として日常を知っていると、私も他の女子と違わずに謳歌に対して惹かれるものがある。

 

「(ううん、違う……謳歌には昔から良い印象しかない。周りの奴らと特別に距離を取ることもなかったけど、私がそこに居たらずっと最優先にしてくれてた。

 私が小学生時代にあそこまで満ち足りた毎日を送れたのは、他でもない学校一モテる男の子が側に居たから。

 何もしなくても『二枚櫛謳歌の幼馴染み』っていうステータスで、簡単にクラスの中心になれたことが優越感で気持ち良かった。

 ーー心の隅々まで私の承認欲求を満たしてくれていた)」

 

 あのときはまだそれが優越感という感情だとは分からなかった。謳歌のことをずっとカッコイイとは思ってたけど、それ以上に私は『一番になる』ということに執着していたから。

 

「(一番の人気者になるためにいろいろしてたけど、謳歌の存在がその一番の障害だった。余りにも二枚櫛謳歌を好きな女の子ばかりだったから。

 私が何をしても全部が無駄。『学校のアイドルである二枚櫛謳歌に近付くイケ好かない女、その枠組みから出ることはできなかったわけだし)」

 

 それだけ二枚櫛謳歌はモテにモテていた。それこそただ幼馴染みというだけで恨まれてしまうほどに。

 

「(でも、女子に対してマウントを取るために他のクラスになっても月五回ぐらいは普通に話してたから、女子から目の敵にされてたってこともあるけどね。

 それも幼馴染みだからこそ知ってる情報を、親しい顔して教えてあげれば、全員が一秒で手の平を返して擦り寄ってきたっけ)」

 

 謳歌と代わるようにドリンクバーの台座にコップを置き、ボタンを長押しするとコップの内側にオレンジジュースが注がれていく。

 

「(私の謳歌の好感度は……ハッキリ言ってずっと高い。ハイスペックだしそれに自惚れて傲慢になることもない性格。ちょっと軽い感じもコミュ(りょく)に繋がるし)」

 

 軽い部分もあるが長い間武道をやってきたからか、女遊びをしている噂はない。なんだかんだ一本筋が通っているようだ。

 

「(……どころか、彼女も作ったことないよね。このルックスで手付かずとか希少すぎでしょ……もしかして、男が趣味?

 いやでも、たまに私の胸や足を見てくるしそっちの趣味はないか)」

 

 他の男から見られても気持ち悪いだけでしかないけど謳歌は別だ。なんなら、謳歌と会ったときの楽しみの一つでもある。

 

「(私が『学校中から認められてる一番のモテ男ですら魅了してしまう女』であることが実感できて、心が満たされていくの……っ!)」

 

 口角が上がっていくのが分かるけど直すことなんかできない。だからせめて、謳歌から顔を反らしながら身悶える身体に腕を回して抑え込む。

 

「(全国でも類を見ないイケメンを虜にさせる女としての充足感!女として他の女よりも優れていることが目に見えて分かる!ああ……っ、すごい気持ちいい……っ!!)」

 

 私の顔と身体がこの男の視線を釘付けにしている。クラスどころか学校中の女子がしたくてもできないことを、私は簡単に成し遂げている……!

 余りの優越感にクラクラしてしまうが表には出してはいけない。私は優しくて可愛い人気者の櫛田桔梗なんだから。

 

「えーと、謳歌くん……久し振りに一緒に帰らない?途中までは一緒の道なんだし……」

 

「あっ、……うん、いいよ。一緒に帰ろうか」

 

 ぷはぁ……よかったぁ……。

 1年前に自分から学校の友達が居る前だと、謳歌を好きな子から嫉妬されるなんて言ってた癖に、こんなこと言い出したら嫌な顔をされるかもって少し思ってた。

 

「(ふふっ、やっぱり謳歌は私には甘いよね。子供の頃からどんなことをしても褒めてくれてたし、可愛いってちゃんと言葉に出してくれてた。

 他の男子がやっても寒いけど、顔良し、性格良し、人気良し、そしてちゃんと努力家の男の子からの言葉なら、誰だって嬉しいに決まってるもん)」

 

 自分勝手のワガママを深くは聞かずに受け止めてくれる。そんな女にとって都合が良く心惹かれる理想の男が今私の隣に居る。

 

 ーーなら、私のものにしちゃってもいいよね?

 

「えへへっ、楽しみだなぁ」

 

 女子の中には確かに嫉妬する奴らは居るかもだけど、感情だけで動く奴らだけしかいないわけじゃない。

 元々、自分じゃ釣り合わないと思って諦めてた女子もいるし、学校中の話題の中心となる私に擦り寄ってくる女達も当然現れる。

 

「(そもそも人望で言えば私以上に釣り合う女子はいないし、美男美女のカップルを憧れの目線で見たいってタイプの女子を味方にすればいい。

 大人数が居る場所で惚気るのはさすがに敵を作るだけだけど、外部に漏れない空間でその子達に伝えるようにすれば、仲良くあり続けるエサとしては充分だしね)」

 

 計算をする。頭の中に算盤(そろばん)を思い浮かべて(たま)をパチパチと弾くように、損得を計算していく。

 (かつ)ては、どうすれば立ち回れるのか何も分からなかったからできなかったけど、1年も経てばどんなプラスとマイナスが出てくるのか、推察できるだけ情報が集まっていた。

 

 全ては『一番』が欲しいから。

 

「(クラスの中で『一番』人気で、学校で『一番』カッコイイ男子を私の彼氏にする……アハハッ!うんうん、そうだよね!『一番』なんて幾らでもあった方がいいんだからっ!)」

 

 たった今注いだコップに口を着けて喉を潤して、ペロリと唇を舌で舐め取った。それを見て謳歌が目線を逸らすだけで恋心も自尊心も満たされる。

 

 絶対にこの『一番』は誰にも渡さない。




◆櫛田の心境◆
 例えると……
 『何をしても勝ることができない目の上のたんこぶである上司で、自分の地位を上げるためにはその上司を何としてでも蹴落とすしかないけど、その上司がスタイル抜群の絶世の美女の上、かなりの好みドストライクで葛藤している』
 ……みたいな感じ。
 これが綾小路のように地味キャラとして見られている人間なら、早々に排除の対象だった。

 そして……
 『……なんかもういろいろと面倒臭いし、あの女上司を俺の女にして、「あの誰もが振り返る美人で有能な上司を自分の女にした俺すげぇ!」……ってことにしちまおう。ゲヘヘッ』
 ……という結論に櫛田は至った。

 櫛田が一番モテる男子を彼氏にして、クラスで一番人気になれるかは怪しいですが、クラスでも一目置かれる存在には絶対になれる。
 そのため、櫛田が大好きな『隠さなければいけない秘密を安心して打ち明けられる人気者』にはなれるかも。
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